幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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羽休め

 

 体育館裏を見ると誰もいないようで、安心して日陰の中に足を踏み入れた。

 

 軒下の段差に腰を掛けるとコンクリのひんやりとした感触がスカート越しに伝わる。ここは校舎と体育館に繋がる渡り廊下からも見えないから人の視線も気にすることは無いし、しかもフェンス越しの通学路からは木々が遮って通行人からは見えない。神スポットだここ。

 

 買ってきたサンドイッチをいそいそと取り出し食べようとしたら、野良猫が草陰から現れた。

 

「……」

 

 鳴きもせずに『我、先客ぞ?』と言わんばかりにこっちをじっと見てる。

 

「ちょいちょい」

 

 その視線を無視してアタシがサンドイッチを食べ始めると、野良は近づいて足の間をくるくると旋回し始める。襲いかかってはこないけど、ひたすらこっち見てる。懐っこい子かもしれないけど、いきなりここまで懐かれると逆に対応に困る。

 

「ん、ほれほれ」

 

 すぐ近くに生えていた猫じゃらしっぽい雑草を引き抜いて、目の前でフリフリすると、ノラ(仮称)は本来の野生動物的な本能が目覚めたのか、動いている雑草を目で追いかけて小さな前足でぺしぺしと叩き始めた。まぁ所詮は野生動物だし、本能には抗えないか。

 

 その隙にサンドイッチを頬張ると、猫じゃらしで遊ぶのをやめてその姿をじっと見てくる。こちらがフリフリと動かしても微塵も興味を示さなくなった。まるで獲物をロックオンしたかのように。流石は野生動物、本能に従順だ……。

 

「あげないよー……」

 

 そう言ったらノラは、にゃあと可愛らしい抗議の声を上げてすり寄ってきた。アタシの昼食はこれだけだから流石にあげれない。

 

「いや、無理だから……ダメだよー、あげにゃいよー……」

 

 にゃあにゃあ泣き続けるノラを宥めようとして出来るだけ優しい声を出したけど『あげにゃいよ』は何? ちょっと自分でも恥ずかしくなってきた。人目が無いから言えるけど、誰かが見てたら恥ずか死ぬ。

 

 

「「あ」」

 

 

 誰も見てないことを祈りつつ辺りを見たら──いた。

 

 互いに目が合ってしまって、声が重なってしまった。

 

 制服姿を初めて見たから記憶と印象は少し違うけど、過去に二度会ったことがある名前を知らないセンパイに。

 

 偶然通りかかったようにみえたから見られてたかはわからないけど、気まずそうに目を逸らしていた。

 

「あ、うぇ……あ……」

 

 今のを見られていたらと思うと恥ずかしくて、穴があったら入りたい。そんでもってそこに埋まりたい。

 

「あ、続けて頂いて。俺ちょっとそこのフェンス超えるだけだから」

「え、あっ……」

 

 自分でも顔が赤くなってるのが分かるくらいに恥ずかしいのに、センパイは特にこっちのことを気にもせずにフェンスを乗り越えて歩道に出てしまった。

 

 も、もしかしてアタシのこと憶えてない……? 

 

「あ……」

 

 この、なんか言葉に出来ないモヤモヤを消化しようと未だサンドイッチを狙ってるノラの頭を撫でようとしたらものすごい勢いで逃げられてしまった。

 

 そーですかそーですか。揃いも揃ってさ。別に一人でもいいし。高校なんて友達いなくても卒業できるし。

 

 ……この前会った時は憶えてくれてたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 とか思ってたら数分後にあっち側からフェンス超えて戻ってきた。

 

「まだ一人なの?」

「……フツーにお一人様です」

「あらそう」

 

 アタシはさっきの事なんて無かったかのようにサンドイッチを食べつつ、センパイは一人分の間を空けて隣に座ってきた。……なんで?

 

「いやなんで隣座るんスか」

「だって隼瀬ちゃん一人だと可哀想だと思って」

「なんスか可哀想って。一人でも大丈夫なタイプなんですけど」

「えー? じゃあ付き合ってよ今暇だし。それに良いもの買ってきたし」

「良いもの?」

 

 “良いもの”を取り出そうとビニール袋をガサガサしてたセンパイは「じゃーん」と言いながら三角錐の物体を取り出した。

 

「クラッカー」

「いらんわ」

「鳴らすね」

「まじでやめて」

 

 紐を引っ張ろうとするのを止めようと手を伸ばしたら、一瞬にしてセンパイの手のひらからクラッカーが消えた。センパイはわざとらしく手のひらを見せて持ってませんよとアピールする。

