ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
最後の晩餐、でもないけど。
ローズ委員長と一緒にホテルの高い階のレストランで食事を取る。これでローズ委員長としっかり対面するのは最後かと思うと寂しい気もする。なんだかんだ長い間お世話になった人だから愛着もある。
そんな人とお寿司を食べている。ローズ委員長って結構海産物が好きなんだよね。
セミファイナルが始まる前のこのタイミングが、一番時間の余裕があるタイミングだった。ローズ委員長とオリーヴさんの研究も大詰めになっていて、ガラルでの実験も進んでいる。
その証拠にダイマックスの巣穴じゃなくてもガラルのポケモンがダイマックスをしたという報告がいくつも挙がっている。実際わたしも一匹倒した。
ブラックナイトの前兆のようで、ガラル粒子が活発化している。地震も起きているし、災害の一歩前って感じで、ジムチャレンジも佳境になっているために様々な盛り上がりを見せている。
それがガラルへの不安なのか、ジムチャレンジの有望株がたくさんいることへの期待からか、今年のジムチャレンジは最高潮の盛り上がりを迎えていている。まあ、推薦者がチャンピオンにジムリーダーにリーグ委員長とかいう顔触れ。
その若人達がしっかりと結果を残しているんだから盛り上がりもする。
ジムチャレンジが最後まで行えればいいけどね。
「委員長。臨界点はいつですか?」
「あと三日、といったところですかね。ジムチャレンジのファイナリストが話題になっていますし、マイナーリーグもセイボリーくんとクララくんのおかげで盛り上がっています。そしてファイナルリーグもダンデくんに勝てそうな人が増えてきました。可能性を、ジャイアントキリングを願う大衆の願いとは強いものですよ」
「その最高潮の熱気の渦を利用すれば目覚めそうですね」
刺身に舌鼓を打ちながらブラックナイトについて話し合う。もう計画は最終段階だ。このままならブラックナイトは引き起こせる。
問題点と言えば、ガラルを託すに値する一人を選出できていないことか。三日後ということはセミファイナルも始まる前にブラックナイトは起こってしまう。
過去最高、または十年前の再来と呼ばれている世代のジムチャレンジ、その最後を見届けられないということは残念に思う。
せっかく育てたビート君がダンデさんを倒すことや、ユウリちゃんがどんな結末を迎えるのか楽しみだったのに。
今の順位のままならダンデさんに任せるところだけど。ブラックナイトのタイプがわかったからオールラウンダーなダンデさんよりはクラスエキスパートのクララさんやキバナさんに任せる方が良いのかもしれない。
まさかドラゴン・どくだなんて。珍しいタイプもいたものだ。伝承からドラゴンは確定させていたけど、まさかどくタイプなんて。クララさんを鍛えたことがこんなところで繋がるなんて思いもしなかった。偶然なのに。
クララさんもセミファイナルには呼んでおいた。もしかしたら彼女がブラックナイトを捕まえる、なんてこともありそうだ。
「目覚めたらあなたも側にいてくださいね?なにせ過去も英雄がなんとかしたと残っているだけで、今もそのポケモンが生きているのかも不明です。もしいなかったら、あなたに止めてもらわなければなりません」
「そうですね……。ガラル全土を行ってみましたけど、それらしいポケモンはいませんでした。たまたま出会えなかったのか、わたしに資格がないのか。もう生きていないのか。三千年前のポケモンですからね。いなかったらいなかったで、わたしがどうにかしますよ」
可能性として一番高いのはわたしに会う資格がないから。伝説のポケモンは会うに値する相手を選んでいる節がある。このガラルでわたしは余所者なので会う気がしなかったんだろう。
わたしがどうにかするよりは、このガラルの人々にどうにかして欲しいけど。
