幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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原作の式守さんの最終回が近いけど、拙作は作者の遅筆のせいでまだまだ終わらないぜ~~!




前触れ

 

 四月も終わりに差し掛かかり、今年は早い梅雨入りだとお天気のお姉さんは言っていた。

 

 入学当初に咲いていた桜は、雨に流されて寂しい姿になってしまい、同じくして新入生は初々しさを脱ぎ捨てるように学校に馴染んでいった。

 学校の大きなイベントも先で、そろそろ五月病が発生しそうな中弛みの中、今日も今日とて昼休みに体育館裏を覗いたら隼瀬ちゃんがちょこんと座っていた。

 

「あ、来た」

「今日も来たよ。超高校級のイケメンが」

「過剰修飾っしょ。どこからツッコミ入れたらいい?」

「お好きにどうぞ」

 

 隼瀬ちゃんは隣に座れるスペースを空けるために少し横にずれ、俺は空けてくれたところに腰を下ろした。

 

 こういう軽口を叩くやり取りも何回目だっけと、数を思い出さないといけないぐらいには、ここで隼瀬ちゃんと昼休みの時間を潰すのが日常になっていた。

 

「あれ、センパイ今日は弁当なんスね」

「昨日親が帰ってきて夕飯をちょこっと多めに作っちゃったから、雑に詰めた」

 

 普段は家に一人のときはウチにある調味料を適当に使って雑にうまいものを作って済ましてるけど、昨日は母親が夕方に帰ってきたので、親にも手伝ってもらって張り切って何品か作った結果余ってしまった。親も酒が入ってて一緒に悪ノリしすぎた気もする。

 

「料理出来るんスね」

「出来るね。出来た方がカッコいいじゃん」

「それこの前家事の話になったときも言ってた気がする」

「家事出来ないよりは、出来た方がウケいいっしょ」

 

 昔から一人で留守番してることが多かったからある程度家事は出来ないといけなかったんだけど。

 

「なんかセンパイあれだよね。彼女出来ても自分でなんでも出来ちゃうから『私っていらないよね……』って彼女に言われて別れそう」

「もうね超下手。弱火10分を強火で短縮しようとするし、味見はしないし、料理あんまりしたことないのに目分量でやろうとするから」

「解像度高いっスね」

「見てきたから……」

 

 昔のウチの母親とか、二年のときのクラスメイトとか……。なんで出来ない人ほど自信あるんだろう。

 

「隼瀬ちゃんは料理出来るタイプ?」

「……あんまり作らないっスね」

「ダウトっしょそれ。全く作んないでしょ?」

「女の見栄じゃないスか。そこ汲み取れないの本当ノンデリっスねセンパイ。モテないでしょ」

「モーテーまーすー! 俺顔だけはいいし!」

「彼女出来たことあるんスか? デートもしたことなかったくせに。あっ、そういや失恋してましたね~!」

 

 隼瀬ちゃんは口元を抑えて煽るように笑った。

 

「はいライン超えた。友達ゼロの隼瀬ちゃんに言われたくないんですけど?」

 

 それに俺は恋人作れないんじゃなくて、作らないだけだから!

 

「アタシは友達作れないんじゃなくて作らないだけなんで」

「そういうことにしとこ」

「ムカつく……。センパイだって教室で友達いないじゃないからここにいるんじゃないスか」

「いやいるよ。でもその友人が所属してるグループが気まずくて入れなくてね……」

「なんで気まずいんスか?」

「……失恋した相手がいる」

「あー……」

「そんでもってその人の彼氏もいる」

「うわぁ」

 

 そしてその彼氏のことが好きだった人もいる……って今考えたら大分ドロドロしてないか俺のクラス?    

