幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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空欄を埋める人

 

 アタシは今テスト期間中で、一週間後には期末試験がある。そして半年後にはもう高校入試が始まってるわけだから受験勉強をしないといけない。けどずっと自宅で勉強してると気が滅入ってしまうから今日は日曜日ということで気分転換として図書館で勉強しようとお出かけした。

 

 けどぶっ通しで勉強してると効率も悪いし疲れてしまうから休憩も必要。だからこれは息抜き。ちょっとした贅沢。

 

「ねぇ、隼瀬ちゃん。映画館でなにか食べる人?」

「ポップコーン。キャラメルのやつ」

「あ、俺もキャラメル好き。半分こしない? 俺映画中に全部食べきれる自信無い」

「良いっスよ」

 

 ……なんでセンパイとデートしてるの?

 

 

 ***

 

 

 朝から昼へ移ろう時間、隼瀬リサは受験勉強と期末試験のテスト勉強をするために、気分転換として外で勉強しようと筆記用具を持って外に出た。歩きながら頭の中で勉強場所の候補を絞っていく。

 

(ショッピングモールのフードコートはパス。あとカフェとかも今日はなし)

 

 消去法で残っている場所の候補としては図書館だったが、一番近いところではなくそれより一つ離れた場所にある図書館へ足を運んだ。休日に同級生と会いたくないためだ。

 単語帳を開いて英単語を暗記しつつ図書館を訪れる。冷房の効いた館内に入って、できるだけ人の目が気にならなそうな場所を探していると。

 

(うっそ……!)

 

 眼鏡をかけた烏間が、本を読むための大きい共有テーブルで本を読んでいた。彼は本をテーブルに置き、肘をつきながら中身を吟味するように本とにらめっこをしていた。

 

 隼瀬は驚きのあまり、変な鳴き声は出さなかったものの口をあんぐりと開けた。ここは図書館。大声を出して受付の人に注意でもされたら一生ここには来れないと彼女は思っていた。

 しかし偶然の再会とはいえ顔見知り程度。休日に知り合いと顔を合わせたくない隼瀬にとってここは図書館を出て違う場所で勉強する選択をとるはずだった。

 

(……いや待てよ。センパイあの高校に入ったってことは割と頭良いんだよね)

 

 しかし隼瀬の思考が図書館に出ていく足を止めた。

 

 隼瀬が目指している第一志望の高校の偏差値はかなり高い。どのくらいのレベル、というと漠然にはなるものの、隼瀬の通っている中学校の学年トップを取る人でも高い目標だ。挑むなら本命。滑り止めなら少しランクを落として別のところを滑り止めにしろと先生から言われるぐらいだ。

 その高校に通っているのが式守センパイとあのチャラ男ホスト眼鏡(烏間)だという事実に彼女は気がついた。

 

(……話しかけて勉強教えてもらう? ちょっと一人じゃ分かんないとこあったし、土曜日にわざわざ学校行って先生に聞きに行きたくないし。今ここで教えてもらったら効率よくね? 

 それに最近誰とも会話してないから(特にムキムキチョモランマさん)ちょっと話し相手に飢えてたし。学校の愚痴とか勉強の愚痴とか少しだけ聞いて欲しかったし)

 

 きっかけができるとそれを正当化するための理由が湯水のように湧き出てくる。

 

(作戦:ちょっと話してちょっと勉強見てもらってあとは黙って過ごす。これだ。よし、あとはさりげなくテーブルに近づいて「えー奇遇。あの時のセンパイじゃん。やほ、名前覚えてます?」みたいな感じで話しかければ……)

 

 そんなギャルみたいな言動を内弁慶で人見知りな彼女が取れるのかはともかく、彼女の中では理想的な、休日に顔見知りにかけるさりげない挨拶をしようと烏間のいるテーブルへと近づいた。

 

 (……ちょっと待って)

 

 しかしこの作戦に致命的な欠陥があることに彼女は気付いた。

 

 (あっちがアタシのこと覚えてなかったらこの作戦ヤバくない? 「ゴメン誰だっけ?」とか言われたら恥ずか死んで一週間は引きずる)

 

 作戦中止。隼瀬は一時撤退して不自然に見えないよう共有スペースのテーブルの左角へと座り緊急回避。幸いにも烏間が座ってるのは右端の対角線上で一番遠く、見られにくい位置へと座った。動揺を悟られないように素早く勉強道具をテーブルに広げ領地を獲得する。