伝説のポケモンが相手でも、わたしが本気で戦えば倒せる。グラードンやカイオーガも見たけど、あの程度なら、というかアレより凶暴なポケモンは見たことがないことと、例えダイマックスされても圧倒的な数と質でどうにかできる。
「第一候補はやはりダンデくんですか?」
「純粋なトレーナーとしての実力、ガラルでの知名度。十年に渡る公式戦不敗記録。これ以上の傑物は現状ガラルにはいません。一番の安全牌は、彼でしょう」
「彼以外にも候補はいると?」
「贔屓目で見ればビート君とクララさんが。そしてギャンブルをするならユウリちゃんですね」
二人は純粋にわたしが鍛えたことで期待しているから。そしてユウリちゃんはキバナさんを圧倒していった既視感のある光景を見せてくれたからわたしが期待しているだけ。
でもあのポケモン達は本当に、チャレンジャーとしてはぶっちぎりになっているし、ジムリーダーと比べても強くてダンデさんと比べたら良い勝負しそうだなってくらいの実力が一ヶ月前の時点であるんだから。
今となったらどうなっているか。ワイルドエリアで目撃例があるからもっと強くなっているはず。ああ、楽しみだなぁ。できれば直に戦いたいけど、その前にブラックナイト覚醒が起きて戦う機会がなくなる。
敵対行動をして戦ってみたいという欲もあるけど、それをしたらローズ委員長の悲願もわたしの最大の目標も叶わなくなる。だからブラックナイトは見守るだけにする。
「あなたが二人を推すのは直接育てたからでしょうけど、ユウリくんも?」
「彼女は、下手したらわたし以上の才能ですよ。わたしの最大値はヒスイの頃から変わらないと確信しましたけど、彼女の上限値はわかりません。キバナさんとのジムチャレンジで見せたポケモンのレベルはダンデさんに匹敵していました。もう一年あれば確実に彼女に任せていたんですけど」
「それほどですか。だからユウリくんとホップくんの様子を調査したいと言ったんですか?」
「はい。成長力はわたし以上ですよ」
一ヶ月前の段階でそんな実力だったので、彼女と幼馴染のホップ君のことを調査させた。リーグ委員の皆さんが動いてくれた結果、二人の実力は離れていくばかり。ホップ君もジムリーダーくらいの実力はあるのに、ユウリちゃんがおかしすぎる。
わたしの目で直接見ていないから断言できないけど、本当に一年、いや半年時間があれば確実にユウリちゃんに託していたのに。
わたしがシロナさんを倒した時と同じだったのだろうか。あの時も騒ぎ立てていたなあ。
今年、シンオウ地方で快進撃を続けるトレーナーがいる。今六個目のバッジを取った少女がまことしやかに話題になっている彼女の速度は最速を更新。その少女がガラルでは話題になっていないことが幸いだ。
彼女が色々と終わらせるまでまだ時間がある。三日でどうこうはできないはず。
そんな黒髪の少女のことは置いておいて。
ダンデさんはこの数年で間接的に育てたつもりだったけど、結局レッドさん超えはしなかった。敗北を知らないからこそ成長しないのかもしれない。
この前レッドさんに会いに行ったらまた強くなっていた。あのレベルを求めるのは酷かもしれない。現状本気で戦って唯一負けた相手だもんなあ。彼に勝ったゴールド君はどれだけ強いのか。気になるけどもう会うことはないだろう。
ユウリちゃんはレッドさんくらい強くなってくれるだろうか。それだけが今待ち望んでいること。
ただユウリちゃんとホップ君について気になることもある。
「ローズ委員長。二人が負けたナックルシティにいた旅行者、わかりましたか?」
「ええ。調査が終わりましたよ。戦った少年は戸籍はあったものの生存が確認できていないマサルくんという子でした。カンムリ雪原で暮らしていたようです。本土に来てホテルを利用する際に身分証明を求めたのでわかりました」
「ガラルの人だったんですか。旅行者ではなかったんですね」
