ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
『ヒカリ』が目を覚ました場所は明るかった。
「ハッ!」
瞼を開いてすぐに確認したのは自分の居場所。ゴツゴツとした質感。そして記憶の場所とは異なり無事な天井と十体のポケモンの石像。
槍の柱と呼ばれる場所ではなく、その前のシンオウ神殿と呼ばれる景観。
手持ちのポケモンも全部ヒスイで捕まえたポケモン達で。確認のためにシンオウ神殿から出てテンガン山の頂上から360度、この大地を見渡した。
人間の集落なんて目に見えるものは何もなく。ビルや灯台でもあればこんな山の上からでも見えるはずだが、そんなものは一つも見えない。人が暮らしている様子はなかった。どこにも人の営みの匂いがなかった。
その事実から、『ヒカリ』は絶望の嘆きを発する。
「あ……あああああああぁぁぁ⁉︎」
ここはまだヒスイで、シンオウと呼ばれる時代ではなく。
アルセウスは『ヒカリ』の言葉を否定し、罪の清算は終わっていないと主張したことを知り。
左手がアルセウスを殴った時のままだとわかってあの戦いが嘘ではなかったとわかり。
流れる血が、痛みがどうしようもなく現実だと訴えかけてきて。
バトルで優位に立って見せても、あの邪神は『ヒカリ』の願いなど叶えなかったのだと絶望した。
無事な方の右手で石畳をドン!と叩いてもこの悪夢から醒めるわけもなく。ただ痛みが増しただけだった。
「まだだ……!ジュンとノボリさんがまだこのヒスイに取り残されているなら、もう一度……!いや、あいつはもう頼りにならない!ディアルガとパルキアの力で二人を元の世界に……!」
それだけを信条に、『ヒカリ』は歩き始める。
ジュンは近くにいなかったので、まずは居場所に心当たりのあるノボリを探すことにする。誰にも姿を見られるわけにはいかないので適当に布を調達して、全身を隠すようなローブに加工した。
調べた結果、ノボリはどこにもおらず。シンジュ団の話を聞いてみてもいきなり消えたことがわかり。ならキャプテンとして世話をしていたオオニューラを探そうと会いに行ったらキャプテンがいなくてもその土地の管理をしていた。
わけがわからずコトブキムラに向かい、ジュンがいないかも調べた。まだ跡地にいたラベンやテルが空の異変はなくなったものの、ジュンもショウも姿を見せないと話していたのを聞いて確信する。
二人は、元の世界に戻ったのだと。
ジュンは新たにアルセウスが呼び出し、ノボリは手違いでこの世界に来ていた。そのため異変も終わったためにアルセウスが返したのだと悟る。
だが、『ヒカリ』は罪を犯した。元の世界に戻っても世界を滅ぼそうとする異端児だ。
だからどれだけ実力を見せようとダメだった。むしろ力を見せたからこそアルセウスに警戒されたのかもしれない。
『ヒカリ』はヒスイ地方から脱出した。
アルセウスのいるテンガン山から離れたいという思いと、確実に元の世界に戻るために他の伝説のポケモンと出会う必要があると考えた。
様々な地方を歩き。伝説のポケモンを調べ。
一年が経った頃には自分の身体の違和感を覚え。
世界を放浪し。
たまにシマボシやテル、ヒナツのことが気になってヒスイに顔を出したりもした。
シマボシなどの気になる人達が結婚し、子供が産まれて。そのことを影から祝福して。
元の世界へ帰るための手掛かりを探し続けて。
気付けば幾星霜の時が流れて。
──『ヒカリ』は未だに、少女のまま。
・
「はっ⁉︎」
ショウが意識を覚醒させた場所はシンジ湖の洞窟の前。天気の良い昼下がり、格好はヒスイの時のままだった。
それでも、シンジ湖の様子がヒスイとは違っていた。随分と懐かしいような、そんな感覚があった。ポーチの中を確認すればヒスイの頃と変わっていなかった。ポケモン達もヒスイで捕まえたポケモンで、シンオウ時代の頃のポケモンは一匹もいなかった。
それを悲しむものの、まずは状況を把握しようと湖を渡ることにする。オヤブンギャラドスの背に乗って湖を渡り、歩き出すとすぐに街並みが見えた。
都会とは呼べなくても、現代的な建物だ。それだけで帰ってこられたのだと確信できた。
ショウは嬉しくなり、でも母親に顔を見られるわけにはいかなかったので慎重に動いてフタバタウンに入る。年号を確認した後にはすぐに『ギンガ団』の本部に向かおうとした。
林の陰で、ある親子を見るまでは。
「ヒカリ、今日は何を食べたい?」
「お魚!」
「そう。じゃあお魚にしましょうか」
まだ幼い少女と、見覚えのある怖い人よりも若干若く、優しそうな人。
まるで五歳くらいの自分がコンテストを強要しないママと仲良く歩いているという光景を見させられて、ショウの視点はブレにブレた。焦点が全く合わなくなった。