 

 (はいアタシは今から受験生ですよ~勉強の邪魔なんで話かけないで下さいね~全然あなたのことなんて気になってませんよ~。……よし。全く興味ない感じで本読んでる。ていうかよく考えたらあの時はお団子にしてたけど今日はポニテだし、それに今日全然オシャレしてないから気付くはずないじゃんアタシのバカ)

 

 二人が初めて会ったのは去年の文化祭の一度きりだ。あの時の隼瀬の見た目は、両耳の当たりで髪を団子状にしていたため、今とは大分印象が違う。そして烏間はその特徴が印象的だったからこそ『お団子頭ちゃん』と呼んでいたのだ。

 

 彼はきっと憶えてないだろうと決めつけて、隼瀬はこれ以上もうなにも考えないようにして、付箋の貼ってある参考書や、くたびれたノートを開いて勉強に集中した。

 

 

 

 ***

 

 

 (まっったく集中できん。三十分経っても全然勉強モード入らないし。やっべぇ時間の浪費~~。絶対あの対角線上に座ってるセンパイのせいなんだけど?)

 

 全然勉強に集中出来ずただ時間を浪費しただけという、行き場のない焦燥感を烏間へとぶつけていた。

 

 (人違いじゃないかってぐらい雰囲気違うからさっきからバレないようにチラチラ見て確認してるけど、アタシの人違いな気がしてきた。だってあんなにチャラかった人が知的そうに見えるわけないじゃん。メガネなんかかけちゃってさ)

 

 教科書を垂直に立てて、そこかチラ見するように烏間を覗いていると、突然烏間が席を立った。

 

(あ、席立った。ヤバイヤバイ、あなたのこと見てませんよー見てませんよー……。見……こっち来てる!? 前に立った!!????)

 

「あのさ」

「……なんしゅか」

 

 噛んだ。隼瀬は羞恥心で舌を噛み切って死にたい気持ちになる。

 

「さっきからチラチラ見られると気になるんだけど。隼瀬ちゃん」

「す、すみませんそういう気じゃ……へ?」

「あれ? 人違いでした? ……ごめんなさい。顔見知りに似てたので……」

「い、いえ。アタシ。隼瀬リサっす。えっと」

「文化祭に来てくれた子でしょ?」

「(……覚えてくれてたんだ。ヤバイ、なんかちょっと嬉しい。ア、アタシも覚えてるって言わなきゃ)」

「ていうか俺のこと覚えてる?」

「あ、あ~。あの文化祭のホストでチャラいセンパイっスよね? 今思い出したっス」

「(アタシのバカ~~~~ッ!!)」

 

 心の中で自分は何をしているんだとツッコミを入れる。

 

「メ、メガネ着けてるから全然気づかなかったっス。本読むときとか勉強するときメガネ着けるタイプなんスね。いつもはコンタクトっスか?」

「いや裸眼。メガネはカッコつけ。似合うっしょ」

 

 よくある眼鏡データキャラのように烏間がドヤ顔でメガネをクイッと人差し指で上げる。隼瀬の中の烏間に対する知性的な雰囲気が一気に剥がれ落ちた。

 

「それにオシャレしてお出かけすると気分アガるから、たまには違う感じで外に出たくて」

「メッチャ分かる! ……分かります」

 

 隼瀬は自分と同じ感覚を持っていたから激しく共感し、テンションが上がって思わず敬語外して同意した。そして自分で思ったよりも声が出て恥ずかしくなり烏間から目を逸らした。

 

「ていうか勉強しに図書館来たの? 超偉いじゃん」

「受験勉強で部屋じゃ集中できなくてなってたまには気分を変えたくて図書館に……」

「わかるわ。自室はリラックスする空間であってほしいからやりたくないんだよな~……一応俺先輩だし、わかんないとこあったら教えられるけど」

「マジすか!」

「声大きい」

「あ、スンマセン……」

 

 烏間が隼瀬の正面の椅子に座り、さっきより近い位置で顔が見えるようになる。

 

「今はなんの勉強してたの?」

「あ、えっと今はこの前受けた模試の自己採点した後に、回答が返ってくる前にその復習してました」

「うわ受験生か。てか偉すぎるでしょ、全然やってこなかったんだけど模試の見直しとか」

「アタシ結構バカなんでセンパイの高校行くには頑張んなきゃいけないんです」

「ちなみにだけど第一志望校の判定聞いていい?」

「……C」

「本当は?」

「……Dっス」

「なんだ。まだ夏だし全然いけるじゃん」

「……え」

 