いや、本土に来ているのは旅行って言えるのかもしれない。普通の手段じゃ本土には来られない僻地だし。わたしも行くのに苦労した。
同い年くらいなのにジムチャレンジに参加しなかったのは興味がなかったのか、推薦者がいなかったのか。そのどっちかだろう。あっちに推薦を出せるほどの有数の実力者とかいないからこっそり推薦をもらうということはできない。
あっちの子がジムチャレンジを受けるなら事前に本土に来ないといけない。となると今年は受ける気がなかったんだろう。
ガラルの伝説のポケモンを従えていた少年は気になるけど、彼は邪魔してくるだろうか。
そして気になるのはその少年の同行者。
「一緒にいた女の子は?」
「その子は一般的な戸籍を持っている普通の子でしたよ。ずっと二人で本土を旅行しているようです。恋人なのか友達なのかわかりませんが」
「その子はポケモンを持っているんですか?」
「バトルの様子を確認できていませんね。バトルは全部マサル少年の方がしているようですね」
資料を見ながら答えてくれる委員長。
女の子の情報は少ない。ずっとポケモンのお面を被っていて素顔もわからない少女はプラチナという名前のようだ。戸籍なんて顔写真がついていないから顔も素性もまるでわからない。
ただマサル君が師匠と読んでいるらしいからポケモンと無関係とは思えない金髪の少女。マサル君の実力が高いから彼女も強いのかもしれない。ただの観光者ならいいけど、どうだろうか。
彼らの目的はジムチャレンジを見守ることだったのか、セミファイナルに四人が進んだ段階でヨロイ島にも行ったりしていてセミファイナルまでに戻ってくるかどうかまでは知らない。
邪魔をしてこなければいいんだけど、何故か嫌な予感がする。
特に顔を隠そうとしている理由。戸籍に顔写真なんてついていないんだから確認するのは無理なんだけど、外では頑なに顔を見せないのは気になる。まさか容姿に自信がなくてマサル君の隣に立つには相応しくないなんて考えてるわけじゃないだろう。
マサル君のような伝説のポケモンに選ばれた人間がポッと出なはずがない。伝説のポケモンを手持ちに加えることができるのは選ばれた人間だけだ。世界に一匹しかいないポケモンというのは、出会うことも捕まえることにも資格がいる。
たとえどれだけポケモンバトルが強くても、育成能力があっても。その資格がなければ捕獲できない。
正直に言ってダンデさん一人に任せるのはリスクが高すぎる。その資格がなければモンスターボールを投げたとしても弾かれてしまうだろう。だからビート君やクララさんのような候補者を増やした。
確実に、ブラックナイトを手中に収められる人物を見出すために。
そんな迂遠な手段を講じてきたわたしとローズ委員長の前に現れた伝説のポケモンを二匹以上持っているかもしれない少年と、素性不明の少女。警戒しない理由がない。
ユウリちゃんとホップ君が今回のその枠なのかもしれないと思っていたけど、もしかしたらマサル君とプラチナこそがブラックナイトを捕まえる資格持ちなのかもしれない。
とんだイレギュラーが現れたものだと悲嘆すべきか、ブラックナイトを起こす前にガラル本土に来てくれたことを祝福すべきか。判断に迷うものだ。
「ローズ委員長。ブラックナイトを叩き起こせば三千年前の再来になるかもしれません。ホウエン地方のような大災害に見舞われる可能性もあります。それでもかのポケモンを解放しますか?」
「はい。私の道は変わりません。ガラルのエネルギー問題を解決するにはこの方法しかないのですから。悪人と罵られようと──私がこのガラルを救います」
「わかりました。ではわたしもあなたを利用します。わたし達の悲願を、叶えましょう」
最後の晩餐だからと、ローズ委員長はワイングラスを煽る。わたしは未成年だから飲まなかった。
ガラル中が熱狂するセミファイナルの当日。
激震がガラルを襲った。