幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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笑い話

 文化祭一日目の記憶は無い。なんせフルでホールを回して、キッチンで何かしらトラブルとか作業の手詰まりがあったらヘルプに向かい、その後戻って接客だ。休む時間どころか息つく暇もなかった。

 

 でも二日目の今日は、皆、昨日の経験と慣れもあってか、トラブルもなくスムーズに回っている。

 

 って思ってた俺を殴りたい。(2回目)

 

「普通に忙しいのなんで?」

「それが私の戦略。確かにコンセプトカフェは興味を持ってもらいやすいけど、実際に足を踏み入れられるかどうかは別。しかし普通のカフェの雰囲気なら気軽に入りやすく、しかもメニューも基本作り置きのお菓子だから提供も早い。去年の反省も活かして最大滞在時間は15分に設定したしね。回転率もイイ感じ。今日は一般の人も来てくれてるからウッハウハのガッポガポだよ」

「そうかい。早く狼谷と交代してぇな」

 

 今日の俺のシフトは午前までで、狼谷の図書委員の活動が終わったらすぐに交代。

 

 終わったらどうしよ。休憩室でゆっくりしてるか、キッチン組を手伝いに行くか。いや待った。式守のクラスの出し物ってコンカフェだよな。確か動物の恰好して接客するっていう……。

 

………………………………ちょっと見たいな。

 

「おい烏間、ボーっとすんな。休憩時間減らすぞ」

「ペナルティ重くね? はいはい、馬車馬のように働きますよー」

 

 

 ***

 

 

 接客とキッチン組の手伝い。それと客引きをしていると、忙しすぎて時間が飛ぶように過ぎていく。ちょうど客の出入りが落ち着いて手待ちになり、ふと時計を見ると正午はとっくに過ぎていた。

 

「狼谷遅いな」

「この人混みだから来るのに手間取ってるかもな」

「もしかして何かトラブルがあったとか……?」

 

 誰かに絡まれてナンパとかされたりしてねぇだろうな。いや、狼谷ならあり得る、絶対あり得るじゃんそれしかないまである。

 

「ごめんリーダー。ちょっと空けるわ。狼谷探しに行ってくる」

「おっけー。10分以内に見つかんなかったら連絡入れて戻ってきてね」

 

 少し心配になって狼谷を探しに廊下へと出た。が、探すまでもなく、教室を出てすぐ曲がったところに狼谷はいた。

 

「「あ」」

 

 人混みの中でも目を引く見た目だからすぐに分かった。一瞬目が合ったが、すぐに目を逸らされた。

 

「遅刻だぞ狼谷」

「……すまない。少し遅れた。そのまま烏間は休憩にいってていいよ」

 

 狼谷はそのまま目を合わせずに、早歩きで隣を通り過ぎていく。教室へ入った途端、クラスメイトと客たちの声のボリュームが一段と上がった。

 

「よっしゃ待ってました狼谷ぁー!」

「うわなにあの子、芸能人? 顔良すぎでしょ」

 

 …………………………。

 

「どしたん烏間? 狼谷来たから休憩行っていいよ」

「あ、いや。……もうちょっとだけ、居るわ」

「マジか。助かるわー!!」

 

 ……別に気のせいならそれでいい。俺はおぼんを持って飲み物を運びながら狼谷と周りの声を気にかけた。

 

 

「マジめっちゃあの子カワイイ!」「足長ーっ!!」「てか男子もレベル高くね」「ピアスエロい」「このお菓子高校の文化祭にしてはうまい」「ってかモデルみたい」「スタイルいいねー」

 

 

 ……………………。

 

 

「ねー、1枚取ってもらおうよダメかな」「狼谷いたらすげー客入ってくるな」「いいなーあれならどんな服も似合うんだろうなー」「声かけるだけかけてみれば」「てかなんで突っ立ってるんだろうね?」「今なら声掛けられそうじゃね?」

 

 

 ……あー、もう。

 

 

「リーダー。俺、午後も出るわ」

「え?」

 

