ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
ポケモンLEGENDS IF
わたしが時空の裂け目という場所から落ちてきて、ラベン博士という人に拾われて。その人の側にいた不思議な生き物がポケモンだということは何故だか知っていた。
だからラベン博士が言うようにポケモン捕獲のためのモンスターボールを投げることも、ポケモンに近付くことも怖くなんてなかったし、捕獲もあっさり終わった。
そしてわたしは、名前以外の記憶が曖昧だった。ショウという名前しかわからず、おそらく自分の持っていたであろうスマホが白く変化していたし、訳がわからなかった。わたしはラベン博士について行くしかなく、コトブキムラという場所に行くしかなかった。
ラベン博士に話を聞きながら滞在するしかないムラに行くと何故だが胸に響く言葉があった。
ギンガ団。
ムラでポケモンのことを調査している自警団、のようなもの。ポケモンは人間の営みなんて関係なく集落を襲ってくるので、そんなポケモンから身を守ったり調査することが目的なんだとか。
モンスターボールの手触りといい、ポケモンと共存できていない文化圏構築といい、ヒスイ地方は違和感だらけだった。
それでもギンガ団という組織には興味を持てたし、ポケモンを捕獲すれば衣食住が与えられると聞いてそれならできそうだと思った。
ムベという食事処の店主には素気無い態度を取られてムッとしたが、その後に会ったテルという少年は快活そうで誰かを彷彿とさせて穏やかな気持ちになれたし、もう一人の人に会ったことでギンガ団で頑張ろうと思えた。
シマボシ隊長。
あまり表情が変わらない、スラッとした女性。ギンガ団の隊長のようで哀愁を感じた。記憶が曖昧なのに変だなと思ったけど、結局そう感じた要因がわからなくてそのまま思考を放棄した。
とにかく頑張ってみようと思えただけだ。
それからシマボシ隊長に出された、難しいとされる入隊試験を問題なく突破してギンガ団の一員になれた。
それからはポケモンの調査、ポケモン図鑑の完成を目指した捕獲作業、荒ぶり始めたエリアを治めるキング・クイーンポケモンを鎮めたりと様々なことをしてギンガ団に貢献してきた。
空から落ちてきた人間。素性の知れない怪しい者として胡乱な目で見られることもあったけど、それは実力で全て黙らせてきた。ポケモンの捕獲についてはギンガ団で右に出る者はいなかったからだ。
まだ違和感は残っていても、手持ちのポケモンに指示を出し捕獲することについてはど素人の人達に比べれば負ける理由がなかった。手持ちポケモンについてもなんか違うなと思っても、タスクをこなしていった。
団員ランクを上げてポケモンの危険性を減らしていき、シマボシ隊長に褒められて認められて。それだけのために頑張っていた。
ギンガ団のデンボク団長は正直わたしのことをずっと疑うような言葉を投げかけてきたので信用できなかったということが大きい。のくせにコトブキムラに来る人に対してはわたしの功績を持ち上げる。
その矛盾が気持ち悪く、純粋に功績を見てくれるシマボシ隊長やテル先輩にラベン博士に懐いたのだろう。
あとはヒナツさんの散髪屋による手入れも好きだったから手入れをしなくても雑談をするために五百円を払いに行ったこともある。彼女が外国から手に入れた洋服を改造してGの黄色い文字を入れて愛用していた。
野盗三姉妹の一人であるオウメさんと戦うのは嫌だったけど、その理由もイマイチわからなかった。
記憶も一向に戻らず、でも元いた場所に戻りたいと思ってひたすらに任務をこなしていく。生活をする場所なのだから生き甲斐がないと息が詰まるからシマボシ隊長やヒナツさんを理由にしただけ。
できるなら今すぐにでも時空の裂け目に飛び込んで元いた場所に帰りたかった。すべきことがあるはずだという心が、どこかに残っていたから。
ポケモン図鑑もかなり埋めてココノツボシ隊員になって。ヒスイ地方にいるキング・クイーンの五体を鎮めて。
