ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
どうして、わたしは目覚めるといつもこうなるんだろう?
おとうさま、わたしは何か悪いことをしましたか?
今度こそは、と願った。
わたしは普通が良かった。目覚めたら誰かが隣にいて、他愛ない話をして。食事とかお出掛けとか、お昼寝とかしてみたかった。
ゆっくり世界を見て回りたかった。追いかけ回されずに、大切な誰かと一緒に、穏やかな時間を過ごしたかった。
わたしが目を覚ますといつも一人で。
わたしを見付けたヒトやポケモンは、襲いかかってくる。
誰も彼もが、目をギラギラとさせて。その四肢に力を入れて。
地上でも山でも海でも草原でも川でも空でも追いかけてくる。
最初の内はそれが怖くて逃げ回るけど。
いつも力尽きて捕まるか、逃げることを諦めて捕まるか。そのどちらか。
逃げられたことはなかった。
今回は、ヒトとポケモンが一緒になって追いかけてきた。変なボールを投げてそこからポケモンが出てきて、わたしを捕まえるために協力しているようで。
いつも以上に逃げられなかった。目が覚めて三日で、すぐにヒトとポケモンに追い詰められた。
……もう、いいや。好きにして。
誰も彼もわたしを見てくれない。必要なのはわたしの力だけ。
いいこともわるいことも知ったことじゃない。さっさとお腹に力を入れて、適当に頷こう。そうすればこの悪夢は終わる。
今度こそ幸せになりたくて眠ったのに。夢の中の方が幸せだったなんて知りたくなかった。
もう次は、目覚めなくていいかな。
「へへっ、追い詰めたぜ!さあ、これでオレ様は──!」
ヒトが叫んでいると、そのヒトへ『かみなり』が落ちた。それも一発ではなく数発。直撃したヒトとポケモンは倒れ伏していた。
その直後、わたしは誰かに抱えられて物凄いスピードで空を飛ぶ。ああ、夜空だったんだ。全然気付かなかった。
──今日も、
でも、あなた達は誰を照らしているの……?
「良かった、無事で。──酷い怪我。待ってて、すぐ治すから」
ヒトの声。
ヒトに抱えられて、そのヒトは黄色いポケモンと一緒に赤い羽を羽ばたかせたポケモンの背中に乗っていて。
袋の中から何かを取り出してわたしにかける。わたしの痛みは大分和らいでいくけど、その優しさをわたしは素直に受け取れなかった、
ああ、このヒトもわたしの力が目当てなんだろうなって思ったから。
「うん、そうだね。わたしはあなたに叶えてもらいたい願いがある。けど無理強いはしないよ。あなたを傷付けてまで叶えることじゃない。あなたが嫌なら諦めるよ。あなたの自由意志を奪ってまで叶えたら、わたしはわたしが一番嫌う存在と同じになっちゃう」
……わたしの考えが、わかるの?
「なんとなくね。細かいニュアンスは違うかもしれないけど大筋はわかるよ。あなたは願いを叶えたらまた眠っちゃうんでしょ?その前にあなたがやりたいこと──あなたの願いは何?等価交換にしようよ。等価になればいいけど」
わたしのことを考えてくれるヒトは初めてだった。このヒトに従うポケモンもヒトを信頼しているようで、わたしを受け入れてくれている。
この機会を逃したら、わたしはありふれた日常も謳歌できないんだろうか。また追われて傷付いて、そして眠ることになるんだろうか。
それは嫌だ。わたしは。
──わたしは、普通のポケモンになりたい。
「わかった。じゃあまずは今の時代の普通について教えるね。その中でやりたいことを教えて。これでもわたしお金はあるからできないことの方が少ないよ」
それから。ヒトは色んなことを話した。
ポケモンとヒトが共生していること。ヒトの集落にポケモンが溶け込んでいること。ポケモンを戦いに用いたり、ショーに用いたり、ただ一緒に過ごしたりしていること。
ヒトはショーだけは嫌いなようであまり教えてくれなかった。ポケモンコンテストというものはあまり見せてもらえなかったけど、ポロックというお菓子は作ってくれた。
とてもおいしかった。
「ん?パフェ食べたいの?いいよ」
わたしが何かしたいと言えば、大抵のことはしてくれた。ヒトと一緒にいると襲われることはなかった。街中で甘い物を食べていても、誰にも邪魔されずにゆっくりとした時間を過ごせた。
ヒトとポケモンの中に溶け込めたようで、ただのポケモンになれた気がした。
ヒトに、戦いをしてみたいとも言ってみた。今の時代だとポケモン同士の戦いにヒトが指示を出すのだとか。
まあいいかと言いながらこれも叶えてくれた。誰かと一緒に戦うのも初めてだった。
「え……?なに、そのポケモン?」
「ふっふっふ。キミが知らないのも仕方がない。なにせこの子は──ミミッキュの中身なんだから!」
「ゲェ⁉︎そいつ、ゴースト・フェアリーかよ!」
ミミッキュって、誰?フェアリー?
