幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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突然ですが、第一部最終章開始です。


幸か不幸か

 

 夏休みが終わり衣替えにはまだ早すぎる九月。サウナのようなじっとりとした暑さを窓一枚で隔て、クーラーのついた教室で涼んでいると、謎の優越感を感じる。文明の利器って最高。外で働いている方ご苦労様です。

 

「今回の文化祭の出し物はカフェにしたいと思います。異議のある者は?」

 

 教壇で司令官のように手を組んでリーダーは宣言する。全員は口を揃えて異議なしと答えた。

 

「よろしい。ではコンセプトだけど……うちには狼谷と烏間がいるから二人をホールに回すのは確定として」

「俺たちに権利は無いのか」

「そうらしいな」

「今回は私が提案するのは、なんの捻りの無いカフェでいきたいと思います」

「異議あり!」

 

 一人の女子が机を叩いて立ち上がってリーダーに指を差した。

 

「折角二人がいるのにベーシックな雰囲気ですとぉ……!? ここはコスプレできるコンセプトカフェ一択でしょうが!!」

「狼谷、着るとしたら何着たい?」

「んー……特にないかもな。逆に烏間は?」

「俺はなんでも似合うようにするから女装でもなんでも来いって感じ」

「会話広がらないな」

「なー」

 

 あはは、と呑気に狼谷を会話しながらクラスの論争を聞き流す。

 

「このクラスは狼谷と烏間以外の顔面レベルも高い、その意見ももっともです。……ですが、甘い」

「なに……!」

 

 リーダーが余裕ぶって人差し指を左右に揺らす。

 

「私は烏間のピアスを見てピンと来たんです。文化祭当日に、烏間に眼鏡をかけさせて顔が少し隠れるくらいに前髪を伸ばして根暗系男子にさせます」

「だがしかし、そんなことをしたら顔面と運の良さしか強みのない烏間の存在意義が……!」

「おい」

「客の気持ちになって想像してみてください。さぁ目を瞑って……」

 

 今とてつもなく酷いことを言われた気がするが、誰にもフォローを入れられることなくクラスはリーダーの声に耳を傾け目を瞑る。ついでに俺も目を閉じた。

 

「『あなたがコーヒーを注文し、地味で根暗な店員があなたのテーブルまで注文を届けに来たその瞬間、ふと悪戯な風が店内を駆け抜ける。そして店員の髪で隠れていた耳が露わになってあなたは目撃するのです。……えぐいピアスをつけているのを』……どう思いますか皆さん」

「は? エロじゃん」

「公然わいせつえっち陳列罪」

「もうベッドに連れ込んでぶち〇すしかないじゃんそんなの」

「俺にド直球なセクハラをかますな」

 

 肉食系超えて捕食系女子の感想は一旦無視して、まぁ気持ちはわからんでもない。いわゆるギャップ萌えってやつなんだろう。あとはチラリズムか? 

 

「まぁいいけど。十字架のピアスとかでいいか?」

「いいのか」

「だって俺今のままでもカッコいいのにセクシー属性追加されんだろ? パーフェクトじゃん。最強」

「今の発言が無かったらなぁ……そういうとこだよ烏間」

「はい性欲減退少子化待ったなし」

「心の股間を生やしてんだぞこっちは。責任取れ」

 

 このクラスだけ貞操観念逆転してない? 気のせい? 

 

「……なぁピアスってそんなエロいんか? 俺には分からんのやけど」

「あー実は僕も」

「よくわからないかも」

 

 男子の複数名が手を挙げて、女子が興奮している理由がよくわからないという意見が出た。

 

「じゃあ逆にして例えようか『あなたの隣の席の清楚でお淑やか、そして笑顔がとってもキュートでえへへって笑う感じの女の子。その子がこっそりへそピアスつけてたら?』」

「いや彼氏に染められたんだろうなって……もしくは元彼の趣味かなって」

「ちょっとショックだよね。しかもよりにもよって普通見えないへそかぁ……」

「お腹冷やさないのか心配だよね」

 

 おい男子の方がよっぽど健全だぞ。

 

「あーでもちょっと馴染んできたわ。その“癖”に」

「これがNTRか」

「ふーん。悪くないね」

 

 あーあ脳が破壊されてしまいました。もう終わりだよこのクラス。

 

「先生はどう思う?」

「その会話を教師の俺に投げるな。未成年にそういう話したら免職案件だろうが。というかこういう話って、売店権利の抽選が始まる前にするもんじゃないだろ」

 

 担任の言う通りで、全クラスが売店すると大変なことになるから、文化祭の売店ができるクラスはこれから行われる抽選で勝ち取ったものだけだ。このクラスはちょっと気が早すぎる。

 

 まぁでも運ゲーなら問題ない。

 