そして空は紅く染まり。
わたしは、追放となった。
・
五体目のキング、クレベースを鎮めてお祝いのイモモチを食べて寝て次の日。大きい音がしたと思ってテル先輩に呼ばれて借家の外に出ると空が紅くなっていた。
その異常事態にどこかデジャブを感じながらも、デンボク団長に呼ばれたので行くと、何故か糾弾が始まった。時空の歪みから落ちてきた不審な人物であること、わたしの落ちてきた次の日に雷が落ちてそこからキングが暴れ出したために何かしら関係があるだろうという推測。
そんな、わたしが何かしたという証拠もないのに怪しいからとギンガ団の退団を命じられ、コトブキムラからの追放を命じられた。
コンゴウ団の団長セキさんとシンジュ団の団長カイさんはそんな
デンボクが出した任務をこなしていった結果がこれなら、わたしはギンガ団に居られない。
だから追放でも良いなと思えたけど。
「シマボシ。こいつを連れていけ」
「はい」
シマボシ隊長がデンボクの言う通りに動くことが嫌だった。それが生理的に苦しかった。デンボクが団長で、シマボシ隊長があくまで隊長だからなのか。
シマボシ隊長が統べればより良い集団になっただろうに。
またひとつ、わたしはこの世界に絶望した。
シマボシ隊長に連れられて、わたしは村の外に連行される。手持ちのポケモンはそのまま持たされているのはこれまでの功績からと言われたが、暴れるポケモンがいる中、わたしが捕まえたポケモンも奪うつもりだったのか。
その強欲っぷりに、それを思考したというだけで異常だ。ポケモンがいない状態で外に放り出したら大人ですら死ぬ危ない世界だというのに、何を言ってるんだと思った。
散々ポケモンの凶暴性を説いてきたのはそっちだろうに。
ラベン博士やテル先輩はわたしへの処罰について嘆いてくれた。だけどデンボクの決定に非を唱えられなかった。彼らもギンガ団の一員で、デンボクのおかげで生きてこられたようなものだから。
セキさんとカイさんは身内ではないからと、デンボクがさっさとコトブキムラから追い出していた。空がおかしなことになっている今、ムラを纏めなくちゃいけないのに部外者に騒がれたら面倒だと思ったのだろう。
それに彼らも何が起こるのかわからないから自分達の集落を守るために色々と動かなければならないだろう。わたし一人にかかずっている暇はないということだ。
あんな男が統べる組織がギンガ団を名乗っているのが妙に苛立ち、この建物をポケモンに燃やさせようと思った。けどこの中にはラベン博士の研究室やシマボシ隊長の私物があるだろうからと実行は踏み留まった。
それにそんなことをしたらとうとう言い訳ができないと、心がブレーキを掛けた。
ギンガ団の建物の外に出ると、村人全員の視線が険しかった。村八分、という言葉が浮かんできた。
全員がデンボクの言葉を信じているようで、わたしがこの惨状を引き起こしたと思い込んでいるらしい。
あんな男でも、このコトブキムラを作り、ギンガ団の力でムラの安寧を守っていたからだろう。どいつもこいつも、本当は他の地方から流れてきたわたしと変わらない漂流者のくせに。
「……怖い」
「最初に見た時から怪しい奴だと思っていたんだ」
「格好もおかしかったからな……」
そんな村人の言葉が聞こえてきて、足を止めそうになる。けどシマボシ隊長に促されてその人達を凝視することはなかった。
散髪屋の前に来ると、ヒナツさんが悲痛な表情を浮かべていた。彼女はわたしに駆け寄ってきて、両肩を掴んでいた。
「ショウ!やっぱりあたし、デンボクさんにもう一度話してくる!ドレディアとあたしの恩人で、あんたが優しいのは十分わかってる!こんな追放おかしいって!」
「ヒナツさん……」
「ヒナツ。君はコトブキムラへの滞在は許可されているが、ギンガ団の者ではない。コンゴウ団のキャプテンとしてセキ殿に話を通す方が建設的だろう」
「シマボシさん……」
ヒナツさんの行動を、シマボシ隊長が止める。
