中ボス悪役令息くん、度重なるループの末に悪役『令嬢ちゃん』に至る 作:TS幼馴染は必ず勝つ党第809代党首
──人は、生物は、魔力が尽きると死んでしまう。
龍拍を損なえば、生きながらえることはできない。
そんなことはわかっている。
わかっていても、それを飲み込むことは私にはできなかった。
これは私の罪過と覚悟の記録だ。道理に背き倫理を踏みにじろうとも、必ず望みを叶えるために。
その覚悟を忘れないために、これを記す。
私のかわいいルクレティア、私はあなたのことを忘れない。
絶対に。
忘れないから。
───────────────────────────────
──あの子の死体を運び出すことは拍子抜けするほど簡単だった。
公爵家の墓所なんてどれだけの魔術的防御がされているかわかったものじゃない。
学院にいたころから実技がさんざんだった私がどこまでやれるだろう、とびくびくしながら向かったそこには、けれど守衛のひとりもいやしなかった。
気が抜けそうになるくらい無防備で静かな真っ暗な墓所に、あの子の亡骸は置かれていた。
フリルでいっぱいの白いドレスをまとったあの子はきれいだった。差し込む月のひかりに照らされて、まるで天使さまのようだった。
いつもどおりにきれいでかわいいルクレティア。
さらさらとした青い髪は私のそれとはあいかわらず違っていて、どこか眠っているようにだって見えたのに、伏せたまつ毛はぴくりとも動かない。秋の空みたいな水色の瞳を細めて笑ってなんてくれない。
ぬくもりなんてないひんやりとしたその肌は、あの子の魂がもうここにはないって語っているようで、私は、少しだけ泣いた。
あんなに泣いて泣いて泣きつくして、もう自分の身体には涙なんてちっとも残っていないと思っていたのに。
わたくしの死を本当に哀しむのは貴女だけね、なんて言ったからだ。
公爵家のお嬢様で、人形みたいにきれいで、頭だってよくてやさしかったルクレティア。
あなたの死を悼まないひとがどこにいるだろう。
誰からも蔑まれる賎業の私にさえあの子は笑って、良くしてくれたのに。
どうしてあの子はあんなにさびしいことを言ったんだろう。
私はそれを知らなきゃいけない。
知らなきゃいけないって決めたんだ。
───────────────────────────────
──腑分けを高位の貴族に行うことは法で禁じられている。死体を盗み出すことよりもよっぽど罪が重い。死刑だって免れないだろう。
なによりあの子の身体を切り分けることは気が咎めた。
それでも、やらなければならなかった。
約束した。
忘れてない、忘れてないよルクレティア。
あなたは言う。
わたくしたちは生まれてはいけなかった。忌まわしい血だから。と。
世界を救った英雄の血をひいたその身体になんの忌まわしいことがあるだろう。
でも、どう慰めてもあの子は笑ってくれなかった。
いつも誰に対しても穏やかに笑っていたあなたが、私にだけはそうやってさびしいことを言ったその意味を、私は考えなければならない。
あなたのことを考えている限り。
ルクレティア。
あなたは死なない。
───────────────────────────────
あの子の身体を分けた。
───────────────────────────────
ああ、そうだったのだ。
ルクレティア、あなたの身体は確かに普通じゃなかった。
切り分けて、はじめてわかった。
あの子は、生まれつき龍拍を持っていなかった。
なかったのだ。心臓のすぐ近く、寄り添うようにあるその器官が。
影も形も。
損なったのではなかったのだ。
───────────────────────────────
でも、そんなことはありえない。ありえないはずだ。
魔力は万物に宿る。
そうしてあらゆる生き物は、魔力が尽きると死んでしまう。だから、己の持つ龍拍によって生存に必要な魔力を生み出しているのだ。
ルクレティアはそれができなかった。
まれにそういう欠落を持った子どもが生まれること自体は私も知っていた。
生まれついて龍拍に異常があるがために、魔力枯れによって命を落とすのだ、と。
だから、あの子もそうだと思っていた。
公爵家に伝わる秘術で永らえているだけだと言われて、その言葉をそのままに受け取っていた。
あの子が死んだ理由だって、その秘術による生命維持が叶わなくなったためだと、そう思っていた。
でも。
でも、違ったのだ。
そもそもの前提が間違えていた。
あの子の身体には龍拍がなかった。
龍拍に異常がある生き物は、いる。
けれど、それ自体が少しも存在しないものはいない。
私の仕事は賎業だ。
人や生き物の身体を切り分けて治療し、あるいは死の原因を探る。
蔑まれて当然のものだ。腑分けは死の穢れに最も近く、また、死を冒涜する行為だから。
でも、そんな仕事をしている私だからわかる。
いないのだ。
龍拍に現れる異常は、多くの場合それの機能不全であるか、あるいはそこから魔力を供給する菅が塞がっているかのどちらかだ。
珍しい症例を取り上げてみても、龍拍が欠けたようになっていて管だけがある、というものくらいだろうか。
だから、そう。
龍拍もそこに繋がる管もない、というのは生き物としてありえないのだ。
──魔族の他には。
すべての生き物の中で、魔族だけには龍拍がない。
彼らの身体を腑分けする機会は決して多くはない。蘇生までの休眠期間を狙うしかないからだ。だが、それだけに詳細な記録が残されている。同業者の間でしか出回っていないものだけれど、私の手元にも写しがあった。
彼らには龍拍がない。
その代わりに、身体を巡る体液が魔力を生み出している、と考えられていて、その血の研究をしている機関もあったはずだ。
あなたは言う。
忌まわしい血、だと。
あの気位の高いあなたに、生まれてはいけなかったとまで言わしめたのはこれだった?
まるで魔族のようなこの身体のことだった?
私は、