LOST MODEL   作:瑠璃の炎

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第9話:ギムレット②

 

――R08地区・南部メインストリート

 

 5機のスカウトとの戦闘が終わり、段々と建物から避難していた市民達が出てくる。

 

 ギムレットはグローザ、M200との話を終えると、借りたSP2022を(今回の騒動を余計に拗らせてくれた)例の警官に返却し、グローザが最後に撃破してくれたスカウト(MF)の所まで戻り、何やら調べ始めた。

 駆け付けてきた警官達の方は、主任であるちょび髭小太り男の指示の下、スカウトが現れた当時の状況等を詳しく聞き込みをしていた。さっきまでスカウトにビビり、ギムレットに恫喝された若い警官も、ようやく落ち着いて本職を全うしている。

 

 それからしばらくして、警察が目撃者からの聞き込みが終わったその時――、

 

 

「どういう事だよ! 鉄血の奴らはあんたら【戦術人形】が街の外で倒してくれるんじゃなかったのかよ!? 」

「そうよ! どうしてあんな物が街の中に入って来ているのよ!? 」

 

 

「「「そうだそうだ! 」」」

 

 

「っ………! 」

 

「市民の皆さん落ち着いてください……! 」

 

「駆けつけておいて何も出来なかった警察は黙っていろ! 」

「役立たず! 」

「お前らこそ戦術人形任せにしていて恥ずかしくねえのか!? 」

 

「くっ……。」

 

 

 最悪の展開になってきた。今まで街の郊外までで鉄血兵の進行を食い止めていただけに、今回の失態によりそれ担当していた【野良人形連合】のM200もグローザも顔をしかめながらも言葉を返せずにいた。

 さらに、彼女達へのヘイトを抑えようと止めに入った警察も、市民からの通報で現場に駆けつけておきながら、警官としてあるまじき失態を犯した者、また戦闘経験があるとはいえ今は一般市民として過ごしているギムレットに拳銃を取られてその後の戦闘を黙って見ていた、など本来こういった事態を処理しなければならない側としての責任を追及される形で市民達から猛反発・猛抗議を受けてしまった。

 

 もっとも警察側に対しては本当に擁護する気が起きないほど醜態をさらしてくれた奴がいたわけだし、市民の怒りと落胆をぶつけられても仕方ない。

 

 問題は【野良人形連合】の方――。

 流石に警戒不足だったとはいえ、ここまで詰め寄られてるのは可哀想だと思い、ギムレットはスカウトの残骸を持って市民達の対応をしているM200達の所へ向かった。

 

 

――一方、市民達に詰め寄られ、その対応に追われているM200とグローザは……。

 

「何とか言ったらどうなんだ!? 何で鉄血の奴らが街中に侵入したんだ!? 」

「本当に貴女達は処理をしているの!? 」

「また、俺達に『あの日』の悪夢を見せるつもりなのか!? 」

 

「うっ……どうすれば……。」

「どうする事もで出来ないわ……。私達だってその原因が判らないもの……。」

 

 

 怒号と失望の抗議が彼女達の聴覚システムに騒音レベルのエラーを吐かせる程にまで達する。外からの劈くような声とシステムからの警告音によって頭が焼き切れそうになる。

 あれから数ヶ月経ったとはいえ、大切な人・物を喪った経験がある市民、そうでない市民――鉄血がもたらした恐怖、大切なものを奪われた悲しみそして怒りは今残されたR08地区の市民にとって忘れ難き出来事である。今回の騒動で、あのような出来事がもしかしたらまた起きるのかもしれないという不安とストレスからくるその声は、彼女達に大きな責任として叩き付けられた。

 

「まぁ、皆さん、一度怒りを鎮めて落ち着いて。先程起きた騒動は私の方から説明するからさ。」

 

 場の空気を読めてない軽い口調でギムレットはスカウトの残骸を片手にM200達の背後からやって来て、怒りに満ちた市民達を宥める。

 

「ギ、ギムレットさん……? 」

 

「あんたは、さっき戦っていた……。」

 

「初めまして、私はこの地区で仕事をしているギムレット。先ずは順を追って話をしたいから、最初にこの鉄血機械メカ『スカウト』を目撃した人はこの場に居る? 」

 

 落ち着いた口調でギムレットは市民達に自己紹介をすると、最初の目撃者に名乗り出るよう要請した。すると――、

 