 

「今、勢いで聞くんスけど、センパイってまだ失恋ひきづってるんスか?」

「一応ケジメはつけて告白はしました。でも事後処理がどうも今一つというか」

「……ケジメつけたってことは、話のネタになるぐらいには吹っ切れてるってことでいいスか?」

「あ、興味あるカンジ?」

 

 ある。という好奇心に満ちた返事を聞くと、いつもツンツンしてる隼瀬ちゃんも普通の女子高校生で恋バナ好きなんだなぁと実感する。

 

「わかった。じゃあプライバシーを守るためにその人を“S”として──……」

 

 失恋の話を出来るほどには自分の中で区切りがついてるなんて、一年前の自分に言っても信じなかっただろうな。

 

 

 

 ***

 

 

 

「うわぁ」

 

 これまでの失恋体験記を語り終わり、隼瀬ちゃんから出た一言目がそれだった。

 

「脳破壊じゃん……え、えー……エグー……」

「ドン引きじゃん」

「特に花火大会の話が地獄。あー、待って想像したら脳みそにダメージ喰らった。ぐちゃぐちゃになりそう」

 

 隼瀬ちゃんは眉間を抑えて、うおー……と呻いている。まぁあれは自分でも過去一で重いダメージ喰らった気がする。目の前でイチャつかれて、自分には絶対に届かないものを見せられて平気な人いないでしょ。

 

「というかそのSさん? って人も悪くないスか?」

「え?」

 

 そういうばあの時、隼瀬ちゃんの言われた言葉で救われたなー……とか思っていたら、その本人から自分じゃ考えたこともない言葉が飛び出してきた。

 

「恋人いたら幼馴染とはいえ、異性の友人から距離とりません? それにセンパイから距離取ってくれてるのに察せなかったSさんも悪くないっスか? 鈍感なだけかもしれないっスけど」

「そういうもん?」

「……いやアタシ恋愛経験無いし恋バナとか話したことないんで、一個人の価値観と意見ッスけど。アタシ的にはセンパイが全部悪いってわけじゃないと思うしそんな落ち込まなくてもいいとは思うんスけどねー……てかまだ好きなんスか?」

「はは、まさか」

「本当は?」

「……話せたらちょっと嬉しい……かも」

「……」

「ち、違うんだって!」

 

 目は口程に物を言うとはこのことで『情けねぇな』と言われているような無言の視線が痛い。

 

「もう話さないってケジメはつけてんの! そこの一線は引いてるし気持ちは諦めてるから! でもやっぱりその人への感情がマイナスにならないからちょっと褒められたりしたら嬉しいものなの!」

「ちょろいかよ。そんな引きずるほど好きだったんスか」

「自慢じゃないけど、寝込んだぐらいだしね!」

「本当に自慢じゃないっスね……。じゃあその人と一緒の教室にいるのが気まずいから昼はここに避難してきてると」

「そうそう。それに俺はもう話す気はないんだけど、あっちは元の関係に戻りたいって思ってて、その気持ちをないがしろにしてる自分も居心地が悪くてさ……」

「メンドクサ~~……」

 

 俺もそう思う。なんでこんな関係になってしまって、いつからこんな面倒くさい自分になってしまったんだろうって。

 いっそ俺が女の子に生まれてたら式守のこと好きになってなくて、より良い友達として隣にいれたんじゃないかって、あるはずの無いことを考える。

 

「でもまぁ、友人のKさんがいて本当に良かったっスね。立ち直れたのその人のおかげでしょ?」

「それは本当にそう。マジで感謝してる」

 

 もちろん友人のKとは狼谷のことで、気持ちが沈んでる時に励ましてくれた友達として話した。さすがに家で押し倒したときの事件のことだけは伏せたけど。

 

「なんかいいっスね。失恋した友人を励ますとか()()()の友情? みたいな感じがして」

 

 ……今、隼瀬ちゃん()()()って言った? 話してる時に俺がめちゃくちゃかっこよくていいヤツだって説明したから、もしかして狼谷のこと男だと勘違いしてる? 

