多分これからはこん位の文字量になると思う……。
――数週間後。
ギムレットとM200は最初の会話からより良好な関係となった。お互い1日のスケジュールが違う為に出会ってまだ1週間の頃は行き違いがあったり、会えても1時間一緒に居られるかどうかだった。
だが、ギムレット側は仕事がひと段落つき、M200側も【野良人形連合】としての任務もしばらく無かったので2人はお互いを知る為にランチ等を共にするようになった。
そんな2人が今日訪れたのは、M200(達)が宿舎代わりとして住んでいる小さなホテルの前、――M200がどうしても「野良人形連合の仲間達に紹介したい」と連れてきたのだ。
「ここが僕達が住んでいる所です。……と言ってもここを経営していた人達や宿泊客がみんな失踪しちゃったらしいので、僕達はその空いたホテルを勝手に使わせてもらってるだけなんですけどね……。」
「へぇ~…。」
彼女の話にギムレットは苦笑いをする。
原因なんて考えなくとも判る。あんな襲撃事件が起きたのだから逃げるに決まっている。一度あった事は二度、三度起こるものだ。対策を講じた所でそれらが最大の効果を100%発揮するなんて事は無い。次がいつ来るのか――、何処まで攻めてくるか――、そんな不安を常日頃抱えた状態で経営や宿泊を続けるくらいならさっさとトンズラこいた方が、ある意味では正しい選択だろう。
心の中でこのホテルの元経営者や宿泊客に同情しながら、M200の案内で中に入っていく。
「あっ、M200さんお帰りなさい。」
「ただいまです。」
IWS2000が出迎える。他にも何名かフロアに居たが、ボードゲーム等に夢中で此方に見向きもしなかった。
「えっと……そちらの方は?あっ、もしかしてここ一ヶ月くらい交流されている『例の方』ですか?」
「はい。紹介します、こちらギムレットさんです。」
「どうも――。」
「よろしくお願いしますねギムレットさん。立ち話もなんですから此方へどうぞ、あまり良い物はお出しできませんが……。」
「あぁお構いなく。――それにしても……意外と野良でやっている人形っているんだね。」
「ここにいる人形達はそれぞれ自分の意思でグリフィンに属してないんです。私を含めた一部人形は先の襲撃事件を経験していますし、このR08地区自体広くもなくグリフィンの基地も無いので自主的に防衛している――そんな感じです。言うなれば…ボランティアと表現するべきでしょうか。」
IWS2000はそう言いながら棚からカップを取り出し、インスタントコーヒーの粉を2匙入れてお湯を注いで、コーヒーフレッシュとスティックシュガー、そして小さなスプーンを一つずつ持ってギムレットの前に差し出す。
「襲撃事件……か……。」
「あの事件をご存じなんですか!?」
「まぁね。ちょうど隣地区からの出張帰りの時だったかな——。あの夥しい鉄血の量の進軍にはかなり驚いたよ。あんだけの数がどっから来たのか知らないけど、私は命が惜しかったから隠れながらその様子をこっそり見ていた。私は『戦術』人形じゃないから戦えなかったのは悔しかったな……――」
「その話、もう少し詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「あっ、グローザさん!」
ギムレットがかつての鉄血襲撃事件に遭遇した時の事を回顧していると、それを聞きつけたのか突然グローザが割り込んできた。ギムレットを見る彼女の眼差しは哨戒任務に出ている時と同じ目つきな事にIWS2000とM200はすぐに判った。
「貴女は?」
「OTs-14.周りからは『グローザ』と呼ばれているわ。貴女はギムレットさんね?さっきM200が紹介していたのを遠くで聞いていたから、自己紹介は結構よ。」
「そう?ならそうさせてもらうけど、話をする前に聞こうかな。貴女も此方のIWSさん同様あの戦場を経験した者なのね?」
「そうよ。あの事件の事は今も忘れはしない……。特に【あの人形】だけは……!」
「あの人形?」
「ええ。あの襲撃事件を終わらせた存在にして地区の4分の1を焦土に変えた元凶。遠目で視た姿だったけど、ちょうど貴女の様な髪形をした人形だったわ。急に話に割り込んでおいて申し訳ないのだけれど、ソイツについて何か情報を知っているのであればどんな小さな事でも教えて貰いたいの。」
