中ボス悪役令息くん、度重なるループの末に悪役『令嬢ちゃん』に至る   作:TS幼馴染は必ず勝つ党第809代党首

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rech.7-1 責任、とってよ

 二日月の下、質素だが清潔な白いシーツの上にはふたつの人影があった。

 ひとつは仰向けで眠っている男のもの。

 もうひとつは、そんな男に跨るほっそりとした少女のそれだ。

 

 よっぽど幸せな夢を見ているのだろう。 

 真夜中の来訪者にも気づくことなく、シャニはすやすやと眠りこけている。

 

 その顔をルクレは何の気なしに、つん、と指先でつついた。

 そこにはつい数日前に灯されたはずの焔の気配はない。

 どこにでもいそうな青年の、平凡で、幸福そうな寝顔だった。

 まぁよだれが少し垂れているが、その男らしくきりっとした眉とか、いくらかあどけさは残るものの精悍な顔つきとかは、見れないこともない顔だ。

 もちろん、自分ほどではないが。

 そう評価しつつしばらく間抜けヅラを眺めたあと、ルクレは薄い唇を噛んだ。

 大丈夫。こんなの、なんてことない。

 ふ、と小さく笑って、夜着を脱ぎ捨てる。

 月の光にもシーツと夜着にも負けない、青ざめたしろい肢体が夜の底冷えした空気の中にさらされた。

 

「──んあ?」

 

 衣擦れの音はさせなかったはずなのに。シャニが間抜けな声と共に目を覚ます。

 起こして、しまった。

 寝起きの朴念仁はルクレティウスの眼下で、いったい何が? という顔をしている。

 それどころか、あまつさえ起き上がろうとし始めた。

 ので、ルクレは青年のみぞおちにぐっと体重をかけることでそれを制した。

 万が一にもここまで来て抵抗されたら、こんなところに忍び込んだ労力が水の泡だ。

 

「んぐっ……!」

「いいよ、そのまま寝てれば?」

「っおい、寝てれば、って」

「こっちで勝手に済ませてやるから、おまえはただ勃たせてくれたらいいって言ってるの」

 

 そう吐き捨てて後ろ手にシャニの股間をまさぐる。

 まだ芯を持たないそこの感触にルクレはその秀麗な顔をきつくしかめた。

 

「ほら、はやく。こんなんじゃ入れられないだろ」

「は? は? いや、レティ」

 

 いまだ混乱の最中にいるシャニが正気に戻らないうちに、ズボンの中に、もっと言えばその下着の中まで手を滑り込ませる。

 羞恥はない。ないったらないのだ。

 直に触れたそこはまだ硬くなってこそいなかったが、火のように熱い。

 こんなところまで熱いのか、なんてバカみたいな考えが本当に束の間、脳裏を掠めて消えた。

 

「はーーー、この僕がここまでしてやってるっていうのにまだ勃たないわけ? なに? おまえって不能なの??」

「いや、いや違うぞ! ああ、そうじゃなくて、そんなこと今はどうでもよくてだな!? なんでお前こんな……!!?」

「なんでって。おまえのためだけど?」

 

 うるさいシャニを黙らせたくて、その唇にそっと人差し指をあてる。

 思っていたよりかさついたそこがおもしろくて指先でなでたりつついたりしながら、ルクレはこの物わかりの悪い男にどこまで話してやるべきか。

 あるいは、どこまで話さないべきかを考えていた。

 

 ことの発端は。シャルナノーク・エイデンがその身にともしびの焔を灯したことにある。

 あの三日月の晩の死闘はイウミュアナの死で幕を下ろした。

 三人とも多少の怪我はあったが命に関わるようなものではなく、死ぬほど疲れ切っただけで済んだ。

 だから、情けないことにその問題にルクレティウスが気づいたのは翌日のことだった。

 

「──おまえさ。結局あれから一度も使えてないでしょ。ともしびの炎」

「そ、れはまあ……」

「それでいいんだよ。そうじゃなきゃおかしい。思い出してもみなよ。あの晩は僕が魔力路を拡張してやって、術式だって整えてやったんだ。おまえひとりの力じゃなかったんだから、すぐすぐできるようになるわけないだろ」

 

 できるようになる可能性は、別に0じゃなかったけど。とは言わないでおく。

 そんなご都合主義が許されるわけないことなんてルクレティウスだってわかっていた。

 ちょっと期待しただけだ。だってこいつは自分と違って「正義の味方」だから。

 結局あの夜、あの瞬間に焔が灯されたのは条件が揃っていたこともだが、何よりも、そこに命の危機が迫っていたことも大きかったのだと思う。

 ともしびの勇者がまかり間違ってもあんなところで死んでしまわないように、神様がきっとそうさせたのだ。

 

「この前の結界の不調もだけど、とうとう魔族まで侵入した。なんて、このエヌフォーリア学院で起こるはずのないことが起こってるのは、おまえにもわかるよね」

「……ああ、もちろん」

 

 まったく違う思惑でもって、ふたりの視線は窓の外へ向いていた。

 今でこそ夜の黒で隠れているがそこには確かに魔導の覆いが、結界があるはずだ。

 