それまで一切気にしていなかった左手が痛かった。見てみればアルセウスを殴った時のままで指の何本かは折れていそうだった。
それ以前に、その左手が
「あ……あああああああぁぁぁ⁉︎」
ショウはその怪奇現象が怖くなってフタバタウンから逃げ出した。すぐにトゲキッスを呼び出して背中に乗り、空を駆ける。
その頃には左手は元に戻って血が流れていた。飛んでもらっている最中に止血などを済ませておくと、透けていた手はそんな怪奇現象を起こすことなく、ただ痛々しい手に戻っていた。
「わたしが、幼いわたしがあそこにいた……。しかも、手が透けた?……ここ、わたしの世界じゃない……!」
シンオウを巡ってみれば『ギンガ団』がまだ出来上がっておらず、アカギに会うこともできなかった。
知る年号も六年前のもので、しかもこのシンオウの地下には地下大洞窟なるものがあるという。そんなものの存在をショウは一切知らなかった。
また手が透けるなんて現象に遭遇しないためにフタバタウンには一切近付かないことにしてショウはまず生活基盤を整えることにした。
適当にフレンドショップでヒスイの物を売ろうとしたが値段がつかず、仕方なくクロガネシティの博物館に行けば百年近く前の代物が完品に近い状態で見付かるなんてと大騒ぎ。どこで見付けたと聞かれたのでテンガン山で見付けたということにしておいた。
ピートブロックは珍しい物だったようで特に高く買い取ってもらえた。シンオウ時代ではリングマからガチグマへの進化はしないと思われているので貴重に違いなかった。
他にもちょっとボロくさせた使わなかったヒスイでのケムリダマなどのレシピ書なども売り飛ばす。今更必要のない物で、作りもしないし作り方は頭に入っていた。今は纏まったお金が必要だったので色々と売った。
纏まったお金を手に入れたら服を買ってすぐにシンオウ地方から出ることにした。ここにいてはいつ怪奇現象に見舞われるかわからないことと、売り飛ばした物の出所を探られたくなかったからだ。
元の世界に戻るためにディアルガとパルキアをもう一匹ずつ捕まえようかとも思ったが、テンガン山に近寄ったらロクなことにならないと直感が働いて却下。アルセウスのお膝元だ。何があるかわからなかった。
過去のモンスターボールを使うと目立ちそうだったので適当にモンスターボールを買って地下大洞窟で人目に付かないようにポケモンを使って捕獲し、この世界で使うポケモンを選定する。
その後はミオシティに行って各地方の伝承を調べる。必要なポケモンは時空を超えられるポケモン。もしくは並行世界を観測できるポケモンなど。
ひとまず当たりをつけて行動を開始した。本命としてはパルキアの力を用いることだが、そのパルキアは今力を使うことができなさそうだった。
各地方の伝説のポケモンと手当たり次第出会い、どんな力があるのか調べることにする。まだ知られていないポケモンが世界を超える力を持っている可能性はあった。アルセウスだって表向きは一切知られていないポケモンなのだから。
そうして彼女はカントー地方とジョウト地方を繋ぐ、伝説の山であるシロガネ山を登る。ここに伝説のポケモンの伝承が残っているわけではないが、野生のポケモンがかなり強いと噂され立ち入りが規制される山だ。こういう場所にこそ伝説のポケモンが隠れ潜んでいるとショウは睨んでいた。
そこで、赤い帽子を被った少年と目が合ってしまった。目と目が合えばバトルがトレーナーの鉄則だ。この時代に戻ってきてショウも何回かその縛りを受けてバトルで蹴散らしてきた。
今の手持ちはそこまで育てていないのでヒスイから一緒のポケモンの方が強い。今は調査を優先しているし、いざとなればヒスイのポケモンを使うので育てる意義を見出せなかった。
育てていないとはいえ、ジムリーダーくらいは蹴散らせるほどには強いポケモン達だ。
「こんなところに人がいるとは思いませんでしたけど……。お互い様ですね。じゃあやりましょうか」
「……………………」
そしてショウは。
久しぶりに負けた。
「……アハッ!ああ、久しぶりだなあ!あなたはわたしに勝てるんだ!ううん、そのポケモン達を見ればわかる。ごめんなさい、あなただと気付きませんでした。侮ってごめんなさい、カントーチャンピオン。負けてこんなことを言うのもなんですけど、もう一度戦ってくれませんか?本気で、やりたいので」
「…………」
無言で頷く赤帽子の少年。ショウよりも少し年上の少年に対してショウは自分のどうぐを使ってお互いのポケモンを全快させ。
次の勝負では、赤と白ではなく、下部分がぼんぐりの色をした古めかしいボールを投げた。
そして雪が降るシロガネ山の頂上で、チャンピオン戦よりも白熱したバトルが繰り広げられる。
「ああ、すごい!さすが史上最高と名高いトレーナー!