「最初に見たのは俺だ。」

 

 細マッチョな体型の茶髪の男性が密集している皆をかき分けながらギムレットの前に名乗り出てきた。

 

「出てくれてありがとう。では最初に貴方は何処でコイツを目撃したの?」

「そこの建物の屋上からゆっくり落下してくる所を見たんだ。この辺りは民間用ドローンを作ってる小さな製作所が幾つかあるからな。はっきり姿を確認するまでは、どっかの製作所が試験的に動かしてるもんだと思ってた。そしたらこんな事になっちまった。」

「なるほど。因みにここの建物に業者は? 」

「いや、何年も前から空き物件の筈だが? 」

「分かったわ、どうもありがとう。」

 

 目撃者の男性の証言を訊くと同時に、ギムレットは男性が嘘を吐いていないかどうかを確かめるために、自身に搭載されている嘘発見システムを密かに起動し、同時並行して調べる。話を聞き終えるまでの間、彼は嘘を吐いていない事が判り、この証言は信憑性アリと判断した。

 それを踏まえた上で、彼女は市民達への説明を始めた。

 

「さっきまで皆が騒いでいる間、私はこの機体を解析していたけど、結果この機械メカはS地区のとある鉄血製造工場で製造された個体だという事が判った。しかし残念だけど、この個体はその工場で起動しこのR08地区に来訪したという記録はなかった。」

「「えっ? 」」(ザワザワ…

「? どういう事?」

 

 ギムレットの説明した内容に疑問を持ったグローザが質問した。

 

「このスカウトは『人為的に持ち込まれたもの』という事。ダミーを含めてね。そしてここで起動させられた。起動するまでは貴方達のセンサーには一切反応しないから、TACさんのドローンでも発見は出来なかったかもね。」

「じゃあ、一時的に消えていたのは? 」

「あれはステルス機能が搭載されていたみたい。まぁ、これも起動するまでは使えない設定のようだね。だから『私達が見失った』と錯覚したんだ。」

 

「つまり俺達が普通に過ごしている間に誰かが、そのよくわからん機械を持ち込んだっていうのか!? 」

「現状はね。ただ、今ここにいる皆で犯人捜しをするのは得策じゃない。R08地区はこの市街だけでもそれなりに広い地域だし、他地区からの出入りも多い。この騒動を起こして直ぐに街の外に出ている可能性も否定は出来ないから、今はそういう気持ちを抑えて欲しい。」

「じゃあどう対処するんだ! 」

「このまま有耶無耶なままでいたら私達の生活がまた危うくなるわ! 」

 

 また市民達の怒号が始まる。

 

 

「『落ち着け』……、さっきそう言ったよね……? 」

 

「……!? 」

 

 声色を低くし、彼らを睨み付けながらギムレットは一言放つ。

 その威圧感で再びその場が静かになった。

 

 

「さて、静かになった事だし、この後の事でも話しておこうか。」

「この後……って、俺達はどうしろっていうんだ? こんな事起きてまたいつも通り平静を保ちながら生活しろって言うのか? 」

「平穏と命を守りたかったらさっさとこの地区から出てグリーンエリアへの永住パスポートでも取得するんだね。コーラップス汚染で世界の半分以上が住みにくい地域になったうえに、人類に反旗を翻した鉄血工造、そしてE.L.I.D.……。どこ行ったって安全なんて場所も保証も無い。そんなもの100年も200年も前からずっと繰り返し言われてきた事じゃないか。」

 

 静かに現実を突き付ける。

 

「今回の件の後始末は、私と彼女達【野良人形連合】、そして警察とで処理する。そして侵入原因等について判明したら警察を通じて街全体に周知、さらに、不審な荷物を持っている者を目撃したら通報するよう伝達もしてもらう。貴方方は正確な情報が出るまで、なるべくこの件を知らないであろう他区域に住む市民達への余計な話や噂を流さないようにしてほしい。もし何か訊かれたらうまく誤魔化してもらいたい。――少なくとも、今我々が出来る事はこれくらいだから。じゃ、一度この場は全員解散。」

 

 

