ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
ギンガ団幹部 アースが
勝負を 仕掛けてきた!
アースは バクフーンを繰り出した。
「バクフーンの原種……」
ショウは『ヒカリ』の出したポケモンに思うところはある。ショウの知っているバクフーンはヒスイのバクフーンだ。原種のバクフーンも見たことはあるが戦うのは初めて。
そして彼女がわざわざ原種を手持ちに加えている理由を察してしまい、ショウは唇を強く噛んだ。
ショウはそのバクフーンに対してバクフーンを繰り出した。こちらはヒスイからずっと一緒のバクフーン。ヒスイの頃からかなり鍛え上げてきたがとうとうこの六年でヒスイのエースポケモン達は
だが『ヒカリ』のポケモンはそうでもない。レッドを超えていても『ヒカリ』は超えていなかった。
『ヒカリ』はヒスイバクフーンを懐かしそうに眺めながら、それでも動きは同時だった。
「「『ふんか』!」」
言葉通り二つの火山が大爆発を起こしたかのような熱量がそこに出現する。その爆発と熱風に近くにいた人間は全員顔を守るように腕を使っていた。
そんな中戦っている二人はハンドサインを自分の手持ちに伝える。「ふんか」は高火力殲滅技であるのと同時に、その派手さから目くらましの効果もある。
ここで動くのは当たり前。それは存在が同じ二人だからこその思考。
ショウのバクフーンは「シャドーボール」を、『ヒカリ』のバクフーンは「アイアンテール」を繰り出す。硬くなった尻尾は見事に怨念のような球体を斬り払い、接近する。
「『ドレインパンチ』!」
「『じならし』!」
ショウのバクフーンが殴ろうとする前に『ヒカリ』のバクフーンが地面に足を叩きつける。それによって起きた「じしん」ほどではないにしろじめんタイプの技にバクフーンはばつぐんダメージを受けつつ、殴り飛ばして技を強制キャンセルさせダメージを減らしていた。
殴り飛ばしてすぐ電気を身に纏い、ぶつかって轢く。「ワイルドボルト」だ。極限に極まったバクフーンの攻撃はタイプ一致していなくても耐えられなかったようで『ヒカリ』のバクフーンはモンスターボールの中に戻っていく。
「うん。強いね。じゃあ、ムクホーク」
現れたのはムクホーク。ムクホークもモンスターボールから出てきた。
だが、その選出の意味が周りの人間にはわからなかった。今弱点となりえる「ワイルドボルト」を見せられたところだ。バクフーンのゴーストタイプの技を透かせることができるとはいえ、でんき技を持つポケモンに出すのはどうなのか。
そしてポケモンについて知識がある人間はムクホークというポケモンの特徴を考えてもゴースト複合のバクフーンに出す理由がわからなかった。
ムクホークはかくとうタイプ最強の技である「インファイト」を覚えるポケモンだ。ノーマル・ひこうタイプにしては珍しく、だがその使いやすさからムクホークをかくとう係にしているトレーナーも多い。
ショウだけは、その選出の意味がわかった。『ヒカリ』の手の内が、手に取るようにわかってしまった。
バクフーンはヒスイの相棒。
ムクホークはジュンが初期から連れていたムックルが進化したポケモン。
自傷ダメージもあるためにあえて「ワイルドボルト」を使わせず、ほのおタイプの技で倒した。
ムクホークが倒したことに『ヒカリ』は拍手をして、次のボールを用意する。それもモンスターボール。
「行って、「クロバット」」
出すポケモンがわかってショウは『ヒカリ』の言葉に重ねた。現れたクロバットはなつき進化しかしない珍しいポケモンだ。
そして、ギンガ団のボスであるアカギの愛用していたポケモン。
「……嫌だよ……!」
「ごめんね。この手持ちはわたしの感傷だけで構成されているの。この子達はあの子達とは違う。
ショウの言葉に謝るものの、『ヒカリ』はバトルを続ける。
極限近くまで育て上げたポケモン。だが、極限を超えたバクフーンという最強の個には敵わない。たった一匹のポケモンに蹂躙される。
クロバットもひんしになって、次に出てきたポケモンは。
「お願い。ハピナス」
「……っ!」
ショウがヒカリの名前の時に初めて手持ちだったポケモン。ピンプクの最終進化。
