とあるワードがやたらと強調されてますが気にしないでください。
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【私】は、今日までに「あの日」以上の屈辱を味わった事は無い――。
あれは【私】に与えられた重要な任務であり、許されるべき失敗ではなかった――。
『あれだけの数を従えていて任務に失敗するとは……、×××様は貴女に大変失望されています。よって、その責任として解体処分と致します。異議はみとm――』
『その判断は、この記録を見て頂いてからでも覆りはしませんか? 』
『ほぅ……。』
『…………』
『なるほど……、あの数がいとも容易く崩されたのは……これが原因ですか……。いいでしょう、貴女への処分は保留としましょう。その代わり、何が何でも<この者>の行方を捜し、そして始末、最後に元の任務であるあの地区を制圧しなさい。――次は……ありませんからね? 』
『了解しましたわ――必ず、貴女から再び与えられたチャンスと期待にお応え致しますわ。』
任務失敗の責任を取る形で処分されるはずだった【私】は、ただ一つの記録映像で首の皮一枚を繋げた。
その思いが【私】のプライドを高め――、
その復讐心が【私】に力を与え――、
その歪みが【私】を深淵に堕とした――。
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――ヨーロッパ・とある都市の会館前
「いやぁ、今日も素晴らしい演技力でしたエリーヴァさん! この世界が廃れていなければ世界ツアーも出来ていたんですがねぇ……。まったく、貴女の才能と活躍がこんな所で埋もれかけてしまうのは非常に勿体無いですよ! 」
「ふふっ、お世辞がお上手な方ですわ。」
「お世辞だなんて、私は本心ですよ。」
「マネージャーさん、私は人形ですわ。廃れる前の世界で一世を風靡した役者達がどのような演技をし、どのように民衆達を惹きつけていたのか――私はわずかに残っているアーカイブからラーニングしただけ。彼・彼女らの様な苦難を味わった事がありません。過去の名優達はそれらを乗り越えて地位を築き、名声と富を得たのです。私如きの様なぽっと出の者は、きっとどんなに素晴らしい活躍をしたとしても追いつけないのですわ。」
「あはは……変わりませんねぇ。」
「ですが、確かに大きな舞台でそれらが披露できないのは残念ですわ。」
大きな会館の前で【私】はマネージャーと会話をした。公演の度に彼は演技についてベタ褒めをしてくれるが、【私】にとっては演技など上手く出来た出来てないだなんて評価はどうでもいい事。
今彼に説いた話も何度も言っているものであり、正直言い続けるのも億劫になる。それが人間の語彙力の無さなのか……それとも表現力の乏しさによるものなのか……? 何れにせよ【私】のような高性能な人形からすれば人間という種は脆く、醜い。
しばらく話していると迎えの車が到着した。マネージャーが後部座席のドアを開けて【私】は静かに乗り込みドアを閉められた。そしてマネージャーも助手席に乗り、車は私達が宿泊しているホテルへ向かった。
30分後――
車がホテルに着いた。
マネージャーが先に降り、後部座席のドアを開けると【私】は自身の手提げ鞄を持って車から降り、車を見送ってからホテルの中へ入った。エントランスホールのソファーで【私】は彼がフロントで部屋のカードキーを受け取る手続きをしている間、鞄から次の公演日の予定をチェックする。
本来は彼の仕事でもあるけれど、役者として自分も予定を把握しておかなければ余計な負担を掛けてしまうからそうしている。
ただ、鍵に関しては正直ハッキングして開けたい気分だ。
「エリーヴァさん、カード受け取りましたので部屋へ戻りましょう。」
「えぇ。」
2枚のカードキーを持った彼が戻ってきて【私】は彼と共にエレベーターに乗って止まっている部屋のある最上階へ向かった。最上階に着き、しばらく進んだところにある「914」と彫られたプレートが【私】の泊っている部屋、彼はその廊下を挟んだ向かい側の「928」の部屋に泊まり、何かあったら互いに室内の電話か直接部屋に行って連絡をする事になっている。
「では、夕食の時間になりましたら電話をします。それまでゆっくり過ごしてください。また後ほど――。」
「ありがとうございますわ。」
彼と別れ、【私】だけの時間となった。
携帯だけ出して鞄を壁付けの机に置き、今着ている藤色のマーメイドワンピースを脱いでハンガーに掛け、クローゼットからTシャツとデニムパンツ――所謂「カジュアル系」と呼ばれるファッションに着替え、ベッドに寝転がった。
しばらく寛いでいると傍に置いていた携帯が鳴った。着信の相手はマネージャーではなく別の人物。
――自分がよく知っている別方面でのビジネスパートナーからだ。
「もしもし?」
『俺だ。わざわざ名乗らなくても判るだろ?』
「ええ判っていますわ。そもそも知らない相手なら電話には出ませんわ。」
『ふん、確かにな。』
「それで? わざわざ其方から連絡を寄こしたという事は、準備は出来た……という解釈でよろしいのですか? 」
『ああ。だが、次の段階以降の指令はなるべく早めに頼む。うちの連中がつまらん人形達の分解と闇市捌きばっかでフラストレーションを溜めてやがる。特に男連中の方がな……。』
「野蛮で下品な方達ですわね……。」
