ホームレスウマ娘が龍が如く成り上がる話 作:マンハッタンcafeの店員
「...は?」
気が付くとあたしは立っていた。辺りをきょろきょろと見渡し、己の状況を認識すると思わずぺたりと地面へと腰を下ろした。
「え…は?」
知識はある、でも記憶が一切ない。
あたしはウマ娘、名前はもちろんある。だが家族の記憶も今までどんな人生を歩んできたのかも全く覚えていない。ぶわっと汗が噴き出た。着ている服はパーカーとカーゴパンツ。急いでポケットなどを漁るが財布も身分を証明するものも何もない、服もまるでいまおろしたばっかりのように綺麗だ。
そうだ、今ここで突然あたしという存在が生まれたかのようで…。
「…ハッ…ハッ…ハァッ…!」
呼吸が乱れ始めた、落ち着け…落ち着け…と胸を抑えて大きく深呼吸をする。
怖い、自分の存在が揺らぐ。そもそもあたしはなんなんだ? 知識もしっかりある、がこれはあたしのものなのか?
思考が乱れる。だめだ、このままだと変な行動を行いそう。とりあえず歩こう景色を変えるんだ。
歩を進めて辺りの景色を見ているとウマ娘用レーンなどが見える、建物や道を見る限りそこそこ都会のようだ。しかしどうすればいいんだろう、住所も無ければ戸籍もあるか分からない。戸籍がなければ働くことも出来ない。アングラな所に行けば働けるかもしれないけど…。
「ホームレス…になるのかな」
ホームレスになるとしたらどこかに住むことになるんだけど…。
橋の下とか廃ビルとか良い所を探しておくか、廃ビルとかは半グレのたまり場になってそうだから橋の下とか人の少ない公園とかが水道やトイレが使えるからいいかも。
という風にいい場所を探していると近くに遊具もなく人気のない小さな公園がある木々で隠れた橋の下のスペースを見つけた、地面が高めだから水害も気にしなくていいし川を見たら魚もいる。少し先には山もあるし山菜の知識もある。意外と生きていけるかもしれない。
段ボールをゴミ捨て場から拾い、廃棄されている角材も拠点に集める。角材を長方形になるように嵌め込んで段ボールで壁を作れば段ボールハウスの完成。中に捨てられていたソファのクッションを入れた段ボールベッドも作った。これは中々いいのではないのだろうか。木材を柱にしているから耐久性もある。住む分には問題ないと言えるだろう。綺麗な段ボールを見つけられたのがよかった。
寝床は確保したので次は食糧、水は公園にあるからいいとして食べ物は野草や魚がメインとなる。釣具でもあればいいのだがそんなものはないため木で銛を作って...あ、火も用意しないと...湿気の多い日本できりもみ式で着火は難しいだろうしどこかでマッチとかライターを...100円ライターとかどこかに捨てられてないかな。
服が綺麗なうちに探しにいこうとそこらを見て回ると喫煙所にマッチやライターがそのまま置かれていた。どこかのスナックで貰ったけど処分に困ってだろうか、ともかく火種もゲット。案外ホームレス生活も都会だとそんなに苦労しないのかもしれない。
と、思っていると近くからお金の落ちる音。
「...ちっ」
思わずその方向をみると男性が自販機の下を軽く覗き込み財布から硬貨を取り出すとコーヒーを買って去った。周りに人がいないことを確認して自販機の下を漁ると小銭を発見した。それも一枚だけではない。
「…ッ! 100円玉だ!」
その自販機から見つかったお金は118円、5円や1円は分かるが100円まで落としてそのままにするとは…しかし一つの自販機でこんなにとは…予定を変更、近場の自販機回るぞ!!!
