ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
ショウがでんきジムリーダーに就任して二年経った年のジム巡り期間の終了後。
本来であれば六ヶ月に渡る長期の仕事が終わったジムリーダー達には暫しの休暇が与えられるが、そんなことは関係ないとでも言うようにショウはジムにいた。
そのショウはジムトレーナー補佐のクララを呼び出す。
クララはこれまでジムトレーナー補佐としてジムで働きつつ、ショウに師事して来た。その結果ショウから見ても才能は開花したと判断していた。
なので、最後の試練を与えてみる。
一緒にスタジアムのフィールドの掃除を終えた時にショウは提案していた。
「クララさん。卒業試験をしましょうか。わたしとポケモンバトルをしましょう。本気で」
「……え?」
「もう教えることはないでしょう。あとは自分なりに頑張るべきです。となると、ここで燻っている方が勿体無い。なので最後のご褒美。本気のわたしと戦いましょう。ジムリーダーはリーグに認められていない野良試合はできないので、これが最後の機会ですよ。公式戦以外ではね」
それはクララを認める発言。彼女ならばメジャーリーグのジムリーダーになれると思ってこそのショウの言葉だった。
そのショウの言葉の意味がわかって、クララはギラリと歯を見せる。臨戦態勢に入り込んでいた。
「いいのォ?最近はショウちゃんに隠れて特訓してたからクララの手持ちもわかんないんじゃない?」
「むしろその方が真剣勝負になるでしょう。わたしが使うポケモンは二匹だけ。クララさんは六匹までならいくらでもどうぞ」
「じゃあクララは五匹ね。それくらいしか育てられなかったのォ」
「ではそういうことで。……わたしを熱くさせてくださいね?」
ショウはそう言った瞬間、モンスターボールを投げる。ショウの場合は手持ちのポケモンを全てモンスターボールに入れているのでどのポケモンか判別が付かなかった。
クララもフレンドリーボールを投げる。
出て来たのはそれぞれ、フシギバナとペンドラーだった。
「よっし、予想通り!ショウちゃんなら絶対どくタイプのフシギバナを使ってくると思ってたァ!」
くさ・どくタイプのフシギバナとむし・どくタイプのペンドラーではタイプ相性的にペンドラーが有利だ。ショウが試練的なものを与えてくるのであれば、絶対にどくタイプを使ってくるとクララは経験則で確信していた。
その予想が当たってガッツポーズをするクララ。
だが、ショウはその程度問題ないと首を横に振る。
「見せてあげますよ。レベルの差を。フシギバナ、『はなふぶき』」
フシギバナは即座にフィールド全てを覆うような草のカーテンを作り上げていた。視界は阻まれ、その赤い花弁全てが『はっぱカッター』のような攻撃技なのだ。
『すなあらし』もかくやというレベルで展開された大規模な攻撃に、チャンピオン戦でも見たことのない一撃にクララは目をひん剥くものの、ただボウっとしていたら負けると気付いて指示を出した。
「ペンドラー、『まもる』!」
「うん、正解です」
身体を埋めて迫り来る『はなふぶき』から身を守るぺンドラー。何度も何度も花弁がペンドラーを襲うが、ペンドラーはしっかりと耐えた。硬い甲殻によってダメージを最小限に抑えていた。
いくらショウのポケモンとはいえ、いつまでも『はなふぶき』を展開できるわけではない。徐々に『はなふぶき』は勢いを無くして視界がクリアになっていく。
クララはすぐに身を守っているペンドラーの目の代わりになろうとしていた。今のペンドラーは顔も埋めてしまっているので視界は真っ暗だ。ペンドラーが顔を上げた瞬間に相手の居場所を把握していなければ一方的に叩きのめされる可能性がある。
相手はチャンピオンを毎度最後の一歩まで追い込んでいるショウだ。生半可な対応では持っていかれるとわかっていた。
『はなふぶき』がなくなった瞬間にクララはアイドルとして鍛えていた肺活量を用いて有らん限りの大声をお腹から張り出した。
「ペンドラー、S!そのまま『メガホーン』!」