ギンガ団と同等の組織であるはずのシンジュ団とコンゴウ団のそれぞれの長がおかしいと言ってもあの男は聞かなかったのだ。一つ階級の下がるキャプテンのヒナツさんの言葉なんて聞くわけがない。
「ショウ、コンゴウ団で居場所を用意しておくから!団長と一緒にアンタのことキチンと話しておく!」
ヒナツさんはそう言って、先にムラを出たセキさんを追いかけていった。
ああ、彼女はわたしを心配してくれる。それだけで少し、救われた。
また村の外へ向かうためにシマボシ隊長についていく。非難の声を掛けられることもあるが、もう聞かないことにした。
そういう人達だとわかって、化けの皮が剝がれて、このムラへの愛着が完全になくなった。ただ数人、本音を語っても良い人がいるだけのムラに成り下がった。
あれだけ、ポケモンに関する悩み事を聞いてあげて実際に物事を解決してきたというのに薄情な連中だ。ポケモンの謎を解明した。ムラへの被害を減らした。人命救助も行なった。
それでもわたしを認めてくれないのなら。誰がやったかわからないことをやったと断定されるのであれば。
彼らにとってわたしとは。今まで暴れることのなかったポケモンと同じ存在なのだろう。
もうすぐ門に近付くというところで。一人のギンガ団員の女性がいたことに気付いた。確かいたずらビッパがムラに入り込んでいるからと捕らえるのに協力してあげた女性だ。
ムラの外には出ないし、任務を一緒にやったこともなかったので名前は覚えていなかった。その程度の人物だった。
彼女はわたしを見て顔を青くさせていた。彼女もあんな眉唾なことを信じているらしい。
彼女は何を言うのだろうと、気になって視線を向けていた。一般のギンガ団員はどう思っているのだろうと。
「やっぱり時空の裂け目から落ちてきた人間は……」
……なんだ、それは。
やっぱりってなんだ、やっぱりって。最初から疑っていたのはいい。任務に協力していた時も内心では怯えていたとしても良いだろう。
でも結果としてムラを守って、この人の立場も守ったはずだ。その上で最初の印象を覆せなかったのは驚く。
それ以上に、なんだって。時空の裂け目から落ちてきたと言ったか。
わたしはシマボシ隊長についていくこともやめてその女性を睨む。彼女はわたしの目を見て「ヒィ!」と表情を強張らせて一歩引いていた。
だが、我慢の限界だ。
「時空の裂け目から落ちてきたからって、それが何だって⁉︎わたしは名前以外の記憶が何もないのに!あそこから落ちて来たんだとしても、それがわたしの何になるって⁉︎
わたしが自分からあんな場所に行って落ちて来たと思ってるの⁉︎もしそうだとしても、あんな場所に行ったわたしはおかしな人間ってこと⁉︎素性がわからない人間が信じられないのはわたしにだってわかる!でも、代わりにあれだけ働いてきたでしょう⁉︎
ムラ人全員の悩みを解決した!複数回頼まれごとをされても嫌な顔もしなかった!ポケモン図鑑を完成させるために方々を駆け回った!ポケモンの分布図も作って安全に暮らせる場所を導き出した!
できる人が少ないポケモンの捕獲を積極的に行なってきた!ポケモンが欲しい人にはあげた!危険なオヤブン個体も捕まえて、キングもクイーンも鎮めた!ココノツボシ隊員にもなった!
それでも信用されないのなら、わたしは何をすればいい!何をすれば良かった⁉︎これ以上何をすればあなた達は信頼してくれた!
きっとさっきの言葉に全てが詰まっているんでしょうね!わたしは何をしても信じられなかった!いつか必ず、今日みたいに難癖を付けられて追い出されていたんでしょう⁉︎
ポケモンの危険性は全員知っているくせに!普通のポケモンもオヤブンも、キングやクイーンだって!わたしは死ぬ思いをしながら対峙してきたんだ!服の下なんて色々なポケモンに付けられた傷だらけなのに、そんなことあなた達には一切関係がないんでしょうね!
他のキャプテン達が匙を投げたキング達の凶暴性なんて想像もできないんでしょ!オヤブンていう身近な危険がどれほどのものかも理解できないんでしょ!
ああ、本当に……!
