ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
セミファイナルの前日。ローズタワーの最上階にダンデが呼び出されていた。再三頼まれているガラル救済のための手段についてだ。チャンピオンはその地方での発言力が飛び抜けている。そのため彼の了承の言葉は何より大事だった。
ローズが今一度ダンデに説明していると、ダンデはローズの計画に頷くことはなかった。
「何故ジムチャレンジの期間に被せてまでその計画を実行しなければならないのですか?千年後を考える委員長の意思はわかります。ですが、最もガラルが盛り上がるジムチャレンジ中にそれを為す理由もないのでは?」
「ガラルが限界を迎えているからですよ。今の人間文化の成長速度を鑑みれば千年と言わず百年で終わりを迎えるでしょう。それを解決するには、ブラックナイトしかないのです」
「そのためにジムチャレンジを中断するのでしょう?この熱気に水を差す真似をチャンピオンとして苦言を呈させていただきます」
ローズが詳しいことを話さないからということもあるが、ダンデはチャンピオンとして民衆やジムチャレンジに夢を見ている子供達のためにもセミファイナルとファイナルリーグを全うする責任があった。
それだけチャンピオンマントとは、重くて肩が凝るものなのだ。
交渉が決裂したことを見ると、ダンデに近付く人物がいた。ダンデが認めたライバルの一人、でんきジムのジムリーダーながら本気のパーティーではタイプ統一ではなくバランスの取れたパーティーを組む絶世の美少女。
ショウがそこにいた。
「ショウ。君はローズ委員長の考えに賛同するのか?」
「はい。わたしの悲願でもありますから。それにガラルが救われるというのなら、とても素敵なことではありませんか?」
「……そうか。君はローズ委員長の孤児院に居たんだったな。ショウ、それは願いではない。盲信だ。自分で考えることが大事だと、君の年齢なら。ジムリーダーならわかるだろう?」
ダンデはショウのことをただのローズ委員長の駒だと思ったのか、そう諭してくる。大人として子供を導くように、違う道もあるのだと伝えようとしていた。
だが、それは見当違い甚だしい。ショウからしてみればガラルの救済こそついで。一番可能性が高いからそれに縋っているだけで、他に方法があればガラルだって簡単に切り捨てられる精神性を獲得している。
ダンデの返しが気に入らなかったのか、ショウはモンスターボールに手を掛ける。
「ダンデさん。それは大人としての言葉ですか?それともガラルのチャンピオンとして、一ジムリーダーに対する言葉ですか?まあ、どちらにしてもカチンと来たので勝負を挑むんですけどね」
「戦うのか?今?」
「ええ。あなたにブラックナイトを任せられるのか。あなたがダメだったらユウリちゃんに任せましょう。大人として、チャンピオンとして。子供でチャレンジャーのユウリちゃんに負担を掛けないように意地を見せてくださいね?」
ダンデはユウリの名前が出て来たことに疑問を持ちながらも、ポケモントレーナーとしての鉄則である目と目が合ったらポケモンバトルということは守るらしい。
このローズタワーの頂上はダイマックスができるほどに整った階層だ。本気のバトルをするには適している。
それにこのバトルを見ているのはローズとオリーヴだけだ。勝敗の結果も試合の内容も他の誰かに漏れることはない。
「わたし、この世界で最強のトレーナーってレッドさんだと思っているんです。伝説のポケモンに頼らないパーティー構成、そのレベルの高さ、強さを求めるストイックな姿勢。魔境と呼ばれるカントー・ジョウトリーグの元チャンピオンは伊達じゃないってことですね」
「何が言いたい?ショウ」
「わたしはレッドさんに負けました。あなたは本気のわたしに勝てますか?」
ショウがそう言って投げたのは普段使っている市販のモンスターボールではなく、白い部分がボングリ色をした古めかしいボール。ショウが持っていることも、他人に配っていることも、とても高価で希少な物だということもダンデは知っていた。