ペンドラーはクララのアルファベットの意味を理解してすぐに真左を向く。その先には『はなふぶき』の間に移動していたフシギバナがいた。
クララはショウがポケモンにハンドサインを仕込んでいるのを見て同じようなことをしようとした結果習得させたものがアルファベットで向きを教えることだ。これなら右斜め上だのと言わなくても短音で指示を出せる。
しかもアルファベットの意味がわかるのはクララのポケモンのみ。何度も使えば研究されてバレてしまうだろうが、初見の相手には有効に効く。そしてブラフアルファベットも仕込んでいた。
トレーナーの質は状況判断力や指示の練度に左右される。バトルに身を置いているポケモンの本能に任せることも大事だが、その本能や直感と呼ばれるものだけではどうしようもない状況を打破できるのはトレーナーだけだ。
ペンドラーはフシギバナに突っ込む。そして形成された緑色のツノをフシギバナへ突きつけた。
命中は低いが、むしタイプの技としては破格の威力を誇る『メガホーン』。効果は抜群であるフシギバナはよろける。
が、一撃でやられるようなヤワな鍛え方はされていなかった。
「フシギバナ、『ギガインパクト』」
近くにいたペンドラーへ、フシギバナは力一杯の突撃をした。その一撃でペンドラーは目を回してその場に倒れる。
たった一撃で。タイプ不一致の等倍の攻撃でペンドラーは倒れてしまった。
クララは唇を噛み締めながらペンドラーをボールに戻す。
ショウの理不尽さは知っていた。メジャーリーグの順位は現在三位ではあるものの、チャンピオンに一番近いトレーナーという異名がある。ネズやキバナとは戦績で少し開きがあるものの、チャンピオンを毎試合追い込んでいるのはショウだけだ。
そのショウの立っている場所が高みすぎた。それでもクララは負けるわけにはいかなかった。
自分を世界に認めさせるのだ。そのためにはジムリーダーになって、メジャーリーグに入って、チャンピオンを倒さなければならない。
そのチャンピオンの前座であるはずのショウに追い詰められるわけにはいかない。それではいつまでもアイドルやどくジムから逃げ出した時のクララのままだ。
だから、ダイマックスバンドの力を解放する。ここはもう、勝負の分かれ道だと判断していた。
「ダイマックス!潰しちゃってェ、ドラピオン!」
ダイマックスエネルギーを受けて巨大化したドラピオンがフィールドに現れる。一般個体よりも十倍以上の大きさになるダイマックスだ。フシギバナとの差は歴然だった。
ダイマックスを使わないショウは、そのまま巨獣退治に挑む。
「ドラピオン、『ダイワーム』!」
「フシギバナ、『ハードプラント』!」
さざめく様なむしの大群がフシギバナを襲う。そのフシギバナは覚えられるポケモンが限られている、習得することも困難な究極技の一つである『ハードプラント』をぶつけた。
くさ・みず・ほのおにしかない究極技。その威力はダイマックスをした時にのみ使えるダイ技に匹敵する。
事実、二つの技はぶつかり合って相殺していた。ドラピオンのタイプはどく・あくタイプなのでむし技の『ダイワーム』はタイプ不一致ではあるが、ダイ技に変わりはない。
それを究極技とはいえ、素の状態で打ち破ったフシギバナがおかしいのだ。
しかし、『ギガインパクト』と『ハードプラント』という大技を連続して使ったことでふらつく。
その隙をクララは見逃さなかった。
「ドラピオン、もう一回『ダイワーム』!」
「……フシギバナ。“力強く”『じしん』」
ボソリと呟いたショウの言葉をフシギバナは聞き逃さなかった。
最後の体力を振り絞ってスタジアムが揺れる『じしん』を引き起こす。ドラピオンは揺れながらもフシギバナに技を当てて、その直後に『じしん』のダメージを受けて倒れることとなる。
ダイマックスを解除されて倒れるドラピオン。そしてそのまま倒れているフシギバナ。相打ちだった。
何度も公式戦で見ているとはいえ、こうして自分のポケモンがダイマックスをした上で叩き潰される様は、実感するとショックだった。クララは見ている分にはジャイアントキリングとして楽しんでいたが、やられたら絶望感が半端無い。