 

「え、どこにやった」

「ふふ……それでは隼瀬ちゃん。あなたのパーカーの中を探ってください」

 

 ……まさか。

 

「えっ! すご! マジで入ってるし!」

「フッ……入学おめでとう」

「いや喧しいわ」

 

 瞬間移動マジックで押し付けるな。センパイもパーカーを着てたから、その中にクラッカー入れて返した。

 

「てかセンパイはここにいていいんスか? 教室とかで誰かと食べたりとかは?」

「ちょっと居づらい理由がありまして避難中。しばらく教室では食べれない」

「へー」

 

 センパイはビニール袋から飲料ゼリーを出して飲み始めた。一日の栄養これ一本みたいなやつ。それあんまり美味しくなくない?

 

「隼瀬ちゃんはどう? クラスに馴染めてる?」

「あんま馴染めては無いっスけど、別に一人でもいいっていうか、むしろ一人の方が好きっていうか」

「ほう」

「皆に合わせてアタシらしさが死ぬんなら一人でいいっス」

「隼瀬ちゃんって面倒くさいね」

「うぐっ」

 

 うるせー、言われなくてもなんとなく自分の面倒くささくらいちょっと知ってるし。

 

「うーん……そっかー」

「なんスか」

「俺、さっきも言ったけどお昼は教室で居づらくてさ。時間潰せる場所探してんのよ。だからしばらくはここに通いたいなーとか思ったり」

「えー……」

 

 せっかく一人でお昼過ごせそうな場所見つけたのに。

 

「うわ露骨に嫌そうな顔。でも隼瀬ちゃんにもメリットあるよ」

「メリット?」

 

 センパイは指を三本立てた。

 

「一つ、何か嫌なことがあったら俺に愚痴れる」

「いや別にいいっス」

「二つ目は担当科目の先生が試験で出してきそうな問題を教えられる」

「……それは微妙にありがたいかも」

「三つ目……は、えっと……なにがあるかな……」

 

 アタシは三つ目のメリットを黙って待っていた。答えを急かさなかったのは、眉を八の字にして困ってるセンパイがちょっと面白くて、観察したかったからかもしれない。

 

「あー、そうだ! 隼瀬ちゃんを楽しませることが出来るとか!」

「自信満々で言えるの凄いっスねそれ。大分ハードル高いっスよ」

「いやいや女の子一人楽しませられないのは、文化祭で荒稼ぎしたホストの名折れですから」

 

 センパイはキメ顔でそう言った。……なんか前にデートに誘われた時のこと思い出した。あれから全然変わってないな。

 

「だからしばらくはここに避難させてほしいんだけど……ダメ?」

「……まぁいいっスよ。昼の間はここ貸したげます」

「あざっす」

 

 別にセンパイとは初めましてじゃないしそこまで気使わなくていいからいっか。ダルがらみされても最悪距離取ればいいし。

 

「ていうか隼瀬ちゃんの着てるそのパーカー可愛いよね」

「え、へへ……なんスかいきなり……べ、別に褒めてもなんも出ないっスよ」

「でもそれクラスで浮かない?」

「へ?」

 

 服褒められて浮かれてそうになったところを半端ないスピードで地に撃ち落とされた。

 

「き、昨日三年がこういう恰好してるの見て、自分なりにアレンジしたんスけど」

「いや入学二日目からブレザーの下にパーカー着ていくの大分ロックよ」

 

 確かに入学して間もないのに、いきなりこういう恰好して来たら周りからはヤンキーっぽく感じるか。

 

「でもあんまし崩したくないっスねこの恰好。可愛いから気に入ってるし。友達つくるために周りに合わせるくらいなら友達いらないっス。浮いたままでいい」

「……ふーん、まぁいいんじゃん? したい恰好するのが一番よ。それに友達ならもういるでしょ」

「誰スか?」

 

 正直友達と言われて誰も頭に浮かばなかったから質問すると、センパイは「俺」と言って自分のことを指差した。

 

「ははっウける、なら友達料払わないと」

「今は無料お試し期間中だから」

「んじゃ月末に解約しないとダメっスね」

「乞食ユーザーが……」

「口悪っ」

「まぁ話を戻すけどウチの学校の先生はそこまで身なりに厳しくないから。それよりも学校に苦情入れるおばさんの方がうるさいって元担任が言ってた」

「ふふっ、なんスかそれ。ぶっちゃけちゃっていいんスか?」

「先生からは黙ってろって言われてたからオフレコで頼みます」

「はーい」

「あっ、そういえばもう一つメリットあった。隼瀬ちゃん文化祭に来た時に人探してるって言ってたよね? 俺分かるかもよその人のクラス」

「あー、それは……」

 