 ギムレットは今後の話を簡単に伝え、彼らに現場から離れるよう指示した。

 彼女の話を聞いた市民達は、納得と不満が入り混じった表情をしつつもその後の解散指示に従って一人、また一人とその場から散開していった。

 今残っているのはギムレットと、M200、グローザ、そして警察官3人だけとなり、ようやく真面な話が出来そうな状況になった。だが、暫く沈黙が続いた。

 

 

「それで? 一旦事態を収めるのは良いけど、貴女これから何をどうするつもり? 」

 

 最初に沈黙を破ったのはグローザだった。

 懐疑的な目でギムレットを見て今後の見通しを訊ねる。ギムレットもまた、彼女からの質問に対し、少し間をおいてから口を開く。

 

「何って、さっき市民の皆さんに説明した通りだけど? それとも、私が『まだ何か隠しているんじゃないか? 』って言いたいわけ? 」

「えぇ、まぁ否定はしないわ。」

「全く以てその通りだよ。でも今ここで話す内容じゃない。そんな事より……、あんたら何時までそこで突っ立てるのさ? 可愛い可愛いお人形さんの立ち話盗み聞きしてる暇あるんだったら、警察らしい仕事しなさいよ。ほら、そこの建物の屋上調べるとか、怪しい業者調べるとかさぁ~? 誰のお陰で被害を最小限に抑えられたと思ってんのよ? 」

「ぐっ……わ、わかった。すぐに捜査を開始する……、行くぞお前達。」

 

 グローザの質問に答えつつ、さらに警察官の彼らに嫌味ったらしく文句を言い放つ。主任と呼ばれていたちょび髭の男は眉間にシワを寄せていたが、何か反論をする事も無く素直に部下を引き連れて、先程の市民男性が証言していた無人となっている建物の中へ入って行った。

 

「……私達も行こう。ここでは話せない内容もある。場所は……、君達の拠点でもいいよね? 」

 

「え、えぇ……。」

 

 ギムレットは彼らが建物の中に入って行くのを見届けると、そのままグローザとM200の肩をポンッと軽く叩いてそう言葉を掛けてその場を後にする。

 

 そんな彼女を追い掛ける形でグローザ達もその場から離れた――。

 

 

 

 

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――30分後

――【野良人形連合】拠点ホテル

 

 スカウト遭遇&撃破現場から戻って来たグローザとM200、そして話し合いの場として此処を指定したギムレットが丸テーブルを囲んで座っている。そこから少し離れた位置のテーブル席でTAC-50とIWS2000をはじめとする他の人形達がギムレットが回収したスカウトの残骸を見ていた。

 

「ステルス機能持ち……また厄介な性能持ったのが出てきたわね……。ただでさえ夜戦任務で遭遇する個体ですら厄介なのに……。」

「消えるとなると、流石にあたしの焼夷手榴弾でも仕留められないかな……。」

「もぅ! Vectorはすぐ焼き払う思考に持っていかないで! 」

「冗談なのに? 」

「冗談でも! 」

「私は誰が来ても構いませんけどね。敵を皆殺しに出来るなら何でもいいですよ…。」

 

 動かないスカウトの期待を前に、真面目に考える者、笑えない冗談を言う者、サイコパスな発言をする者――。

 そんな彼女達を後目に、グローザ達はコーヒーを飲みながら先程の件について話し合いを始める。

 

 

「さっき訊いた事だけど、あの現場で話せない事って何? 」

「うん、あのスカウトが製造された工場の事なんだけどね……。」

「工場? S地区のどこかにあるって言っていたあの工場がどうかしたのかしら? 」

 

 

「…………あのスカウトーー、例の『大規模襲撃』に動員されてた鉄血人形達と同じ工場で作られた奴だったんだよね……。」

「「えっ!? 」」

 

 ギムレットの口から出た言葉にグローザとM200が揃って驚く。

 

「M200の紹介で初めて君と対面して情報交換した時の事覚えてる? 」

「えっと、『襲撃事件に乱入した【例の人形】の正体が同じ鉄血人形だった」……とかの話をした時の事よね? 」

「そう。あの事件当時も幾つかの鉄血人形をスキャンして何処から来たのか? ってのを調べてたんだけどね。今回のも同じ工場のシリアル番号が記録されていた。具体的な座標までは今回も特定できなかったけど、今日この日までに出てきているニュースやラジオでグリフィンが新たに鉄血工場を破壊・制圧した報道が全然無い事を考えると、まだその工場はグリフィンが把握してないか、把握済みで作戦を実行しているが中々制圧できない状況下にある、のどちらかだと思うんだ。」

