ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
視界に黒い靄がかかる。
コトブキムラの時と同じだ。記憶の濁流がわたしを襲う。
これは『
わたしが自分を好きになれなくなった、世界を恨むようになったきっかけ。
「ヒカリ、パパがあなたのためにポケモンを捕まえてきてくれたわよ」
「わーい!パパ、大好き!」
そう言ってパパに抱き着くわたし。もうパパの顔も思い出せないのか、それともこれがそういうものだからか。パパの顔は黒く塗り潰されていた。パパの声は聞こえるのに不思議だ。
人間は声で相手を覚えるという。そして女性は男性の声を好きになるという。だからわたしもパパの声を覚えているんだろう。
「ヒカリはまだ小さいからな。このポケモンなら大丈夫だろう」
そう言ってパパがくれたポケモンはピンプクだった。ベィビィポケモンと呼ばれる大人しい小柄なポケモン。その可愛らしさにわたしはそのポケモンをボールから出してすぐに可愛がり始めた。
そして、決定的な言葉が放たれる。
「それじゃあ早速ポケモンコンテストの練習をしましょうか!」
「……まだ早いんじゃないか?ヒカリは三歳になったばかりだし……」
「何言ってるの。こういうのは小さい時からの積み重ねが物を言うのよ。お隣のジュン君もタイプ相性を勉強してるって言うし」
ママのその言葉で、ピンプクと一緒にポケモンコンテストの勉強が始まった。ピンブクはポケモンコンテストを知らなかったので映像で過去の大会を見て、どういうことをするのかを一緒に勉強し。
歩き方や技の出し方。ダンスや音楽の教養、リズム感の醸成。どうすれば見栄えが良いかなどをコンテスト優勝者であるママからスパルタで教わった。
普通の料理より先にポロック作りを覚えさせられて、どのきのみでどんな味になるのか、ポケモンの性格で好きな味は何か。タイプ相性よりもよっぽどハードな勉強が始まった。
ポロックを実際に食べて味を覚えて。レシピを覚えて。ピンブクとコンテストのリハーサルをやって。
時間のある幼少期などなく、ジュンとも遊びに行けなくなるほどにずっとコンテストの勉強漬けになっていた。
ある日。
ピンプクと練習をしている頃。幼心にこうした方がいいんじゃないかと思って『てんしのキッス』を出す際にくるっと一回転するように指示をしてみた。
実際ピンプクは可愛らしくターンをして、ウィンクをしながら技を繰り出した。その愛らしさにわたしはピンプクを褒めようとした。
なのに。
「ヒカリ!余計なことをさせなくていいのよ!ポケモンの可愛らしさは仕草じゃなくてポケモンの肌のツヤとかで出すの。特に技を出す時にはその技に集中させないと技のキレが落ちるの!今すぐそんなことはやめさせなさい!」
「え……?でも、可愛いよ?」
「それを決めるのはあなたじゃないのよ!客観性、つまり審査員や観客が決めるの!そんな小細工を弄しているようじゃ勝てないわ!」
当時のわたしは言われている意味がわからなかった。ママの使っている言葉が難しくてわからなかったということもあるけど、何で怒られているのかが全く理解できなかった。
大きくなって、こうして記憶として思い起こされて。これを子供に理解しろと言うのは無理な話だと思う。
ピンプクはどうしてママが怒鳴っているのかわからなくて、わたしの後ろに隠れてしまっていた。その身体は震えている。
「仕草を見せつけるのは入場の時と待機の時だけ!技を出す時はその技を100%の精度で出せるようにしなさい!」
「……どうやって?」
「練習するしかないわ!これから毎日もっと時間を増やしましょう!」
「……ヤダ。たまにはジュンくんと遊びに行きたい」
初めて、ママに反発した。ピンプクも嫌がっているし、ずっとコンテストのことばかりで疲れていた。遊びなんてこともなく、娯楽もなく。ずっとピンプクと頑張ってきたらこれだ。
ジュンとも全然遊べなくなっていたし、他の友達の遊びの誘いを断ったりもしていた。我慢の限界だった。
「ワガママを言わないの!あなたは将来わたしを超えるコンテストマスターになるの!わたしはなれなかったけど、全ての部門でマスターランクを取って、あなたがシンオウで一番凄いブリーダーになるのよ‼︎」
その脅迫じみた訴えに。わたしは目の前の女性が母親だと認識できなかった。
ひたすらヒステリックに叫んでくる怖い人。
自分の達成できなかった夢を娘に押し付けてくる大人。
その代償行為に。わたしという意思を無視した押し付けに。
わたしはこの場所から離れたくて一歩後ずさった。