「成程、なら情報交換といこうか?」
「交換……ですか?」
「もちろん。こちらのグローザさん……いや貴女達にあの事件について私が知っている事を話す代わりに、私が知りたい事――そうね……未だに流れてくる鉄血の部隊について話してもらいましょうか、って事。」
「………………。」
「………………。」
グローザの要求に対し、ギムレットは交換条件として互いが持つ情報の交換を要求する。それを提案されたグローザはもちろん、IWS、M200、さらにはさっきまでボードゲーム等に興じていた他の人形達まで此方に視線を向けて注目していた。
「…………………分かったわ。情報が貰えるならその交換条件は安いものだわ。何より、グリフィンに所属していないから上に許可を取る必要も無い。IWS、『例の物』を持ってきてもらえるかしら?」
「わかりました。直ぐに取りに行ってきますね!」
長い沈黙の末、グローザはその交換条件を呑むことにした。さらにIWSに対し「例の物」と呼ぶ何かを持ってくるように指示をし、ゆっくりと深呼吸をしてからまたギムレットの方に視線を戻した。
「彼女が取りに戻るまで、先に貴女の方からお聞かせ願えるかしら?」
「ふむ…では何を話そうか……。………ん~、その人形が『鉄血人形』であったのは知っているかしら?」
「何ですって!?」
「私もね、ただ野次馬みたいにあの事件を見物していたんじゃない。少しでもメモリに焼き付けるために奴らの動きを監視していた。その時に鉄血の大部隊を相手に単身で撃破した【あの人形】の信号が鉄血人形だと分かった。おそらく、君達の前に姿を現した時は自身の識別を別の信号となるように何らかのプログラムで認識阻害させていたのかもしれない。今人類に反旗を翻し、独自の進化を遂げている奴らならそれらを行うことは容易いだろうね。」
「……道理でグリフィンや正規軍側が知らぬ存ぜぬを繰り返す訳だわ……。大元が鉄血人形なんだからそりゃ派遣したとか言うわけないものね……。」
「あとは君が知っている様にあの現場が焦土と化する惨状となったわけ。その後の行方は流石に私でも追いきれなかった。何しろ、あの火の海の中で敵軍のボスらしき人形が敗走した後すぐにその人形も消えてしまったのだから——。」
「グローザさん!持ってきました!」
ちょうどギムレットが話し終えたのと同時に、IWSが少し厚みのある黒いタブレット端末と小さなケースをを抱えて戻って来た。
「ご苦労様。さて、今度は私達の番ね。これを見てもらえるかしら?今居ないけど、TAC-50という人形のドローンから撮影した映像記録よ。」
グローザはIWSが持ってきたタブレット端末を起動し、小さなケースからフロッピーディスクを取り出して端末横のスロットに挿し込み、画面を操作してギムレットに見せた。画面には数分毎に場面が切り替わり、左上側の録画した日付らしき数字が切り替わる毎に日が進んでいく。
「ガードのみの部隊……。普通ならイェーガーと組んでいるパターンの方が多い筈では?」
「ええ、普通ならあまりこうい――って、何故その編制パターンを⁉」
「あぁそれは、私の雇い主が元グリフィンの指揮官だったからだよ。万が一の事を想定して鉄血のローエンドモデル人形と、自衛のための火器管制モジュールを搭載して銃を使えるようにしてくれたんだけど。……まぁそれは置いておいて、映像の続きを確認しよう。」
少し話が逸れてしまった。気を取り直し止めてた映像を再生する。最初の記録から2週間程はガード部隊が辺りを警戒するようにして進軍している様子が映っていた。その後の記録からはリッパーやヴェスピドの部隊が目立つようになった。こちらも辺りを警戒するようにして進軍していたが、途中一部の記録映像の部隊は「何か」に混乱する仕草を見せてそのまま撤退していく様子が映っていた。
「何?あの撤退した部隊は?」
「これは私達でも判らないわ。ただ映像を見てもらった様に『何か』に混乱して慌てて逃げた様にも見えるわね。」
「ふ~む……。」
不可解な疑問に考え込んでいるうちに記録されていた映像が全て再生終了した。
「敵のボスか……?」
「えっ?」
「あの事件は【例の人形】の乱入によって終結した。けど部隊を率いていた鉄血のボスは破壊されずにそのまま戦場から敗走し行方を晦ませている。だとしたら、そのボスは離れた地で再び部隊を整え、『偏った編制の部隊を定期的にR08地区に差し向けて偵察させていた」――と1つの仮説が立てられる。しかし……――」
