時は流れ9月。真夏は過ぎたが未だに残暑が厳しく、アスファルトの反射熱で熱された空気が肺に絡んで鬱陶しい。陽射しは今日という日を台無しにしないようにとありがた迷惑なことに頑張ってくれている。
今日は文化祭2日目だ。
昨日は学生のみの開放でまだ学生だけの客で対応は間に合っていたが、本日は、一般客開放の日で、学生の親だったり、この学校の生徒じゃない学生も訪れていたりして昨日以上に疲れる。
「ねぇ~……烏間って午前までの担当だっけ? 午後も出てくんない?」
「ムリ キツイ ツカレタ」
「あぁ、あまりの疲労でロボに……」
俺のクラス出し物は『ホスト喫茶』だ。男女共に男性ホストの恰好して接客するというものだ。うちのクラスは顔面レベルが高いってことで候補に挙げられて多数決で決定した。ちなみにちゃんとホストっぽいロールプレイをしなけばならなくて、俺に課された役は『クズ系女たらしホスト』だ。そりゃないだろと思ったけどこれが割と人気出た。文化祭の喫茶で安心してホストに嵌れるみたいだ。
クラスを仕切ってるリーダーの見事なマーケティング力だけど、俺のイメージダウンがえぐい。
「てか午後は狼谷来るだろ。俺いらなくね」
「いやいや烏間と狼谷揃った時がメッチャ客入るんだって、私達はそれを『フィーバータイム』と呼んでいる」
「うへぇ……容姿褒められんのは嫌いじゃないけどさ」
これは自慢だが、俺は俺の容姿には自信がある。顔のパーツは揃っているし背も平均以上ある。親が勝手にアイドルのオーディションに応募して三次審査まで通ったぐらいだ。色々考えて最終の面接で辞退はしたけど。周囲の人間が言うには男らしさよりも、美形っぽい感じらしい。美形に生んでくれた親には死ぬほど感謝してる。
でも、
だから、そういう努力を認められるから、誰かが自分の容姿を褒めてくれるのは嫌いじゃない。でもそれを話したら『尊敬できるナルシスト』って言われた。
「……わかった。午後も出るよ」
「マジで!? ちょろ……いや本当に助かるわー!! これで打ち上げタダ券も見えてきたわ!」
「おい聞こえてんだよ本人に」
「――いや、午後は休んでていいよ烏間」
「ん? ああ狼谷」
喫茶の入り口にはホスト衣装を着ていた狼谷が立っていた。教室に入るなり女性陣から黄色い声援が湧いた。女子なのになんでその黒スーツ衣装着こなしてんだ……。
俺よりキャーキャー言われてんの複雑……!
「交代だ烏間」
「ああそんな時間だった?」
「あと今日は一般の人も来てるからフルタイムで働かせるのはキツイんじゃないかリーダー?」
「ん、ん~~~……そっかそうだよね仕方無いかぁ……」
俺のシフト変更を提案してきたクラスリーダーも俺の慮ってくれたのか狼谷の言葉を飲み、俺の午後休憩が戻ってきた。
「じゃあお言葉に甘えて俺は午後の休憩にいってきまーす」
「ああストップ烏間」
トイレでホスト衣装からクラスTシャツに着替えようと、その場から退散しようとしたらリーダーに首根っこ掴まれ、看板を渡される。
「着替えないで校舎回って客引きしてきて」
「マジか」
「いいじゃん。アンタ歩くだけでも目を引くから良い看板なの。ジャケットは脱いでいいからさ。んじゃよろしく!」
「……ういっす」
まぁ確かに。昨日もそんな休憩に入っても人目を気にしてそんなに心休められなかったしあんまり変わんないか。
「……烏間」
廊下に出ると、今度は狼谷に呼び止められる。狼谷は近づいてきて誰も聞いてないか周囲を確認してから、特にリーダーに聞こえないように小声で言った。
「……図書室、休憩室として開放してるから。そこ、あんまり人通らない」
俺はその言葉に目を見開いた。誰も聞こえないようにそれを俺に言うって事は……。
「上手にサボってね」
その意図を狼谷が口にしてくれた。人差し指を立てて「内緒」とジェスチャーをしながら。
「……なんだい、その顔」
「いや、俺よりイケメンな所作をされると複雑で対抗心が顔に出た」
「フッ、はは」
今度は零れた笑みを手で口元を隠して笑う。意識しないで様になってるのズルいわぁ……。