ポーチに仕舞っていたポケモンボールを取り出す。
バクフーンが、ミカルゲが、ライチュウがボールから飛び出てくる。手持ちでオヤブン個体じゃないポケモンを呼び出した。
ボールの中でわたしの叫びを聞いていたのか、即座に彼らは動こうとしていた。
「バクフーン、『かえんぐるま』でムラを焼きなさい!跡形もなく燃やし尽くして!」
「バウア!」
「ライチュウ、『かみなり』!神に称されるいかづちを見せつけなさい!」
「チュウ!」
「ミカルゲ、『たたりめ』で全ての人を昏睡させて!やっちゃダメな人はわかってるわね⁉︎」
「キュウウ!」
即座にバクフーンが身体中に炎を纏ってムラを爆走して着火させ、ライチュウが指示通りに神鳴りを落とし。ミカルゲが近い人間からとにかく眠らせていった。
わたしの怒りで出来上がった赤い惨劇に、わたしは喜べなかった。そうあれと願ってポケモンにやらせたのに、わたしの気持ちは落ち込んでいくばかり。
このムラにわたしを止められる人間がいるわけがない。ギンガ団は純白の凍土すら調査できないレベルの人間しかいないのに、あの場所を隅々まで探索しきったわたしとポケモンを止められるはずがない。
このムラの人々はポケモンのことについても無知を晒していたけど、人間の心さえわからないのだからポケモンのことなんてわかるわけがない。
こんな仕打ちをされて平気な人間なんて、それこそ人間をやめている。自分達より恐ろしいポケモンを怖れているのに、ポケモンを従えているわたしには何をしても良いと思っているのなら度し難い。
そんな簡単なこともわからないから──ホラ。自分達の住処が火の海の只中にある、なんて結果になる。
「やめろ、ショウ⁉︎」
「シマボシ隊長のお言葉でも止められません。隊長ならきっと新しい組織を作って率いた方がマシですよ。こんなところで書類に忙殺されているなんてあなたの価値をデンボクは全くわかっていない。テル先輩やラベン博士を連れてどこかへ行かれることをお勧めします。ヒスイ地方以外ならきっと安全に過ごせますよ」
シマボシ隊長が叫ぶけど止まらない。止められない。デンボクの全てを奪ってやらないと気が済まない。
他の地方からの移民は受け入れるくせに、出自のわからないわたしは排斥する。彼がポケモンを嫌う理由があったとしても、彼だってポケモンをボールに入れていることは知っている。
この矛盾だらけな人物が治める場所が気持ち悪くて気色悪くて。喉に迫り上がるナニカを吐き出すように火を放った。
シマボシ隊長にテル先輩、ラベン博士にポケモン牧場のお世話をしてくれたオハギさん。技の伝授を手伝ってくれたペリーラさん。それとまだ近くにいるかもしれないヒナツさん。
それ以外の人はどうなろうと知ったこっちゃないと思っていた。
わたしはポケモン牧場の方を向き、大声を上げる。
「フーディン、ドータクン、チリーン、サーナイト、エルレイド!わたしの頭の中で思い浮かべてる人物をここから遠くへ飛ばしなさい!」
その声と共に、エスパーポケモンがテレポートを実施。さっき挙げた人達をテレポートでどこか安全な場所へ飛ばしていた。飛ぶ先については問題ないだろう。テル先輩もいるのだからよっぽどの場所でもない限り生きていけるはず。
これでムラには傷付けても良い人しかいない。思う存分暴れられるようになったのなら、歯止めは効かない。
バクフーンはまだ焔を撒き散らしているし、ライチュウは『かみなり』の後は『ボルテッカー』で暴れている。ミカルゲは指示通りにムラ人へ呪いを振り撒いていた。
牧場で休んでいたポケモン達も、ムラの破壊活動へ勤しむ。中には逃げ出すポケモンもいたが、親であるわたしの意志を汲んだのか暴れるポケモンの方が多かった。
まだできて二年ばっかしのムラ。まだまだ開発を行なっている途中の、未完成なムラ。
それはオヤブンと呼ばれる通常よりも強力なポケモンの手で簡単に藻屑へと変わり果てていた。