「しかし?」
「気になるのはもっと身近にあるのかもしれない。」
「どういう事かしら?」
全ての映像を見終わったギムレットは1つ意味深とも取れる仮説を立てた。だが、さらに続けようとするも一旦口を止めた。その事についてグローザはさらに訊ねる。
「【ザ・ワンド】というならず者達を知っているでしょう?」
「ええ。あの襲撃事件の後に出来た厄介な奴らの事ね。」
「実は奴らについても少し調べた事があってね。少しおかしな部分が判明したんだ。」
「何かしら?」
「ワンドの連中の半数は襲撃事件で身近な人を喪った市民達なんだ。」
「それの何がおかしいの?」
「グローザ、貴女がもし人間で、大切な人の命を鉄血に奪われたとしたらどういう感情を抱く?」
「………もちろん鉄血が憎いと思うようになるわ。」
「普通はそういう感情を抱く筈。けど、私が調べた限りでは彼らは鉄血ではなく、グリフィンや貴女達【野良人形連合】に対して強い憎悪を抱いている事が判明している。おかしいとは思わないかい?まるで……正義と悪が逆転したみたいで気味が悪い。そして何より【例の人形】の信号認識阻害の例もある。」
「まさか……⁉」
「そう、2つ目の仮説は――『事件後、敵のボスは何らかの手段を使ってこの地区に潜伏し、ザ・ワンドの連中を言葉巧みに操り利用している』、とも考えられる。その場合、かなり用意周到に事を進めようとしている気がしてならないね。」
「………………。」
2つ目の仮説を聞かされたグローザが黙り込む。彼女だけじゃない、IWSもM200も、さらには離れた所で聞いていた他の人形達もだ。
しばらくその場は重苦しい雰囲気となり、沈黙が続いたのだった……
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――数週間前、S09地区390基地
時は遡り、R08地区でギムレットがまだM200と打ち解け親しくなる前――、丁度グリフィン本部でヘリアンとクルーガー社長が深夜に「ある事柄」について協議していた日から数日経ったある日。
司令室で2人の人影があった。1人は色んな書類や機材が乗った大きめの机の向こう側で椅子に座っている青髪の若い女性、対するもう1人はプラチナ気味なブロンドカラーの長髪の女性——服装などを見る限り恐らく戦術人形だろう。
「指揮官さん?」
「なぁにG3。」
「あ、えっと…その…、先日の本部からの伝達以降、指揮官さんの様子がおかしい気がしたので……その……。」
「心配してくれてるの?」
「あっ、当たり前です…!」
「ありがと。色々考えてたのよ、余計な事まで考えちゃういつもの悪い性格でね…。」
G3と呼ばれた人形は指揮官を気遣うようにして声を掛けた。内気な性格だからか、上手く言葉を引き出せない。それを察したのか指揮官もわざとらしく返事をすると、彼女はムスッとした表情で答えた。
「ヘリアンさんから【人形狩り】出現の可能性アリと伝達があった時、流石に私は『逃げたい』と思っちゃってね……。もし貴女達が出撃してる最中に出くわして全滅なんてしちゃったら……って考えると余計に気持ちが落ち込んじゃうのよ。一応、伝達には『遭遇したら交戦はせず、直ぐにその場から撤退せよ』ってあるけどさ~、遭遇してそう簡単に撤退出来たら苦労なんてしないわけ。は~、やんなっちゃうわ……。」
「だ、大丈夫です……!会っても…全滅なんてさせません…!」
「………強いわね貴女は。」
「えへへ…。とにかく、今は次の作戦任務に備えましょう指揮官。」
「そうね、次の任務……確かデストロイヤーの討伐だったっけ………。」
彼女はモニターに映る任務内容と、(チビガキ特有の)憎たらしい顔をして写っているデストロイヤーの写真画像を横目に見る。
「(流石に、件の【人形狩り】が私の知り合いなんて、口が裂けても上には言えないわよね……。)」
ひとまずこの話で【第一章:R08地区】編は終わります。
話数的にはもう少しやりたかったけど、そうなるとただひたすら戦闘の無い日常回ばかりで飽きるので、駆け足気味に纏めました。
次話から【第二章】になるので引き続きよろしくお願い致します。