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――とある屋敷の庭
「マルクス、今戻ったぞ。」
「お父さん!お帰りなさい――って、隣にいるのは誰?」
「あぁ、今日からお前の世話と<友達>になってくれる人形の女の子だ。名前は……そうだな……。」
「お父さん決めてなかったの?」
「うぅむ…お前と同じくらいの年齢の子を探すのに手一杯だったものでな……。」
「じゃあ僕も一緒に考えるよ!」
大きな屋敷の庭、そこで紳士服を着た父親を車椅子に乗ったブロンドヘアの少年が出迎えた。その際、父親の隣にいる黒い半ズボン&紺色の薄手のパーカーを着た、やや赤みがかった灰髪を後ろで一つ結びにした少女に気付き、少年は父親に訊ねると自身の「世話と友達になってくれる存在」である事を聞かされた。しかし、肝心の名前をまだ決めて無かったせいでスムーズな自己紹介が出来ず、急遽少女の名前決めを始めるのだった。
「う~ん……女の子の名前かぁ…・・どうしよう……――。」
少年が両手を側頭部に当てて一生懸命考えている。と、その時だった――。
ヒュォォォォ……と心地よいそよ風が2人と1体の肌を撫でる様に吹いた。
「……⁉……そうだっ!<ブリーズ>!ブリーズっていう名前はどうかな⁉」
「ブリー……ズ?」
偶然吹いたそよ風からヒントを得たのか、少年は明るい表情に戻ってその吹いた風を意味する「ブリーズ」という名前を提案すると、ここでやっと人形の少女は口を開いた。
「そう!ブリーズ!」
「ほぅ…ブリーズか…。良い名前じゃないか。そうと決まれば、今日から君の名前はブリーズだ。いいかい?」
「『ブリーズ』………はい、わかりました。今日から貴方の友達としてお世話させていただきます……えっと……?」
新し名前をもらった少女=ブリーズが改めて挨拶をする。が、少年の名前を完全にインプット出来なかったのか、彼の方をチラッと困惑した表情で見つめた。
「『マルクス』だよ。マルクス=ウェールランド、よろしくねブリーズ。」
少年はブリーズが自分の名を思い出せないのを察し、しっかりとフルネームまで名乗って座った状態でお辞儀をした。
「マルクス……はい覚えました。こちらこそよろしくお願いします」
互いにお辞儀をして握手を交わす様子を見て、父親はうんうんと頷いて良いスタートが切れたと実感したようだ。
「さて、マルクス。私はこれからブリーズに色々とこの屋敷について教えねばならん。お前は彼女がある程度のことが出来るまでもう少し我慢してもらう事になるが大丈夫か?」
「うん!」
「よし。ではマルクスは先に中に戻って母さんと一緒にいなさい。私は彼女にこの庭を案内してくるからな。」
「わかった!お父さん、ブリーズ行ってらっしゃい!」
「行ってきます…マルクス。」
ブリーズは彼の父親の案内を受けるため、彼と一旦別れるのだった――。
(………00………)
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(M…00……)
「M200!」
「わっ⁉はいっ……!」
「ぼーっとして何をしているの⁉」
「す、すみません……ちょっと考え事をしてて……。」
少し赤みを帯びた灰髪の少女が自分を呼ぶ声に「はっ!」と我に返る。自身の前に立ちはだかるようにして、緑と橙色のオッドアイを持つ少女=TAC-50が少し怒った表情でこちらを覗き込む。M200はすぐに頭を下げ、持ち場に戻る。
「M200、何を考えていたのかは訊かないけど、これが本当の戦闘だったら貴女は一瞬で破壊されていた。ほんの一瞬の隙が命取りになる――よく覚えておきなさい。特に、私たち【野良戦術人形】は破壊されたらバックアップは出来ても、グリフィンに属していない以上それを入れる素体は用意できないのよ?」
「はい……本当にすみませんでした。グローザさん――。」
