ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜   作:ポポタン

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名前

 空から流星のように落ちて来た赤と青の光。そこには誰も姿を知らない、名前だけが残った過去の英雄たる獣タイプのポケモンが。

 ザマゼンタとザシアン。剣と盾の英雄と呼ばれる三千年前の英雄。そんな英雄の背に乗ってホップ君がやってくる。

 その二匹に認められるということは、ホップ君こそが選ばれた少年だったのかもしれない。いや、あの二匹とブラックナイトの担当者は別かも。

 

 レッドさんやゴールドさんみたいに複数の伝説ポケモンを所持する人もいれば、ルビー君やサファイヤさんみたいに一匹ずつということもある。どんな法則になっているんだかわからないけど、それなりのパターンがあるから確信が持てないんですよね。

 ホップ君はなあ。ユウリちゃんはもちろん、現状じゃビート君にも劣る実力しかない。そんな彼があの二匹に加えてブラックナイトにも選ばれるんだろうか。

 現れた二匹はホップ君を降ろした後、ブラックナイトとわたしを睨みつけて唸り声を上げる。へえ、わたしも目標に入れられてるんだ。

 

「な、なんだ?何がどうなって……?」

 

「いらっしゃい、ホップ君。あなたもブラックナイトを止めてくれると嬉しいかな?でも、その二匹はダメ。殺意が高すぎる。ブラックナイトとの共存を考えていない英雄様はこの先には加えられないかな?」

 

 困惑しているホップ君を置いてきぼりにしてわたしはリザードンとカビゴンを呼び出す。抑えるだけならこの二匹で十分。

 

「さあ、ブラックナイトが暴れるまで。時間稼ぎをさせていただきますよ」

 

「ショウさん!どういうことだよ⁉︎あのポケモンがこの事態を引き起こしているのか⁉︎だったら止めないとっ……」

 

「ああ、ごめんなさい。あれ、わたしとローズ委員長が引き起こしたので。止める気はないんですよ」

 

「……なんで?」

 

「ガラルを救うためと、わたしの目的のためです」

 

 理解できていなかったホップ君は更に困惑しているっぽい。そのホップ君はわたしの元へ走り寄り胸倉を掴んできた。リザードンもカビゴンもそんなホップ君を止めることはしなかった。二匹ともホップ君がわたしを害さないとわかっていたのか伝説のポケモンを警戒したまま。

 こんな直接的な行動に出てくるとは思わなかったので、わたしはちょっと面食らった。

 

「今ガラルがどうなってるのか知ってるのか⁉︎知ってて、そんな平然とした顔してるなんておかしいぞ⁉︎」

 

「ええ。おかしくなければここまで大きなことをしでかしていませんよ。それにガラルのことも把握しています。痛みがなければ、革命なんて成功しませんよ」

 

「痛み?革命?今泣いてる人がいてそんなこと言えるのかよ⁉︎ガラルを救うためにガラルを苦しめて、矛盾してるじゃないか!」

 

「注射だって刺した瞬間は痛いでしょう?それと同じです。ちょっとの痛みに耐えれば健康な(からだ)になる。その処置があのポケモンです」

 

 ホップ君にはまだ難しいかもと思って、注射を例に出すけど、手に籠る力は変わらない。真摯だからこそそれを諭さないといけない。

 

「ポケモントレーナーが暴力に走っちゃダメです。やるならポケモンバトルじゃないと」

 

「……ポケモンバトルに勝ったら、あのポケモンを止めてくれるのかよ?」

 

「いいえ?それはわたしの役目ではありません。わたしに勝つより、直接あのポケモンを捕まえることをオススメします。わたしを倒したからってあのポケモンは止まりませんから」

 

「……ショウさんを倒さなくてもいいって?」

 

「ええ。だってあの二人はわたしを倒さずに今戦っていますから。どうぞ?あの二人を手伝ってください」

 

 両手でホップ君の手を掴んで外す。

 わたしが悪だというのは認めるところだ。ローズ委員長も利用しているわたしはどこからどう見ても悪と呼ばれる人種だ。ガラルを救っても結局はそのガラルを捨てて、ブラックナイトの力で自分の世界に戻ろうとしている。

 後のことなんて全て放り出して、自分の願望だけを叶えようとしている。自分本位の屑と自覚している。今だって子供達に期待という名の重責を背負わせている。

 

 本当、酷い人間になったものだ。

 家族に絶望して、チャンピオンの栄光を陥れて。世界を壊そうとしたら記憶を奪われた上で過去に拉致られて。過去でやれる限りのことをやったら住み家から追い出される上に人殺しをして。ジュンに辛い思いをさせて。

 過去から戻ってきたら自分のいた世界じゃなくて。だから自分の世界のために世界を荒らして伝説のポケモンを乱獲して検証して。最後の希望のためにガラルも子供達も巻き込んでの大騒動。

 

 まあ、世界を変革させようとした時点で悪決定だけど。

 ホップ君はまずこの事態を収めることが優先だと思ったのか、ブラックナイトの方へ走っていく。ユウリちゃんとビート君も頑張っているけど、ブラックナイトはまだまだ元気だ。ブラックナイトは戦いながらもガラル粒子を国内に撒き散らしている。