その反対側の足にピンプクがしがみついていることに気付いて。彼女にはわたししか頼れる人がいないのだとわかって。修羅から逃げることはできなかった。
だから、堂々と立ち向かった。そんな度胸が、何故かわたしの中にはあった。
「みんなと遊べないならそんなのになりたくない!ピンプクとももっと遊びたい!コンテストのことばっかりじゃなくて、友達として遊びたいよ!」
「ポケモンは友達じゃないのよ!コンテストを優勝するためのパートナー!お友達感覚じゃ絶対に行き詰まる!……あなたも、ママの夢を否定するの⁉︎」
目の前の人がわたしを掴もうとする。暴力を振るわれると思って咄嗟に目を閉じると、足元が急に光り出した。
目を開いてその光を見ると、わたしよりも大きくなったピンプクが、いやラッキーが短い両手を広げてわたしを庇っていた。
その瞳は心優しいポケモンのものではなく、わたしを守るために立ち上がった勇敢な者の目をしていた。
突然の進化に、わたしも目の前の人も呆気にとられる。
「し、進化した⁉︎ポケモンは戦わないと進化しないはず……!ヒカリ、勝手にこの子をポケモンバトルに使ったの⁉︎そんな野蛮なことをさせるなんて……!」
「し、知らない!わたし、ピンプクをバトルに使ったことなんてない!」
本当に心当たりがなかった。ピンプクなどのなつき進化をするポケモンも、ある程度はポケモンバトルをしなければ進化しないはずだった。ピチューなどをバトルさせないでずっとパートナーとして一緒に過ごしているだけの人はいつまで経ってもピカチュウに進化させられなかった。
それがどこかの地方の偉い博士の発表した論文に書かれていた研究成果だったはず。
だというのにこのピンプクは。わたしは。
一切バトルをさせなかったというのにラッキーに進化してしまった。
ラッキーはわたしを掴むと、あまり速くない足で必死に怖い人から距離を取った。フタバタウンから逃げ出し、シンジ湖に走った。
ラッキーはひたすらに走って、草むらを超えて。湖を超えて。
湖の中心にある洞窟に逃げ込んで、そこでわたしを隠すように入口を見張り続けた。ここが安全だとわかっているかのように、彼女は入口から誰かが来ないかを警戒していた。
正直ラッキーはそこまで強くない。それでもここには伝説のポケモンがいた。
だから彼女は、ずっとわたしを掴んだまま、その伝説のポケモンに頼み込んでここで籠城しようとしていた。
「ぴ、ピンプク……」
「ラッキィ」
ラッキーはただただわたしを慰めた。震えるわたしを抱きしめ続けてくれた。
洞窟の入口から陽の光が差し込まなくなって真っ暗になって。
わたしはすっかり眠ってしまった頃に、誰かがそこに現れた。
「ヒカリに……ラッキーか。本当に進化してたなんて。……感情の神よ。娘を守ってくださり、ありがとうございます。本来であれば眠っているはずなのに、無理をさせてしまったでしょう。また、安らかな眠りを」
パパはそう言ってわたしとラッキーを連れ帰った。
そして怖い人と口論になり、離婚。親権をパパは勝ち取ることができず、わたしはあの家に残ることとなった。
そしてラッキーは、怖い人が嫌悪したためにパパが引き取ることとなった。元々パパのポケモンをわたしが借りていた形だから、家族ではなくなったのならパパの手元に帰るのが当然の帰結だった。
パパとラッキーとのお別れの日に、怖い人は同席しなかった。パパは考古学者として世界を旅することになり、もう会うことはなくなると言われた。そういう定住地を持っていないことも親権を得られなかった理由の一つだろう。
今の家は一応怖い人がコンテストの賞金で建てた家で、パパは仕事のキリが着いたら帰ってくるような場所だった。
「……バイバイ。パパ、ラッキー」
「ごめんな、ヒカリ。パパが情けなくて……。ラッキーも、すまん」
「ラキィ……」
ラッキーの悲しそうな鳴き声の後、またラッキーは身体を光らせた、その二度目の光景に今度は目を閉じず、姿がはっきり変わる瞬間を見つめ続けた。
ラッキーは、ハピナスに進化していた。
「ハピィ……」
「……うん。じゃあね、ハピナス。パパのこと助けてあげて。元気でね……」
ハピナスを抱きしめて、パパも抱きしめて。それきり二人には会っていない。
その後もわたしはコンテストについて叩き込まれて。でも暴力だけは振るわれなくて。
七歳になった時にジュニアコンテストに出て。怖い人から借りたポケモンだったけどぶっちぎりの優勝をして。怖い人が凄い笑顔で。わたしはコンテストを更に憎むことになった。