 

「そうそう。仲直りとして河原で殴り合った」

「青春だー……いや青春か? 時代錯誤すぎるでしょ」

 

 でも勘違いさせたままの方が面白そうだから黙ってた。今度、機会があったら狼谷を紹介して、驚いた隼瀬ちゃんの顔とか見てみたいし。

 

「でもそのKさんもセンパイとSさんの気まずい関係の中いるわけで、今一番困ってるんじゃないんスか? アタシ的にはそのSさんと普通に話せるようになって、Kさんに気を遣わせない方がいいと思うんスけど」

「まぁそれは考えたことはあるけど……」

 

 確かに共通の友人である狼谷が胃が痛いポジションなのは間違いない。だけど狼谷から気まずいっていう空気を感じ取ったことがない。狼谷はああ見えて顔に出るタイプだし、最近は俺に対してたまに辛辣なことも言ったりするから不満とか直してほしいとかがあったら素直に言うはず。

 

「いやでもさぁ、さっきも言ったけど俺がその彼氏の立場だとして。彼女が告白された男性とまだ仲良くしてるの嫌じゃない?」

「たしかに。なんでまだそこの関係あるんだよってなるし、気持ちがその人に寄ってない? って不安になる」

 

 隼瀬ちゃんはあかべこのようにうんうんと頷いた。

 

「ハァ……センパイの人間関係って面倒くせーっスね」

「隼瀬ちゃんも気を付けなよ。高校一年生ってのが恋人作ろうと周りが一番ギラギラして面倒くさい時期なんだから」

「はーい。センパイみたいな人と友達にならないように気をつけまーす」

「ひどい」

 

 隼瀬ちゃんの適当な返事の後にチャイムが鳴った。食べ終わった弁当をしまい、ふと空を見上げると一雨降りそうな曇り空だった。

 

「確か今日の六限って委員会決めか」

「絶対に一人一つやんなきゃいけないんスよねー……楽なのあります?」

 

 今日は五限が終わった後に委員会を決めるHRがあり、放課後には委員会の集まりがある。

 委員長を決め、所属する委員会の説明とか、今後どうするのかとか、当番とか色々決めることになる。

 

「図書委員おすすめ。力仕事あるけどそこまでだし、図書室に置いてあるPCでデータベース閲覧すんの楽しいよ」

「……センパイも図書委員やるつもりスか?」

「その枠が空いてたらね。俺って優等生だからどこ入っても動けるから、どこでもいいんだよね」

「……でも図書委員やりたいんスよね? 楽だから」

「ん? まぁ、他に比べたらね。なんか性に合ってるし」

「じゃあ図書委員やった方がいいっスね。適材適所って言葉もあるし」

「え、うん」

 

 なんで俺にこんな図書委員推してくるんだろ。

 

「ア、アタシは余ったのに入りますかねー……体育委員と音楽委員と文化委員と保健委員と放送委員以外の」

「結構絞られたな」

 

 あとウチは放送部あるから放送委員は存在しない。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「希望の委員の欄に名前書いていってくださーい。必ず一つはどこかに書いてくださいねー」

 

 最初に決まった学級委員が先生とバトンタッチして代わりに進行する。最初から委員会を決めていた人は次々と席を立ち、黒板に自分の名前を書いていく。

 大体埋まってきたところで、図書委員に空きがあったのでそこに入れようと書きに行ったら、和泉と鉢合わせた。

 

「あ、烏間くん図書委員希望?」

「ううん。別に空いてたから書こうとしただけだから。他のやつやる」

 

 図書委員の隣の保健委員の枠に自分の名前を書く。

 

「烏間くんが保健委員……似合いそうだね白衣とか!」

「着ないだろ。似合うけど」

 

 和泉の天然ボケは置いておきつつ、保健委員だって基本的に仕事は少ない方だ。怪我した人を保険室まで運んだりとか、体育祭で先生の手伝いとして働かせるだけだから選んだ。

 

「和泉くんは今年も図書委員なんだね」

 

 手に付いたチョークの粉を落としていると、席で様子を見ていた狼谷が隣へとやってきた。

 

「狼谷さん、今年は図書委員やらないの?」

「ううん。今年も余りそうな所にいれようかな」

「そっか」

 

 狼谷と和泉が話しているのを見て、俺は横目で気づかれないように式守の方をみた。式守は和泉と狼谷の会話を特に気にしている様子は無く、半歩後ろから犬束という男子と話していた。

 