「前者は解るけど、後者は流石に今のグリフィンの活躍からしてそこまで苦戦を強いられる程じゃないでしょう? 」

「どうかな……。前に話した識別偽造に加え、あんな偵察用の下位機械兵にまでステルス機能を搭載させるくらいだ。それにうちのボスから聞いた話によれば、強化された鉄血ボスや強力な固定砲台の存在も確認されているらしいし。まぁ、工場や兵器なんて今の時代いくらでも表面とか性能は騙せるからね。だから偶に軍とかPMCと繋がりの全くない弱小企業とかが保有してて問題になった事件も出てくるくらいだし。」

「……………。」

「……………。」

 

 グローザもM200はギムレットの話にポカーンと口を半開きにしたまま言葉を失ってしまう。

 

「あれ……? 私なんか不味い事言ったかな? 」

 

「あ、いやそういう訳じゃなくて……。」

「グリフィンの所属じゃないから、考えがそこまで頭が回らなかっただけよ。ただ――」

 

「ただ? 」

 

「グリフィンが該当の工場を制圧完了しているならば、何者かがスカウト以外の鉄血残党を非起動状態か見た目を偽ってR08地区を含めた周辺地区に流している可能性が高いし、工場制圧が終わっていないのならまだ其処から脅威は出続いている事になるわ。」

「そういう事になるね~。」

 

 

バンッ!

 

 

「『そういう事になるね~』って、貴女どうしてそんなに呑気に言うのよ? 人命が掛かっているのよ!? 今回の件も市民が死傷してもおかしくはない状況だったのかもしれないのよ!? 」

 

 へらへらとしたギムレットの態度にグローザは机を叩いて強い口調で非難した。彼女が机を叩いた事で、スカウトの残骸を見ていた他のメンバーが驚いてそっちの方を見る。普段冷静な振る舞いをしていたグローザが感情を露わにして怒っている事が、それを見た連合内の彼女達にとって非常に珍しかったからだ。

 しかし、ギムレットの方も詰め寄るグローザを前にその態度を崩さない。

 

「今回の件で『人命が失われる確率』は限りなく0に近かった。」

「何の根拠が……!? 」

「根拠は私だ。――あのスカウトがもし、人の命を奪う目的で起動させられたのであれば、私とM200が悲鳴を聞いて店外に出るまでの間に犠牲者がいてもおかしくない。私が奴らの前に立ちはだかった時も私を『攻撃対象』として仕掛けてくる事はなかった。後から来た警察の時もそうだ。ビビり散らかす警官に対して高い機動力を活かした急接近だけで攻撃に転じていない。命を奪うなら接近してそのままヘッドショット喰らわす筈さ。」

 

「それは僕も同じ意見です。」

「M200……。」

「もちろん、ギムレットさんの推測が全て正しいとは言い切れません。けど、今日の事件をほぼ最初から見た側としては彼女の推測通りだと思います。僕が市民の避難誘導に当たっていた時、スカウトはずっとギムレットさんを観察する様にじっと動かず、僕や市民達には目もくれていませんでしたから。」

 

 ギムレットの話に続けてM200がその当事者としてフォローを入れる。

 そんなM200にグローザは「はぁ…」と小さな溜息を吐く。

 

「分かったわ。現場の一部始終を見てきた貴女達の事は信じるわ。私が来た時には既に交戦状態だったからそれ以前の出来事なんて判らないし、口出しする資格なんてない。ただギムレット、貴女に一つ忠告しておくわ。その軽い態度を改めないと、取り返しのつかない後悔をすることになるわよ。」

 

 そう言ってグローザは席を外し2階へ行ってしまった。

 

 

 

 

「後悔……か……。」

 

 

 

 彼女の忠告にギムレットが呟く。

 そして自身も席を立って「また今度来るよ」と言い残して建物を後にした――。

 

 外はすっかり日没の時間。空は紺色と紫色のグラデーションにやや薄灰色の雲とその隙間から幽かに星明りが見える。

 

 

 建物の明かりに照らされたメインストリートを歩きながら、ギムレットはその夜空を見上げる。

 

 

 

 

「後悔なんて、とっくにしてるよ……。」

 

 

 

 

 彼女の電脳裏には爆炎が広がっていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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