ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 作:ポポタン
最初は、救済のつもりでした。
私は全ての世界を把握しています。過去も現在も未来も並行世界も、全てを観測し、不測の事態が起これば私自らが介入しました。
ヒスイの地にて、ギラティナが人間とひと騒動を起こすことを感知した私は私の代行者を産み出しました。私が認め、私の分身を預けた少女ヒカリ。その少女と寸分違わぬ分身を作り上げてヒスイへ送り込みます。
その試みは大成功。全ての障害を乗り越えて、シンオウへ続く未来への道を作り上げました。私もそれを見ていて、分体をまた少女に預けて端末越しにヒスイを見守ることにしました。そんな遊び心もたまには必要なのです。
送り込んだショウと共に見るヒスイはとても新鮮でした。異なる次元から俯瞰する風景とは異なり、ショウと旅するヒスイは楽しかったのです。ただ近くにいるだけでこうも違うのかと驚かされました。
ヒカリに与えた分身はそのまま端末同期をせず、ヒカリを信頼してそのままにしていました。今回は端末と視界も感触も何もかもを同期させ、分体が感じる全てを一緒に経験しました。
それの何と心地良いことか。のろいぎつねの騒動や、現地民との交流。それは私が今まで俯瞰していただけのもので、誰かの手持ちポケモンになることが初めての経験だった私には全てが目新しく感じました。
なるほど。様々なポケモンがあのボールに収まるわけだと実体験を通して理解を深めたのです。
私は神でありながら人との旅を楽しんでいました。ヒスイの安定に繋がり、他の世界も誤差などなく運営されるのだろうと暢気に構えていました。
ヒスイから地続きの世界線で、私が最も信頼するトレーナー、『ヒカリ』が世界を滅ぼそうとしていると知るまでは。
調べてみればその『ヒカリ』はだいぶおかしかったのです。母親の境遇の差は幾多もの世界があるのだからそれくらいの変化はあるだろうと気にもしなかったのですが、その『ヒカリ』は人間のスペックを超えていました。
三歳児としてはありえない習熟度、理解力。そして決定的だったことがポケモンの進化条件を無視したポケモン育成能力。
バトルも行なっていないのにポケモンへ進化のための経験値が貯まり、ポケモンにすぐに懐かれ。コンテストの最適解を思い付き、ポケモンと心を通じ合わせて。
ポケモンの定義を超越しました。
アレはヒカリではない。そう思い、そこに至るまでの過去を全て洗い出しました。
ショウはあの後、現地民と結婚し、子供を産む。
私とヒカリの子であるショウです。人間にできるだけ近く創り上げたのだからこれ自体はおかしくはない。
その後ショウはポケモンと人間の共存のために尽力しました。様々な集落を作り上げて、それがシンオウ時代の人間の集落の元祖となりました。そして人間として天寿を全うする。
ショウの子孫はシンオウ地方でバラバラに過ごすこととなる。その一部がコトブキタウンに住み着き、その直系こそが『ヒカリ』でした。
ショウの一族は皆優秀でした。何かしらの分野で才覚を発揮し、シンオウで活躍してきました。さすがは私とヒカリの最高傑作。その直系子孫だと思っていました。
『ヒカリ』は言ってしまえば、私とヒカリの才能を完全に引き継ぎ、超えてしまった先祖返りのような存在です。最高傑作だと思っていたショウを超える才能を持ち、人間としての限界値なんてものは遥かに超えた人間とは呼べない成れの果て。
人間社会に私が紛れ込むようなものです。誰からの理解もされず、その才能は彼女を孤独にしました。むしろあのジュンという少年と母親は人間にしてはよくあの『ヒカリ』に付き合ったものです。
