ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
イチョウ商会に属する行商人、ウォロ。イチョウ商会が他地方との交流が多いためか、様々な情報や珍しい商品を持っている、ショウもお世話になった人達。
その中でもウォロは様々な場所に顔を出して直接手助けをしてくれる人だ。きずぐすりなどをくれただけでなく、助言もくれた人だ。そんな人がショウを探しに来てくれたことに喜ぶのではなく、むしろ訝しげな目線を向けるショウ。
このオヤブン軍団を見てにこやかにしていられるウォロに怪しさしか覚えない。ショウはウォロを見て、なぜそうもにこやかなのか理解する。
「……そっか。『シャドーダイブ』。『テレポート』と同じように遠距離の移動ができるんですね」
「ショウさん?」
「記憶が戻ってよかった。ギラティナを捕獲している人のことに気付けて。伝説のポケモンを捕まえている人が普通な人な訳……。待って?あなた、捕まえてない?」
ショウは記憶が戻ったことで観察眼と相まって様々なことがわかるようになっていた。そのおかげでウォロの影にいる存在に気付き、それを口にする。
ウォロはいきなり自分が秘していたポケモンの存在を感知されたこと以上に、この時代で誰も知らないはずのギラティナの名前を出されたことで衝撃が走る。
モンスターボールで捕獲していないことも含めて、ウォロにとっては驚きしかない。
「まあ、この時代はボールをあまり使っていないからおかしなことはないんですけど……。でもあなた、他のポケモンはボールに入れてましたよね?」
ショウがつらつらと真実を告げていく。ウォロはとんでもなく化けたショウに恐れを隠せない。
ウォロはショウのことを支援してきた。それはウォロのある目的のためだ。だからショウのことはつぶさに観察してきたし、ポケモンの捕獲、戦闘に関しては天才だとわかっていた。
数々のポケモンを捕獲し、荒ぶるキング・クイーンを何事もなく納めてきた人物だ。ポケモンの戦闘に関しては文句の言いようのないほど恐ろしい人物だとわかっていた。
だがそこに、人物観察眼まで加わり、隠していたことまでバレて。
自分の目的まで勘付かれる可能性に気付いて、もう一つギラティナのことについて疑問に思う。
ショウは時空の裂け目を開いたら現れた人物だ。正直ウォロにとってイレギュラーな人物で、何故現れたのかもわからない存在。それがギラティナの力で暴走させたキング達を止めた、ウォロにとっては可にも否にもなる人物だ。
ウォロにとっての目的の一つ、プレート集めが順調にいったのでプラマイ0ではある。
「で?ギラティナと一緒のあなたが何の用です?わたし、もうこの場所にも時代にも用事ないんですけど」
「でしたらあなたが持っているプレートを全てください。自分の目的はそれです」
一世一代の交渉を、ウォロは仕掛ける。
いくら手持ちのポケモンを鍛え上げて、ギラティナがいると言っても。ショウの後ろにいるオヤブンポケモン達全てと戦ったら分が悪い。
それにショウの手持ちも厄介だ。このヒスイの地でどんな凶暴なポケモン相手にも負けたことがない強者。正面から戦うには自分の実力に自信を持っているウォロでも今この場面では戦いたくないというのが本音だ。
「プレート?ポケモンに貰ったこれのこと?」
「それです。歴史好きなジブンには喉から手が出るものでして」
「これ、シンオウ様関連なんでしょ?ってことはディアルガかパルキア関連の道具のはず。それが欲しいの?」
「いえいえ。それはアルセウスに関わるものですよ。この世界の起源が書かれているでしょう?それはこの世界を創造したアルセウスが力を譲り渡した結晶だと推測されます」
「……アルセウス?」
ウォロの説明にショウは眉を顰める。
手に持っていたプレートを渡そうとしていたショウだったが、その名前を聞いた瞬間、プレートをバッグにしまった。
「これがアルセウスに関連しているんですか?」
「おや、アルセウスをご存知で?」
「まあ。これ、全部でいくつあるんです?」
「十八個です。いくつお持ちで?」
「十四。ふうん、そう。これがあればアルセウスに会えるの?」
「その可能性はあります」
「じゃあ、協力してあげます。プレートを全部集めて、わたしはアルセウスに言いたいことがある。あなたもアルセウスに会いたいんですか?」
「ええ、是非」
ショウは口の端を吊り上げて笑う。
