幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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まるであなたは鏡のよう

 昨日の敵は今日の友なんて言うが、和泉のクラスと余りにも早すぎる和解をしつつ、体育館へと向かう。二階から体育館へ入ると、ウチのクラスと和泉のクラスは大勢のギャラリー達に囲まれ、熱戦が繰り広げられていた。どちらかが一点を取るとギャラリー達は歓声を上げ、負けじと点数を取り返すと会場の熱気が上がっていく。

 

「おお~っ! 超接戦じゃん」

「でも俺らのクラスが勝っとるな。このまま勝つやろ」

「はぁ? 俺らのクラスが負けるわけないんだが?」

「は?」

「あ゛?」

 

 前言撤回。そう簡単に人は仲良くなれない。二階の応援席で場外乱闘を起こしてる奴らを放っといて、和泉と一緒に試合を見学する。試合はウチのクラスが点数的には勝っているが、二点差をずっとキープしている展開だ。流れが変わったら逆転もあり得る。

 ……式守やっぱ運動神経いいな。めっちゃ球拾うじゃん。

 

「……」

「……」

「……和泉、応援しないの?」

 

 なぜか隣で俺の方をじっと見る和泉の視線に気付く。俺は誰かに見られている視線には敏感だぞ。

 

「えっ、あ。……烏間くんが黙ってみてたから」

「なに? 俺に見惚れてたのか?」

「式守さーん!! 頑張れー!!」

 

 無視すんな。反応されたらされたで困るけど。

 

「……!」

 

 あ、式守こっち見た。軽く手を振っているけど、隣にいる和泉に対してだろうから手は振り返さないでおこう。自分に対して手を振ってくれてるかと思ったら、実は後ろの人に手を振っていた時の恥ずかしさは耐え難いからな。

 

「頑張れ式守さーん!!」

 

 和泉の声援を受けた式守は鉢巻を結びなおして、本気と書いてマジのスイッチを入れた。……あーあ。ああなった時の式守は負けないぞ。こりゃウチのクラス初戦敗退かもな。

 

 試合再開のホイッスルが鳴ると、式守無双が始まった。ブロックするわ、ボールは拾うわ、サーブは決めるわ。八面六臂の大活躍だ。周りのギャラリーも騒がしくなってきていて、女子がキャーキャー言っている。

 

「え、嘘かっこよすぎ……私ソッチ側じゃなかったのに……!」「無理。イケメン過ぎる……霞でも食べて生きてるの?」「ファンサしてほしい……」「(ハオ)」「あの人の声のASMRを作って宇宙開闢からこの星の終末まで聞いていたい……永久(とわ)に」

 

 ふふん、だろ? あのカッコいい子、俺の幼馴染なんだよ。……やばいやばい。式守が褒められてると自然と笑顔になってしまう。ポーカーフェイスを徹底して和泉に好きだってこと悟られないようにしろ。

 

 ニヤケ面を誤魔化すために頬をむにむにと揉みながらウチのチームを見ると、運動部じゃない選手はかなりしんどそうな顔をしていた。

 

 ウチのクラスも経験者いて強い筈なのになー。もう相手を初心者チームじゃなくてガチの対戦相手と戦う目つきしてるし。ほらあの狼谷だって……。

 

「烏間くん! ちゃんと自分のチーム応援しないと」

「え、ああ」

 

 ……常にクールな狼谷が、あそこまで熱くなっているのは初めて見た。試合の時の狼谷の姿は知らないが、いつも他人に興味が無さそうな目はいつもより熱を持っていて、その視線の先にいるのは式守だった。

 

(……まさかお前も)

 

 実はほんのちょっとした違和感はあった。

 和泉が式守を応援しに体育館に入ってきた時、式守に声援を送ったときに和泉を見る目。

 

 そして今、対戦相手の式守を見る目。

 

 それはまるでどこかの誰かみたいで心当たりがあった。……あんな風に見えるんだ。

 