 隼瀬は烏間の言葉に驚いた。なぜなら進路希望調査に第一志望校を書いた際には先生には首を横に振られ、親には不安そうな顔をさせてしまうほどに隼瀬の成績は芳しくない。だからそれを言われるのが嫌で志望校判定のサバを読んだのだ。

 

「……ムリとか思わないんですか?」

「なにが」

「受からないかもしれないって」

「あー受験期特有のナーバス期間か。……受験なんて血を吐きながら続けるマラソンみたいなもんだから気持ちは分かるけど。そういう時こそ自分はまだやれるって強がんなきゃ」

「強がる……?」

「そうそう。自分の負けそうな気持ちが大きいけど、まだ諦めたくないって気持ちはあるんでしょ? ならその気持ちを無理矢理にでも奮い立たせて頑張る。……ってそれが簡単に出来たらいいんだけどねー」

 

 あはは。と、烏間は自分の発言に肩をすくめ、眉を下げて笑っていた。

 

「でも隼瀬ちゃんは、こんなに勉強頑張ってるから受かると思うけどな」

 

 烏間は机に置いてある付箋の貼ってある参考書や、くたびれたノートを手に取ってペラペラと捲って、そう言った。

 

「経験談なんだけどきちんと自分が向き合ってきた努力はちゃんと実るよ。あとはどれだけ自分を信じて認められるかじゃない?」

 

 友人はいないため模試の結果を他人に共有せず、一人で結果を受け止めて、絶望や不安を背負って一人で積み上げてきた努力を、頑張ってきたその証を彼はあっさりと認めてくれた。

 

「……ッ」

 

 たったそれだけのことなのに、隼瀬の情緒は揺れて、目元が水分が溜まり始めた。

 

「余計な事考えすぎると頭に……って」

「……うぅ」

 

 隼瀬は烏間との間にノートを立てて顔を隠した。泣き顔を見られたくなかったから。辛くて不安でも誰にも言えず、一人が寂しくて怖かった気持ちを理解されて、こみ上げた感情が目からあふれ出た。

 

「……一人で頑張るって辛いよな」

 

 烏間の言葉に無言で頷いた。

 

「ティッシュいる?」

「い゛り゛ま゛ず」

 

 片手でノートをもって顔を隠しながら、空いてる方の手で烏間の方に手を差し出す。探すように手を空中に泳がせていると、手首を掴まれ、ポケットティッシュを手に乗っけられる。巣に戻るように手を引っ込めてティッシュを使って涙を拭いた。

 

 隼瀬の涙が引っ込むまで烏間は何も言わずにそこにいた。

 

 

 ***

 

 

「お見苦しいところをお見せしました」

「いや、俺もその時期メンタル不安定だったから気にしないで」

 

 気持ちが落ち着いて隼瀬の涙が引っ込んだ。隼瀬の感覚では三十分ぐらい泣いてたつもりだったが、時計を見たら僅か五分程度だったらしく、勉強する時間はまだ残っていた。

 

「……勉強する気分になれる?」

「なんなきゃいけないんスよね? センパイが言うには」

「無理は良くないけど」

「じゃあ勉強お願いします」

「じゃあお願いされました。……ところでウチの入試科目って英国数だっけ?」

「そうっス。これが一番新しい模試の自己採点……なんですケド……」

「けど?」

「正直、調子良すぎて逆に参考になってない点数なんで……80-58ー81っス」

「高くね!? さっきの涙なんだったの!? てかそれD判定はウチの学校偏差値高すぎるわ。ウチのクラスバカばっかりなのに」

「本当に! ガチのマジで得意な問題が出たし、しかも勉強してたヤマが当たっただけなんで! それにこのD判定は一つ前の模試の結果で今回自己採点したモノじゃないんで!」

 

 烏間はサラッと自分のクラスメイトにひどいこと言ったがそれはそれ。

 おそらく自己採点したほうの模試は採点が間違っていなければA~B判定は固いだろう。それにそれだけ成績が伸びているというのに自信が持てずにいるのは隼瀬自身の素直になれない性格故であった。

 

「あーでも国語がちょっと低いのか」

「そうなんスよ。漢字の知識問題と対義語と類義語とかは復習でなんとかなるとは思ってるんですけど……どうしても納得できないっていうか腑に落ちない問題があって引っ掛かるってるっていうか……ここの問四の問題です」