「解ればいいわ。TACのドローンがもう少しでこの辺りの哨戒も終わる。最後まで警戒を怠らないで。」
「了解です。」
持ち場に戻ると、今度は薄いオレンジ色の低めツインテールの大人びた少女=OTs-14、――通称・グローザが半分お説教をするように彼女に言い聞かせる。グローザは戦いの厳しさ、残酷さを身を以て知っている。
何故なら、彼女、そして一緒にいるTAC-50は先の鉄血大規模襲撃の戦場に参加し、倒れ逝く仲間や倒してきた鉄血人形の残骸を踏み越えて生き残った。傷ついた素体は派遣されてきたグリフィン部隊の温情で修復してもらったが、どの基地にも所属していない野良であるため、修復後はそのまま基地を立ち去るしかなく、R08地区に戻っては焦土&瓦礫の山と化した戦場跡を前に無力感を覚えながらも、散っていった仲間の為にもこの地区を守ると誓った過去がある。
しばらく警戒を続けているとTACのドローンが帰還。飛行ルート上および有効索敵範囲に敵影は確認されず、異常無しと判断された。
「今日の哨戒はこれで終了よ。TAC、M200お疲れ様。宿舎に戻りましょ。」
「お疲れ様。」
「お疲れ様です…。」
グローザが哨戒終了の宣言をする。それに対しTACとM200は返事をして自身の半身である銃の分解を始め、それぞれ入れてきたであろうケースに収納する。一方グローザは銃をしまうことなく帰投準備をしていた。
これは、帰投中のイレギュラーな事態に対応するためだ。
――だが、帰投中特に何もなく宿舎に戻れたので、比較的今日は平和だった。酷い時ははぐれ鉄血部隊と交戦し、終わったと思ったら街の不良達に絡まれたりとめんどくさい時もあったくらいだ。
3体が戻ってきた頃には既に昼が過ぎており、宿舎(代わり)であるホテルで待機していた他の人形達は食事を済ませ、のんびり各々過ごしていた。その中の1体――温かみのある銀髪で白を基調とした制服とマントを羽織った少女・IWS2000が「お帰りなさい」と声を掛け、グローザが彼女と話を始める。そこでTACとM200は別れ、各部屋に戻った。
「(何であの日の記憶が……)」
M200は任務中での事を振り返った。グローザにはオブラートに叱責され、TACにも少しばかり迷惑を掛けてしまった。
「はぁ……。」
天井を見つめる――。
「少し外出しよう。いつもみたいに『これ』を持って――」
そう言ってベッドの横に立てかけてあるもの――ギターに目をやる。任務中に見た過去の記憶。共に過ごした「彼」との思い出の楽器だ。元々彼の所有物だったが、彼は若くして亡くなってしまい、契約が解消され自身が戦術人形として改造される為にIOPに引き取られる前、彼の両親が形見とし譲ってくれた大切なもの。
彼女はそのギターを持って部屋を出て行った―――――。
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グローザ、TAC、M200の3体が宿舎代わりとしている元ホテルに戻った頃と同時刻――。
別のホテルの正面玄関から、取引先との面会を終えたギムレットが上着とネクタイを直しながら出てくる。そのあと少し移動してから右耳に手を当ててしばらく動かなくなる。
「―――こちらコード<LAZ-294-Gim>ギムレット。司令部へ、応答願う――。」
ピー……、と電脳内で通信待機音が響く。
『こちら
「久し振りオルガノ。ボスはいるかい?」
『ボスは今出掛けてます。新しく入った人形の子に例の『部品回収』の手伝いをさせているので。』
「新しい人形?」
『ええ、確か<Thunder>というハンドガンの子ですね。HGと言う割には物騒な銃を持ってましたけど……。――それはともかく、何かボスに報告事項ですか?』
「ああ。IOPの代表者と面会してきた。ボスがグリフィン指揮官だった頃から先方とパイプを作ってくれていたお陰でスムーズな取引交渉が出来たよ。前からボスが欲しいって言ってたやつの施設と技術を提供してくれるってさ。準備が整い次第連絡をそっちに寄こしてから工事しに来るって。だから少し騒がしくなるんじゃないかな?」