だが、これであと一匹だ。その最後の一匹にとてつもなく嫌な予感がしているがクララはポケモンを繰り出すしかない。
「行ってェ、マタドガス!」
「決めて。エーフィー」
「やっぱりィ⁉︎二匹って言ったらエーフィー出してくるよねェ⁉︎」
「当然です。どくジムを攻略するならじめんタイプかエスパータイプが手っ取り早いですから。カビゴンで『じしん』連打でも良かったんですよ?」
「エーフィーで良かったですゥ!」
ファイナルトーナメントで毎回快進撃を続けるカビゴン。ある意味ショウの代名詞になっていた。なぜノーマルタイプのジムリーダーにならないのかと関係者から惜しまれたほどカビゴンが強すぎた。
ショウ本人としてはでんきタイプの方が好きなのでこのままで良いと思っている。ローズ委員長も承諾している事案だ。
カビゴンの異常な耐久と攻撃力と比べれば、エーフィーはタイプ相性的にマズくてもまだマシと言えた。
あと、ピカチュウも御免被りたかった。『ボルテッカー』が何人かのトラウマになる程ピカチュウは理不尽だった。
「エーフィー、『サイコキネシス』」
「マタドガス、『どくびし』!」
ガラル特有の姿のマタドガスは一撃でやられるものの、辺り一面に『どくびし』が撒き散らされる。これでエーフィーはまともにフィールドを走れなくなった。
だがこれ、あまりエスパーポケモンには意味のない行為でもある。エスパーポケモンに距離はあまり関係ないのだ。その場から動かなくても攻撃できてしまう。
「任せたわァ!ヤドラン!」
またまた現れたのはガラル特有の姿のヤドラン。
今までのクララのエースポケモンであるガラルヤドランだ。エースポケモンは最後に持ってくることが多いのにもう繰り出してきた。
「あら、ヤドランですか。あと一匹はなんでしょう?」
「ヤドラン、『どわすれ』!」
「エーフィー、『ひかりのかべ』」
戦闘準備を始める二人。仕込みが終わって動き出したのはヤドランの方だった。
「ヤドラン、最大出力で『ヘドロウェーブ』ゥゥゥ!」
「エーフィー、『リフレクター』」
フィールドを覆い尽くす様な毒の波も、『ひかりのかべ』とは異なる透明な壁によって完璧に防がれてしまった。
だが、これで辺りは毒だらけ。『どくびし』の比ではなく、完全にエーフィーを足止めできたと言っていいだろう。
動けないなら、大技で仕留めるのみ。
「ヤドラン、『はかいこうせん』!」
「ヤア〜〜〜!」
侵食された腕から、黄色い光線が放たれる。エーフィーは『ひかりのかべ』に留まり、やり過ごした後にヤドランはその場に倒れた。
『はかいこうせん』の反動かと思ったが、そうではなかった。ヤドランの頭の上には星がいくつも飛んでいる。
『スピードスター』だ。だが、耐久が悪くないヤドランがその一撃だけで倒れるとは思っていなかった。
だが、似た様な場面を何度も見たことがあったのでその攻撃の正体にクララは気が付く。エーフィーはずっとあの場に留まっていたではないか。そしてヤドランは見た目通りの鈍足なポケモンだ。
先手はずっと前に取られていたのだと知る。
「まさか『みらいよち』……」
「はい。さあ、これで最後の一匹ですね」
動きを封じたつもりが追い詰められたクララ。
ヤドランをボールに戻し、最後の一匹を繰り出した。
「これが、アタシの全力全開だァ〜!決めなさい、ストリンダー!」
現れたのはどく・でんきタイプという唯一のタイプ構成を持つポケモンストリンダー。そのローな姿だった。
でんきタイプのポケモンを持つことを禁止したクララがストリンダーを所持していることにショウは驚くことになる。クララはショウの教えを熱心に聞き入れ、仕事も真剣にこなしていた。
そんなクララが禁止したことを破っているとは思わなかったのだ。
「ストリンダー、『ばくおんぱ』!」
まるでベースを弾く様な動きを取りながらストリンダーはできる限りの爆音を繰り出して壁の奥にいたエーフィーを吹っ飛ばした。『どくびし』と『ヘドロウェーブ』のせいでもうどく状態にもなっている。何回転かした後、エーフィーはショウを見てくる。