そのモンスターボールから出てくるポケモンは進化をしているとどのポケモンも誰も知らないリージョンフォームになっている。見た目はもちろん、タイプも異なるので対処する時に困ったりする。知識があるからこそ困惑して隙が産まれてしまうこともある。
そんなアドバンテージを稼げる物だが、彼女自身が使う場面を見たことがない物だった。彼女は市販のモンスターボールしか使っていない。
彼女はこの世界に来てからクイックボールも使うことなく、本当にモンスターボールしか使っていなかった。その異常性も含めて彼女は大衆から神聖視されている。
ショウはダンデがボールを持つ前にその古びたモンスターボールを投げた。
そこから出て来たのはダンデも見たことがあるポケモンだった。ほのお・ゴーストタイプの二本足立ちをした紫の炎を周囲に漂わせている、バクフーン。
何度か戦ったことがあったのでタイプも把握できていた。
「その子は、オニオンにあげた……」
「ええ。そしてわたしのエースです。さあ、あなたはこのバクフーンを超えられますか?」
「いけ、ドサイドン!」
ダンデはタイプ相性からドサイドンを繰り出す。ショウのバクフーンがオニオンのバクフーンよりも強いことが一瞬で読み取れたために無難に相性有利なポケモンを出したのだが、ポケモンバトルはそれだけではどうにもならないとチャンピオンであるダンデは一瞬でわからされた。
彼が十年も無敗記録を続けてしまったために、特別なルール下でなければ負けなかったこともあって彼は初心に帰ることになる。
誰もが最初は、圧倒的な強者に叩き潰される壁というものがあることを思い出した。
ドサイドンへ指示を出す前に、バクフーンはショウの指示もなく動き出していた。尻尾を光らせてそれをジャンプした上段からドサイドンの頭へ叩き落としていた。
ドサイドンの重心がフロアの床に突き刺さるくらいの打撃を受けて膝を着こうとしたところにバクフーンの右拳がドサイドンの腹へ決まっていた。地面にめり込んだのは一瞬でその巨体はダンデの横まで吹っ飛んでいた。
もうドサイドンは目を回していた。初撃がアイアンテールだということはわかった。それが使えるのかとダンデは驚くも、その後の攻撃はどのタイプの技なのかわからなかった。ドサイドンに放った拳なのでかくとうタイプだろうとわかってもそれ以上はわからない。
ちゃんといわタイプへのケアを考えられていることにショウのトレーナーとしての強さを再確認してダンデは生唾を飲み込んだ。
ダンデのポケモンは強くなってきたライバルのキバナやジムリーダーとして生粋の実力者であるネズ、若手のホープであるオニオンやサイトウが自分を脅かすくらいに強くなってきたのでダンデも一層鍛えたつもりだった。
ドサイドンはいわ・じめんタイプのジムリーダーのポケモンと比べても強いと自信を持って言えるくらいに鍛えたつもりだった。そのドサイドンがほぼ一瞬でやられるとは思わず、受けた衝撃は大きかった。
ドサイドンをボールに戻して、次のポケモンを繰り出す。
「GO!オノノクス!」
タイプ相性を気にしつつ、ポケモンそのものの強さを活かしての選出。
ドラゴンポケモンとはその存在そのものが強者だ。ドラパルトもいるのだが、お互いゴーストタイプの技がタイプ一致で効果が抜群になってしまうのでドラゴン単タイプのオノノクスを繰り出していた。
そのオノノクスはダンデの思いを汲んだのか素早くバクフーンへ肉薄する。一撃で落とすために至近距離で大技を放とうとしていた。
技を放つタイミングを計っていたダンデよりも先に、ショウが口を開く。
「ふんか」
バクフーンは活火山が大爆発を起こしたかのように全てを燃やし尽くした。
ほのおタイプの攻撃はドラゴンタイプのオノノクスにいまひとつのはずだが、その大火力にオノノクスの足が止まり、バクフーンの前に辿り着く前に倒れ込む。
タイプ相性の良いポケモンを出していったのにこのザマで、ダンデはあのバクフーンの攻略法が全く思い付かなかった。
同じことをショウも思ったのか、溜め息を一つついてまぎれもない事実を告げた。
