「スカウト……! 何でこんな街中に鉄血が……!? 」
M200は目の前の敵に驚きを隠せずにいた。これまで自分達が街中から郊外まで仲間のドローンを活用しながら哨戒し、不審な鉄血兵や識別不能な違法ドローンが確認されれば直ぐに撃退して街中への侵入を阻止してきた。
自分達【野良人形連合】として滞在している人形の数は少ない。けれども、それなりに広いR08地区を防衛するにはやるしかなかった。
だが、今日この日を以てその防衛線は破壊された。
たった5機の鉄血機械兵・スカウトによって――。
M200はショックで膝を付いて座り込でしまう。
その姿に振り返ったギムレットが気付く。
「M200、早く皆に連絡を取りな! 」
「でも……! 」
「でももへったくりも無いよ! 君は今銃を持ってない、私も今は対抗手段が無い。警察が来れば多少はマシになるかもしれないけどコイツ等への専門家って訳じゃない。ちゃんとした対抗手段を持つ君達【野良人形連合】がやらなきゃならない『仕事』だ! グズグズしてると後からどんどん来るかもしれないよ!? 解ったらさっさとやる! 」
「わ、分かりました……! 」
ギムレットの喝にM200は立ち上がって少し後ろへ移動してから仲間へ通信を始める。
「こちらM200、南部メインストリート内で鉄血兵スカウト5機侵入! こちらは銃を持っていません、至急応援を要請します! 」
『了解!敵の動向を注視しながら市民の避難誘導を優先してください! 他に誰か協力者はいますか!? 』
「ギムレットさんがいます! 」
『分かりました、彼女と共に到着まで持ち堪えてください! アウト――』
仲間との通信を終えたM200は急いで市民の避難誘導に奔走する。先ずはパニックになって逃げる途中で転倒したと思われる市民達を介抱して建物の陰に一旦移し、その後また表に戻って手を振りながらギムレットを見つめる者達に対して屋内や物陰に隠れるよう指示していく。
一方で5機のスカウトと対峙しているギムレットは相手との睨み合いが続いていた。プライベートな恰好で護身用の銃も携帯していないため、相手が撃ってきた場合同じ射撃での反撃は出来ない。しかし、彼女には別の護身用として「あるもの」が搭載されている。
今はまだ膠着状態だが、何かしらの切っ掛けで膠着状態が破られるのも時間の問題だろう。それと同時にギムレットはM200に指示した時以外ずっとスカウトから目を離していなかった。
そこへ――、
「いたぞ! 」
複数の足音と共に3人の警官が現場に到着した。紺色の制服に「AREA R08 POLICE」と書かれた黒い防弾チョッキを着ており、腰回りには拳銃が収められたホルスター、警棒に手錠と「警察」を名乗る者として最低限の装備はしていた。
先頭に立っているちょび髭を生やしたやや小太りの男が上司だろうか、他の2人に比べ見た目で見る限り歳がいっている風に感じる。対して後ろの若い2人……特に上司の左後ろにいる方は鉄血兵を見るのが初めてなのか、自分の顔ほどもある全長のスカウト群をみてビビっている。しかも、上の指示が出るよりも先に拳銃をホルスターから抜いて構えた。
「(余計な事はしないでよ……? )」
ギムレットはその若い警官がスカウトに向けて銃を構える際、上司ともう一人の若い警官が僅かに遅れて銃を抜いて構える間にハンマーを倒したのを目撃、いつでも撃てる状態を他2人よりもビビりながらも早く完了していた為、「下手に刺激するな」という意味も含めて彼に向って睨み付けた。
だが、当の本人はギムレットに目は行っていない。
その時、1機のスカウトがその警官に正面を向けた。
「ひっ……!? 」
急に機体を自身に向けられた彼は危うく発砲しかける。
だが――、
「落ち着け! 奴はまだこちらに機体を向けただけだ。正対している相手が誰だろうと何だろうと怯むな! それでも警察官か!? 」
「主任の言う通りだ。先ずは冷静になれ、ゆっくりと距離と視線を保ちながら配置に付け。――そこの青髪のお嬢さん、後は我々に任せその場から離れて頂きたい。」
「…………。」
ビビりの警官に対し、小太りのちょび髭男が喝を入れる。さらに続けてもう一人の若い男が冷静に戒めるように諭す。また、ギムレットに対してもその場から離れるよう指示をした。
冷静な若い男が小太りの男を「主任」と呼んだあたり、小太りの男は「主任巡査」、冷静な若い男の方は言動から考えるとビビりの警官と同じか1つ上くらいの階級なのかもしれない。
ギムレットは両手を上げながら言われたとおりにスカウト達の前から後退った。
その時、別のスカウト1機が思いもよらぬ行動を起こした。
「!? 」
ギムレットの反応が遅れた。そのスカウトは素早い動きで彼女のすぐ脇を掠めるように移動、その移動先には例のビビり警官。彼に向かって急接近していく……!