 俺は突っ立っている狼谷に近づいて、手に持ってるおぼんで軽く頭を叩いた。

 

「ぁ痛っ」

「休め」

 

 狼谷の顔をあまり人に見せないように、おぼんを壁にして耳打ちした。

 

「ひどい顔。図書室で一旦落ち着いてこい」

 

 図書室は休憩室となっていて、場所的にも人通りが少ないから一人で休むならそこしかないと思った。

 

 しかし狼谷は図書室というワードを出すと、目を伏せて、ふるふると弱々しく首を横に振った。

 

「……なら風でも浴びてこい」

「……ごめん」

 

 早歩きで教室から出て行った狼谷を見送る。……どういう経緯かは分からないけど、多分喰らったんだろう()()やつ。だったら人目の多い場所はキツイはずだ。

 

「さて、と。気張るか!」

 

 しかし、しばらくは戻ってこれないであろう狼谷の代わりを買って出て、俺の休憩が潰れてしまった。俺、去年に引き続き働き過ぎじゃね?

 

「狼谷いつ戻ってきそうかなぁ?」

 

 狼谷が抜けて不安そうな面々。おいおい節穴かよ。

 

「バッカ狼谷いなくても俺がいるだろうが。獲るぞ文化祭売り上げ一位!」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 本校舎と特別実習棟をつなぐ連絡通路。そこに二人の影があった。

 

 一人は狼谷だった。目元に涙の跡が残ってはいるものの、風にそよいだ髪がその横顔を隠してくれる。わずかな隙間から見える表情は、憑き物が落ちたようにスッキリとしていた。

 

 そしてもう一人は、両手にスポーツドリンクを持ち、僅かに上下する肩を落ち着かせて狼谷を見ていた。その顔には驚愕と安堵が混じっていて、狼谷が彼を見るときには少し意地悪そうな顔になった。

 

「なんだよ、そんなスッキリした顔して。探して損した」

「……烏間」

 

 烏間は手に持ってた飲み物を放ると、放物線を綺麗に描き、狼谷の手に収まった。

 

「当番はどうしたんだ?」

「キッチン組のヘルプ行くって言って抜けてきた。この後ちゃんと行くけどさ。……まぁちょっとした休憩ぐらいなら許されるだろ」

「そうか」

 

 烏間は連絡通路の手すりに背中を預け、ペットボトルの蓋を開けた。しかしそのまま口はつけずに、ただじっと半透明の液体を眺める。

 

「……俺はさ、重いの喰らった時には一人にしてもらいたいタイプ。多分みっともない姿を見せるから」

「それは……私もさ」

「だろうな。来てごめん」

 

 中身が零れないようにペットボトルを揺らすと、水面が波打った。

 

「その、もし、狼谷が辛いなら力になってやりたいなって思った。……お節介かもしれないけど。愚痴ぐらいは吐き出せるかもしれないから」

 

 喉から捻りだした言葉を吐いて、若干の羞恥心をスポーツドリンクと共に飲み込んだ。

 

「でもお前もう解決してんだもん。気ぃ張って損した」

 

 彼は少し照れが残る空気を憎まれ口を叩いて台無しにしようとした。彼女は彼の横顔を見て、相変わらず素直だが素直じゃないなと思い苦笑した。

 

「ううん。多分君が先に来てたら君の胸で泣いてた。ちゃんと嬉しいよ」

「……ならよかった」

「……烏間はさ、なんで私にそこまで優しくしてくれるんだ?」

 

 そして引っ掛かった疑問を狼谷は口にした。

 

「私は、私を見ている周囲の声や目や、周りが私に期待しているものも分かる。でも烏間はそういう……言い方は悪いが下心じゃないってことだけは分かるんだ。だから気になった」

 

 烏間は一瞬目が泳いだ後に「あー、うーん」と言葉にならない音を口から出す。そして手すりから背を向けていた体を狼谷の方へと向けた。

 