「……頑張れ」

 

 失礼かもしれないけど、勝手に共感して、心のどこかで親近感を覚えた。そしてその胸の内の言葉が自然と口から漏れ出た。

 

「……頑張れ。狼谷」

 

 

 ***

 

 

 俺は二人分のスポーツドリンクを自販機で買い、狼谷を探そうとしたところ偶然にも女子トイレの前を通りかかったらちょうどトイレから狼谷が出てきた。

 

「……女子トイレの前で待ち伏せするのはどうかと思う」

「本っ当に偶然だから!!」

 

 マジで勘違いすんな。俺そんな変態じゃないから。

 

「次、ソフトは二試合目だろ? いかなくていいのか?」

「見てこの指。あと利き腕上がらねぇから俺無しで試合してる」

「ウワ」

 

 向けた指の皮と指の関節に出来たタコを絆創膏で隠した手を見せたら、引かれながら笑われた。

 

「私以外の女子たちは?」

「初戦敗退して時間が余ったからソフトの応援に行った」

「そうか、じゃあ私も少し休んでから応援に行こうかな」

「ほれ、じゃあコレ残念賞と頑張ったで賞」

「……では、ありがたく」

 

 スポーツドリンクを投げ渡すと、狼谷は片手で受け取り、キャップを外してそのまま一気飲みした。

 

「狼谷ってさ、飲み食いのスピード早いよな」

「そうか? 気にしたことなかった」

「……もう一本飲むか? これ開けてないし」

「流石に悪いから遠慮しておく。……というかいきなりどうしたんだ」

「いや別に。なんかそういう気分だった」

「……?」

 

 俺もペットボトルを開けて一口だけ飲んだ。

 

「でも悔しいな。まさか相手のクラスにあんな伏兵が潜んでいたなんて」

「式守のことだろ?」

「ああ。……教室が遠いから話でしか聞いてなかったけど、あの子あんなに運動出来るなんてね」

「だろ? 式守ああ見えて中学で空手の全国出てるし、大体のスポーツ出来るんだよ。俺中学でバスケ部だったけど、部活辞めるまではたまーに1on1付き合ってくれたんだけど、メッチャバスケ上手いの。すげーだろ」

「なんで君がそんな誇らしげなんだ……ってそういえば烏間は昔馴染みなんだっけ……あ」

 

 狼谷が急に足を止めて、少し先の床に視線を落として立ち止まる。急に立ち止まるもんだから、一歩先を歩いていた俺は立ち止まって狼谷へ振り返る。

 

「どうした?」

「いや、そうか……ああ、全部合点がいったよ」

「なにが?」

 

 疑問を投げかけると、狼谷が「……はは」と乾いた笑いを零して俯く。そして深いため息を吐きながら顔を上げた。

 その瞳には鏡のように俺を映していた。

 

「同情ならいらないよ」

 

 狼谷は俺の目を見て優しく笑いながら言った。

 

「全部……分かったよ。君の気持ちと、この行為の意味も」

「……勝手に同情して気分を悪くさせたなら、ゴメン」

「いいよ別に。君が、私の気持ちをバラさないでくれたらそれでいい」

「それは、当たり前だろ。そんな人間に見えるか?」

「見えないね。君は陰でこっそり泣く人だから。私の気持ちを分かってくれてると思ってる」

「なっ!? 見てたのかよ性格悪いな!」

「偶然気付いただけだよ」

「……なら別にいいか」

「でも、そうか。あの時の私は君に対して、今日の君みたいな行動をとればよかったのかな」

「いや、絶対にやめてくれ。誰かに見られるのはマジでキツイ」

 

 言葉にしていない、この場で口にするつもりも無い。きっとそれは俺達にとって無粋な事だと分かっていたからだ。

 

 ああ、式守さん(和泉)のことが好きだったんだなって。

 