「高等部も中等部もそれとなく聞いて回ってみたんだが、イルミトセの天蓋の様子がおかしい、なんて話は誰からも聞かなかった。つまり、結界は誰から見ても万全ってことだよな? しかも先生方も、天蓋どころか、侵入者がいたことにさえ気付いてなさそうだった」

「そう、だね……」

 

 気付くはずがない。その言葉をルクレは喉元で留めた。

 だって、イウミュアナはきっと”製作者”しか知らない抜け穴で結界を抜けている。学院側が想定しているわけがない。

 ”製作者”である父祖はともしびの炎に気づいただろうか。

 いや、あのひとはいつも泰然としていて、悪く言えば何物にも特に興味を持っていなかったからどうだろう。

 ロゥク・ルゥの計画は、かれの、というよりどちらかというと魔族たちが主導のように見えるほど放任されていた。

 父祖はふらりと現れたかと思うと、盤面を理外のちからで掌握し、またあの地下庭園に戻っていくことばかりだったのだ。

 

 だから、あのひとの動向なんて考えても無駄だ。

 けれど、魔族たちの思考回路ならルクレでもまだいくらか予想ができる。

 きっと、ノスティークはイウミュアナを殺した誰かを許さない。

 絶対に。

 

「とにかく、あの時も言ったけど、こうなってくると学院側に手引きした人間がいる可能性が高い。万が一でも魔族に知られないようにおまえの魔力のことは隠しておかないといけないけど、だけどまたああいうことが起きた時のために使えるようにしておかなきゃ」

「おう、そうだな」

 

 裸の少女にまたがられているという目の前の状況をすっかり忘れているのだろう。真剣な顔で頷くシャニを見て複雑な気持ちが胸を渦巻いた。

 思わず漏れかけたため息を必死に押し殺す。

 時間も無限にあるわけではないことだし、そろそろ「本題」に戻ってもらうとしよう。

 

「だけどさ、あんな風に悠長なことをまさか毎回するわけにいかないでしょ? だいたいそのとき僕が傍にいなかったら終わりだ。つまり、早急に対策を講じる必要があるってわけ」

「た、対策って……」

「性交渉。それとも……僕じゃ嫌?」

 

 両手でシャニの手首を掴み、胸元に導く。強張る指先を無視して、掌に体を、胸をぐっと押し付けた。シ

 ャニの日焼けしてかさついた指がふにふにした白い脂肪に埋もれる。

 こんなもの、自分で触るのと大差ない。

 そのはずなのに胸の下ではうるさいくらいに心臓が鳴っていた。

 ──これは、緊張しているだけだ。

 さすがの自分も、こいつに抱かれてやることになるなんて想像したことなんてなかったから。

 体はもちろん心の準備もしたけれど、それでもまだちょっと緊張していることは至極自然なことだ。

 それに、こんなことぜんぜん、まったく、これっぽっちも、恥ずかしくなんかない。

 今の己の行動がまるで手慣れた商売女のようなものであることなんて気にならないし。それをシャニがどう思うかなんて、くだらない。

 これは、そう。儀式。ただの儀式の一環だ。

 体を繋げることで魔力路をも繋げて、二人分の魔力を循環させることで路を拓く。

 今から始まるのはそういう、感情を伴わない行為だ。

 ルクレティウスはそのためにニアから十二分に魔力をもらってきた。

 なんなら潤滑剤だってすでに仕込んでいる。

 準備は万全。後はシャニが勃たせてくれさえすればいい。

 そんな己の体がかすかにけれど確かに震えていることに気づいて、ルクレは思わず掴んでいた手を取り落した。

 

「……っ! とにかく、この僕が、お前なんかにこんなことしてあげるんだから光栄に思えよ!」

 

 口ではそんなことをのたまいながら、なんとなく目を合わせがたくて視線をそらす。

 ──悟られなかっただろうか。

 一瞬そんな言葉が頭をよぎったが、ルクレはすぐに己の思考を一笑に付した。

 気づくわけがない。この鈍感男が。

 たとえ震えていることに気がついたとしても、夜風の冷たさのせいくらいにしか思わないだろう。

 そこにすがるような祈りが込められていることに、少女は気づかない。

 

「レティ。なぁ、レティ」

 

 腹立たしいことに、シャルナノークはどこかあやすような声色で名前を呼ぶ。

 いよいよ目を合わせたくなくてルクレは顔を背けたまま深く伏せた。波打つ髪は頬をさらさら流れて表情を隠してくれる。

 なのに、まるで帳のように降りた藍色をかきわけて、シャニの手がするりと伸びてきた。

 剣胼胝だらけのてのひらがルクレの頬に触れる。

 その手はいつも変わらない。

 傷だらけで、誰にでも優しくてあたたかくて、──吐き気がする。

 それでもずっとこうしているわけにはいかない。

 ルクレが渋々顔を上げて向き直ると、そこにはなぜかやけにやわらかい眼差しのシャニがいる。

 

「あー、その、悪かった。寝起きで頭が回ってなくてな」

「……はいはい。別になんでも良いけど? とにかくさっさと済ませよう。時間、ないんだから」

「ああ。わかった、わかったよ──怖くなったら、言ってくれ。なるべく、優しくする」

 

 ルクレティウスを見つめる橙色の目の底で、じりりと何かに火が付いた。

 












ぎりぎりセーフ、セーフだよね?ハーメルンくん?
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