「ごめん、そんな事面と向かって言われたのは初めてだから面白くて、つい」
「……そう、今日ちょっと暑いから水分補給気を付けて頑張れよ」
「うん、烏間も」
担当を狼谷にバトンタッチして、俺は図書室へとサボりにいった。
***
図書室に入った途端、衣装のジャケットを椅子にかけて座って机に突っ伏して力を抜いていた。
(はぁ……落ち着く)
この教室だけ外の空間から切り離されたように静寂だ。自分の心音だけしか耳に入らない。
(……眠くなってきた)
今日は午前で俺の担当は終了だから、これからすべきことは無い。それに、
(……アイツは、今、和泉と回ってるんだよな)
この前、式守から相談された内容が間違ってなければ、二日目は和泉に誘われて一緒に回ってるらしい。
すべきこともやりたいことも無い。だから今日の俺の予定は終了だ。
(……寝るか)
不思議とこの図書室は静かで居心地が良い。窓から入る風も涼しくて気持ちがいい。いつもより気持ちも穏やかになってリラックスついでに睡魔も襲ってきたからそのまま身を委ねた。
今日はもうここで過ごす。俺は完全に寝る態勢に入って顔を伏せた。
(何があっても俺は絶対にここから動かない……!)
決意した瞬間携帯に通知が入った。――式守からだった。
『紙を一緒に探して欲しい』
決意は一瞬にして揺らいでぐらつき、崩れ去った。
『どういうやつ?』
***
無い。つか見つかるわけないだろ。あんな小さな紙。
「あ、ごめんそこのお姉さん」
「エッ、アッ、ふぁい!? 顔、良」
「あのさ、このぐらいのサイズの番号が書かれたハートの紙さ、見覚え無い? 俺の友人が落としちゃってさ」
「い、いえ、見てましぇん……」
「そっか……ごめんね。いきなり呼びかけちゃって、よかったら俺のクラスの出し物に来ない? 1年3組でここの階段を上ってすぐだからさ」
「い、いきまひゅ……」
「ありがと、俺は後で行くからさ」
「ひぃん」
全力のアイドルスマイルで客を口説き落として俺のクラスへと
「……暑っつ」
例の頼まれごとを引き受けてから2時間経った。式守が探しているのは『カップルナンバー』というイベントで使う小さな紙だ。
・生徒会が主催している我が校の名物企画。
・各クラス前に張り出された全校生徒600人の中から自分と同じ番号の異性を見つけ出して、一緒に写真を撮ってもらうイベント。
・そして【同じ番号の相手と結ばれるジンクス】がある!!(重要!!)
……ふと、脳内で友人から聞いた説明を思い出した。
本人達は自分達が行った場所を再度回って探しているらしいので、俺は人に聞いて落ちてないか見てないか探している。ついでにウチのクラスの宣伝してあわよくば案内している。
でも正直半分諦めている。だって……。
「いや次どこ行く~?」「やっべあそこのお化け屋敷メッチャクオリティ高かったわ」「このポップコーン味付け薄くね?」「てか今日暑いわ~一枚で良かったかも」「トイレどこ?」「この高校のパンフどこにあんだろ」「待って制服メッチャ可愛かった~~!!」「あの子フリーなんだって」「ちくわ大明神」「上のクラスの喫茶店行ってみない?」「ピアス落とした」「さっさんどこのクラス?」
この人混みだ。しかも時刻は正午過ぎ。昼食を済まし腹も膨れて遊び倒してる時間帯だ。見つかるのは絶望的で、もし誰かが拾ったとしても捨ててるかもしれないし。
「……」
……辺りを見渡すと校内の地図を見て迷子みたいに辺りを見渡しているお団子頭の女の子が目に入った。
よし。次話しかけるのは髪をお団子にしてるあの子にするか。
前髪を整え、喉を鳴らして声をチューニングして話しかけた。
「ねぇ君」
「いや、いいっス」
バッサリ断られた……。
「は、話ぐらい聞いてくれない?」
「さっきから見てたんで大丈夫っス。一人の女の子に話しかけて悪い店に連れ込んでるっしょ」
「……二つ勘違いしてる。ウチがやってるのはホスト喫茶で悪い店に連れ込んでる訳じゃ無い。それに一人の女の子に話かけてるんじゃなくて可愛い女の子に話かけてる」
「……フーン」
あ、この子可愛いって言われて満更でもないな。押せばいける!!