「……ッ!」
「でもおしまいです!ライチュウ、『ボルテッカー』!」
決着が付き。
久しぶりの白熱したバトルに満足したショウはシロガネ山を隈なく散策し、様々な地方を巡った。
カントー、ジョウト。ホウエンにイッシュ、カロスにアローラ。
可能性のあるものから全くの外れまで。事細かに調べ、ついでに遠い地方であるオーレ地方にも行き、そこでも空振って。
もう一度見落としがないか世界図書館と呼ばれる場所で様々な書物を漁る日々を過ごしていた。
「やっぱり一番はパルキアなんだけど……。シンオウには近寄れない。ウルトラビーストも可能性はあったけど、あれはまた別な存在。……最終手段としては、パルキアの力の増幅。アルセウスをも超える力をつけるための増幅装置でもあればいい。もしくはジラーチだけど……ジラーチはもう願いを行使した後だって公表があった。1000年も先にならないと使えない願い星なんて待ってられない」
ショウはまだ行っていない地方のことを重点的に調べる。可能性があるとすれば未知にしかない。
様々な地方を調べていく内に、ガラル地方のことに行き着く。
「ダイマックス……?ガラル特有の現象?ポケモンを巨大化させて、ポケモンの力を増幅させる……⁉︎」
これだ、と思った。すぐにガラル地方に関する本を漁り始める。伝説のポケモン、ダイマックスについて。ガラルの歴史など。
このダイマックスがパルキアとディアルガに使えるのであれば。
狙った世界、時間に戻れるかもしれなかった。
何日も図書館に通い、とにかくガラルのことを調べる。そしてブラックナイトや剣と盾の英雄の伝承に行き着く。それらがどういうものかとノートに自分の考察を書き込んでいった。
ダイマックスという謎の現象。おそらくそれに関係するブラックナイト。様々な著者が様々な見解を述べているためにどれが正しいのか推察していく。
本当にどんなポケモンの力も増幅させるのであれば。ショウにとってこれ以上ない最適解となる現象だった。
ショウがダイマックスとブラックナイトについてのめり込んでいた頃、机の上に大量に積み重なった本の上から声をかけられた。
「ほう。こんなお嬢さんがこうも熱心に……。嬉しいですね。他の地方にもこんなにもガラルに興味を持ってくれる人がいるなんて」
少し小太りの、褐色肌の中年。その男性はショウを興味深そうに見てウンウンと頷いていた。
積み重なっている本の一つを取って、もう一度ショウを見る。本の難解さがわかって、十一歳にしか見えないショウが読み解いているとわかって笑みが深くなった。
「お嬢さん、ガラルに興味がおありで?よろしければ私が語り聞かせましょうか?私はガラルについて一番詳しいと自負しております」
「……あなたは、ガラルの方ですか?」
「はい。流石に他地方では私のことをご存じないですよね。私、ガラル地方のポケモンリーグの委員長をしています、ローズと言います」
ならと、ショウは質問をぶつける。その討論は長く続き、ローズの秘書であるオリーヴが来るまで長々と続けられた。
ショウは知りたいことが粗方知れたのでローズに感謝する。ローズは最後に、質問をした。
「そこまでブラックナイトやダイマックスに興味があるのは、何故ですか?」
「わたしの望みを叶えられる可能性が高いからです。願い星とそれが引き起こすダイマックス現象。とても興味深いです。ただ、バトルで一定時間しかできないのであれば規模として足りません。せめて伝承のように大地を埋め尽くすほどの巨体がガラルを覆った時のようなブラックナイトほどの規模がなければ、わたしの願いは叶いません」
「もし、ブラックナイトを人為的に起こせるとしたら?」
「悪人と蔑まれてもいい。わたしはそれを迷いなく実行します」
その断言に後ろにいたオリーヴはいつもは細い目を見開き。
最高の答えを得られたと思ったローズは深く頷く。
「では、この手を取っていただけますか?私も、ブラックナイトを引き起こしたいのです」
悪魔との契約でも構わないと、即座にショウはその手を取る。
ここに契約は成立した。
ヒスイに残ってしまった『ヒカリ』とBDSPに飛ばされたショウ。
今後の描写はショウがメインになります。