でもわたしはその誰かの名前を借りてポケモンバトルを楽しんだ。わたしが狙われるんじゃなくて、純粋な勝ち負けを決める戦いは今までの戦いとは違って楽しかった。こんな戦いもあるんだと新鮮だった。
そんな初めてを、ヒトにたくさんもらった。
ヒトと、そのポケモンと。色々な場所に向かった。わたしが見たことのない雪山や氷河、火山や神殿と呼ばれる物など、様々な物を見た。
わたしの知る世界は、とても小さいものだった。それが知れて嬉しくて。
──ヒトと旅をして一年くらい経って、わたしの限界が来た。
元々そんなに起きているのが得意じゃないわたしの身体は、一年という長い時間を起きているのは無理だったみたい。
こんな事実も初めてのことで、こんな身体にしたおとうさまを恨む。
結局わたしは、普通になれなかったな。
限界まで起きていたから、本来の力が使えない。本当は三回使えるはずなのに、二回しか使えそうになかった。
このヒトだからこそ願いを叶えてあげたかったのに。もう身体が言うことを聞かない。お腹に勝手に力が入る。
第三の目が、真実の目が開く。
ヒトは、泣いていた。ヒトのポケモンも、同じように泣いていた。
そんな風に悲しんでくれるのも、初めてだ。
「……あなたのこんなちっぽけな願いも叶えてくれないなんて。本当に悪趣味だよ、アルセウス……」
どうしておとうさまの名前を知っているのかわからないけど、お願いを教えて。
わたしが寝ちゃう前に。
「……────って、できる?」
……ああ、どうしてわたしはこんなに非力なんだろう。
どうでもいい願いなら叶えられるのに、このヒトの願いは叶えられないなんて。
今まで叶えてきた願いの全てを無効にして、このヒトの願いを叶えてあげたい。
けど、そんなことはできなかった。
わたしはおとうさまには敵わない弱虫で。
ヒトの涙も止められない、悲しい願望機だった。
「ああ、やっぱり。願いは権能には敵わないんだ。じゃあさ、この子の持つ力を強くすることはできる?」
それは簡単だった。元々持っている力を増幅するだけならできる。わたしも詳しくないポケモンの力を増幅する。
さあ、もう一つは?
「あなたが次目覚める時。あなたにとって優しい目覚めであるように。そう願わせて」
──それは、願いじゃない。願いっていうのはもっと利己的で、俗っぽくて。
どうしたって叶えられない祈りなのに。
それを叶えるからこそ、わたしは求められるのに。
「うん、大丈夫みたいだね。その時わたしはいないけど……。また誰かと、美味しいものを食べたりお昼寝したり。あなたのやりたいことができる世界になっていることを祈ってる」
わたしの力が使われてしまう。そんなわたしのための願いを、行使してしまう。
ああ、でもそれは本当に希望に溢れた、優しい願い──。
「おやすみ、ジラーチ。千年後にはまた、幸せなひと時を」
・
僕は親がいなかった。いや、いたらしいけどいつの間にかいなくなっていて、ポケモンに育てられたらしい。
そのポケモンはヨクバリスというらしい。気付いた時から一緒だったし、言葉は通じないから知らなかった。
そんなポケモンの名前も言葉も
「ヨクバリスがマサル君の手掛かりになるような物を持っていて良かったよ。ウンウン、いいねえ。君はすごい才能があるよ。君とヨクバリスならチャンピオンになれるかも?」
「チャンピオン?」
「一番強い、ポケモントレーナーの王様かな。このガラルではすっごく有名なんだけど、テレビとか見たことなさそうだもんね。ここはジムチャレンジと無縁な場所だし」
師匠は人間としての常識を教えてくれて、様々なことを教えてくれた。ヨクバリスと一緒に戦う方法。人間としての最低限の暮らし。
なんと師匠、僕が住んでいた場所の近くにテントをいくつも建ててそこで生活を始めてしまった。そこで僕を一人の男として育ててくれた。
どこからか持ってきた電化製品をでんきポケモンで使わせて近代的な生活をしていた。
今日も今日とてダイ木に登ってきのみを収穫してから降りると、師匠は転がりながらスマホロトムというもので映像を見ていた。
「師匠、また何か見てるの?」
「まあね。マサル君はいつもダイ木に登れて凄いねえ。わたしには絶対無理」
「僕にとってはこれが家だし。で、何見てるの?」
「ジムリーダーの公式戦だよ。プププ。八百長で盛り上がってるなんておかしいの〜。あはははは〜!」