「あの」
「お断りします」
「せめて話させて」
警戒心強いなこの子。
「ウチの生徒じゃないよね。高校の見学として来たの?」
「……まぁ」
「昇降口に制服飾ってあったでしょ? その近くに」
「高校の説明してたっスね。もう行きました」
「あっ、そう……他に行きたいところとかあるの?」
「……ヒトを、探してるっス」
「迷子?」
「……やっぱ何でも無いっス」
「ちょい待ちちょい待ち」
その場を去ろうとしているお団子の女の子の前に立つ。
「邪魔なんスけど」
「いや、俺この高校だとちょっと顔広いから探し出せるかもしれないよ?」
「……キモくないっスか?」
「えっ酷」
「いやセンパイじゃなくて。……高校まで行ってその人に会おうとしてるのちょっと……客観的に見たらジブン、ヤバい人っスかね?」
「全然思わないけど」
「ホ、ホントに?」
「俺はこんな可愛い子が会いに来てくれるの滅茶苦茶嬉しいし……ってちょい待ちちょい待ち」
「センパイに聞いたアタシがバカだったッス」
呆れた目をしてそのまま横をスルーするのを再び止める。
「ほ、ほら、その人のクラス分かんないでしょ? その人の名前聞けば俺分かるかも」
「1年4組っス」
「あ、もうご存知で……その隣ウチのクラスなんだけど覗いてかない? 今なら名前教えてくれたらコーヒー一杯無料!」
「めげないっスね……じゃあそこまでなら案内されてもいいですよ。ちょい迷ってたとこでしたし」
「よっしゃ」
一名様確保~~!! 廊下の人混みが多く体を無理矢理入れ込んで人波をかき分けないと進めないので先導して歩く。
階段を上がると人通りが多い廊下に出る。この階は人気店が並んでいてその評判を嗅ぎつけて多くの客が押し寄せているみたいだ。人混みに無理矢理肩を入れて歩く。この多さなら多少人とぶつかっても仕方ない。
「……っ、あ」
「おっと」
大きな男性にぶつかって人混みに飲まれて流れていきそうなお団子頭ちゃんの手首を掴む。
「――逃がさないから(ホスト喫茶に入るまでは)」
「……っ、……ウス」
とりあえず絶対に逃がさないようにガッチリ掴む。そのまま手を引っ張って1年4組の教室の前まで辿り着く。
「ッスー……」
お団子頭ちゃんはどうやらその人と会うのに緊張しているらしく、深呼吸をして前髪を整え、手のひらに人の文字を書いて飲み込んで、もう一回深呼吸をして……。
「入んないの?」
「ハ? 今からはいるとこだったんで」
「はいはい」
口調は強いものの、そわそわして声が震えているのを隠せていなかった。緊張しながらそろりそろりと扉から半身だけ出して中の様子を伺いつつ、人を探している。
「いた?」
「……いや、いないみたいッス」
「……名前。教えてくれたら探してみるけど」
「大丈夫っス。……逆に今会えなくて良かったって思ってるんで」
「そうなの?」
「お礼を言いたいだけなんでその人に。でもそれはアタシが入学してからの方が良いかなって。それにこの高校にいるってわかった時点で大収穫っスから!」
お団子頭ちゃんは寂しいと微塵も思わせないように可愛らしく笑った。まぁ本人がそれでいいなら良いか。
「……じゃあ一件落着ってことで俺の」
「遠慮しとくっス」
「まだ何も言ってないし言わせてくれないじゃん……」
「大体想像ついてるんで。ウチのクラス覗いていない? みたいな」
「頑なだな……じゃあいいや。それとは別に聞きたいことあるんだけど……」
お団子頭ちゃんの客引きを諦め、『カップルナンバー』の紙の話をした。
「いやぁ……見て無いっスね」
「だよなぁ……」
「なんスか? 好きな相手と偶然同じ番号なのに落としちゃったんスか?」
目の前のお団子頭ちゃんはニヤニヤと意地悪な笑顔を見せる。式守もからかうモードに入ったらこんな顔してたな。
「いや探してるのは友人で、今言ったシチュエーションも友人のなんだよ」