ポーチの拡張のために何万円も払うよりも、オヤブンの子達に強力な技を覚えさせる方がお金の使い方として楽しかった。今では『はかいこうせん』や『ギガインパクト』、『ふぶき』などが飛び交っている。
怪獣大行進みたいで見ていて楽しい。
ポーチの拡張であのぼったくり野郎を思い出した。たかだか道具を一個多く入れるための拡張技術のために二万円とか要求してくるのは本当にふざけていた。何匹のポケモンを捕まえれば良いと思ってるんだ。
道具なんて手隙のポケモンに持たせればいくらでも運べたので、要求額がおかしくなったところで拡張なんてやめた。あの男にも殺意が湧いてきたが、今このムラで無事な建物なんてない。
すでにどこかに埋まってるだろうと思うと胸が軽くなった。
コトブキムラの原型がなくなり始めた頃に、黒い着物姿の憎き男がやってくる。腰にはモンスターボールを掛けていたが、ギンガ団というモンスターボールを開発した集団からすれば持っていないことがありえない代物。
その男は、わたしの前に修羅の如く立ち塞がる。
「貴様ァ……!やはり貴様こそが災厄の象徴だったか!」
「順番を間違えないでよ、デンボク。このムラが存在する価値のない場所だったから燃やしてるだけ。あなたが功績を認めず、排他的な人間ばかり集めたのが原因でしょ?やっぱり人間には感情なんて要らないんだよ。
誰の言葉かは思い出せないけど、感情なんてものがあるからコミニュティを維持できない。わたしもこうやって爆発する。最適解がわからずこうやって暴発する獣なんて、感情を糧にして何もかも喰い潰しちゃうんだ!やっぱり
「感情を否定するだと……?そんなもの人間の思考ではない!」
何を言ってるんだ、こいつは。
うっすらとしか思い出せないけど、きっとわたしが慕っていたあの人は人間を超えていた。人間がこうやって間違う存在なら、あの人は人間とは違う完成された存在だったんだろう。
だから、人間のデンボクには理解できなくて当然だ。
「人間ってそんなに偉い?ポケモンと共存できない、固まった思考をしてるあなたはわたしの介入で共存の道を歩み始めて発展し始めたこのムラがどう見えた?気味悪かった?ずっとポケモンの凶暴性ばかりわたしに説いていたもんね?自分のムラが変わっていくことを受け入れられなかった?
──だから、その元凶のわたしを追い出そうとしたんでしょ。あなたはきっと、過去と今を混同してる。過去を後生大事に抱えてるから、今を、変化を受け入れられない」
「小娘に何がわかる⁉︎故郷をポケモンに焼かれ、ポケモンを恨むなと⁉︎我らの平穏な生活を奪ったポケモンを憎く思うななどと言うなら、そんな心を、意志を持った者は人間ではない!」
知るか。
人間だって多種多様だろうに。おとなしい人、凶暴な人もいるのに、一部だけを見て種族そのものを嫌悪するなんて。
ポケモンだっておとなしいポケモンもいれば暴れる子もいる。それどころか人を癒すラッキーやハピナスのような優しいポケモンもいる。ポケモンはあくまで小さくなるという特性を持った生き物を指してるだけで、共通の括りに入れることが難しいほどに多面性がある生き物だ。
それに。そんなに嫌っているなら何でポケモンを複数所持しているんだ。ポケモンに対抗できるのはポケモンだけと思っているなら、ポケモンごとの違いにも気付いていいはずなのに。
自分の中の矛盾にも気付かない石頭。それが目の前の人物だ。
「貴様とは話が通じないな!ならば力で捩じ伏せるまで!」
「ふうん?そう、力勝負でいいんだ。もちろん相撲じゃなく、ポケモンを使った勝負でいいんでしょ?あなたが勝負の内容、決められるわけないもんね?」
「く……!いけ、カビゴン!」
「何だ、ただのカビゴンなのね。ガブリアス、力強く『げきりん』」
通常個体のカビゴンだったことに落胆したわたしはオヤブンガブリアスを出してすぐに技を指示。
ガブリアスは雄叫びをあげながら即座にその場で暴れてカビゴンを吹き飛ばした。吹き飛んだ先にはデンボクが。