『本当ですか⁉ボスが聞いたら喜ぶと思います!』
「ははっ、そうだろうねぇ。」
通信越しにオルガノと呼ばれた女性の嬉しそうな声が聞こえる。
「あ、そうだ。オルガノ。」
『はい?』
「グリフィンに特別な任務とかそういうの請け負っている人形部隊っている?」
『少し待って下さいね――――、……………お待たせしました。完全なグリフィン所属では無いようですが、そういった特殊任務を請け負った部隊はいますね……。』
「どんな部隊?」
『いえ、それが詳細な情報が一切ありません。一体何なのでしょうね……。』
「もしかしたら……。」
『ギムレット……さん?』
「あ、いや何でもない。とにかく取引交渉は成立したからそれだけしっかりボスに伝えておくれ。私は引き続き自分の任務に専念するから。」
『わかりました。早く基地に帰還できる日が来るといいですね。』
「そうだね。じゃ、切るよ。ギムレット、アウト――。」
所属先との通信を終え、ギムレットは自身が滞在している家に向かった。
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面会したホテルを後にし、街の中心地である噴水広場に向かって南部メインストリートを進んでいく。
およそ10分ほどで噴水広場に付き、そのまま東部メインストリートへ道なりに進む途中、噴水近くで20人程の人だかりができていた。ギムレットは少し気になって少し人だかりの方へ歩を進め、遠くからその中心となっている人物を覗いた。
「(あれは……?)」
人だかりの中心に居たのは、少し前まで郊外で哨戒していたM200であった。慣れた様子で足を組みながらギターを弾いている。聴衆には老若男女問わず幅広い世代の人が集まっており、目を閉じながらその音色を聴いていたり、首や足を動かしてリズムを取ったりしている。
ギムレットは少し彼女の演奏を聴き、また歩を進めて東部メインストリートへ入り人混みの中へ消えていった。
そんな彼女の姿を、M200もまた演奏の最中にチラッと見てすぐに視線を手元に戻して集中するのだった。
この互いに気付かない状態での黙視による静かな出会いが、後に多少の紆余曲折を経て良き相棒の関係になる事を、まだお互いに知らなかった――。
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――少し前
ギムレットが後にしたホテルの一室で――。
「…………」
「な~にムスッとしてるのさ~416~?」
「別に……。さっき眼を合わせてきた人間が気に入らなかっただけよ…。」
「あ~やけにじろじろ私達を見ていた奴ね。ここがホテルじゃなかったら撃ち殺していたのになぁ~。」
「それは難しいかもしれないわよ9。」
「どうして45姉?」
「そいつ、人形よ。」
「えっ⁉だって『HUMAN』って表示されてたじゃん!」
「識別を偽っていたのよ。他の人形や電脳処理した人間が見ても『人間』だと認識するようにね……。」
「はぁ~何だよ~もう……。」
「そう落胆しなくてもいいわ9。多分だけど、そいつに一発拳でも鉛玉でもぶち込めるチャンスが来る日はそう遠く無いから。私の勘がそう言ってるわ。」
「私はさっさとこの地区での任務を終わらせたいくらいだけど……。」
「はいはい、ちゃんとG11の面倒最後までやってくれたら、クライアントが充分な休暇くらい出してくれるでしょうね。――そうすれば『あいつ』の手がかりくらいは探す時間は出来るんじゃない?」
「……ふんっ………。」
「………ZZZ」
はい、第2話はここまでです。
あと2話くらい日常が続きます。(遅筆でごめんなさい)
感想とか評価貰えると筆の進みが向上するので、是非感想・評価そしてアドバイスなどよろしくお願いします。