中ボス悪役令息くん、度重なるループの末に悪役『令嬢ちゃん』に至る   作:TS幼馴染は必ず勝つ党第809代党首

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interは本編外の、いわゆるおまけ要素です
読み飛ばしても問題ありません


inter,6 ある愚か者の一生について

 ──ある愚か者の話をしよう。

 

 今まさに魔を祓う焔に穢れたその身を焼かれ、最後の息を漏らそうとしている、そんなあわれな男の話だ。

 ルクレティウス・リトグラト・リィ。

 そういう名をした愚かな道化の、短く、そして何の価値もなかった一生を。

 

 

 男はリトグラト公爵家当主の息子として生まれた。

 両親の顔はよく覚えていない。

 父は開祖であるロゥク・ルゥのことをひたすらに恐れた。美しく、はかなげで、かわいそうなほど気の弱い人だったのだ。ということだけ、知っている。

 そうして父親はついぞ家に戻ることはないままに、男が10歳の春に死んだ。

 だから、男は父の顔をよく思い出せない。屋敷の廊下に並ぶ絵画の中の、父のものだという絵を見ては、こんな顔をしていたのだろうかと首を傾げた。

 母親は、というと彼を産んで2年後に死んだ。なので、男は母の顔も覚えてはいなかった。なにせ彼女に関しては、絵姿の1つも残っていないので。

 そうしてあんまり幼かったせいか、男には自分が母の死が悲しかったかさえも、よくわからなかった。その死の原因だって知らないままだ。

 ただ、父の葬儀の折に、母は病で死んでいることだけ聞かされて、それをおとなしく受け入れた。

 母のものだという墓の下が空っぽなのだとわかっていて、なお。

 

 そういうわけで、男は使用人に育てられることになった。

 使用人、ということになっている魔族たちの手によって育てられた。

 かれらは人を育てるのにあまりにも向いていなかった。

 当たり前のことだ。かれらは暗がりから生まれ出でた化け物であって、お優しい乳母にも子守役にもなれるわけがなかったのだ。

 当然、男は何度か死にかけた。殺されかけた、と言うには相手にそこまでの害意はなかった。構われすぎたり、あるいはまったく構われなかったりを繰り返しながら、それでもなんとか男は死ぬことも四肢を損なうこともなく育った。

 

 うつくしく、愚かに、高慢に。

 

 男は、生まれてこの方、己というものを見誤っていた。自身のことを、魔術の名門であり建国の雄である大貴族リトグラト家の唯一正当な後継者だと思い込んで育った。誰からも真実を告げられないまま、自分は十把一絡げの凡人とは違う特別な人間なのだとずっと思っていた。

 馬鹿みたいに信じたのだ。

 自分はあの三英雄である父祖の血をひくのだから、いつかあんな風に美しく自由自在に魔法を行使することができるのだと、信じていた。

 なんだって人より上手くやれるんだから、ちょっとした欠点があっても、魔導を勉強していればいつか、いつかきっと、と。

 

 男にとっての転機は、7歳の年に訪れた。

 いもうとができたのだ。

 彼の生まれたリトグラト公爵家はおよそ建国以来の名家だった。あまり子宝に恵まれる家系ではなかったが歴史が長いだけ血も広がっていて、分家もいくつか存在した。

 顔も知らない親戚は多く、けれど直系の血族はとなると数えるほど。

 しかも、佳人薄命という言葉の通りに一族はおしなべて短命だった。父祖であるロゥク・ルゥただひとりを除いては。

 そんな家に、少女はやってきた。王家から、魔力過多というその特異体質がために。

 

 最初は守ってやるつもりだった。魔族たちから、あるいは貴族たちから。

 兄として、守って導いてやるつもりだった。

 

 そんな甘ったるい幻想は、けれど男が学院に入学した1度目の夏に打ち砕かれた。

 義妹が父祖のいる庭へと招かれている姿を見て、そのときはじめて気が付いたのだ。

 あれは自分とは違うのだ、と。

 

 だって、自分はあの庭に招かれたことなどなかった。

 いや、そもそも父祖から直接声をかけられたことさえほとんどなかったのだ。

 

 それからはまさに文字通り、坂を転げ落ちるような転落人生だった。

 否定したさに、男はあらゆる文献を読み漁った。

 禁書にまで手を付けたのに、手に入れたものは絶望だけ。

 彼の欠けは、治らない。

 それどころか、いずれその命を奪うもので。

 そのことを父祖が知っていて放置しているのだと理解してしまった。

 

 リトグラト公爵家において、名づけとは過去の系譜にちなんでなされるものだ。

 その役割に応じて父祖が授ける、といった方が正しいだろうか。

 だから、家系図の中には当然だが同じような名前が頻出する。ミュージカ。ハーミエナ。レィテスは官吏になることが大半で。跡継ぎであれば、ラインハルト。

 そう、命名規則に則るなら。ルクレティウスは跡継ぎの名前ではなく。

 そして、男は自分が6人目のルクレティウスであったことを、知っていた。

 その名の意味を、知ってしまった。

 ルクレ、という綴りから始まる名前の子どもたちはみな一様にうつくしかった。

 百花と謳われる一族の中でも最も整った顔かたちをしていて、そうして押しなべてその生涯は短かった。

 魔力こそなかったが、男は決して愚昧ではなかった。

 だから、かれはわかってしまった。

 百花のリトグラトにおいてルクレという名が与えられるものは、多少の差異はあれどもみな総じて父祖にとってなんら価値のないものであると。

 そう知ってしまったあの日から、かれの世界はずっと泥の中に有る。

 

 

 中途半端に優秀で何でもこなせるくせに、唯一欲しいものが絶対手に入らない

 そのほしいものは、負けを認めたくない相手ほど揃いも揃って持っているのに。

 

 憐れで、愚かで、報いがなくて、救われない。

 ほんの一歩だけでも違う道、違う出会いがあったら、何か違う未来があったのかもしれない。

 けれど、そんなものは男にはなかった。

 

 愚かな男はそうしてまた、死に戻る。

 まるで、世界に償いきれない罪の清算を求められているかのように。

 そうして、巻き戻される先はいつだって同じ。

 高等部最初の年の、ある冬の日。

 何もかもがすっかりしろい雪に覆われて静寂に包まれた、終わりの季節。

 なにもかも取り返しがつかなくなってしまったその日にしか、戻れない。

 

 そうして、今回もまた。

 

 

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