「接続詞の問題?」

 

 隼瀬が烏間に見せたのは現代文の文章読解。文章の中で空欄になっている場所に入る接続詞を答えろという問題だ。

 

「答えは【イ】の『しかし』じゃないの?」

「それで合ってますけど、アタシは【ウ】の『だけど』って書いたんですよ」

「……あー、なるほど。これズルい問題だな。どっち入れても文章としては成り立つじゃん」

 

 烏間の言う通り、この文章問題の空欄に『だけど』と『しかし』のどちらを入れても文章としては成り立つので、そのまま読んだとしても違和感はない。

 

「これ主人公の一人称視点で書かれてる問題だから登場人物になりきって理解するとかは? そうしたら納得できんじゃない?」

「全員笑顔の仮面被ったディストピアの住民の心なんてわかりませんよ」

「そりゃそうか。でもそうだなぁ……『しかし』って接続詞は逆説で前文の仮定とかを裏切るときによく使われるから……」

 

 と言って、烏間は丁寧に文章を引用して隼瀬に教えた。

 この主人公の心は悲しいのに、笑顔の仮面をつけてるから、逆接の“しかし”となると。

 

「でもそれって『だけど』でも通じませんか?」

「文章読解苦手な人って自分の答えを正当化しようとして屁理屈捏ねたがるよね」

「ハ? 喧嘩か?」

「わかった。作者の気持ちになって考えよう。この文章作るときに作者はドヤ顔でこの文良いわぁって思いながら書いたとしよう」

「ハイ」

「『だけど』と『しかし』どっちがエモい?」

「……『しかし』の方がエモいかもしれないっス。確かに『だけど』って書かれるより『しかし』って書いた方が後の文章の印象が強くなる気がする。気のせいかもだけど」

「納得した?」

「ハイ、あざます」

「んじゃこの調子で分かんないとこ分かりやすく解説してくわ」

「おねがいしゃす」

「……もしかして体育会系の部活入ってる? 返事がそれっぽい」

「実は空手で全国行きまして」

「マジで!?」

 

 

 ***

 

 

「大体こんなもんかな。どう?」

「ありがとうございます。センパイって教え方上手いっスね」

 

 数時間ほどかけて、国語だけじゃなくて、数学と英語も見てもらっていた。隼瀬的には確かにあの高校に通っているので頭はいいとはわかっていたものの、実際に烏間が頭いいのは意外だった。

 

 それもそのはず烏間は式守の隣にいるために勉学も怠ることはなかった。だがテストで式守の総合点数を抜かしたことは無いが。

 

「な、なにその目」

「センパイってチャラいくせに頭いいのはあざといな~……って」

「あざといか……あんまり嬉しくないからカッコイイって言って欲しい」

「……」

「無視?」

 

 烏間の言葉を無視して隼瀬は図書館を出るためにそそくさとバッグに勉強道具を入れた。

 

「隼瀬ちゃん帰るの? まだ昼過ぎだけど」

「お昼食べにいきます。奢ってくれるなら一緒にランチします?」

 

 隼瀬はちょっとした冗談のつもりで言っただけだった。人見知りな彼女がそんな冗談を言えるぐらいには烏間に心を開いていた。それに来てくれたら来てくれたでちゃんと割り勘はするつもりだった。

 

「いいよ」

「マジすか」

 

 だから快諾した烏間に隼瀬は少し驚いた。

 

「でも」

「でも?」

「ここに映画のチケットがちょうど二枚あります。……午後は俺に付き合ってくれない? 勉強の息抜きついでにちょうどいいでしょ?」

「……それってつまり」

「デートしようぜ隼瀬ちゃん」

 

 烏間は財布から二枚のチケットを取り出し、冗談めかしてウインクして少年のように笑った。こんなセリフを照れもせずに言える人はこれからの人生そう会わないだろうなと隼瀬は思った。

 

「……勉強教えてくれたお礼ってことで付き合ってあげてもいいっスよ」

「よっしゃ」

 

 そしてその提案に乗れるぐらいには、烏間に心を許していた。

 




烏間くん
式守さんの幼馴染
自分が大好きなラッキーボーイ。
年下の女の子にはホストモードで接してる。


隼瀬さん
現在中学二年生。
憧れの式守センパイに会いたくて受験勉強中。
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