ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
ジュンは最低限の話を聞いて翌日。コトブキムラの復興のためにカビゴンにヘラクロスを出して瓦礫の撤去の手伝いをさせていた。
やる作業としては瓦礫の撤去ばかり残っていたので問題はなかったが、こんな惨状になっている理由を一緒に作業をしているラベン博士に聞いてみた。
他のポケモンを持っている者は、近くの黒曜の原野で食材集めに行ってしまった。この人手にジュンも他のポケモンを貸し出していた。
ジュンは今、
昨日は簡単な事情しか聞いておらず、一人のポケモン使いの少女がこの現状を作り出したと聞いて、同じポケモントレーナーとして憤慨していたのだが。
「はぁ?追放?」
「ええ、はい。この紅い空を産み出した原因だろうと、ショウくんをギンガ団の団長デンボクさんは追い出そうとしたのです。そして、ムラ人から謂れのないことを言われ、怒って……。ムラにポケモンを放ちました」
「この世界のこと、テルに聞いたけど。ポケモンと共存してないんだろ?で外にはたくさんの野生ポケモンがいて、人間の集落なんてほぼなし。それで女の子を追い出すって罰金ものだぞ」
最初は怒っていたものの、逆にポケモントレーナーの少女のことを同情していた。子供達や生き残った大人の少数はそのショウのことを悪魔と呼んでいることを聞いたが、どちらが悪魔か。
「そのショウってどんな奴?」
「ポケモンの捕獲の天才ですよ。ギンガ団で彼女の右に出る者はいません。ポケモンの戦闘も凄まじく、誰も勝てなかったとか。その現場を全部見たことはないのですが、誰もが凄いと言っていましたよ。彼女のおかげでこのヒスイ地方のポケモン図鑑はほぼ完成したのです。残りはシンオウ様くらいのはずです」
「ポケモン図鑑?あるのか。俺も元いた世界で作るの手伝ってたぞー。いや、俺はあまり貢献できなかったけど」
ジュンが手伝っていたのは機械の図鑑だったのでそれはもう楽だった。捕まえたり見付ければ図鑑が勝手に記録を更新してくれるのだから。
この世界はモンスターボールを開発したばかりで、ポケモン図鑑は紙の冊子だという。テルの格好から機械じゃないのだろうなと察していたジュンは後で見せてもらうことにして、ジュンは作業をしながら紅い空を見る。
「でもさ。その団長さんもバカだよなー。こんな空、人間ができるはずがないじゃん。この空、
「Why⁉︎ジュンくん、この空の原因がわかるのですか⁉︎」
「え?うん。俺も一回見ただけだけどさ。俺の世界でも『ギンガ団』って組織が伝説のポケモンを使って世界をめちゃくちゃにしようとして、ディアルガをテンガン山に呼び出したんだよ。それを俺と
まさかこの世界の人間以外でこの事態を解決できそうなピンポイントな人材がこのタイミングでやってくるとは思わなかったラベンは驚く。すぐに事情を聞くことにした。
曰くディアルガとは時間を操る伝説のポケモンだということ。そのポケモンは世界の表側には居なかったが、『あかいくさり』という物を用いて世界に顕現したとのこと。
その『あかいくさり』の作成にはユクシーにアグノム、エムリットの力が必要なこと。
これを聞いて、ラベンは顔を蒼褪めさせる。
「……最悪の事態です。僕達は『あかいくさり』を作れない……」
「あー、ユクシー達って伝説のポケモンだから存在を知らないとか?大きな湖ない?そこにいるかもよ。ディアルガがいるっぽいからその三匹もいると思うけど……」
「いえ、違うのですジュンくん……。僕はその三匹を知っています。なにせショウくんが捕まえたポケモンですから」
「はぁ⁉︎ユクシー達って人の心に敏感なポケモンだぞ?しかも伝説のポケモンだ。それを捕まえるショウって女の子、どんだけ凄かったんだよ……」
「ええ、凄かったのです。そして凄すぎたために、畏怖の目で見られた。それがこの惨状を招いたのです」
ラベンがほぼほぼ終わった瓦礫の撤去の跡を見る。もう人の生活の痕跡も残されていない荒れた土地。