そのまま2時間ほど色んな自販機をまわり、時折お金を落とした振りをして漁り漁り。その結果
「1017円...!」
途中500円玉が落ちていた時には悲鳴をあげそうになった。意外といい金策になったがこれは月に一回ぐらいしか使えなさそう。あと狙い目は繁華街の所、理由は酔った人が飲み物を買おうとして落としていくから。
さてこのお金はどうするべきか、食べ物を買うより実用的なものを買った方がいいのかもしれないな...よしっ。
というわけで100円ショップで釣り具と十徳ナイフと焼き網を買いました。これで残り597円、このお金は大事に保管しておこう。石鹸も買うか悩んだが残念ながら消耗品を買うと際限ないのでスルーした。
そして次はパン屋をメインとした店裏巡りをする。狙いは廃棄品、パン屋の廃棄は意外と多く店裏に普通に袋詰めされておかれていたりするのだ。早速行った店の裏でコッペパンの廃棄が行われていた。店の人がいなくなった後に袋を持って逃走する。やっぱり廃棄品って多いんだなぁと普通に数日は賄えそうなほどの量のコッペパンを手に入れる。あとは魚とか釣ってゴミ漁りとかしていいものを探して…。
突然この世界に投げ出されて数か月たった。
いきなりホームレス生活をすることになったが都会だからか意外と食べ物や生活には困らなかった。
衣服や汚れは流石に気になるがウマ娘であるから丈夫でよかった…いやでも店とかにはいけなくなったのは辛い。いつかお金をまとめてコインランドリーとか銭湯とかに行かなくては…現在の所持金は1092円、古着屋で安い服を買ったからそんなにお金がない。この身体無駄にスタイルがいいから合う服ないんだよね。
足元の視界を著しく狭める胸部の膨らみに手を当てる。というかウマ娘は容姿が優れていることがあって最初の頃は半グレ達が良く絡んできた、まぁウマ娘パワーで一ひねりでしたが。
釣って捌いて焼いた魚を食べながら今日の予定を決める、女の身であるがゆえに体を洗うのも一苦労だ。
パンの在庫もなくなったからまた廃棄品を取りに行こうかな。自販機の下漁りも最近同じことをする人が現れたのかあんまり見つからなくなった。
競争相手がいると流石にやばい、というかそういうのってルールとかがあるかもしれないから下手に絡まれたら怖いなぁ。
「ほらぁっ! 早く早く!」
「そんなに急がなくてもお店は逃げないよー!」
近くの土手を書けていくトレセン学園の制服を着た子達が見える。少し離れた所には中央トレセン学園という優れたウマ娘達が通う学校があるのだ。でもこの辺に生徒が来るのは珍しい、会話の内容から察するに何かお目当てのお店でもあるのかな。
「...きらきらしてるなぁ」
外見というわけではなく雰囲気が。
あたしは何となくだけど中等部ということが分かる。一度全力で走ったら中々の速度で走れたから普通の家庭に生まれてたらトレセン学園に通ったりしていたのかな。
なーんてifの話をしてもしょうがないか
┐( ▔∇▔)┌
今のあたしはしがないホームレスウマ娘、その日を生きるので精一杯ですよ。さて、そろそろパン屋の廃棄を取りに向かいますか。
残った魚を口に放り込むとあたしはパン屋へと向かった。
まだ廃棄が出されていない時間であるため店の裏には何もない。時間的にはそろそろ、個人的には食パンとかが困る。これからちょっとずつ暑くなるし下手をすれば一日でカビてしまうのだ。一番はフランスパン、次点でコッペパンかな。意外と持つ。
「おっ、きたきた…」
コッペパンだ、量もそこそこ。店員さんがいなくなったので早速パンを取りに行く。そろそろ氷室みたいな冷やすようにやつも作った方がいいかもしれない。
と、コッペパンを取ろうと手を伸ばすと横から手が出てきてあたしと同時にコッペパンの袋を取った。
「ん?」
「へ?」
隣を見ると眼鏡をかけたもじゃもじゃ頭の男性がいた。どう見てもホームレスと分かる、つまり同類。
コッペパンの袋を強く握ると相手も同じように力をこめた。
「…離してくれないかな」
「それはこっちのセリフなんだが」
ぎぎぎぎ…互いの手が袋の強く締め上げる。
「ほらあたしってウマ娘でしょ? たくさん食べないともたないから譲ってもいいんじゃないかな」
「ばかいえこっちも毎日生きるのに必死なんだよ、年上に優しくしてくれや」
「ここはあたしがずっと利用しているんだ、割り込みは感心しないな…!」
「そんなもん関係あるかよ、別に金払ってるわけじゃ…!」
「…誰かいるのか?」
「「ッ!?」」
やっば店員さんに気付かれた。このままじゃ見つかる、見つかったらもう廃棄品取れないかもしれない。
「いったん離れるよ…! こっちっ!」
「ちっ、仕方ないか」
コッペパンを持ちながら私の家へと向かう。何故か走っている時やたらと視線を感じたが気にしないことにして、そこまで家は遠くないからすぐについた。男性は膝に手をついてぜーはーと肩で息をしている、流石に体力なさすぎでは。
「ぜー…はー…ここがお前の拠点か…」
「そだよ、近くに公園もあるし結構いいでしょ」
最近壊れたテントを見つけたから段ボールの間にテントの布を挟んで断熱性もばっちりブルーシートも挟んで防水性もばっちり。あ、そういえば名前を聞いてなかった。
「そういえば名前を聞いてなかったな。俺はナンバだ」
と、最初に言われてしまった。名乗られたなら名乗り返さないと。
「あたしは『ハルノヒイチバン』、イチバンでいいよ」