「なんだ。じゃあ探してあげた方が良いですね」
「じゃあって……俺だったら手伝ってなかったってこと?」
「癪ですが探してあげました。案内した恩って事で」
「優しい…………………………ん?」
「ハ? ていうかそもそもお節介で案内されたものだからアタシが聞いてあげる義理も無いっていうか…………聞いてます?」
廊下の窓を開けると、人混みの熱気を入れ替えるように昼下がりの涼しい風が廊下に入ってきた。
「なぁ、アレ見える? 中庭の木の一番右端。そんで上の枝のとこ」
「え? ……あー……なんかハートの紙みたいなの引っ掛かってますね」
「やっぱり?」
「どうやったらあんなとこに引っ掛かっるんスか……運が悪いかとんでもないドジっスね」
2時間かけて探し出した紙切れは木に引っ掛かって持ち主を待っていた。よく観察すると、ちょっとやそっとの風じゃ飛ばないようにうまーく枝に挟まっていた。待っていても落ちてはこなそうだ。
「一番近くの窓から棒で突いても届かなそうっスね」
「かと言って登ろうにも枝が高くて掴めないし、幹にとっかかりになりそうな引っ掛かりも無いな」
「どうしましょうか……ってなんで見上げてるんスか」
「……よし」
「ちょ、どこ行くんスか!?」
俺は階段を上がり、特別実習棟の突き当たりの廊下へと向かう。
「ん。よかった。人居ない」
特別実習棟は一般開放されてない場所も多く、人影は一つも無かった。助走出来るスペースは十分にあった。
廊下の窓を開けて、眼下の木を確認して目測を測る。
「よし」
「はぁ……はぁ……ちょっとなにしてんスか!?」
「丁度良かったお団子頭ちゃん。ジャケット持ってて」
「お団子頭!?」
なんか知らんけど付いてきていたお団子頭ちゃんに、飛ぶときに邪魔になりそうなジャケットを投げ渡した。
そして数歩下がって距離をとり、助走をつけて廊下を走った。
「――へ? いや、ちょっと!?」
助走の勢いに乗りながら俺は窓から飛び出して、木へ跳んだ。……いや落ちたと言った方が過言じゃないかも。
「いっ……と、あだ! ……うぉ! あぁあああ!?」
重力に従って落下しつつも、目的の紙は掴んだ。落下の勢いを殺す為の枝を掴んだものの、バキリ、と折れてそのまま地面に衝突した。
「っ痛~~~~ったぁ……!」
幸運なことに落下した地面がコンクリートじゃなくて、落ち葉を集めた台車があったのでクッションになって助かった。中庭にいた生徒は突然落ちてきた俺を心配するような目をしているのもあれば、引いているような視線も感じた。
そんなギャラリーをかき分けて、教師が台車の上で横になっている俺に近寄ってきた。
「おいコラァ!! 烏間ぁ! なにしとんじゃぁ!」
「あ、先生。某映画みたく時をかけてみたくなってしまって」
「どんなことしても過去は絶対に戻らないぞ!」
「……今心にグサッと来ました」
先生の言葉が不意打ちで心を抉った。
すぐに先生に事情を説明して、厳重注意でその場は見逃してくれた。初手の冗談で体については全然平気だと思ったんだろう。先生がその場を後にしたらギャラリーもすぐに立ち去り、中庭のざわつきもすぐに文化祭の騒がしさへと戻っていった。
服の汚れを落として立ち上がる。……ちょっと土ついたかも。洗って返さなきゃ。
「はぁ……はぁ……」
「あ、お団子頭ちゃん」
服に付いた落ち葉や土をはたいて落としていると、息切れしているお団子頭ちゃんがやってきた。
「ジャケット預かってくれてありがとう」
「バ、バカでしょ!? 窓から飛ぶとかあり得ないんだけど!? 思いついても実行しないでしょフツー!!」
「ごめん心配させた?」
「いやっ、心ぱっ、はぁ!?」
「どうどう」
色々な感情がごちゃ混ぜになってすごい顔になっているので落ち着かせる。でも気持ちは分かる。多分俺も式守が同じことして今の言葉聞いたらこんな顔すると思う。