「抽選なら俺がいるから心配しなくていい」

「うわ超かっけぇ」

「運ゲーで頼りになる男ってなんだよ……ほらもう抽選始まるから行ってこい。3階の生徒会室な」

「んじゃ行ってきます」

 

 俺はクラスメイトから見送られ、決戦場へと向かった。まぁ結果は見えてるんだけども。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ういっすーただいまー」

「おーおかえり烏間。結果は?」

「安定のビクトリー。楽勝だぜ」

「よっっしゃ!!」

「さすが幸運とAPPしかパラメータ振ってない男!」

「よくやった神様と寝た男!」

「お前ら全員不幸になってしまえ」

 

 勝者の凱旋を称える罵倒を受け止めながら、自分の机に戻る。くじについてだが、よくある大きな箱から当たり棒を引くやつだった。なにかしらイカサマが仕掛けられているわけでも無かったので余裕で勝ち取った。

 

「で、カフェの話はどうなったの?」

「貞操観念逆転カフェとNTRカフェの間をとって、コンセプトも何もない普通のカフェになった」

「どこの間をとったのかわからないけど、心の底からそれに落ち着いてよかったよ」

 

 前の席を見ると、狼谷がぐったりとしている。もうツッコミを入れる気力も、会話についていく体力も無くなったか。

 

「そこで今回は制服も用意しないので、メニューの方に力を入れたいと思います。お菓子作りに自信ある人挙手~~」

 

 俺は趣味で作るほどではないが、色々とお菓子作りを勉強した時期があったので手を挙げた。

 

 そして俺一人しか手を挙げていなかった。

 

「うっっそだろお前ら」

「逆になんで烏間はお菓子作れるんだよ」

「料理作れるとカッコいいからに決まってるだろ。お菓子作りもその延長線上だ」

 

 あと分量とか測って、手順通りに調理していくの楽しくない? パズルみたいな感じで。

 

「ちなみに聞くけどどういうの作ったことあるの?」

「ブラウニーとかフォンダンショコラとかタルトタタンとかマドレーヌとか……まぁ割と簡単なやつ」

「なに……タルトタタンって……J-popの歌詞でしか聞いたことないわ」

「無理して焼き上げなかったら大抵のお菓子は作れるだろうが」

「……じゃあ烏間は調理班の指導係任せていい?」

「まじか」

 

 それって当日のホールの仕事の他に、素人同然の奴らに料理を教えたりとか、キッチンにヘルプに入る仕事も増えるってことだろ? メチャクチャ大変じゃんか。

 

「いいよ」

「いいのか」

 

 まぁ俺しか出来る人いないんなら、俺が頑張るしかないし。

 

「でもどんなメニューにするか、コスパと作りやすいもの考えるためにちょっと時間もらっていいか?」

「了解。うちらでも作れる簡単なやつでよろしく!」

「任せろぶきっちょ共」

「よーし。烏間の胃を痛めるキッチン係決めるぞー」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 そんなこんなでやってきたショッピングモール。とりあえず初心者でも、作れそうなのと手間がかからないものに絞って、材料を買いにきた。

 今度狼谷をひっ捕らえてメニューを味見させる予定だ。アイツ胃が大きいから毒見役としては適任だしな。

 

 候補としては、ドーナツ、プリン、ラスク、マフィン、カップケーキ、マドレーヌ……。とりあえずレシピ通りに作って隠し味とか言って変なもの入れたりしない限りは大体できるやつだ。

 頼むから俺の胃を痛くしないでくれよ……。

 

「……へー」

 

 お菓子作りの商品が並んでいる棚を眺めると、思ったより数があって興味がそそられる。

 

 バナナチップに、ラム酒……オレンジピール入れるのもアリだな。

 

「……………………」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 想定していたよりも重くなってしまった袋を持ちながらショッピングモール内を歩いていた。

 

 必要なもの以外にも、思わず興味が出て買ってしまったものが数点。しかも材料費ではなく、いわゆる研究費なので微妙なところ。

 

 ……これちゃんと学校側で引き落としてくれんのか?先生が自腹切ってくれないかな。

 

「暑っつ」

 

 ショッピングモールの連絡通路から外に出ると、冷えた空気を押しのけて、暑く粘ついた風が襲い掛かってくる。空は青から橙色のグラデーションがかかっていた。もう夕方だ。コオロギの声はまだ聞こえないが、ヒグラシが晩夏を引きずるように鳴いていた。

 

「……」

 

 ……もう去年の文化祭から一年か。ということは、あいつらも付き合い始めて一年ね……なら世の恋人みたいに一年記念のプレゼントとかすんのかなあいつら。じゃあ別に誕プレとか買わなくていいか。いらないだろ。

 

「……」

 