その巨体がデンボクに重なり、グチャという音が聞こえた気がした。デンボクが下敷きになってどうなろうが知ったこっちゃなかったのに、何故か白髪にしたようなデンボクらしき人がわたしに話しかけている霧がかかったビジョンが浮かんできた。
その人はデンボクと同じように厳しそうな見た目をしていたが、それでもわたしに微笑みながらポッチャマを……。
そのビジョンに続けて、今まで蓋をされていたように記憶の濁流がわたしを襲う。
とある湖でポケモンに襲われたために咄嗟に他人のポケモンを使って撃退したこと。そのポケモンの持ち主である博士に許されてポケモン図鑑の完成を手伝わされたこと。
幼馴染の少年に一緒にチャンピオンになろうとライバル宣言されたこと。シンオウ地方を巡ったこと。
その途中でとある人に出会って、とある団体に加入したこと。
ある任務を受けて、特殊な空間に入り込んだこと。
それらが一気にわたしの頭に響いて、頭が痛くなった。頭を抱えながらひんしになって仰向けで倒れているカビゴンを見ると、そのカビゴンの背中から血が徐々に流れ始めていた。
その血はおそらくカビゴンの持ち主だった人間のものだろうと思った途端、また頭痛が激しくなった。
そして、カビゴンに既視感を覚えて目がチカチカし始めた。
「何……?カビゴンが何だっていうの?これまでだって何度も倒してきた。カビゴンじゃなくて、ゴンベ?ゴンベはヨネさんのパートナーで……。違う?他に誰がゴンベを……。──ナナカマド、博士?」
頭に浮かんだ人の名前を呟いた瞬間、ビジョンの霧が全て晴れた。
ナナカマド博士。わたしに最初のポケモンであるポッチャマをくれた人。その人の容姿はカビゴンに潰されている人そっくりで……。
「ぁ……ああああああああァァァッ⁉︎」
デンボクを必要以上に嫌う理由が。
シマボシ隊長やヒナツさん、オウメさんを慕う理由が。
テル先輩を信頼する理由が。
全ての点と点が、繋がった。繋がってしまった。
「わ、わたし、何を……⁉︎絶対にわたしのいた時代よりも過去のここで、ナナカマド博士の先祖を、殺した……?」
「デンボク、わしを待てと言っただろうに!……うおおおおお!ショウ、覚悟ぉ!」
誰かが、わたしにサーナイトをけしかける。けどガブリアスが、牧場から解き放たれたオヤブンポケモン達がサーナイトを一瞬でひんしにしていた。
けどわたしは襲われていることや、誰が襲ってきたかなんてどうでもいいかのように、蹲っていた。
「なんで……なんであなたとナナカマド博士が繋がるのよ⁉︎全然違うじゃない!時代⁉︎環境⁉︎ナナカマド博士の夢を潰そうとしたわたしが言うことじゃないけど、あなた達はポケモンに対する愛情がまるで違うじゃない……!」
「……ショウ?何を……」
わたしを襲おうとしていたおそらく老人の言葉なんて無視して、わたしはそこに倒れているカビゴンの下を見たくなかった。
だからできる限りの声を張り上げていた。
「エスパーポケモン!全員でわたしとポケモンをテレポート!」
行き先はわたしの頭の中を呼んだのか、時空の裂け目に一番近い場所へ飛んでいた。
火の海から雪山の近くへ景色が一変したことよりも、ポケモン達がわたしを心配するような目線を向けてきていることよりも。
わたしの身体は言うことを聞かないようにずっと震えていた。腕で抑えようとしても、一向に止まってくれない。
「わたしを、元の時代に戻してよ!こんな場所でひとりぼっちは嫌……!助けてぇ、
時空の裂け目に向かって叫ぶ。その奥にいる、わたしをここへ連れてきただろう存在に訴えかける。
その声に反応したようにアルセウスフォンが光って時空の裂け目に向かい、その光を吸収した時空の裂け目は新たな光をコトブキムラの方角へ落とした。
その光はきっとわたしがこの世界に落ちた時のものと同じだろうと直感して。
わたしのハイライトが消え去った。
連動特典で「ハイカラ上衣」と「ハイカラ下衣」ってそういう意味でしょ?と妄想した産物がこれだよ。