幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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ビターエンド

 

 告白を受けた式守は狐につままれた表情で烏間を見つめていた。昔のように無邪気に遊んでいたところに、いきなり本題を叩きつけられたその温度差にまだついていけなかった。

 

「い、今言う……?」

「なんていうか……『流れ』? みたいな? 体動かしてテンション上がったら勢いでいくしかないと思って言っちゃった」

「なにそれ……」

 

 たはは、と笑う烏間を見て式守は呆れたようにため息を吐いた。大事なことを話す前なのにもかかわらず空気が間抜けしており、どことなく緩い。

 

「まぁ、俺を選んでほしいと思って言ったわけじゃないから」

「……」

 

 それでも彼女が言うべきことは一つしかない。

 

「……振るよ?」

「うん。そのために呼んだ」

 

 関係をやり直すために、ここから今一度区切りをつけるための告白。なぁなぁのままでは流したくはないと思った烏間の気持ち。

 

 そしてその気持ちを受け止め、誠実に断ることが今できることなのだと式守は理解した。

 

「──ごめんなさい。気持ちは嬉しいけれどその気持ちは貰えません」

 

 そうすることできっとやり直せるのだと。

 

「だから、今までと同じように友達でいたい……です」

「うん……ありがとう。ちゃんと振ってくれて」

 

 今までの関係も元通りになって、これからも友達として話せるようになるのだと。

 

「──でも、友達としているのはもう無理だな」

「……え」

 

 そう思っていたのは式守だけだった。

 

「別に式守のことが嫌いになったから友達でいたくないとか、全部嫌になったからどうでもいいとかじゃなくて……俺が……嫌だから」

 

 烏間は式守の目を見ると後ろめたい気持ちでいっぱいになって目を逸らす。

 

「……俺が和泉の立場だったら、式守のことが好きだった男を近づけたくない」

「……!」

「俺は式守みたいに優しくないから」

 

 そうして烏間の脳内に蘇ったのは文化祭での出来事。狼谷から聞いた失恋の話だった。

 

 狼谷が和泉のことを好きだと知っても、式守はその気持ちを否定せずに大事にしてほしいと許容した。

 

 その話を聞いた時、烏間は自身に失望していた。

 

 自分が式守の立場だったらきっと狼谷に対してなにか釘を刺してしまうだろうと。それこそ『近づかないでほしい』などという言葉を吐いたに違いない。

 

 狭量さと独占欲に塗れた自分が醜く、そういった自分を映すように前を向いた狼谷を妬ましいと思ってしまった自身がなによりカッコ悪いと。

 

「……だから、嫌だ」

 

 狼谷から言われた自分の気持ちと向き合ってほしいという言葉は、烏間の心にちゃんと届き、向き合った。

 

 仄暗くて後ろめたい自分の気持ちと。

 

 式守を好きになったことと同じように、自身のやましい気持ちを無かったことには出来なかった。

 

「……烏間はさ、他の人のことを考えられるほど優しいのに、自分には優しくないよね」

 

 ただそれを式守が納得できるかというのはまた別問題である。

 

 烏間と式守は幼いころからの知り合いであり、お互いにしか知らないことも少なからずあるだろう。目には見えないけれどそれは確かに価値はあって、簡単に捨てられない関係だったものがあった。

 

「……」

 

 式守は烏間に近づいて、だらりと力のない右手を掬うように手を取った。指切りをするように小指を絡める。二つの影を一つにするように影の橋が架かった。

 

「……今後、もう一回私と友達としていたいな。って思ったら烏間から話しかけて」

「……」

「烏間の持ってる気持ち、全部が全部嫌いにならなくてもいいと思う。いつか時間が経ったら誰かに話せるようになるよ。……だからこれは約束。烏間がいつか自分の気持ちを許せるようになったら、私と仲良くしてほしい。……その時に、今日私が言いたかったことも全部言う。……約束」

 

 烏間は無言で式守の白く細い小指に優しく力を入れた。

 

 それが答えだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ゆーびきりげんまん」」

 

 

 これからはもう幼馴染でも何でもない関係へと変わっていく。

 

 

「「うそついたら、はりせんぼんのーます」」

 

 

 これからをやり直すために、今までのことを失くして。

 

 

「「ゆびきった」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あとはお互いに気持ち整理して、普段通りに学校で過ごすだけ」

「うん」

「……」

「……式守、ゆび」

 

 誓いのわらべうたが終わっても、式守は小指を離していなかった。前髪で目元が隠れ、俯いた顔にどういう表情をしているか見えない。そして俯いたまま式守が言葉を紡ぐ。

 

「……文化祭でさ、一年のクラスで変わった出し物があって楽しかったんだよ……烏間が好きって言ってた小説がドラマになって、配役のイメージピッタリじゃん、とか……カラオケのクーポン貰ったとかさぁ……」

 

 顔を上げた彼女の目には、大粒の涙が溜まっていた。まばたきをして頬に流れる前に式守は袖で拭った。

 

「……泣いてないよ。強いもん私」

「……ありがとう」

「恨み言だよ、ばか」

 

 烏間は未だに繋がれていた式守の小指を、余っていた方の手を使って優しくほどいていく。枷を外すようにゆっくりと離れると、互いを繋げていたものがなくなって、電灯の灯りは再び二人分の影を映し出す。

 

「俺は弱いから、それに甘えるよ」

「……」

「……なんだ。これじゃどっちが振ったか分かんないな」

「……ばか」

 

 今はそういう冗談を言うことでしか、前を向いたと伝えることは出来なかった。

 

 親しいからこそ言えないことがあり、その心遣いから踏み込めないことでこじれてしまったものもあるのかもしれない。お互いの青さと、過敏なほどの優しさが招いた結果だった。

 

 言いたいことは、言えないまま。だけどお互いの優しさを少しでも許容できて、想いが伝わるのであれば築いてきたこの関係は意味があるものだと言えるだろう。

 

 ──いや、たとえ意味がなくとも失いたくはなかったものだったのだと、二人の胸が苦しいぐらいに訴えかけていた。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 その後、お互いはそれぞれの帰路についた。

 

 帰り道の途中、烏間は自販機で買った缶コーヒーの、熱いぐらいの温もりを手のひらに感じながら上を見た。透き通った闇色の夜空は満月を浮かべていた。烏間はその場で立ち止まり、近くのガードレールに寄りかかった。少し背を丸め、深く息を吐く。重くなる瞼と空白の思考に浸り、全身を夜の空気に馴染ませていく。

 

 そうして手に馴染む温度になった缶を開けた。ブラックコーヒーの独特な匂いが立ち上り、香りを飲み込むようにして一口飲んだ。

 

(……………………うん、やっぱり不味いわ)

 

 烏間は口に含んだコーヒーの苦みを、初恋の終わりと共に噛みしめた。

 

 




 烏間くん

 容姿端麗だが性格が残念。
 式守さんの幼馴染
 式守さんのことが好きだった。


 次回、最終回(の予定だったもの)です。
 烏間くんの裏設定的なものも活動報告の方に公開する予定です。
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