 たった今、目的地へと向かう理由を失い、踵を返して帰路につく。

 

 ほんの少しだけ早歩きで歩いていると、角から出た人影とぶつかりそうになり、咄嗟に体を翻して横に避けた。

 

「っと、すみま──」

「ごめんなさい! ちょっとボーっとしてて──」

 

 お互いに言葉を発して、同時に言葉を区切った。理由は明白。顔見知りだったから。

 

 櫛が引っ掛かったことが無さそうな黒い髪、線の細い体、そしてこちらを見る、優しそうなふんわりとした目。

 

「……和泉」

 

 偶然出会った知り合いに対する反応は二パターンに分けられる。一つは会釈して通り過ぎるか気づかないフリをしてやり過ごす。もう一つは話しかけに行って世間話をするタイプだ。

 

「あ、烏間くん! お買い物?」

 

 和泉はどうやら後者のようで、朗らかな笑顔で話しかけた。

 

「俺は文化祭で作るお菓子の買い出し、ほれ」

 

 予定よりも大きくなった袋を持ち上げて見せた。

 

「和泉は?」

「僕は個人的な買い物かな。……もしかして今ちょうど買い出し終わったところだった?」

「そうだけど。なんで?」

「あ~いやその~……」

 

 和泉が照れて頬をかきながら、小さく呟いた。

 

「式守さんへの誕プレの相談を……と思ったんだけど……」

 

 俺だってさっきそう思ったんだから彼氏である和泉がそう思うのは当然のことで。

 式守を昔から知ってる俺から好みを聞くのはなんらおかしなことではない。

 別に心が痛くなる理由なんて無いはずだ。

 

「でも買い出し終わったんなら、無理に──」

「いいよ」

「付き合ってもら……いいの!?」

「声デカ」

 

 二つ返事で了承したら予想以上に驚かれた。

 

 別に今の気分的にそのまま帰ってもよかった。でも和泉は良い奴だって知ってるし、式守にもより良い物をプレゼントしたいって気持ちは痛いほどわかるから。

 

 それにこれは俺が勝手に聞いただけだが、もし俺に悩みごとがあったら相談に乗ってあげたいと言われたから。

 

 その言葉自体は嬉しかった。だからこれはその優しさへの恩返しということで。

 

「でも少し意見言うだけでそんなに口出さないからな。最後は自分で選べよ」

「分かった!!」

 

 素直~~……。正直、式守なら和泉からのプレゼントってだけで喜びそうなもんだけどな。

 

「和泉的にはなんかこういうのプレゼントしたいとかあんの?」

「式守さんっておしゃれ好きだから、アクセサリーとかどうかなって……」

「いいじゃん。見に行こうぜ」

 

 俺と和泉はショッピングモール内のアクセサリーショップへと向かった。

 

「ど、どういうのが流行りとかある?」

「一応あるけど大人向けだしなぁ……式守なら着こなせそうな気もするけど、ちょい高い」

「お金はあるよ!」

「はは、頼りになる~」

 

 店に入って女性用のアクセサリーを物色していると、店員が生暖かい目で見てくる。多分男二人でアクセサリーを見てるのが物珍しいんだろう。……そういうのじゃありませんので。

 

「んじゃここら辺。ネックレスが無難で合わせやすい」

 

 ネックレスが飾ってある棚を指さすと、和泉は真剣な眼差しで陳列されている商品を選び始める。俺は二歩ほど下がった位置から商品を眺めた。ここにはシックな雰囲気よりも可愛らしいものの方が多い。和泉に可愛いって思ってもらいたい式守ならこっちの方が喜ぶだろう。

 

 う~ん、と……頭から湯気が出そうなほど唸りながら、和泉は一つのアクセサリーを手に取った。

 

「これ似合いそう……かな?」

 

 和泉が選んだのはハートの中に小さな宝石が埋め込まれている物だった。

 

「うん。俺もそれが似合うと思ってた」

 

 小さめだから首回りが寂しいときにはちょうどいい具合のサイズだし、可愛い服には合わせやすいデザインだ。

 

「じゃあ、烏間くんのお墨付きだね」

「別に俺のお墨付きとかいらないだろ」

「そんなことないよ。僕も式守さんに似合うかどうかで想像したらこれが似合うかなって思ったから。ちょっと自信つくよね」

「はは、そこまで言われると照れる。まぁでも和泉が式守のことを考えて選んだ気持ちがあれば、式守も喜ぶだろ」

「……ねぇ、烏間くんってやっぱり」

「ん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──式守さんのこと好きなんだね」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




烏間くん
容姿端麗だが性格が残念なイケメン。
式守さんの幼馴染でラッキーボーイ。
料理は必要なとき以外しないが、誰かに作ってあげるのは好き。
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