 やっぱり存在するだけでガラル粒子を放出してる。やっぱり規格外なポケモンだ。

 そんなことを思って前を向き直す。伝説のポケモン達はリザードンとカビゴンに苦戦しているようで全然邪魔をされることはなかった。

 

「あら?伝説のポケモンなのに突破できませんか?三千年の眠りで鈍りましたか?現代で育てたポケモン達に負ける英雄なんて見たくなかったです」

 

 そう煽っても、英雄さん達は靡いてくれない。必死に抵抗しているけどタイプ相性と地力の差からか二匹を突破できない。確かに強いんだろうけど、彼らはダイマックスできないポケモンみたいだ。

 そうなると純粋に地力でポケモンを突破しないといけない。種族としてはかなりの強者であるのはわかるけど、極まってる訳ではない。だからリザードン達で止められてしまう。リザードン達もポケモンの上限にほぼ達している。

 ただ単に個体として強いポケモンと、鍛え上げたポケモン。どっちが強いのかという勝負の結果をわたしは知っている。なにせ色々な地方でその結果を見てきたのだから、この結果は見えていた。

 

 たとえどんな伝説のポケモンだろうと、たった一匹で孤高に生きていたら強くなるはずもなく。この二匹はずっと一緒だったとしても、人間を知らなすぎる。

 人間への不理解が進んだ結果、伝説のポケモン(お前達)は負けるんだ。たった一人の人間が強大な力を持つ自分に勝てるはずがないと慢心して小さなボールに収まることになる。

 この二匹は人間と協力したんだったかな。今もホップ君と一緒になって現れた。

 

 けど、じゃあ何で最初からホップ君に同行しなかった?出身地に近い場所に住んでいたのに、最初から同行すればブラックナイトが目覚めた瞬間に間に合うこともできただろう。

 彼らはガラル粒子を感知できなかったんだろうか。空が紅くならなければブラックナイトのことも知覚できなかったんだろうか。そう考えると本当に眠っていただけなのかもしれない。

 まあ、三千年前と同じ個体なのかもわからないけど。伝説のポケモンだからってそこまで長生きとも思えないし。

 そんな風にザマゼンタとザシアンについて考察を続けていく内にカビゴンが「じしん」を決めて二匹を倒していた。

 

「そこが限界値でしょう。あなた達は三千年前のように人間と協力するべきだった。その時の相手だけをパートナーだと思いましたか?ホップ君は資格があるだけで実力が足りないとでも思いましたか?──わたしが意図的にあなた達とホップ君を離したことに気付いてないんですね」

 

 ホップ君はとても素直な子だ。だからちょっと煽ったらブラックナイトの方に誘導できるだろうと思っていたら案の定。

 そしてホップ君と話しながらもわたしは二匹に合図を出していた。リザードンとカビゴンはその通りに動いて伝説のポケモンを下しただけ。

 

「わたしってある程度ポケモンの言いたいことがわかるんですよ。最悪なことに、ある存在と会ってからよりハッキリと聞こえるようになった。これは呪いです。言葉がなければポケモンと繋がれないとアイツは思ったのかもしれませんけど。わたし達の対話に言葉は要らない。ただ手を取って、身体を寄り添わせて。それだけでいいのに余計なことをされていい迷惑です。……そんな最悪な力を使って、問い質してあげる。何でブラックナイトを殺そうとしているの?」

 

 地面に伏している二匹に近付いてそう尋ねる。傷が深いのか立ち上がることなくそのままわたしを睨んでくる。威勢だけは良いけど、体力がなくて剣も咥えられない相手を警戒するのも馬鹿らしい。

 わたしの質問の意味がわからなかったのか、二匹は低い声で唸り声を上げる。止めるのは当たり前だと。アレがいるから三千年前に現れたからガラルは危機に陥ったのだと。今もこうして災厄が起きているのだから止めなければまずいのだと。

 そんな正義感を聞いて、実際三千年前はそのおかげでガラルが助かったというのなら彼らの言い分もわかる。けど今は人間も増えたし、そもそもその時代と比べてポケモントレーナーがすっごく増えてる。対処法も増えてるし、科学だって発展している。

 もう少し人間を信用してほしいものだけど。今回はブラックナイトを引き起こしたのが人間で人工的に覚醒させたから警戒が解けないんだろう。

 わたし達が起こさなくても、ちょっとしたきっかけでブラックナイトは起きたと思うけどね。

 

「どの伝説のポケモンもトレーナーと共に歩むことでその超常の力を抑えてきました。普通のポケモンとして生活してポケモンバトルもこなしています。わたし達としてはブラックナイトにもそんな生活をしてほしいと願っています。そのついでに、ちょっとガラルのためにガラル粒子を供給してもらいたいという願望もありますが」

 

 嘘偽りなく話すことがポイントだ。別にガラルを滅ぼそうと思ってブラックナイトを目覚めさせようとは思ってないんだから、これで納得してほしいところだけど。

 まあ、納得しなくてもここで倒れていてもらうけど。そのためにエーフィーをボールから出す。

 

「エーフィー、『かなしばり』と『サイコキネシス』で二匹を拘束していてね。誰かがブラックナイトを捕まえるまでその二匹はここにいてもらうから。ブラックナイトを殺されたら全部が台無しになっちゃう」

 

 エーフィーに念動力で動きを止めてもらって、ブラックナイトを仰ぎ見る。

 突如としてブラックナイトは空へ駆ける。そこでガラル粒子を吸収したのか姿が変わり巨大になって降り注ぐ。

 へえ、ブラックナイトもダイマックスできるんですね。アレは三人にどうにかできるかな?