「う、うわぁぁぁぁっ!! 」
パアァン!!
乾いた銃声が街中に響き渡る。
ついに恐怖心によってプッツンしてしまった彼が発砲してしまった。だが、弾丸は動きの素早いスカウトに当たるはずもなく、射線上にあった建物の壁に弾痕を残した。
「はぁっ……はぁ…っ……」
極限状態に陥った彼はもはや理性を失っている。そんな状態でさらに次弾を撃とうとハンマーに指を掛けて倒そうとする。
「落ち着けぇ! 」「止めろ巡査ぁ! 」
「はぁっ……しに…死にたくない……」
必死に呼び掛ける同僚の声にも反応せず、ただただ死ぬかもしれないという恐怖に怯え、震えながらもハンマーを倒しきり、ふよふよと浮いているスカウトに銃口を向ける。
そしてそのままトリガーに右人差し指を掛けた。
その時!
ドカッ!
「ぐあっ……!? 」
彼の身体が突き飛ばされ拳銃が両手から離れた。
ギムレットが彼を横から突き飛ばしたのだ。
「余計な事を……! このバカタレが! 」
そう突き飛ばした彼に罵声を浴びせ、彼女はそのまま飛び込み前転をしながら素早く落ちた拳銃を左手で拾った!
「か、返せ……! 返せよっ! 俺が……殺されてもいいのかよ……!? 」
(カチン)
一歩間違えれば遠くから状況を見守っている市民や同僚の警官、避難誘導していたM200にまで危害が及ぶ所だったにも関わらず、自身の命の保身だけに「(取り上げた拳銃を)返せ」と叫ぶこの男にギムレットは怒りを露わにし、彼にその取り上げた拳銃の銃口を向けた。
「ひっ……!? 」
「そんなに命が惜しいのなら何で警察官になったのさ? スカウトに撃った弾、あの先にもし市民がいたらどうする? あんたが見慣れない鉄血の機械兵にビビるのも自衛に走るのも勝手さ。だけど冷静さを失って『死にたくねぇ』という自己中な考えで面倒事を増やすなよ! 優先順位も判らねえ人間が警察を名乗るな! こいつ等の相手はちゃんと実戦経験のある私がやる。そこで黙って見てな! 」
「……! 」
突き放すような強い口調で彼に説教をし、そのまま振り返って再びスカウト達と正対する。そして右手に拳銃を持ち替えると……――、
[
電子音声と共に、今握っている拳銃の情報がギムレットの電脳内に流れ込み、それらが全てインプットされた。
「(SP2022……使ってるのは.40S&W弾の方か。装弾数は……あのおバカさんが撃った分を含めて13、残り12発分。1発、いや2発で正確に当てれば余裕はあるかな……。それにしても、R08地区の警察組織は独特だとは聞いていたけど本当にその通りだね。さてと、コイツを持ったからには、きっちり『仕事』をしないとね。)」
【緊急烙印】の意味が示した通り、1秒にも満たない速度で全ての情報を処理し終えたギムレット。
左手をグリップの底面に添え、SP2022を顔のやや側面に構えてゆっくりと建物を背にするような位置に移動、スカウト達もギムレットの動きに合わせて向きを変えたため、これで彼女以外の者への被害は一応避けられる形となった。既にハンマーは倒されているからいつでも撃てる。
すると、さっきビビり警官に突撃していたスカウトが彼女に向かってくる。
パァン!