彼女自身もその才覚を持て余し、結果として人間を理解できず、シンオウ時代の天才である人間の思想に共感して共に世界を滅ぼそうとしたと。
せっかく安定した世界を崩壊させるわけにはいかない。だから私はギラティナを捕まえて安堵し、緩みきっていた『ヒカリ』をヒスイへ落としました。ショウの代わりがどの次元のヒスイでも必要だったために。
これは贖罪の機会でした。記憶も奪い、『ヒカリ』へ従うだけのポケモンをシンオウに残し世界を滅ぼすことなど考え付かないように、むしろ世界を救わせるための行動を促しました。
『ヒカリ』は記憶もないというのに持ち前のセンスでショウよりも手早く事態を解決し、余計なミカルゲの封印を解くということまでする余裕を見せて、荒ぶるキングを鎮めて。
最後の最後で暴走し、そのショックで私の封印を自力で破って記憶を取り戻したのです。
これはまずいと考え、このヒスイすらも崩壊させかねないと思い、彼女を止められる人間をこの地に呼び出すことにしました。彼女と同じ世界の人間では彼女に同調しかねないと思い、他の世界線の彼女の想い人を呼び出しました。
彼へのサポートも手厚く行なって。私が出来得る限りの干渉もして。
それでも彼女は自力で、この地に辿り着いたのです。
彼女の望みは知っています。元の時代に戻り、世界を崩壊させること。それはつまり一つの世界を私が切り捨てるということ。
今までもいくつかの世界は大地が増えすぎたり海が増えすぎたり、変な科学兵器が猛威を振るいすぎて消滅させましたが。それを行うのが『ヒカリ』だとは認められないのです。
私を睨むように空間の裂け目から現れる『ヒカリ』。『ヒカリ』は願いを持って私の前に現れたのです。ならば、相応の試練を与えなくては。望みを叶えるのであれば、相応の対価が必要ですから。
彼女の前に、特製のシズメダマが入った籠を用意する。キングを鎮めたように私も鎮められたら検討しようと思ったのです。
ですが、彼女の方から何故か「ブチッ!」という音が聞こえて。見守っていると彼女は思いっきりシズメダマが入っている籠を蹴り飛ばしていました。
「巫山戯るな!!!何でもかんでも、お前の思惑通りに行くとは思うなよ⁉︎」
彼女は突如として激昂し、ポケモンが入ったボールをいくつも宙に投げました。
何故彼女は怒っているのでしょう?ヒスイの地における彼女の証明はこの方法が適している。そう思ったからわざわざ用意してあげたのに。
ボールから出てきたのはバクフーンにオヤブンドダイトス、オヤブンエンペルトとレジギガス。それにユクシー、アグノム、エムリットの合計七匹。
その七匹が私へ駆け出し、『ヒカリ』の指示もなくこちらへ突撃してきた。そして、『ヒカリ』も。
何故?
何故ポケモンも彼女もそんなに怒っているのですか?
私はわけもわからず、ひとまず三体に分身して様子を見る。彼女達の真意がわからなかったために。
「そこ!」
『ヒカリ』は瞬時に本体を見抜き、それに合わせてポケモン達が得意な技を放ちます。
バクフーンが全てを焼き尽くす炎を。ドダイトスが自然を活かした攻撃を。エンペルトが何もかもを呑み込む濁流を。レジギガスが大地を作り上げた怪力による打撃を。
エスパーポケモンは、ポケモンや『ヒカリ』に何かしらの補助技を使っているようでした。
私は一瞬で見破られたことに動揺してそれらの技を受けてしまいました。
痛い。
痛みなんて、他の世界線でディアルガやパルキアが暴走した時にも感じたことはなかったのに。
『ヒカリ』も突っ込んできますが、その前に転移して口から数多の光線を放ちます。それらはポケモン達に直撃させようと放ったものですが、どのポケモンも器用に避けていました。