「もう勝てるポケモンがいませんよね?エースのリザードンがわたしのバクフーンを超える火力を出せるとは思いませんし。ダイマックスしたところでバクフーンを倒せるかどうか……。いえ、もう一度ふんかで撃退できますね。他のポケモンはギルガルド、ドラパルト、ゴリランダー。相性不利なポケモンばかりです。もう終わりにしましょう。ユウリちゃんに任せることにします。チャンピオン防衛線頑張ってくださいね」
一方的にそう言ってショウはボールにバクフーンを戻す。
先ほどのふんかはリザードンのキョダイゴクエンを超えていた。相棒のリザードンの火力だからこそダンデは正確に計れていた。ショウの言葉が全くの見当違いだったらどれだけ良かったことか。
オノノクスをボールに戻して、ダンデは最大の疑問を問う。
「なぜユウリなんだ?確かに彼女はチャレンジャーの中でも強いが、俺の弟のホップやネズさんの妹のマリィ、それに君の弟子のビート君もいる。ユウリは俺が推薦状をあげただけの一般人だぞ?」
「自分の名前がそんなに軽くないとわかった上での発言ですか?あなたが弟以外に推薦状を渡した唯一のトレーナーが弱いと?ただ弟の当て馬にしようと思ってあげたんですか?」
「いや、だが……。彼女は本当にブラックナイトを御せるのか?」
「さあ?でも可能性があるのはユウリちゃんともう二人くらいですよ。その二人はイレギュラーに過ぎるので実質ユウリちゃんだけです」
ショウの決定にローズは何も言わなかった。ポケモンバトルにおける見識眼においてはショウのことをいたく信頼している。そのショウがダンデはダメだと言ったのだからユウリに決定だ。
ユウリのことを信頼しようとする一方で、今のバトルで思ったことを素直に吐き出すダンデ。
「ショウ。君じゃダメなのか?チャンピオンの俺にも勝てるくらいの君なら、君がブラックナイトを鎮めることこそが的確だと思うんだが」
「わたしじゃダメですよ。そもそもブラックナイトはダイマックスと密接な関係にあるんですよ。ダイマックスが使えないわたしが捕まえてもガラルのために力を使えないじゃないですか」
「……そうだったな」
ショウのそんな表向きの理由で引き下がるダンデ。ショウが一度もダイマックスを使わないのでそういうものなのだろうと思ってしまっている。
帰るダンデに計画のことを他言しないようにローズが釘を刺して、残ったローズとショウ、オリーヴで計画の大詰めを話し合う。
「それではユウリちゃんに決定です。可能性というものに賭けましょう」
「あなたがそう言うのならそれで良いですよ。実行日は明日、セミファイナルに合わせます。国民の注目はシュートスタジアムに向きますし、ちょうど良いですね。オリーヴは私と一緒にナックルシティで待機です。ショウくんはジムリーダーとしてシュートスタジアムに居てください」
「はい、ローズ様」
「了解です。各地で起こるポケモンの暴走はわたしがポケモンを送り込んで止めますね。その後ナックルスタジアムに向かいます。ユウリちゃんの誘導もこっちでしておきますよ」
次の日、ショウもダンデも何事もなかったかのようにセミファイナルを観戦するためにシュートスタジアムに集まり。
最初の一回戦、ホップとビートの戦いが始まろうとした時にガラル全土を揺らす大地震が発生した。
大地震に連動するように空が赤く染まっていく。ガラル粒子によって変色するその空を見て、伝説のポケモンが引き起こすその現象に既視感を覚えたショウはボソリと呟く。
「ローズ委員長は人為的にこれを引き起こしているけど……。やってるのはブラックナイトだもんね。そもそもわたしが怪しいなら二十四時間監視しておけば良かったのに。そういうところが甘いんだよ、デンボク。人を糾弾するなら確かな証拠を集めないと意味がないのに。法整備もされていなくて、組織の権力者が絶対の発言力を持つからこその独断だったんだろうなあ」
もう何年も前の出来事を思い起こして、また憎悪が募るもののやるべきことがあると選手控え室へ足を動かした。
その間にエスパーポケモンへテレパスを送る。各地に飛び散ってもらって暴れているポケモンをどうにかしてもらおうとしていた。
ヒスイのポケモンとこの世界に来てから捕まえたポケモンの総数は二百を優に超えている。しかもこの事態を想定してある程度は鍛えておいた。これでローズが心配する一次被害もある程度抑えられるだろう。