「……で? お望みのものはちゃんと取れたんㇲか?」
「それはもう、ほらバッチリ」
掴んだハートの紙切れを取り出してみせる。そこには大きく『212』と書かれていた。
「よかったっスね」
「うん。……本当に見つかって良かった」
「……一つ聞いてもいいですか」
「なに?」
「なんでそこまでするんです?」
「え、あー……お願いしてきた人って俺の大事な友人だから」
「――もしかして好きなんスか。その人のこと」
「…………………………」
「図星って顔してる」
「そんな分かりやすい顔してた?」
「カマかけただけ。今のマジで言ってます?」
最悪。
「……悪い?」
「いや悪いどうこうじゃなくて辛くないんスか。だってさっき同じシチュエーションって言ってたっことは、その二人結ばれるかもしれないってことっスよ」
「そうだけど」
「そうだけどって……負けるかもしれないんですよ? 好きって気持ちを伝えないで諦めるんですか?」
「もう負けてるから良いんだよ」
よくある話だ。幼馴染のあんな顔を初めて見た、でもそれは俺に向けてる感情じゃなかったっていうのは。
「ジャケット預かっててくれてありがと。俺はこれ届けに行くからお団子頭ちゃんは――」
「……ア、アタシなら」
目の前のお団子頭ちゃんは俺の持っているハートの紙切れを指差した。
「アタシなら届けませんけどね。その紙」
言ったったぞ感を出して俺を真っ直ぐに見つめていた。でもその瞳は少し揺れていて、勇気を出して言ってくれたんだろうということが伝わってきた。
愛想笑いや冗談で切り返してもいい。でも俺を気遣って言ってくれたんならちゃんと受け止めて向き合いたい
俺はお団子頭ちゃんの目を真っ直ぐに見つめ返した。
「ありがと。俺の代わりにそれを言ってくれて。やっぱ優しいね」
「……」
「俺だって純粋に応援する気持ちよりも、複雑な感情の方が大きいよ。探してる間に見つからなければいいなって何回か……思ったよ」
「だったら……」
「でも無理。俺好きだもんその人のこと。だからこんな気持ちを見せて嫌われたくない。だって俺その人にはカッコいいとこしか見せたくないし。
だから言葉にしてくれてありがとお団子頭ちゃん。なんかスッキリした」
思っていても口にしちゃいけないことはあって、お団子頭ちゃんはそれを口にしてくれた。俺のそういう嫌な部分の心を肯定してくれた。「そう思ったのはアンタだけじゃない」って。
俺の心を理解して気を遣ってくれたその気持ちだけで満足だ。
「……別に思った事言っただけなんでー……そっちがそう解釈してるだけなんでー……別にお礼とか言われる筋合い無いっていうかー」
照れを隠すように髪をくるくると弄っている。やっぱり俺の言った事は図星みたいだ。多分この子は落とし物を拾ったらちゃんと本人に届けに行くタイプだと思う。
「じゃあ俺はこれ届けに行くから。ジャケット貰うね」
「あ、……ウス」
「あとは文化祭楽しんでねお団子頭ちゃん」
「……隼瀬」
「え?」
「隼瀬リサっス、名前。お団子頭ちゃんじゃない」
「……そっか」
俺はポケットからペンと紙を取り出してそこに俺とお団子頭ちゃんの名前を書いた。
「はいコレ。これ持ってウチのクラス行けばコーヒー一杯無料だから」
「……どうも」
素直に受け取ってくれてよかった。
「時間が空いたら来てよ。じゃあ文化祭楽しんでね!」
「……あ」
俺はお団子頭ちゃんを置いて、急いで二人の下に会いに行った。
烏間くん
式守さんの幼馴染。
自分のこと大好きなナルシストラッキーボーイ。
式守さんの影響で、言動は人たらし気味でキザな台詞も難なく言える。
隼瀬さん
現在中学二年生。
憧れの式守センパイが通っているとの噂を耳にして、興味本位で文化祭に来たらキザなホストにナンパされた。