ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
どこまで続くかは…さて。
テンガン山の麓で。
わたしはたくさんのポケモンに囲まれていた。野生のポケモンではなく、全部わたしが捕まえたポケモン達。牧場にいた子も全員『テレポート』をさせたので全員いる。
いや、全員は嘘。図鑑タスクを埋めるために捕まえてそのまま放置してた子もいるのでそういう子達はわたしのポケモン達の強さに恐れをなして逃げ出した。
わたしが一切構わなかった子達だ。逃げ出しても仕方がないと思う。この過酷な環境で生きられるようなポケモンではない気がするけど、それはもうわたしの手から零れた命だ。
ボールから出て自由を手にしたんだから、追うことはない。というより、牧場を潰してしまったんだから彼らの食料すら賄えないわたしにはどうすることもできない。
牧場の子達で居なくなったのは約半数。逆に言えば半数は残っている。その半数はわたしがこのヒスイ地方で用途に合わせて連れて行った子や力で屈服させたオヤブン個体。
そして、
マナフィにフィオネ。ユクシーにアグノム、エムリット。ヒードランにクレセリア、レジギガス。トルネロスにボルトロスにランドロスにラブトロス。
わたしの知らない伝説のポケモンもいるけど、おそらく伝説のポケモンだと思う。他のポケモンとどこか一線を画している見た目とオーラをしているポケモン達。
ヒスイ地方、いや、過去のシンオウ地方にはこんなにたくさんの伝説のポケモンが居たんだなって不思議な感覚になったけど、それ以上に空虚が胸に押し寄せる。
コトブキムラで暴れて一日が経った。
けどわたしは何もできないで、テンガン山の麓で何もしないまま蹲っていた。
ポケモン達が自分で動いてきのみや狩猟の成果として持ってきたポケモンの肉を咥えてきて自分で食事をしてくれたおかげで餓死させることはなかった。
わたしもおこぼれできのみを食べた。ポケモンのお肉は、食べられそうにない。
今はちょっと血がトラウマだ。わたしが指示を出してやったことだとしても、頭にはどうしたってナナカマド博士の笑顔がちらつく。
厳しい人だったけど、伝説のポケモンを捕まえた時も、殿堂入りした時も柔らかい笑顔を向けてくれた人だ。裏でギンガ団に入っていて、世界を一変させようとしていたわたしは、罪悪感でいっぱいだった。
そんな罪悪感も感じたくなくて、理想の世界を目指して。
ディアルガ・パルキアに対抗するために歴史の裏に追放された第三の伝説のドラゴンポケモン『ギラティナ』を確保すべく、アカギ様が観測なさった『やぶれたせかい』に入り込んで。
ギラティナを捕獲した瞬間に、わたしは暗闇に連れ込まれ、全ての記憶を失くしていた。
ショウ、なんて偽名を名乗っていたのも。殿堂入りしてしまったがために有名になってしまったわたしの行動を露見させないためにアカギ様に着けられた名前だったから。
ギラティナの捕獲の際は、気持ち的には『
ああ、本当に憎らしい。
わたしは全てを成し遂げたはずだった。
ユクシー・アグノム・エムリットの三匹も捕獲して『あかいくさり』の生成にも成功して。伝説のポケモンに対抗するためにポケモンを鍛え上げて。他の伝説のポケモンのことも調べ上げてヒードランとクレセリアも捕まえて。
最後の保険であるギラティナもボールに入った。そして足元に現れた影に飲み込まれた。それがあの頃の、最後の記憶。
ディアルガ・パルキアを呼び出して世界を改変するはずだったのに。
もうポケモンコンテストなんてものに関わらなくて済むと思ったのに。
審査員という不完全な人間の判断と好みで勝敗が決まる不完全な競技に一喜一憂して、それにのめり込んで世界の色がそこにしかないという勘違いをした人間を排除するためにも感情を消し去るつもりだったのに。