やはり彼女も、彼女のポケモンも強い。だからこそ残念で仕方がなかったのです。
あなたは救世主となる人だったのに。世界から称賛される愛し子であったはずなのに。
私が繰り出す技はどれも当たらず、むしろ距離を縮められました。
久しぶりの痛みに私は警戒心を強め、どのポケモンからも距離を置くように転移して、多くの分身を出したり距離を詰められないように遠距離攻撃に徹します。
「そうやっていつも離れてこっちにちょっかいをかけてきて!高みの見物⁉︎世界を創ったとか言ってても、その臆病さがお前の本性か!」
彼女は何を言っているのだろう。
私はポケモンとしての性能も、私が与える影響力も強すぎる。だから必要最低限の接触しかせず、いつもはこの空間に君臨しているのです。
私はやろうと思えばヒスイを問題なく維持することもできました。ですがそれでは世界の秩序が乱れてしまう。だからショウや『ヒカリ』を送り込んだのです。
できることなら私だってここを離れて、たった一匹のポケモンとして世界を旅してみたいのです。その好奇心こそ私の本性でしょう。
だから見当違いのことを叫ぶ彼女には困惑してしまいます。
「わたしを送り込んだのは、どうせ世界を壊されるのが嫌だったってだけでしょ!それだって納得できないけど、まだ良い!けどノボリさんは!健全な
ジュンを巻き込んだことは確かに心苦しいです。今の状態のヒスイに私が介入するのは、基準値を超えてしまう。後のシンオウ地方の権威であるナナカマド博士の先祖であるデンボクが亡くなったことでシンオウ地方には繋がらなくなってしまいました。
ですが、ノボリとは誰でしょう。彼女は誰のことを言っているのでしょうか。
あなたが嘆くべきは、あなたが犯した殺人という業でしょうに。
『ヒカリ』は私の創ったショウ以上に完璧な存在でしょう。ですが、ショウは『ヒカリ』のようにコトブキムラを追放になってもあのような短慮な行動をしませんでした。結局ムラ人やデンボクと和解し、その後のシンオウ地方を築き上げたのです。
たとえ才覚は優秀であっても。その思考までは完璧ではなかったということでしょう。
精神性だけを見ればショウの方が優秀ですね。さすがは私とヒカリの子。
あの子の血を受け継いでいるはずなのに、どうして『ヒカリ』はこうなってしまったのでしょうか。
それがわからずバトルは続きます。
『ヒカリ』の指示は完璧で、私であっても攻撃がほとんど当たりません。当たってもかすり傷か、もしくは敢えて受けた攻撃か。なのに『ヒカリ』のポケモン達は数の優位もあって私に攻撃を当ててきます。
そして『ヒカリ』もずっとこの空間を駆けずり回っています。彼女は指示を出すだけなら走る必要もないはずなのに。おかしなことだらけです。
いくらなんでも攻撃を受け続けて、私もふらつきはじめました。私が神と呼ばれようと、限界まで鍛えられたポケモン達の大技を四十以上喰らえば限界もきます。
このままではまずいと踏ん張ってみせますが、『ヒカリ』達の猛攻は続きます。
「ドダイトス、『10まんばりき』!エンペルト、『ラスターカノン』!」
ドダイトスが渾身の力を込めて私にぶつかり、エンペルトは鋼の弾球を作り出し、それをドダイトスによって弾き飛ばされた私へぶつけてみせました。
あのエンペルト、初めて『ヒカリ』の指示で動くはずなのに。ここまで連携が取れるなんて驚きです。これがトレーナーとポケモンの可能性ですか。それを教えてくれるのが『ヒカリ』ではなければ言うことなしだったのですが。
その『ヒカリ』は何故か、レジギガスの拳の上にいました。レジギガスはまるで投擲のような体勢になっています。
そんなことをしたら『ヒカリ』がどうなるのかわかっているのですか?