怖い人が調整をしたポケモンで。わたしとは正直ぶっつけ本番のような絆しかなくて。指示をした通りに動いてもらっただけなのに優勝なんて。
怖い人は褒めてくれて。ジュンや友達も凄い凄いと言ってくれたけど。
こんなポケモンよりもピンプクの方が可愛かった。わたしの誇れるポケモンだった。
メッキのようにただ取ってつけただけのポケモンで優勝して、わたしの実力なんて何もないのに褒め称えられて。
これをどう受け取ればいいのかわからなかった。
そして十歳の誕生日。コンテスト本戦に出られる年齢になったあの日。
「ヒカリ、シンジ湖に行くぞ!遅刻したら罰金100万円だからな!」
結果としてわたしへポケモン図鑑を完成させるという
わたしは溢れぬばかりの感謝と、決して表に出さない恋心を抱いて家を飛び出した。
・
洞窟を抜けようとして足がフラついた。それをなんとか踏み止まって、両足をしっかりと地に付ける。
くそう、ダークライの能力の余波だ。今まではシェイミとクレセリアがいたから悪夢を思い出さなかったけど、戦闘で使っただけでこうなるなんて。想定してなかったわたしのミスだ。
ジュンにはそんな悪夢を見せてほしくなくてシェイミとクレセリアも一緒に置いてきたから大丈夫だと思う。ジュンの実力はわたしの思っている通りならあの四匹で拮抗するかどうか。バトルタワーで勝ち上がれる時点でシンオウでは、いや世界的に見ても強者だ。
なら伝説のポケモンでゴリ押しするしかない。わたしの指示がないなら尚更。
ディアルガとパルキアを抑え込むだけの時間が稼げればいい。
「バクフーン、左後ろ」
意識を覚醒させた瞬間にボールを放つ。現れたバクフーンは突如現れたギラティナへ『シャドーボール』を直撃させていた。
奇襲してくると思ってた。弱みを見せればプレートを奪いにくるだろうって。
その奇襲を防がれた本人は声にならない悲鳴を上げていた。
「ウォロさん。やっぱり『もののけプレート』を持っていたのはあなただったんですね。ゴーストタイプのギラティナが持っている方が、タイプの異なるディアルガとパルキアが持っているよりも自然ですから」
「気付いて……⁉︎」
「わたし、あなたよりも未来でアカギ様と一緒にそのプレートについて研究したので。アルセウスの名前はシンオウに残っていませんでした。だからどうしても繋がらない部分はありましたけど、あなたから動いてくれて良かった。これで心置きなくプレートを奪える」
「く!ギラティ……ナ?」
いつもの笑顔はすっかりと鳴りを潜めて精悍な顔付きになったウォロさんがギラティナに指示を出そうとするものの、ギラティナは倒れていた。
バクフーンの攻撃はもちろん、わたしの後ろに出しておいたミカルゲもギラティナを攻撃していたのだ。
ハンドサインを仕込むくらい、ポケモントレーナーなら常識だ。
「別にこれはポケモンバトルじゃないでしょう?わたしは元の時代に戻らないといけないんです。──あなたの願いなんて知ったことか。邪魔をするな」
「──ギラティナァアアアアア!」
「ギャアアアアアアア!」
ウォロさんの叫びでギラティナが姿を変える。フォルムチェンジという奴だ。
なんだか余計禍々しい姿になってるけど、タイプは変わってないみたい。なら何も問題ない。
わたしは更にボールをいくつも空に放る。彼がどれだけのポケモンを持っているかわからないが、どれも蹂躙できるポケモンを出すだけだ。
オヤブンガブリアスにオヤブンルカリオ、オヤブンロズレイドにオヤブンマンムーに通常個体のトゲキッス。そしてライチュウを繰り出す。
未来のように手持ちの制限がかけられているわけでもない。この時代ではポケモンを複数バトルに使っているんだからわたしも同じことをするだけだ。
八匹への指示なんて初めてだけど、向こうが一匹ずつ出してくるなら全員に指示を出す必要はない。
今必要なことはこれだけのポケモンを鍛え上げて、指示を出せるという虚勢。それによってウォロさんの思考を奪うだけの作業。
時間もかけていられないし、蹂躙するだけだ。
「伝説のポケモンだろうが、数と質の暴力には弱いでしょう?それにこっちはギラティナについてかなり勉強したの。──『ギンガ団』幹部、アースの実力見せてあげます」
どの時代でも初めての名乗りと共に、わたしは最後の人の妨害を破壊する。
基本的に『ギンガ団』として行動する時は身分証などを偽造した『ショウ』と名乗り、『ギンガ団』の集会などでは幹部として『アース』を名乗っていました。
なお『ギンガ団』からすれば髪の色を染めただけのチャンピオンがそこにいたので幹部会議などはびっくら仰天で最初の内は会議が進まなかったとか。