わたしが『やぶれたせかい』で影に飲み込まれる時、アカギ様が珍しく焦ってたなあ。あんな大きな声でわたしの名前を呼んで。わたしは返事もできないままこんな世界に来ちゃったけど。
アカギ様は、マーズさんやサターンさん、ジュピターさん達と一緒に世界を改変できたんだろうか。ヒードランとクレセリアは置いて来たけど、結局ギラティナは献上できなかったなあ。戦力は足りてるんだろうか。それだけが気がかりだ。
わたしは何でこんな
きっと、多分。わたしをあの暗闇からここに来るまでに会ったアルセウスを名乗るポケモン。アレだけだ。
アカギ様から渡されたスマートフォンも勝手にアルセウスフォンとか名乗ってたし。自己主張激しいんだよね。それにデカすぎて嵩張るし、棘が生えてるから痛いし。デザインも微妙。
小型だったから良かったのに巨大化させて変な紋章付けるとか趣味悪。
今はそんなアルセウスの力が消えたみたいで、ただの空色のスマートフォンに戻っている。アカギ様が何色が良いと聞かれたから、ポッチャマと同じ色がいいとお願いして空色にしていただいた。
昨日、時空の裂け目から落ちた光。多分わたしの代わりにまた誰かがどこかの時代から選ばれて、この時代で何かをさせようとしているのだろう。アルセウスが何を考えているのかわからないけど、絶対ロクでもないことだ。
そうじゃなかったらわたしやノボリさんのようにこの時代にやってくる人が複数必要なわけない。わたし一人でできることならノボリさんが呼ばれた理由がわからない。
そして、おそらくもう一人が。わたしの代わりが呼び出された。その人物にアルセウスの使命が託されたんだろう。
「すべてのポケモンにであえ」
それがアルセウスのやらせたいこと。わたしに直接言って、アルセウスフォンを使ってまで言ってきたこと。
それに何の理由があるのか。全くわからないけど、おそらく伝説のポケモンだ。どこかしらぶっ飛んでる伝説のポケモンの考えなんてわかりっこない。ポケモンの考えなんてほとんどわからないけど。
そもそも話せて、人間に何かをさせようとしている時点でどこかおかしい。そんなおかしい奴のことなんて気にしてる暇はない。
ここが過去だとわかっている。シンオウ地方と地形が一緒なんだから。それに、あの時空の裂け目がある以上帰り道はある。シンジュ団とコンゴウ団の言い伝えからパルキアとディアルガがいることもわかってる。
その二体がいればわたしは戻れる。
元いた時代に。アカギ様の元に、正しい『ギンガ団』の一員に。
そもそもアルセウスがわたしをこの時代に呼び出さなければコトブキムラの悲劇は産まれなかった。あの悲劇についてはわたしの暴走という面もあるので一応黙祷を捧げる。謝らないけど。
恨むならアルセウスを。
それかデンボクの選択を恨んでほしい。わたしを追放する理由もカイさんの言うように鬼の証明だし、わたしが暴走した決定的な理由はあのムラ人達の思考。あんなにも排他的なムラを作り上げたのは彼なんだから、彼の庇護下にいたムラ人達は諦めてほしい。
初めての経験でかなり精神に来てたけど、動き出そう。もうこの時代にはいられない。新しいアルセウスの刺客もいるんだから、邪魔されない内に元の時代に戻らないと。
わたしはここに居てはダメな存在だ。厳密に言えば新しい刺客もノボリさんもこの時代にいるべきじゃないんだろうけど、コトブキムラの惨状を知られたらわたしの話なんて聞いてくれないだろうから諦めてもらおう。
わたしはわたしと自分のポケモンのことしか面倒を見切れない。他のことにかまける余裕なんてもうない。
だからここからは、わたしだけの理由で動く。
他の有象無象に構っていられない。
行こう、時空の裂け目へ。わたしのいるべき場所へ。