「やりなさい!」
「ギガァアアア!」
レジギガスはそのまま全力で『ヒカリ』を投擲。『ヒカリ』もその速度に臆することなく拳を握り締め。
私の顔面を殴りつけ、そのまま飛ばされた勢いでそのまま空間の地面をゴロゴロと転がり回りました。
全く痛くありません。合理的な判断をするのであればあんな大きな隙にレジギガスへ『ギガインパクト』でもさせた方がダメージを与えられるというのに。
やはり彼女はどこかおかしい。きっと錯乱しているのでしょう。私が『ヒカリ』を救わなければ。そう思い立ち上がる。
『ヒカリ』もすぐに立ち上がった。私を殴りつけた左手は見るも無残なことになっている。私の体表は神と呼ばれるに相応しく、ポケモンの中でもかなり硬い。人間の手で殴れば骨は折れ皮は引き裂かれ。血が止め処なく流れていました。
『ヒカリ』はその痛みに耐えながらも、左手を抑えながらも叫びます。
「お前は、人間に殴られる程度の存在だ!お前の思惑なんて全部思い通りになるわけがない!そんなエゴを反省しろ‼︎反省して……わたし達を全員元の世界に戻せ!このヒスイの問題は全部解決したはずだし、ノボリさんは服があんなにボロボロになるほど年月が経ってるんだぞ⁉︎それだけの長い間、あの人は大切な人やポケモンと離れ離れになっていることをお前は何とも思わないのか⁉︎お前に良心が残っているなら、わたし達を元の世界に戻せーーー!!!」
『ヒカリ』は言いたいことが言えたのか、それ以降は何も言わずに私を睨んでくる。ポケモン達も同様に。
私が直接産み出したレジギガスやエムリット達も『ヒカリ』の味方ですか。
確かにヒスイの現状は改善されました。ギラティナの力で強引に崩された秩序は皮肉にも『ヒカリ』のお陰で万事解決。ジュンをこの世界に残す理由もありませんし、ノボリという人間も元々この世界の住人ではないのであれば戻してあげることもやぶさかではありません。
私を殴るという、よくわからないことをやってのけた『ヒカリ』へ、当初の目的の一つでもあるヒスイの安定をもたらしたという褒美がそれで良いのであればそうしましょう。
すぐにジュンとノボリという人間を調べ上げて、元の世界へ送ります。
ですが、この世界線を放棄するわけにもいきません。デンボクがいなくなったのはとても大きな損失です。
その充填をするのは誰になるのか。
言わずともわかることでしょう。
・
「急に光が⁉︎……ノボリ⁉︎」
「……ここは……」
「そんなボロボロの姿でどうしたの!シャンデラ達を置いてどこかに行っちゃったから心配したんだよ!」
「シャララ〜」
「……クダリ?シャンデラ?」
「ともかく医務室へ!みんな〜!ノボリが帰ってきたよ!」
・
シンオウ地方、バトルタワーがあるファイトエリアに近い岬で。
突如として光が空から降り注ぎ、その光から人影が出てきたことに驚く周りの人々。
ここにとある伝説のポケモンがいると聞いてやってきていた黒髪の少女は、その光の中から幼馴染の少年が出てきたことで驚いて近付く。
「ジュン⁉︎光の中から出てきたけど、どうしたの⁉︎」
「……ヒカリ?ああ、髪が黒いヒカリだ……。それにこの景色、ファイトエリアか?」
ジュンはヒスイではなくシンオウに帰ってきたことを実感していた。手持ちのポケモンも全員いて、左腕のポケッチも元に戻っていた。
周りがざわついていることも気にせず、ジュンは目の前のヒカリを抱きしめていた。
「えっ⁉︎ちょっと、ジュン⁉︎いきなりどうしたの⁉︎」
「ヒカリ……!オレ、絶対にお前の味方だから!お前が悪いことをしそうになったら、オレが絶対に止めてやる……!」
「久しぶりに会ったと思ったらすっごい失礼なこと思われてる⁉︎私、これでもチャンピオンだよ!悪いことなんてしようとも思わないし、やる暇もないから!っていうか、人目があるから離れて‼︎キャー、写真撮られてる⁉︎こんなことすっぱ抜かれたらママに合わせる顔がないよ⁉︎」
顔を真っ赤にしながらアワアワするヒカリ。そのヒカリを離すまいと力強く抱きしめるジュン。
ヒューヒューという口笛まで周りから聞こえてくる始末。それでもジュンは『ヒカリ』との約束通り、ヒカリの味方で居続けようと心に決めていた。
・
「あ……あああああああぁぁぁ⁉︎」
そして。
絶望する少女が
これで一応レジェンズは完結です。
レジェンズは。