ハピナスもなつき進化をする珍しいポケモンだ。
ヒスイにもオヤブンポケモンとしていた。だがそのハピナスやラッキー、ピンプクは全員ビートのいた孤児院に送った。記憶が蘇って扱いに困ってしまい、ショウは手元から離れさせた。
この世界でもヒカリという少女はピンプクを受け取ったのか。そのピンプクをハピナスまで進化させてしまったのか。それを調べる前にショウは逃げ出してしまった。
ショウはこうやって自分の半生を見せられて、後悔だらけだと突きつけられた。
(あの子、どうしてるかな……)
ポケモンバトルの最中だというのにそんなことを思ってしまった。
元の世界で父親と仲良くしているのか。この世界では家族仲良く暮らしているのか。そんなことが頭にこびりついてしまう。
だというのに指示だけは完璧で、耐久力のあるハピナスもバクフーンが倒していた。
頭で考える前に蹂躙してしまう。ショウと『ヒカリ』がポケモンバトルもあまり楽しめなかった理由だ。ジュンとアカギ以外に楽しめたことはなかった。
今回は、『ヒカリ』が戦う気がなさすぎてショウの蹂躙が巻き起こっているだけ。
ポケモンのレベル差がありすぎる。たとえ『ヒカリ』が人では考えられないほどの時間を積み重ねて戦術を学んでいたとしても、やる気がなければポケモンの地力の勝負になってしまう。
『ヒカリ』は確かに時間を費やしてきた。だがそれは帰還の方法を探るためであり、チャンピオンになるためではない。最強のトレーナーになりたくて修行しているレッドとは違うのだ。
ポケモンを捕獲して、育てて。そこまでは他のトレーナーと同じだ。だが、伝説のポケモンを倒せるようになるまで育てたらそれ以上育てることはなかった。後は研究や実験の日々。
そしてポケモンにも寿命はある。おかしいのは『ヒカリ』だけでいつまでも生きていられるポケモンはたったの二匹しかいなかった。寿命で亡くなるたびにポケモンを補充して育てて。その繰り返し。
ショウのように極限まで育てるということを最初はしたものの、ヒスイのポケモンが二匹を除いて全員亡くなった時点でやめた。あとは妥協した育成とポケモンバトルしかしていない。
そんな『ヒカリ』が全盛期のショウに勝てる理由がなかった。
『ヒカリ』が今回育成に力を入れ始めたのはショウを見付けてからだ。それでもマサルの育成を優先したために自分のことは後回し。
その上で自分の趣味を優先したガチのパーティーじゃないために、勝機があるはずがなかった。
「エンペルト、力強く『ハイドロポンプ』」
力業を使われた一撃にバクフーンはとうとう倒れる。次のポケモンとしてショウはガラルサンダーを出した。
エンペルトはヒカリの頃に旅立ちの一匹になったポッチャマの最終進化ポケモン。
一方ショウが出したのはガラルの伝説のポケモンだ。ムゲンダイナに抵抗するために確保したポケモンの一匹。
「とびひざげり』が決まり、エンペルトが倒れる。六対六の勝負なので次が『ヒカリ』の最後の手持ちだ。
それは予想通り、ロトム。
ロトムの「かみなり」でガラルサンダーはひんしに。
ショウはこれ以上ポケモンを出す気がなくなっていた。
「……公式ルールなら負けになるよ?」
「いいよ、負けで。……あなたは、満足できるの?だってわたしは、過去にあなたが辿り着いた亡霊でしょ?」
「……ここまで頑張ってきた理由があったの。それ以上に納得のいく理由なんてないわ。なら敗者は言うことを聞いてもらいましょうか」
ショウは二つの古めかしい手作りのモンスターボールを宙に放る。そこから出てきたのはシンオウ地方の伝説のポケモン。
ディアルガとパルキアだった。
その二匹のガタガタの姿に、実は立っているだけで限界の弱々しい姿に、ショウは涙を隠せなかった。
もう
「あなたも出して。それとマサルくーん!ムゲンダイナにダイマックスさせて!師匠からのお願い!」
「はい」
マサルは素直に言うことを聞いて、ムゲンダイナを出した後ダイマックスを行った。さっきまで敵だったポケモンが再び世界を支配し、ガラル粒子がうねりを上げる。
過剰に集まったガラル粒子をディアルガとパルキアが受ける。ショウも『ヒカリ』に倣って同じ二匹を出した。