・
テル達『テレポート』で飛ばされた者達はコトブキムラに戻ってきていた。正確には跡地となってしまった廃墟である。
建物は全て原型を留めておらず、通りも橋も畑も、象徴であったギンガ団本部も残っていない。
ポケモンの凶暴さを指し示しているようだ。オヤブン個体など凶暴なポケモンは今までも十分肌で感じていただろうが、今回のこの惨状はショウの手によるものだ。
元々未来のチャンピオンという実力と実績を持った人間がこの凶暴なヒスイの地で直々に育て上げたポケモン達による嵐だ。ポケモントレーナーという言葉がなく、モンスターボールも開発されたばかりのこの時代で、その才能は自然災害を超える暴虐になる。
野生のポケモンが本能で暴れるより、的確な指示を受けて暴れる理性的なポケモンの方が危ないことなんてこの時代の人間ではわからない。ポケモンを利用した悪の組織なんてものも存在しない、ポケモンとの共存をしていない石器時代なのだから。
テル達が廃墟の中から見付けたのはムベとムラで働いていなかった子供達、それにギンガ団本部の地下に避難していた医療班と開発班の一部だけ。それ以外の大人は全員死体で見付かった。
「こ、こんな……。ショウくん、どうして……」
「おお、ラベン博士にテル。シマボシ隊長も。……悲観しとる暇はないぞ。子供達を食わす食料が足りん。倉庫も燃やされて畑もあのザマじゃ。……コトブキムラはもう終わりじゃの。シンジュ団やコンゴウ団に頼るしかなかろうが……」
「それは難しいぞ、ムベ。この惨状はセキ殿とカイ殿の提案を聞いていれば起こらなかった出来事だ。ショウを怒らせてこのザマで、あの二人が支援をしてくれると?」
悲しんでいるラベン博士にムベが無情な現実を突きつけるが、そのムベの提案をシマボシが否定する。
はっきり言ってしまえば、幼い少女の心を理解しなかったデンボクとムラ人のミスでしかない。
それで苦しくなったので助けてくださいなんて都合の良いことを、この厳しいヒスイの地で言えるわけがない。
それでもこの事態を予測していたシマボシとペリーラが外に出た際に食べられそうな物を集めてからムラに帰ってきていた。そのため今日分の食事はなんとかなりそうだった。
そうして最低限の復興をして夜になって。
始まりの浜に一つの流星が落ちた。
それはラベンに見覚えがあり、テルが護衛として付いていく。
始まりの浜にいたのは。
「いてててて!あー、どこだここ?っていうか、いつの間に夜になったんだ?」
両端が羽根のようになった金色の髪。オレンジの瞳の色。そしてどこかせっかちそうな幼い少年。
そしてやはりヒスイ地方に相応しくないオレンジと白の縞模様のTシャツに長ズボン。それを見てラベンとテルはショウのように異世界・違う時代から来た少年だと悟った。
その少年はテルのことを見ると、あー!と声を上げる。
「コウキ!なんだ、お前昔の時代のコスプレでもしてんのか?いやー、知り合いがいて良かったー!」
「あ、俺のこと?俺の名前はテルって言うんだけど……」
「え?人違い?なんだってんだよー。じゃあ自己紹介しないとな。俺はジュン!未来のチャンピオンになる男だ!」
そう自信満々に言った少年の言葉が、二人にはまるでわからなかった。
それでも、彼をこのまま放置するわけにはいかなかったのでコトブキムラの跡地に案内することとした。
結局彼らがその日暮らしをするためにギンガ団本部の地下で寝泊りをすることとなった。屋根を急造で作り上げ、これからの行動方針を決めていく。
ジュンにも今の事態を説明し、それだけで時間は過ぎていく。
ショウが動いているこの時間も、彼らは生き残るために時間を消費していった。
赤い空の異変は、彼らが悩んでいる間にショウが自力で解決しようとしていた。