師匠はゴロゴロとしながらスマホロトムを宙に放ったまま地面をゴロゴロと転がっている。何が面白いんだろうとスマホロトムを見るとそこではジムリーダーの試合が行われていた。
正確にはジムリーダーとチャンピオンダンデの試合だった。見ていて僕もアレ?と思う。
「師匠、何でこの人のポケモンはまだ元気なのに倒れていて、この人もボールに戻しているんですか?」
「さっき言ったように八百長試合だから。いやー、これでダンデ君、十年連続のチャンピオン防衛になるんだっけ?エンタメって大変だねえ」
「わざと負けてるってこと?」
「そういうこと。その女の子は負ける理由があって、チャンピオンを勝たせなくちゃいけないんだよ。もしマサル君がジムチャレンジに行ったらチャンピオンに勝てるんじゃない?」
ケラケラと、師匠は笑う。
チャンピオンはこのガラルで最強のポケモントレーナーだ。そのチャンピオンに僕が勝てると言う。
僕、師匠に一回も勝ったことないんだけどなぁ。
師匠の言うことは外れたことがない。あのポケモンは一匹しかいないはずだから捕まえなさいと言われて捕まえて、このカンムリ雪原を巡ってみても本当にもう一匹に会うことはなかった。
そんな珍しいポケモン達を師匠の買ってくれたモンスターボールで捕まえて、僕の六匹パーティーは完成していた。本当ならダイ木の近くにいたとある三鳥を捕まえる予定もあったんだけど、師匠にガラル本土旅行に連れていかれたらいなくなっていた。
師匠曰く、誰かに捕まえられたんだろうとのこと。あの三鳥には昔からお世話になっていたから是非手持ちに加わってほしかったのに。何度溺れ掛けたところを助けてもらったことか。
あの三鳥も他では見かけないから珍しいポケモンだったんだろう。
師匠はまだ笑い転げているので、気になって聞いてみた。
「師匠ならチャンピオンに勝てるんですね?」
「まあ、あのくらいなら。マサル君でも勝てるんだから君に勝てるわたしなら楽勝だよ」
「じゃあさっきわざと負けていた女の子には?」
「……うーん。あの手持ちなら余裕。だってあれ、レッド君の真似してるだけだし。いや、レッド君も負けるかもしれないけどね、あの手持ち。……本気だったらいいところ引き分けじゃないかな」
「師匠が?」
いつも自信満々な師匠が断言しないのは珍しい。しかも勝てないなんて。
僕はいつもボコボコにされているから師匠が飛び抜けて強いのは知っている。そんな師匠が良くて引き分けって、あの子どれだけ強いんだ。
「そもそもわたしとあの子は戦わないよ。だから勝ち負けはわかんない」
「そうですか」
「マサル君はジムチャレンジに出てみたい?推薦状適当に貰ってこようか?」
「いや、別に。興味ないですよ。珍しいポケモンを捕まえるなら楽しみですけど、戦うのは趣味じゃないっていうか」
「そっかそっか。その辺りは人それぞれだからね。好きに生きなさい。でも本土に珍しいポケモンがいるなら捕まえてみたい?」
「それは是非」
独占欲じゃないけど、世界に一匹だけのポケモンを持っているという優越感は味わいたい。本土でジムチャレンジを頑張っているような人達が誰も見向きをしないカンムリ雪原にいる僕に珍しいポケモンを横取りされていると思うと。
僕の心は途端に潤ってくる。
「じゃあ来年本土に行こうか。きっと面白いポケモンがいるよ」
「来年?まあ、楽しみにしてます」
何で来年まで待たないといけないんだろうか。来年になったらどこからか飛来するんだろうか。
どういう現れ方をするのか、それも込みで楽しみに待とう。
「そういえば師匠はジムチャレンジに参加しないんですか?」
「しないよー。つまんないし、推薦状もないし」
「じゃあどうやって僕の推薦状を用意するつもりだったんですか?」
「そこは裏技があるから大丈夫。参加したくなったら言ってね。あと半年は猶予があるから」
そう言われても僕は参加するつもりはなかった。
今日も今日とて師匠に勝つためにこのカンムリ雪原を遊び回ってヨクバリスを鍛えるぞ。あと、珍しいポケモンもいれば良いけど。
師匠に借りたポケモン図鑑なら一発で珍しいポケモンがわかるから重宝している。
さーて、今日もヨクバリスのダイマックス大行進で足跡を残しちゃうぞー。このカンムリ雪原で確認される巨人の足跡の正体がヨクバリスだなんて誰も思わないだろうなー。
僕が住んでいる場所、本当に人影がないし。ヨクバリスがダイマックスしていても見えないんだろう。ダイ木くらい大きいんだけどな。
マサルもいるよ。
野生児だけどね!