 わたしはローズ委員長に近付いて状況を確認する。

 

「どうですか?」

 

「むしろガラル粒子の総量は増えましたよ。まだ埋まっている願い星が隆起したのか、ほらブラックナイトに集まって行きますよ」

 

 ガラル中から星が飛び立ち、ブラックナイトに吸収されていく。というより、これわたし達が持っているダイマックスバンドの願い星も持って行かれてる。わたしとローズ委員長が持っていた物も天へ登る。

 まるでガラル中がブラックナイトを祝福しているようで、とても綺麗な流星群だった。

 

「ああ、あなたの名前。ムゲンダイナっていうのね」

 

 現象ではなく真の名前を訴えかける救世主たる龍は。

 ただただ自分の声を泣き叫ぶように咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その宣言とはまるで違う鈴の音が、やけにその場に響く。

 

「ふふ。素晴らしい力だね。これだけの力があれば世界を渡ることもできそう。パルキアの力が増幅されれば、オリジンたるパルキアなら簡単だね。いやあ、一回目の世界でここまでの成果を上げるなんて、さすがだよ。『ショウ』」

 

 その声にショウとローズは振り返る。

 誰かがここに来ようと、ムゲンダイナの姿を見れば不思議なことではない。それこそ自分に自信があるポケモントレーナーなら足を踏み入れてもおかしなことはない。

 問題はその声の持ち主。顔が似ている人間が世界には三人いるとは言われているが、ならば声が似ている人もいくらかいるだろう。

 

 それでも。

 その声の波長が、高さが、口調が。

 全て同じ人間がいれば驚愕を隠せないこともおかしくはない。

 二人が振り返った先には二人の少年少女。

 片方は写真で顔を知っていたマサルという少年。ユウリ達と同い年の彼はただムゲンダイナを見つめているだけ。

 問題はもう一人。

 イーブイのお面を被っている少女だ。

 

「プラチナ……?」

 

「ああ、わたしのことも調べてたんだ?さすがだね。この街でユウリちゃんをマサルくんが倒しちゃったもんね。それにガラルの伝説のポケモンを使ってもらったからメッセージとしては完璧だったでしょう?役者としてマサルくんが必要だと思ったから連れて来たの。これでガラルに何も心残りはないでしょう?もしあったとしてもわたしがやってあげるよ。ジムリーダー、変わってあげようか?」

 

 自分と同じ声で話す、顔を隠した少女。背丈も同じで、こっちのことを全て把握されていて。

 まるで心が覗かれたかのような感覚があるのに、むしろそのことに嫌悪感を抱いていない。それが不思議で仕方がなかった。

 

「ごめんね、マサルくん。この時のためにあなたを鍛えたの。悪いんだけど、ガラルを救う英雄になってくれる?」

 

「ポケモンを捕まえただけで英雄になれるんですか?」

 

「うん。あなたは二人の女の子を守って、ガラルの今も未来も守った英雄になるの。……ユウリちゃんはどこの世界でも確率は半々になっちゃうから、安定しているあなたに任せたいの」

 

「よくわからないですけど、ポケモンを捕まえるのは得意です。行ってきますね」

 

 マサルは駆け出して、今ムゲンダイナと戦っている三人の少年少女に合流する。

 ショウの横を通り過ぎる時に横顔を確認していたが、ショウはそれどころじゃなかった。諸々の発言と、今も動こうとしないプラチナから目を離せなかったからだ。

 ショウは、核心に至る言葉を投げかける。

 

「……あなたは、誰?」

 

「パルキアの力を借りる者。ジラーチに願いを叶えてもらって、そんな友達を置いてきて世界を渡り続けてる大バカ者だよ」

 

「……オリジンパルキア。そんな言葉を知ってる現代人はいない。いるわけがない。それはヒスイと現代でパルキアの姿が違うことを知っていないと出てこない単語なんだから……。世界どころか、時空だって超えてる」

 

「さあて、そんなわたしは誰でしょう?」

 

「髪は染めたままなんだね。……『ヒカリ』、であってるのかな?」

 

 ショウはそうであって欲しくはないと願ったが。

 仮面を外した少女は十一歳の『ヒカリ』そのものだった。

 

「さあ、もうどっちがどっちなんだろうね?ヒスイに取り残されたわたしと、この世界に飛ばされたあなた。……どっちにしろ、シンオウサマとかいう奴のクソッタレな所業に巻き込まれた被害者っていうのは間違いじゃないと思う」

 

 そこには幾多もの世界。いくつもの時空を超えて。

 諦めた目をした少女が、孤独を胸に抱えていた。

 

 

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