その姿は悪魔のようだと、正面にいたウォロは思う。それでもショウがあくまで協力と言ったことから機嫌を損ねるのは得策ではないとしてにこやかな笑顔を貼り付けたまま頷く。
「ディアルガとパルキアを捕まえるついでに、プレートを集めましょう。心当たりはあるんですか?」
「実はジブン、プレートを一つ持っていまして。『こぶしのプレート』というらしいです。コトブキムラで拾ったんですよ。なので残りは三つですね。もう一つも心当たりがあります。黒曜の原野でプレートを持っているオヤブンポケモンがいるとか」
「もう二つは?」
「もう一つは持っていそうな人物に心当たりがあります。その人物を訪ねてみましょう。もしかしたら二つのプレートの在処を知っているかもしれませんし」
「そうですか。じゃあ黒曜の原野に行きましょう」
ショウはウォロと一緒に行動することになったので、ポケモン達を全員ボールに戻した。この勢いのままディアルガとパルキアを捕まえようと思ったが、アルセウスに会えるなら話は別だ。
少しの寄り道をしてでも、会えるなら遠回りに意味があると言い聞かせていた。
ライドポケモンを呼ぶつもりもなく、ショウはギラティナの『シャドーダイブ』で黒曜の原野に向かう。
移動している最中に、ショウもウォロも考え事をする。
(アルセウス……。わたしをこんなところに連れてきた代償を払わせてやる。この世界を作ったとか、神様みたいなポケモンでも……。一発殴らせろ。そのためにプレートに詳しそうなウォロさんを利用してやる)
(まずいまずいマズイ!まさかここまで実力差があるとは……。それに情報戦でも出し抜かれているなんて!ギラティナの存在がバレたどころか、名前も知っているということはどんなポケモンかもバレている!ワタクシだってかなりポケモンは鍛えたというのに……総数も実力もかけ離れている‼︎
特にコトブキムラを襲撃した時の四匹のポケモンの強さは尋常ではなかった。ともすればギラティナすら超えている。あの騒ぎでプレートを手にしたが、どうにか裏を取らなければ勝てない……。……プレートを集め、協力者だと油断させて。最後にまくってあげましょう。今や彼女はこの世界で信頼されていない。まだ年若い少女だ。甘い蜜で毒を流し込んで、いいように使ってあげましょう)
二人とも考え込んでいるうちに、ギラティナの移動が終わる。着いた場所で、ショウの目に映ったのはオヤブン個体のビークインだった。
「なんだ。ビークインなのね。バクフーン、『オーバーヒート』」
「ビイイイイイイ⁉︎」
ボールから出てきたバクフーンはショウの指示を受けて即座に大技を使った。
その業火に焼かれて、ビークインは一瞬で倒れた。変な闇の中から出てきたと思ったらいきなり襲われたビークインは泣いていい。
ひんしになっているビークインを気にもせず、ショウはビークインの体内を探す。蜜を内包している場所に蜜だらけになったプレートがあった。「うえっ」と言いながらもショウは布で蜜を拭ってプレートの裏側を読み、どうでもいいかとバッグにしまった。
「はい。他にプレートについて知っている人はどこ?」
「手際が良いですね……。じゃあ案内します。ただギラティナでの移動はできません。彼女はギラティナのことが嫌いでしょうから。彼女はギラティナの真実を知っています」
「ああ、歴史から追放されたドラゴンってこと?それで嫌うって……。わたしはギラティナ、好きだよ?」
「そう言ってくれると、ギラティナも喜ぶと思います。では移動しましょうか」
「大体の座標は?テレポートで行きましょう」
「そうですね……」
二人は古代シンオウ人の生き残り、コギトのいる庵に向かう。そこが人の住むような場所ではなくてショウは驚くが、そこにいた人にもっと驚くことになる。
「シロナさん……?」
「はて?妾はコギトと申す。……そなたは、選ばれた少女、だった者じゃな」
「だった。そうですか。あなたは色々と詳しそうですね?」
ショウは自嘲しながらそう問い掛ける。コギトは首を軽く横に振るだけだ。
「世俗のことはとんと。詳しいのはこのヒスイ地方のことだけ。妾は碑文のような者でな」
「でもわたしのことは知っていました。……プレートの在処について、知っていることを話していただけませんか?」
「まるで獣……いや、迷子のような瞳じゃ。シンオウ様の加護を失って、只人となったおなごよ。気を鎮めなさい。周りが見えないようでは、いつか大きな失敗をする。いや、した後かの?」