ギムレットは慌てず動かず、冷静に正確にそのスカウトの本体部分に一発撃ちこんでいく――、ショートし機能停止して地面に落下すると、それまで浮遊して待機していた残りの4機がギムレットを「脅威」と認識したのか、一斉に機敏な動きに変わって襲い掛かる。
「さぁ……掛かっておいで! ガツンと強いのをお見舞いしてあげるよ! 」
残ったスカウト達の一斉射をあちらに負けないくらいの速さで前転回避し、向こうが振り返る前に次の動作を完了させ、そのまま一番近い奴を追加で仕留める。
ここまでは順調だ。
下級メカとはいえ、鉄血側のAIにしっかりとした学習プログラムが搭載されているならば、2体落とされた時点での彼女の動きを学習し、残った機体達で連携を始めてくるはず。そうなれば、ここからはたとえスカウトでも油断は禁物になるだろう。
そしてその読みは見事に的中する。
様子見と小手調べのつもりでやってきたであろう動きが、まるで嘘のように連携の取れた動きに変わった。おそらく生き残っている個体のどれかがMFでギムレットの動きを学習、ダミーである残りの機体と同期して情報共有したのだろう。
どれがMFなのかを悟られないように出鱈目な動きをして攪乱させてくる。
「チッ……、ようやく本番? 本気になるのが遅いんじゃない? 」
既に撃破された相手のダミーを蹴っ飛ばして退かす。
「(あぁもう、ボスのやつ『あの時』以降変なリミッター掛けてくれちゃってさぁ……! お陰で全部相手にする羽目になってるっての! あれさえあればMFの看破なんて楽勝に出来るのに! )」
心の中で自分の上司に対して悪態をつきながら、スカウト3機の攻撃を回避していく。それでも冷静かつ慎重に相手の動きをよく観察し、MFとダミーを見分けようとする。
「す、すごい……。」
M200はそれ以外の言葉を出せなかった。
「…………。」「…………。」
「……一体、彼女は何者なんだ……? 」
警察官達も彼女の戦いにただ驚きを隠せずにいた。
そんな彼・彼女達を後目にギムレットは戦闘を続ける。相変わらず相手側の攻撃は絶え間なく来るが、それらを余裕で躱し、相手の隙を見極める。
すると1機が足下を掠めるようにして移動してきた。当然それを見逃すはずもなく、彼女は完全に抜ける前に素早くトリガーを引いて発砲。本体には当たらなかったものの左サイドに搭載されていた二連銃の破壊には成功。左右のバランスを失いふらふらと上昇しようとするその機体にさらに追撃して完全に沈黙させる。
それでも他2機は機敏に動いていたから、どうやらコイツもダミー機のようだ。
「チッ……。」
舌打ちしながらも次の為にハンマーを倒す。
自分が銃を使用してから消費した弾は計4発。残りは8発、順調且つ余裕が残るがまだ油断は出来ない。
残り2機――、単純な確率で言えば50%。
だが、今日は運の悪い方を引きそうだ。
折角の休日、まだまだあったM200との再会と交流を楽しむ時間を潰され、おまけにまた左腕に鈍痛が走り始めた。
護身用に搭載されている「あるもの」を使ってもいいが、そうすると余計な事を引き起こしかねないので使用は却下。
頼れるのは特殊なものを使わなかったこれまでの戦闘経験のみ。
その時、自身の視界にある違和感を覚えた。
「あれ? 」
目の前に浮かぶのはたった1体のスカウト。
もう1体がいない。
辺りを見回してもそれらしい影も形も見えない。念のためM200や警察官達に目をやるが、皆が首を振って消えたスカウトの行方を追えてなかった。
しまった……!
ギムレットは今初めて自分が足下を通過しようとしたダミー機の撃破に気を取られ、他の2機の動きを把握するのが遅れたと気付く。
「くそっ! やらかした……! 」
自身の不甲斐無さに怒りを滲ませる。だが、感情を露わにしたところで状況が変わる訳でもない。もしかしたら、今残っているこの機体こそがMFかもしれない。それに賭けてギムレットは体勢を整える。
丁度その直後、M200の許へ――、
「M200、状況は? 」
「あっ、グローザさん! 今、あそこでギムレットさんが戦闘中です。ですが、スカウト1機を見失ってしまったらしく……。」
「見失った!? どういう事? 」
「ギムレットさんが足下を通過しようとしたスカウトを破壊した直後、ギムレットさんを壁にする形で裏に回ろうとしたスカウトがいたんです。でも、僕達やギムレットさんの死角に入ったそのスカウトが姿を現すことはありませんでした。」
「そう……。」
M200の応援要請から20分経ってようやく駆け付けたグローザことOTs-14。彼女から状況を訊き、ギムレットの方を見る。地面に転がっている3機のスカウトを見て――。
「(ハンドガン一丁であの動き……、以前会った時に只者じゃないとは思っていたけれど、それを遥かに超えているわね。うちのハンドガン人形にも経験豊富な子達はいるけど、あの子達には出来ない動きね。まるで……鉄血の『ハンター』みたいな動き……。)」
グローザは半分訝しむような眼でその戦いを見ていた。
一方、ギムレットは目の前のスカウトの動きに翻弄されかけていた。少し焦りが出てきたのか冷静な対処がしにくくなってきた。
パァン!