「俺も、狼谷のこと“すげーいい友達”って思ってるからだよ。友達が困ってたら手を貸してあげたいだろうが」

 

 彼らの瞳には、鏡のようにお互いを映していた。

 

「それに狼谷も俺のこと友達って言ってくれたんならさ、それに応えたいし報いたい。……悪い、俺にとって友達って結構重いものなんだよ」

「はは、なんだそうか。うん。嬉しいよ」

「……そう」

 

 重いと言われて拒絶されるかもしれない。そんな不安を抱えながら打ち明けたが、笑って簡単に受け入られ、烏間は拍子抜けした顔になった。

 

 不安だった自分がちょっとバカみたいだと、拗ねたように烏間は手すりに肘をついてグラウンドの方へ体を向けた。

 

「式守さんにバレた。私の心」

「ふーん……えっ!?」

「リアクションがいいな」

「いやだってそんなテンションで言うことか?!」

 

 少しコンビニ行ってくるというテンションで、衝撃のカミングアウトをした狼谷。

 

「で、なんか言われた?」

「秘密」

「……表情見るかぎりそんな悪いこと言われてないだろ?」

「うん。そういう人じゃなかった」

「だろうな」

 

 狼谷も烏間と同じようにグラウンドの方へ体を向け、手すりに寄っかかった。

 

「……なぁ知ってるか狼谷」

「なにを?」

「失恋した人って身近な人に次の恋しやすいらしいぞ、なんか本に書いてあった」

「ああ、なんだそんなことか。ならそれは嘘だな」

「なんで?」

「君が身をもって証明してくれてる」

「おーおー言うようになったなお前も。じゃあ俺より先に吹っ切れた先輩にお願いごとしていいか? 無理矢理にでもさせるんだけど」

「……?」

 

 そう言って烏間が制服のポケットから出したのはハートの紙きれ。この高校の目玉のイベントであるカップルナンバーの紙だ。

 

「じゃ~ん! これ見て『78』……これ誰と一緒の番号だと思う? ヒントは俺たちを泣かせた人」

「ははっ……! 嘘だろ……?」

 

 思わずといった様子で狼谷が笑った。そんなことがあるのかと。

 

「んじゃ狼谷ここの端っこ持って」

「……? こうか?」

 

 狼谷にそのハートの端っこを持たせ、烏間はその反対を持った。

 

「俺が『せーの』って言うから思いっきり引っ張れよ」

「え?」

「はい、せーの!!」

 

 心の準備が整う前に、烏間の力が加わり、狼谷は反射でその紙を力強く握って引っ張った。もちろんただの数字が書かれた紙きれに、人の力を耐えれるだけの耐久力は無く、

 

 ビリッ! という乾いた音と共に、呆気なく紙は破れた。

 

「おー、綺麗に真っ二つだ。ご利益あるなぁ」

 

 漫画で失恋を表す絵のように、ハートの紙は綺麗に真っ二つに裂けた。

 

「……えっと、これは?」

 

 狼谷は烏間の意図が分からないようで、またも素直に疑問をぶつけた。

 

「おまじない。……きっと今日の日のことも、俺らの失恋の話も、いつか笑って話せる日が来るだろ」

 

 彼は無邪気な子供のように笑った。

 

「今やった変なこともちゃんと笑い話になるからさ。その時は腹抱えて爆笑でもしよう」

「……うん。きっと話そう」

「おう。……さてと、じゃあ戻るか」

「今どのくらい忙しいのかな?」

「……考えたくねぇ」

 

 その後、教室に戻った二人に激務が待っていたことも、彼らはいつかの未来、過ぎ去りし青春の思い出として話すのだろう。

 

 そんな事もあったなと、共に笑って。

 




烏間くん
容姿端麗だが性格が残念なイケメン。
式守さんの幼馴染でラッキーボーイ。
破れたカップルナンバーの『7』の方を持っている。

狼谷さん
常に周囲にギャラリーができるほどの人気者
高身長でバレー部のエース
破れたカップルナンバーの『8』の方を持っている。
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