「……わかったようなこと、言わないで。あんなもの、加護じゃない。呪いだよ」
ショウはコギトを睨む。
言われたくないこと、不愉快なことを言われれば老齢な人物でも攻撃的な態度をとってしまった。
今のショウは色々と精神的に不安定だ。この時代、場所に彼女が頼れる先は手持ちのポケモンだけ。人と人の交渉は彼女がしなければならない。
だというのに目の前の女性はショウの傷口を開き、塩を塗りたくってきた。これには反論をしても仕方がない。
「呪いのう。加護も呪いも表裏一体。それは受け取った者の心境次第じゃろう。そなたにとっては良くないものだったと。シンオウ様がどうしてそなたを選んだのかよくわかった。そなたはヒスイに来る前も迷い子だったのじゃろう」
「──違う。わたしには居場所があった。今もそこに帰ろうとしてるの。邪魔をしないで」
「ではそういうことにしておこうかの。これでも妾は古代シンオウ人の端くれ。シンオウ様の尻拭いをするのも務めの一つ。どれ、プレートじゃったか……」
コギトは台所に向かい、そこでピンク色の板を持ってくる。
「え、あなたプレートを何に使っていたんですか⁉︎」
ここまで二人のやり取りを黙って聞いていたウォロが叫ぶ。
アルセウスが託したプレートが、台所から現れるなんて予想だにしないだろう。
「うん?これ、ちょうど良い長さじゃろう?まな板にちょうど良くてな」
「まな板⁉︎アルセウスの加護の結晶を、まな板⁉︎」
「実際これで切ると切れ味が良くての。大丈夫じゃ、ちゃんと拭いてある。……迷い子のこれからに、幸あれ」
「……ありがとうございます」
ウォロは扱いに納得がいかず叫び、ショウはコギトの言葉に釈然としないままプレートを受け取る。
これで残りは一枚だ。ついでにショウは尋ねる。
「もう一枚プレートはあるはずですが、在処に覚えはありませんか?」
「ポケモンのタイプと同じだけ数はあるはずじゃが……。何が足らないのじゃ?」
「もらったのがフェアリータイプのはずなので、残りはゴーストタイプです」
「となると『もののけプレート』かの。すまぬ、それには一切心当たりがない」
「そうですか……」
情報が一切ない中でヒスイの地を駆け巡るつもりはなかった。
そのため、ショウは決断する。
「ウォロさん。最後の一枚はディアルガかパルキアが持っているかもしれません。先に時空の裂け目に行きましょう。あの二匹をどうにかしてから考えます」
「それもそうですね……。いつ異変が起きてもおかしくはありませんし」
「そなたら、『あかいくさり』は持っておるのか?」
「ご心配なく。ユクシー達がもう作ってくれました。プレート、ありがとうございました」
ショウはコギトに頭を下げて庵を後にする。
一人になったコギトはショウの様子を見て、頬に手を当てて溜息をついた。
「難儀なものよの。シンオウ様は何を考えておるのか……。あの迷い子を救いたかったのか、それとも……。どちらにせよ、あのような幼子にする仕打ちではあるまいに。全能たる神、子の心知らず、と言ったところかの」
その呟きはシンオウ様には届かない。
コギトは伝承を引き継いだだけで、巫女ではないのだから。
・
「じゃあ、行ってくるぜ!ラベン博士、テル、お世話になった!ユクシー達を探して、その後はテンガン山に行ってくる!」
「ジュンくん、気を付けて。そう言うことしかできませんが……」
「お前のポケモン達もすっごい強いから大丈夫だとは思うぜ。できる限りの道具はクラフトしたけど、素材がなくてまともなもんを作れなくてごめんな」
「良いんだよ。きずぐすりとかすっげえ助かった!この未来のチャンピオンがこの空を解決してやるぜ!」
そう言ってジュンはムクホークの背に乗って三つの湖に向かった。テルもついて行きたかったが、テルは希少な残されたポケモン使いだ。ムラの人々を守るためにもムラからそこまで遠くへ離れられなかった。
ジュンは各地の湖にある洞窟に入っていったが、ユクシー達にはついぞ会えなかった。自分にユクシー達と会う資格がないのかもしれないかもしれないと思ったが、ショウがまだ手持ちとして捕まえている可能性に賭けて、テンガン山へ向かう。
『あかいくさり』がなくても。隣にヒカリがいなくても。
あの時より強くなった自分がディアルガを止めてみせると、ジュンは時空の裂け目へと翔んでいった。