集落ではなく、ただの広い空き地と遜色ない場所になってしまった、ムラの成れの果て。
「俺、『あかいくさり』以外でディアルガを抑える方法を知らないぞ?最悪あの時と同じように力づくで抑えるって手段もあるけど、あの時だって『あかいくさり』とユクシー達の力でディアルガが正気だったからできたことだし……。ラベン博士、ユクシー達は?」
「多分ショウくんについていったか、野生に帰ったかだと思いますが……」
「うわ、本当に最悪の事態だ。野生に戻ってれば最悪俺が会いに行って『あかいくさり』を作ってくれるようにお願いするけど……。それがダメだったら、ポケモンバトルかなあ。あの時もヒカリに任せっきりだったし……。いや、トレーナーなんて言葉がないこの世界じゃディアルガと戦えるのは俺くらいだな!やるしかないか!」
ジュンはそう結論づける。
テンガン山の方を見て、時空の裂け目を見て。そうするしかないと決め込んでいた。
「まずはユクシー達がいるか調べないとな。ラベン博士、地図と図鑑見せてくれ。俺会いに行ってくるよ」
瓦礫の撤去も終わったのでジュンはそう言う。ギンガ団本部の地下で無事だった地図を見て、ジュンは目を丸くした。
「なんだってんだよー⁉︎シンオウ地方じゃん⁉︎ヒスイ地方なんて聞いたことなかったけど、どっからどう見たってシンオウ地方じゃん!」
「シンオウ?この土地に根差す方達がシンオウ様という存在を崇めていますが……」
「えー……?じゃあシンオウって名前になる前の時代?それともなんだっけ?パラレルワールドだとかなんとかってTVの番組でやってた気がする……。いやいや、モンスターボールができたばかりってことは過去?ディアルガの力があればできそう……。なんにせよ、めちゃくちゃな事態に巻き込まれてないか……?」
ジュンはヒカリがチャンピオンになって。コウキが図鑑収集と共にかなりの実力を付けて。バトルタワーでまだ目標が達成できない時に二人にあって自分にないものを考えた結果知識量が足りないのではないかと思ってポケモンのことについて結構調べたのだ。
その過程でディアルガのことも詳しくなった。ヒカリが使ってくるのだから詳しくなければ勝てない。チャンピオンのライバルとはそれくらいの知識も求められるのだ。
ジュンはそこまで歴史に詳しくない。旅に出る前に最低限の知識をスクールで学んだだけだ。ポケモンバトルのことは父親の関係でかなり熱心に勉強したが、地元の歴史なんてそこまで詳しくない。
ヒカリに勝つために後から勉強した知識はあるが、それは伝説のポケモンやポケモンの生態について。前チャンピオンのシロナのように考古学を学んでいる訳ではなかった。
「ラベン博士。ポケモン図鑑見せてくれ」
「こちらです」
冊子のように纏められたポケモン図鑑を、ジュンはめくる。その一ページ目からジュンはマジマジとページを覗き込んでしまい、ページをめくる手は止まってしまった。
二百匹を超えるポケモンの図鑑だ。かなり分厚いのは当然のことで、一匹あたり一ページというわけでもない。
シンオウ地方とヒスイ地方でどれだけポケモンの分布が違うのか、ユクシー達の居場所は変わらないのか。それを見るための確認のはずだったのに。
「……」
一ページ目はヒノアラシについてだった。ヒノアラシはシンオウ地方の地下大洞窟にも生息しているのでジュンも知っているポケモンだ。
その生態について、身長体重はもちろん。地図と合わせた生息マップや好みのきのみ、覚える技や気性なども事細かく書かれていた。
「ヒノアラシは興奮すると寝ている時でも背中から炎が吹き出るから注意!抱き枕にすると暖かいけど、髪がチリチリになったことも……。ヒナツさんが居てくれて良かったー!あ、これマグマラシの頃のエピソードだ」
そんな丸文字で書かれた直筆のコメント。最後の一文だけは追加のふきだしが付いている。
主な執筆者はラベンのものだったが、時折独特な丸文字で書かれたコメントがふきだし付きで散見された。ヒノアラシのような注意点だったり、調査の途中の用意した食事の際に、ゴンベがみんなの分も食べてしまったといううっかりエピソードだったり。