 式守センパイに憧れてこの高校入ったしお礼も言いたいけど、あっちがアタシのこと憶えてなかったらあれだしいきなりお礼言われても困るよね……なんかタイミングあったらどっかで……いつか言おう。

 

「別にわざわざ会いに行くのはなんか違う気がするんでいいです」

「そうなんだ。どうせ狼谷だろうけど

「なんか言いました?」

「いや別に」

 

 ひとりごと、と言ってセンパイは飲み終わったゼリーを丸めてビニール袋へと入れた。アタシもサンドイッチの最後の一口を食べ終わったところで、ちょうど予鈴のチャイムが鳴った。

 

「もう昼終わるから教室戻ろっか」

「そっスね」

 

 立ち上がって体育館裏の日陰から出ていく、外で遊んでた陽キャたちに視線を向けられないようにセンパイを陰にして歩く。

 

 食べ終わった物をゴミ箱に捨てて一緒に校舎へと戻る道すがら、センパイが少し低い声であのさ、と話を切り出してきた。

 

「前のこと憶えてる?」

「なんのことスか?」

 

 嘘。めっちゃ憶えてる。

 

 多分センパイが言ってるのは一緒にデートした日のこと。センパイの失恋を紛らわすために、アタシの気持ちを蔑ろにしたときのこと。

 

 『好きになれない』とアタシを勝手にフッた日のこと。

 

「あの、ほら。もう一年近く前にさ、図書館で会ったじゃん」

「あーはいはいなんとなく残ってますよ記憶の端の方に」

 

 今思い出したって演技、白々しくなかったかな。

 

「あの時は、ごめん」

 

 独り言のように呟いたセンパイの声は小さくて、聞こうとしなかったら聞き零してたかもしれない。

 

「あの時のことまだ引きずってたんスか?」

「あれはかなり自分勝手だったから」

「まぁセンパイが100パー悪いっスもんね」

「うっ……本当にあの時は自分勝手だったというか思い出したら大分やらかしてたなと思ってて……」

「はぁ……、でもあれがきっかけで本当にセンパイのことを嫌ってたら、とっくに体育館裏から立ち去ってたよ」

「え」

 

 困惑してるセンパイを置いて二歩先を歩いた。今はセンパイからみて左前側。多分アタシの顔が見えない位置。

 

「そんなにアタシは気にしてねぇよってことっス。じゃあアタシこっちなんで。急がないとチャイム鳴るっスよ」

 

 そのままセンパイの顔を見ずに、一年の教室に戻っていった。また明日って声は背中で聞いた。

 

 変な勇気を出した私の顔は、少し熱かった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 高校二日目にして大分消耗してしまったアタシは、制服のブレザーをハンガーに掛けて、自室のゲーミングチェアに倒れるようにして座った。そして慣れた手つきでPCの電源ボタンを押した。

 

 疲れた。

 

 授業初日だからって各教科ごとに自己紹介の連続だったけどそれがめっちゃ疲れた。自己紹介って何言えばいいのかわからないし、各教科ごとに自己紹介の内容変えたら「あ、こいつ変えたな」って思われるのも嫌だし……。初っ端から授業も嫌だけど。

 

「ん?」

 

 モニターの画面にデスクトップ画面が映って姿勢を正す。その時に何か背中に固い感触があった。なにか角ばった感覚が首元当たりに。振り返っても椅子に特に無く、背中を触ると何かあった。……パーカーの中に。

 

 アタシがなにか中に入れた覚えはないので犯人の察しはついてる。取り出すと案の定クラッカーが入ってた。押し付けやがってあんにゃろう……!

 

 捨てるのもなにか勿体ない気がするから、適当に置いておこうと引き出しを開けた。

 

 引き出しにしまっていた『合格祈願』と刺繡されたお守り。高校の合格発表が不安で強く握りしめてしまい、しわくちゃになってしまったそれの隣にクラッカーを置いた。

 

 





前の出来事を言われたら持ち前の明るいキャラと勢いで流そうとしていたが、次第に罪悪感が湧いて謝ってしまう烏間
VS
やられたことを咎めるほど気にはしてないが、烏間が忘れてたらイラつくし、憶えてたら憶えてたで「センパイって女々しいっスね(笑)」と自分はそんな気にするほど憶えてないですよアピールする隼瀬ちゃん
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