同じポケモンが揃うことは珍しくないが、それが他の地方の神とまで呼ばれるような伝説のポケモンであれば誰もが驚きを隠せない。
ただでさえ異様な雰囲気なのに、それが二匹ずつ。その上ガラル粒子で増大していく様は恐怖すら覚えるだろう。
ムゲンダイナを含む五匹の伝説のポケモンが空へ咆哮する。それはとある神への反感のような、そんな怒りを彷彿とされる悲しい声だった。
声は力となり、一つのゲートを作り出す。人どころか大型のポケモンでも通れそうな虚空に佇む黒い闇の渦。
ショウはそれを通ったことがないはずなのに、別の世界に繋がっていると確信していた。
「行きなさい、ショウ。わたしの代わりに世界を
「うん。──さよなら、皆さん。サヨナラわたし。わたしはあなたの努力を無駄にしない」
ショウは自分のポケモン達と一緒に黒い渦の中に入っていく。黒い渦に飲み込まれていき彼女達の姿が消えた瞬間、残っていたディアルガとパルキアが大きな音を立てて地面に倒れ臥す。
『ヒカリ』も、膝をついて倒れた。マサルは儀式が終わったのだと理解して『ヒカリ』に駆け寄った。ローズ委員長もだ。
他のこの場にいた人間は未だにその場を動けなかった。
ビートとユウリは慕っていた人物の痕跡がなくなってしまったから。ダンデとホップは人がいなくなる黒い渦に恐怖を覚えたことと伝説のポケモンが全く動かなくなってしまったから。
駆け寄ったマサルはヨクバリスを出して、彼の尻尾を枕がわりにさせた。そのまま地面に寝かせる。動かしたら余計に辛いとわかったからだ。
「師匠。大丈夫ですか?」
「……あの子は、ちゃんと向こう側に行けた?」
「はい。黒い渦の向こうに行きましたよ」
「良かった……。うん……。ショウ、その名前も、ヒカリもアースも、記憶も。全部あげる。だから……アカギ様の孤独を癒して。願いが叶わなくてもいい。あの方がこれ以上悲しまないように、アルセウスからあの人を守って……。わたしが願うのは、それだけだよ……」
息も絶え絶えに、『ヒカリ』はそう言う。
ローズはすぐに救護班を呼ぶが、指示を出しながら聞いた『ヒカリ』の言葉にローズは目が大きく開いていく。
あげるという言葉は持っている人間が与えるという意味だ。では名前も記憶もあげるという言葉が示すのは何か。
「待ちなさい。あなたが本物のショウなのですか……⁉︎私と一緒にいたあの子こそ、アルセウスが作ったコピーだと⁉︎あなたがどれだけの世界を跳び、幾年も刻を重ねて、その上でここまでボロボロになって元の世界に戻れず‼︎戻る権利を与えられたのはコピーのあの子⁉︎なんだ……なんだその邪悪な結末は⁉︎」
ローズの声は大きすぎた。その場にいた人間全員に聞こえる声量だった。
ローズが本当に悲しみ、恐怖していることから『ヒカリ』は微笑みながら頷く。
「わたしが元の、わたしの先祖となる『ショウ』という少女が産み出される瞬間に立ち会ったと言いましたよね……?その時わたしはアルセウスともう一度戦い、勝ちました。そして全部の事情を聞き、言われましたよ。『ヒスイを壊し、与えた再生の義務を放り出した咎人。ヒスイだけではなく様々な世界を壊した大罪人。自分の世界に飽き足らず、他の世界も喰らう魔女め。肩代わりをする私の身にもなりなさい』と」
ヒスイの世界も自分の世界も壊そうとしたのは本物の『ヒカリ』だ。コピーした存在にはそう言わないだろう。コピーであるという事実を突き付けて絶望させるはずだ。
アルセウスが嘘をついていない限り、この『ヒカリ』こそが本物になる。もし嘘をついていたのならもっと悍ましい存在になる。
「そして元の『ショウ』とわたしの家系のことも聞いて、あのショウのことも聞きました。わたしが願ってしまった元の世界への帰還。わたしとそっくりな存在を送ればわたしの願いを聞き届けたという形になるためにわたしのコピーを作ったそうです。それがあのショウ。……もちろん、元の世界に戻したらわたしはコピーでも世界を壊そうとする。だからわたしが絶望するような、母親と仲の良い別世界に送って、わたしの存在そのものを否定するようなことをしたんです。アルセウス曰く、母親と仲の悪い方がレアケースらしいのでこの世界こそが正しいそうですよ?アルセウスの言う正しさという基準ですが」