呆気に取られて指示を出さなかったショウは、エーフィーに庇われたことを自覚してエーフィーをボールに戻す。その証拠にショウの鼓膜も身体も無事だ。
八百長にも慣れているエーフィーはどうするかと見てきたが、これは負けを認めるしかなかった。
エンタメの重要性のために負けることに慣れたなあと、ショウは無敗の自分が見たらどう思うだろうなんて考えながら拍手をする。
「おめでとうございます、クララさん。やっぱりあなたに教えることはもうありません」
「か、勝った……?」
「ええ、完敗です。今のあなたならチャンピオンの手持ちも半分以上は倒せますよ」
それがショウの嘘偽りない感想だ。
チャンピオンも強くなってきたが、今の五匹でもダンデの手持ちを相当削れるまで実力をつけたと確信していた。
今回のフシギバナは本当の意味で全力だった。八百長もさせずに倒された。エーフィーも今のままでは倒されていた可能性が高い。
本気のショウの手持ちをダンデはまだ知らない。それでもショウは完全にダンデの実力を測り切っていた。ショウのポケモンは世界で最強と名高いレッドに勝てるほど鍛えた。本気で戦えばダンデを一蹴できる。
そんなショウの手持ちを二体倒したのだ。クララの実力はガラルでも数えるほどにまで上がっていた。
そしてショウが負けたのなら、恒例のポケモン配布だ。
本当はストリンダーの元のポケモンであるエレズンも渡そうとしたが、彼女は育てていたのでエレズンはジムトレーナーの誰かに譲ることにした。
初めての愛弟子ということで、彼女には特別に二匹のポケモンを譲ることにする。元々三匹あげる予定が二匹になっただけだ。
「クララさん。わたしからの選別です」
ボールから出した二匹のポケモンを見てクララは顎を外したかのようにパックリと口を開いていた。
世にも珍しい色違いポケモンを譲られたと思ってるからだ。
「え、白いニューラと紫のハリーセン⁉︎いいのォ⁉︎」
「ええ。卒業証書の代わりと思ってください。それとどくジムどちらでも良いので道場破りに行ってください。今のクララさんならマイナージムリーダーには負けませんよ」
「あれェ?道場破りでいいの?」
「名目上はわたしの推薦による後釜紹介ですから。そこで叩き潰しちゃえばクララさんがジムリーダーですよ」
卒業証書を片手にクララは両方のどくジムに行って、ショウの言葉の通りどちらも叩き潰した。その内の片方をクララは継承する。
だが代わる時期が時期だったために順位戦に参加できずクララはマイナーリーグのまま。こればっかりはガラルリーグの規約だったためにショウも残念がった。
そしてジムチャレンジの全日程が終わった後。ショウはシュートシティでローズ委員長と高級レストランで食事をしていた。オリーヴも離れているものの同席している。
「ショウくん。願い星の規定量を来年には達成できそうです。ですので実行は来年のジムチャレンジになります」
「やっとですか。結局三年もかかりましたね」
「これでも早まった方ですよ?貴女という羨望の光が居なければこうも順調に進まなかったでしょう」
「それがビート君やマリィちゃんの年に重なるのは幸運なのか不幸なのか。判断に迷うところですね」
「ビートくん?マリィちゃん?」
ショウの口から知らない名前が出たためにローズ委員長が首を傾げる。
メジャージムリーダーやクララのことは覚えているのに自分に興味のない相手だとすぐこれである。
ショウは呆れながらも律儀にこの世界の養父へ説明する。
「マリィちゃんはネズさんの妹です。来年ジムチャレンジに参加するようで」
「なるほど。ネズくんの」
「ビート君は委員長の孤児院の男の子ですよ。わたしが預かっている」
「…………ああ、彼ですか!」
「ビート君の分の推薦状、お願いしますね?わたしの推薦状だったらあの子、拗ねるでしょうから」
「わかりました。用意しておきますよ」
そんな近況報告をして食事は終了。
ガラルの歴史に残るジムチャレンジが、始まる。