 ……狼谷が和泉や式守に対して、友達としての距離感で接するようになったきっかけは、多分バレンタインの時からだった。

 

 当時一緒にバレンタインのチョコ作りをしている時に、和泉に渡すようの友チョコを作っていたことは狼谷から教えてもらっていた。俺はその後の結果を言及してないからどうなったかは知らない。だけど狼谷の雰囲気が柔らかくなったり、前と比べてよく笑うようになったから、悪い結果にはならなかったんだと思う。

 

「体育委員でもやろうかな」

「あ、んじゃ俺も」

 

 そう言って狼谷と、後ろにいた犬束がチョークを取って体育委員のところに名前を書く。

 他のクラスメイトも続々と黒板に自分の名前を書いていき、順調に委員会の枠が埋まっていく。その中で後ろにいた式守も風紀委員の欄に名前を書いた。

 

「式守さんが風紀委員……ね、烏間くん」

「なんだよ」

 

 和泉が近づいて、コソコソと耳元で喋った。

 

「風紀委員って響きさ……」

 

 ……へー意外。和泉もそういうこと考えるんだ。まぁ健全な男子高校生だもんな。確かに風紀委員って響きはちょっとエッ──。

 

「カッコいいよね!」

「……狼谷。俺を殴れ」

「パーでいいか?」

「バレー部のパーはヤバいからグーで頼む」

「乗り気なんだ……」

 

 和泉のあまりのピュアさに俺の汚い心が焼かれた。イカロスが太陽に近づきすぎて翼が焼け落ちたように、“光”に近づきすぎると俺の心は燃え尽き、灰になってしまうのだ。

 

「大丈夫、烏間くん? いきなり机にもたれかかったけど……」

「心が汚い俺ってただ顔が良いだけじゃん……」

「大丈夫そうだね」

 

 ぱんち。と狼谷に軽く肩を殴られ一度煩悩を退散させ心を復活させた。そうだよね風紀委員って響きは別にエッチじゃないもんな。普通は保健委員の方がエロい感じするもんな。煩悩退散してねぇな。

 

「狼谷、もう一回殴れ。まだ足りなかったみたい。今度はもっと強く殴れ」

「その言い方、変態みたいでなんか嫌だ」

「狼谷は変態な俺でも……受け入れてくれるよな……?」

「治してくれ」

 

 冗談を冷たくあしらわれ、狼谷はスタスタと歩いて自席に戻っていった。

 

「あれだね。狼谷さんって烏間くんに対してズカズカ言うんだね」

「ううっ、昔は優しい子だったんです……」

 

 いつからかな、狼谷が俺に対してちょっと塩対応気味になったのは。一年の頃は俺にも爽やかアルカイックスマイルを向けてくれてたというのに……。

 

「──うん! これで全部埋まりましたね。じゃあ皆さん席に戻ってください」

 

 どうやら茶番をしている間に、委員会が決まったたらしい。クラスが担任の通る声に従って着席した。

 

 先生の話を適当に聞きつつ、ふいに窓の外を見るとポツポツと雨が降り始めていた。今はまだ小雨だが帰る頃には本降りになりそうな雲行きだった。

 

 ──ふと、嗅覚と脳の記憶というのは深く結びついてるという話を思い出した。人間の五感の中でも、嗅覚だけが海馬という記憶の司る脳の部位に直接的に信号を送ることが出来るらしい。

 

 なぜこんな雑学を思い出したのかというと、雨の匂いにあてられ、中学の頃に式守と仲直りした記憶が蘇ったからだった。

 あの日もたしか雨の日で、傘を無くした式守を追っかけて雨の中走ったっけなー。

 

 ……そういえば式守ってあの時、なんで傘無くしてたんだっけ?

 





図書委員になった隼瀬ちゃん「(センパイいないじゃん……)」


 烏間が「女の子になってたら……」云々言ってましたが、女の子に生まれたとしても式守さんのこと好きになってましたし、男の時より気持ちを拗らせちゃって、和泉くんにちょっかいかけて式守さんとの関係にヒビが入るところまでみえた。
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