チュイン……!
ギムレットが撃った弾は僅かにスカウトの足の様に見える部分を掠めた。少しだけ本体が傾いたもののすぐに持ち直して自慢の機動力でさらにギムレットを翻弄、その合間合間に射撃をして彼女の隙を大きくしようとする。
パァン!
チュイン……!
パァン!
チュイン……!
2発目、3発目と撃つもそれらはスカウトの本体を掠めるだけに止まり、有効な決定打を与えられずに苦戦する。
しかし、決してそれは無駄撃ちにはならなかった。
カスダメでもやはり機械も損傷というものには嘘を吐けないようだ。1発目が掠った時はすぐに持ち直して素早い動きを継続していたが、その後の掠り弾が何処かの伝達系に損傷を与えたのか、先程までの機動力が失われつつあった。
それを見たギムレットは弱くなった動きに合わせて止めの一発を発射。完全に本体部分を捕らえ破壊、ガシャン! と地面に落下した。
「やった……!」
「すげぇ……。」
戦いの一部始終を見ていた警官達は歓喜する。M200とグローザも少しだけ安堵した表情を浮かべた。
ギムレットは直ぐに撃破したスカウトの許へ駆け寄り、その機体に触れた。
だが……、
「!? 」
機体の違和感を察知すると、直ぐに立ち上がって辺りを警戒した。
「「「「「……!?」」」」」
彼女の反応を見た5人がビクッとする。
やはり、まだ終わっていなかった。
ギムレットが最後に撃破したスカウトもダミーだった。これで先程消えた1機がMFである事が判明した瞬間だった。
キィィィィィン
小さな駆動音と共に最後のスカウトが再び姿を現した。
「なるほどね……。」
ギムレットはすべて理解したという表情で呟いた。
グローザも念のために自身の半身である実銃を構える。
最後のスカウトは先ずは牽制とばかりに攻撃を仕掛ける。そしてすぐに移動して別の角度から射撃、さらに移動してまた別の角度からの射撃を繰り返していく。
ギムレットも負けじとそれに一個一個対応していき、移動先を予測しながらその先に銃を向け、「いつでもお前を仕留められる」という意思表示をしていく。
その攻防が何度も繰り返された所で状況が動いた。
スカウトがギムレットの正面に留まった。
「ようやく観念? なら、遠慮なく終わりにさせてもらうよ。」
そう言ってハンマーを倒し、しっかりと照準を合わせ……パァン!
乾いた銃声が響く。
しかし……!
その弾丸が届く前にスカウトがまた姿を消し、弾はその正面の建物の壁に命中した。
「なっ……!? 」
流石のギムレットも驚愕した。また奴の罠にはまってしまった。
そしてまた何処かに姿を現している筈だと思いながら辺りを見回していく。
その時――、
「後ろよ、伏せて! 」
「!? 」
タタタッ……!
ガガガッ! ガシャァン……!
グローザの声が聞こえ、その通りに伏せると、連続した射撃音と命中音、そして物体が地面に落ちた音が順に耳の中に入ってきた。
ギムレットが顔を上げ、自身の後ろの足下を見ると、そこには複数の弾痕が命中した最後のスカウトの残骸が落ちていた。
「ふぅ……。」
「間一髪だったわね。」
「助かったよ……グローザさん。」
「白々しい呼び方はやめて頂戴。」
「あはは……。」
歩み寄ってきたグローザに礼を言い、少し言葉を交わす。
ギムレットとスカウトの戦いはこれで終わった……。
一番銃の描写に苦戦した……(あと警察)。
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