『そう言ってくれるな。俺だって我慢している。欲求ってのは常に何処かで満たしてやらねえとならねぇ。それに、さらに一部は罪悪感まで感じて抜けようって考えてる奴まで出ている。その度に「指示に従って行動していれば仇は取れる」って説得してるんだ。』
「………………。」
「分かりましたわ。あと4日辛抱してもらえます? 」
『4日? 』
「えぇ、私の用事が後3日で終わりますの。そして1日掛けてそちらの地区に戻り、貴方と直接面と向かって今後の指令を渡すことが出来ますわ。」
『本当か⁉ 』
「嘘は吐きませんわ。――あぁそういえば、<例の人形>について手掛りは掴めました? 」
『……それについては一切の情報が入ってこない。何しろ、街の連中はその<例の人形>の事を大昔に流行ったアイドルだとか何かと思ってやがる。』
「(チッ……使えない人間達ですわね……! )……分かりましたわ。引き続き聞き込みを続けて下さいまし。」
『……………』
「どうかされました? 」
『なぁ、あんたは何故その人形に拘る? あの事件に関わっていた連中は幾らでm――』
「それを知ろうとするのは身を滅ぼしますわよ? 」
『……っ⁉ 』
「あなた方は自分達に与えられた仕事をこなしているだけで良いのです。余計な詮索をして全てを水の泡に帰すのはお互いにとって無益となるだけ。私の望みは叶わず、あなた方は汚れ仕事から解放される事が無くなってしまいます。思い出してごらんなさい――、あの時グリフィンがもっと早く対処すれば………、あの時<例の人形>が街を焼き尽くさなければ……。あなた方は大切な人達を喪わず、住処を奪われず、こんな泥に……血に……塗れる仕事をせずに済んだかもしれません。尤も、『哀れな自分達に付けこんだ』と言われてしまえばそれまでなのですけども……。」
『……………。』
「ですが安心して下さい。必ず、目的を達成したらあなた方の生活は私が全て保障致しますので――、今は素直に従って頂けると助かりますわ。」
『わかった……、あんたを信じよう。』
電話越しの彼は【私】の説得に多少の不満を持っていたようだったが、大人しく自分の言葉に従ってくれた。向こうも「今は相手と衝突している場合では無い」と分かっているのだろう。
だが、【私】にとって、あの男も所詮は盤上の1駒に過ぎない。
『今日の連絡はこれで終いだ。疑惑を向けて済まなかった。』
「気にしないでくださいまし。では4日後……、R08地区でお会いしましょう。」
相手の返事を待たずに通話を切った。時間にして10分ほどの通話だったが、物凄く長い時間の様に思えた。夕食の時間とマネージャーのお呼びが来るまでまだ1時間以上もある。
さてどうしたものか――。
「本当に暇ですわね。人類は誕生の時からこんな暇で退屈で無駄な時間を過ごしていたのですね……実に滑稽な事。——そうですわ! 折角ですから向こうには暫く私のとっておきと遊んでいてもらいましょうか。F賞やE賞ばかりじゃ飽きてきた頃だと思いますから……奮発くらいして差し上げても問題はありませんわ! 」
退屈しのぎに名案を思い付いた【私】は自らの意識をセカンダリレベルに落とす。青白い空間に半導体の基板に描かれているような模様や様々な四角形が何層も重なった物体が浮かんだ。何度も見て慣れた不思議な世界……。
その中でホログラムモニターを展開し、表示された枠にコマンドを入力。続けて表示された装甲を纏った二足歩行と四足歩行のロボットらしき機械が映る画面を選択、そのまま画面上部へスワイプしてホログラムモニターを閉じて意識を現実に戻した。
「ふふふ……、本来使う予定はありませんでしたけど……多少のアドリブがあった方が物語は盛り上がるもの。あとは――【私】が望む『主役』がシナリオ通りに御登場さえすれば、これまでやその後の犠牲など小さいもの……! 」
半分狂気じみた声で【私】は感情を昂らせ、心の底から風のように舞い上がる感覚に包まれた。たとえこの狂喜が外に聞こえていたとしても、客室前の廊下を通る彼等は「女優・エリーヴァが芝居の練習をしている」と思うだけだろう。
【私】の復讐という名の計画は次の段階に進んだ――。
少し離れた位置にある姿見の前に【私】は立った。だが、映った自身は今着ている服装ではなかった。黒い衣装で肩や胸元・腹部が少し露出した姿。もちろんそれは鏡に映った幻影だが、自らの感情をそのままに投影した【私】の裏というべき姿――、と表現するべきだろうか。
しばらく自身を映した後、最後にニヤリと笑みを浮かべた。
そして、再び【私】はセカンダリレベルに意識を落とした。さっきの様な青白い基盤の様な空間ではなく、夜空の下で燃える大地に焼け焦げた人形の残骸が幾多も転がった戦場の景色だ。
その中央で燃え盛る焔をバックに佇む、ショートヘアで裾がギザギザな白いチェスターコートの様なものを着た青髪の女。
幻影である彼女を睨み付ける。
【私】は真っ直ぐ彼女の許へ歩み寄る。
幻影の前に来た時、彼女の口元が僅かに上がった。
【私】は右手を上げ――、
彼女の幻影に向かって押し退けた。
手が触れた箇所から幻影はノイズとなって崩れ、周囲の景色と共に消え去った。
「セラ……フィム……! 」
セカンダリレベルから戻った自分の顔は、今にでも目の前の姿見を割りそうなほどな……憎悪の表情に満ちていた。
そしてそれは、夕食の時間になってマネージャーが電話をしてくるまで続いた。
今回はほぼ一人称視点での話の進行でした。
大体の場合三人称視点で話って進むものが多いので、こういった視点で書くのはすごく新鮮な気がしますね。
【私】という人物はいったい誰なんでしょうね?
(思い切り言動でバレてる)