「でもさ狼谷のこと舐めてたわ正直。俺の気持ち気付かれると思ってなかった」

「……烏間はさ。よく前髪直すだろ? ナルシストだからちょくちょく直してるのかと思ってたけど」

「ナルシストって……否定はしないけど身だしなみは整えるだろ普通」

「……じゃあその身だしなみを整える行為は、決まって式守さんのとこに会いに行くときしかやってなかったよ烏間は」

「……」

「どうした急に廊下の壁に頭を擦りつけて」

「……意識してなかったわけじゃないけど、人から言われると滅茶苦茶恥ずかしい」

「はは、さっき合点がいったときに思い返してみたら、ね。それに別にいいんじゃないか。……私にも心当たりはあるし」

 

 そう言った狼谷は頬を少し照れ臭そうに掻いていた。

 

「烏間はいつから?」

「一年の春あたり、自分の気持ちに自覚したら終わってた」

「一年もか。ご愁傷様」

「狼谷は?」

「……私は……実はわからないんだ」

「わからない?」

「あぁ。この心が、世間一般でいう、その、恋、なのかどうかわからないから、いつこうなったのかとかもよく……わからない」

「でも一緒にいると心地いいんだろ?」

「……お見通しだな」

「俺はその気持ちに何年も付き合ってきたからな」

「さすが先輩」

「この場においては大分不名誉な敬称だな」

 

 お互いの自虐を傷を舐めあうように笑い合う。

 

「烏間。参考までに聞きたいんだけど、どうやってこの気持ちを処理した?」

「俺もまだ模索中。和泉への複雑な気持ちは、今日の球技大会で八つ当たりしてボコボコにして整理はついたけども」

「ひどいな」

 

 正直、和泉があんなに良い奴だったからこんなに引きずらないで済んだ。もし性格がねじ曲がって悪い奴だったらもっと長引いていた。あんな性格悪い奴のどこが好きなんだ! って感じで。

 ……式守がそんな性格悪いやつ好きになるわけがないと信じてるけど。

 

「でも、式守への気持ちがまだ処理出来てない。それは多分年月の問題だからだと俺は思ってる。一緒に過ごしてきた時間が長すぎて、俺の中の気持ちが、俺が思っているより大きくなっているから処理しきれないんだ」

 

 二年生になっても、こんなに引きずっているのがその証拠だ。

 

「だから捨てられないなら気持ちが薄れてくれるのを待つしかないかもな」

「……時間が解決してくれるのを待つってことか?」

「今はそれしかないと思ってる。でも苦しいぞ。甘い毒ガスを吸わされている気分」

「望むところだ。生憎だけど自分の心を殺すのにはちょっと慣れていてね」

「はは、いい自虐ネタを言うようになったじゃん」

「秘密を共有した君の前だからだよ。もう誰にも絶対に悟らせないように気を付ける」

「ああ、頑張れ」

「それはお互いにだろ」

 

 話に決着がついたところで。俺はグラウンドの方に視線を向ける。

 

「そろそろ応援に行くか。……二人で行ったらなんて言われるかわからんな」

「そうだね。……噂が立ったら烏間のこと好きな人から刺されそうだし」

「それこっちの台詞」

 




烏間くん
式守さんの幼馴染
自分が大好きなラッキーボーイ。
式守さんが褒められると自分のことのように嬉しい

狼谷さん
常に周囲にギャラリーができるほどの人気者
高身長でバレー部のエース
危惧してような噂は流れずホッとしている。

式守さん
和泉くんの彼女
普段は可愛いが和泉くんの前ではイケメンになる。
応援に来てくれた和泉くんと烏間くんに手を振りったけど、烏間くんがそっぽ向いたのでちょっと不服。

和泉くん
式守さんの彼氏。
明るく優しい男の子。生粋の不幸体質持ち。
体育館に入ったとき、烏間くんの視線が式守さんへ向いていたのが気になった。


次回はテスト期間編で隼瀬さん回です。
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