図鑑をめくる度にそんな彼女のヒスイ地方での情景が思い起こせて。ジュンは自然と涙が出ていた。
この図鑑を作るために彼女がどれだけの時間と労力をかけたのか。どれだけの苦労を重ねてきたのか。ポケモンの写真を撮って、好みを調べて。実際に戦った経験を載せて。
誰が見てもポケモンのことがわかるように。ポケモンに恐怖心を抱かないように配慮をして、それでも危ないポケモンもいるのだと注意喚起もして。
そんなヒスイ地方を想った努力の結晶がそこにあった。
「……なんだってんだよ……!こんなの見れば、ショウって子がどれだけ頑張ってきたかなんて一目瞭然だろ……!俺はここまで完璧な地方図鑑を見たことがない!モンスターボールができたばかりのこの時代で、この完成度の図鑑を作るのにどれだけ大変かなんて、俺には想像もできないッ‼︎
あの空は十中八九伝説のポケモンの仕業だ。ユクシー達にも認められた女の子にする仕打ちか⁉︎ここの団長は鬼か⁉︎」
「ジュンくん……。一応、デンボクさんにも理由はあったのです。もう、いませんが……」
ジュンは握る拳を強くする。
ジュンは猪突猛進バカだ。それでも物事の善悪ははっきりとしている。
人殺しは悪だ。
だが、努力に報いず突き放す大人は、大義名分があるとしても善ではない。このポケモン図鑑はまさしくヒスイ地方のために作られた善意の結実した証明なのだから。
ジュンは自分が随分恵まれていたのだなと実感していた。父に憧れ、ライバルに恵まれ。ずっとポケモンバトルのことばかり考えてこられた。
もし自分がこのヒスイ地方に一人で放り出されていたら。そして信用できる場所を追放されたら。同じようになってもおかしくないと、会ったこともない少女に同情していた。
「俺、子供だからさ。昨日は助かったけどコトブキムラのことは好きになれそうにないや」
「……?ジュンくんは子供なのですか?いえ、僕から見たら十分子供ですが」
「そりゃそうだぜ。まだ十一のガキだからな。好き嫌いははっきりしてんの」
「十一⁉︎十五歳くらいじゃないのですか⁉︎」
ラベンはジュンの発言に衝撃を受ける。
その驚きようが大袈裟で、ジュンは聞き返す。
「え?あー……。テルって何歳なんですか?」
「彼がちょうど十五歳です」
「……文化が違うんだから、年齢だって間違えるかぁ。じゃあショウって子も年齢間違えられたんじゃ……。ショウの身長ってどれくらいだったんですか?」
「テルくんと変わらないくらいです……」
「もしも俺と同じ時代の人だったら、十歳くらいの平均身長だぜ?それ」
「そんな……!」
ラベン達は身長で年齢を判断していた。記憶がなかったのでそれくらいしか判断基準がなかったのだ。
いくら身長があっても、肉付きが良くても。精神は年齢に比例する。
つまりギンガ団は年端のいかない子供に危険なことをやらせて、その上精神的にも痛め付けて追放しようとして。そして暴走させてしまったことになる。
今から何ができるでもないが、ラベンはジュンから得た情報をシマボシ達に共有した。
ラベンが説明をしている間に、ジュンは図鑑をもう一度見ていく。その最終ページに挟まれていた写真を見て、ジュンは今日何度目かわからない驚きを見せる。
白黒写真だが。見たことのない浮かれたTシャツと短パン、サンダル姿だったが。
そこにいたのは自分が勝ちを渇望しているライバルの一人だった。
「ヒカリ……?」
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「ああ、ショウさん!捜しましたよ!まさかこんなところにいらっしゃるとは」
「ウォロさん」
数多のポケモンを引き連れて大怪獣行進をしているショウに。
いつものにこやかな笑顔を浮かべて話しかける行商人の優男の姿が、そこにはあった。
ショウが図鑑を真面目に作っていたのは生きるためと同時に、無意識下でのナナカマド博士への贖罪だったりします。