もう聞きたくない事実の連続だった。だが彼女といなくなってしまったショウを知るには『ヒカリ』の話を聞かなくてはならない。
共犯者として、ローズには全てを聞く責任があった。
「わたしは世界を壊し続けてしまったので、元の世界には戻れなくされたそうです。だからわたしの帰還は諦めました。その代わりに、わたしはショウを探した。わたしであってわたしではない存在なら帰れる可能性があったから。そしてわたしならアカギ様を支えられる。わたしにしか
「……あなたは、ショウを救うためにいくつもの嘘を……?」
「わたし、アルセウスのことは全く信用していません。だからアレの言葉が真実かもわからない。本当にわたしがコピーで、あの子が本物なのかもしれません。ただ、あの子も結局わたしなんです。
「それでは、あなたが救われない……!」
『ヒカリ』が奪われたものはどれだけあるだろうか。
元々はアルセウスの産み出したワガママが原因だ。アルセウスが産み出した原初の『ショウ』さえそんな方法で産み出されなければこの悲劇はなかった。
『ヒカリ』が幼少期から人間とは思えない力を発揮していたのは確実にアルセウスの影響がある。『ショウ』をいくら人間に偽装しようとアルセウスが創った身体だ。『ヒカリ』はそのアルセウスの力を隔世遺伝のように覚醒させてしまった存在だと推測される。
あべこべな因果の巻き添えになった少女。
その少女の結末が今なのだとしたら、救いはどこにあるというのか。
救護班が様々な機械で『ヒカリ』をスキャンしていく。ショウのデータがあったために違いは一目瞭然だった。身体の無事な部分などない。中も外も崩壊が始まっており、いつ壊れてもおかしくない状況だった。
しかもどう治せばいいのか検討も付かない。病気とは思えず、超常の存在が創った人形が壊れるかのような、人間医学では解明できないような症状だった。
「何としても彼女を助けます!マクロコスモスの総力を以ってして彼女を治療します!」
「……いいんです、ローズさん。わたしは人を殺しました。そんな罪の記憶もショウに押し付けた酷い人間なんですよ」
ローズのことを止めつつ、『ヒカリ』はマサルへモンスターボールを渡していく。
「ごめん。この子達のこと、頼んでいい?」
「……はい。師匠のポケモンは、僕がしっかりと育てます」
「ありがとう。……ああ、永かったなあ」
その言葉を最期に。
マサルが掴んでいた手は力がなくなってダラリと下がり。
微笑みながら眠っていた。
その見目は儚い少女のようなのに。
長い旅路を歩き切った老婆のようにも見えた。
数人の慟哭の声でも、眠り姫は目を醒まさなかった。
・
やぶれたせかいを通り抜けて。
わたしが出た場所はギンガビルの社長室。アカギ様の部屋だった。そこが元の世界だとやぶれたせかいから見渡したこの世界の様子から断定していた。
部屋にはアカギ様が居て、わたしはひざまづくように頭を下げる。
「ショウ⁉︎……無事だったか」
「はい。帰還が遅くなり申し訳ありません。わたしが消えてからどれだけ経ちましたか?」
「一時間、といったところだな。無事で何よりだ。やぶれたせかいなんて危険な場所へ送り出してすまなかった」
「いえ。ギラティナに加え、ディアルガ、パルキアも捕獲しました。これで計画を進められます」
「何?……ショウ、何があった?なぜお前は泣いている?」
わたしは涙を強引に拭い、首を横に振る。
多分アカギ様の前で泣いたのは初めてだ。だから不審がられても、説明をしている時間が勿体無い。
「この世界は一匹のポケモンに監視されています。そのポケモンをわたしが抑えます。その間にアカギ様はディアルガとパルキアを用いて世界を作り替えてください」
「……わかった。だが準備には少し時間がかかる。その間にできる限りの説明を頼む」
「はい」
そしてわたしは。
あらゆる世界からやってくるアルセウスを倒し続けて。
アカギ様の計画はうまくいき。
世界が感情を、失った。
これにて完結です。
あまり救いのない終わりですが完走できて良かったです。
元々一話限りの短編だったのにここまでお付き合いくださりありがとうございました。