幼馴染が絶対に負けるラブコメ   作:ぽんしゅー

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ギャグ回です。頭空っぽにして最後まで見てください。


学級裁判

 

 下駄箱にローファーを入れて、階段を上がっていく。耳についているピアスを触って少し気分が上がった。なにかオシャレすると自分が変わったような気がして楽しくなる。

 

 鼻歌でも歌いそうな浮かれ気分で教室のドアを開けた瞬間、首の関節をキメられるほどの勢いで肩を組まれた。

 

「確保やぁぁああ!!」

「え、なに。てかナニコレ?」

 

 教室の中を見渡して異様な空気に気づいた。

 

 真ん中にポツンと一つ机が置いてあり、それを両脇から見るように距離をとって二つの机が並んでいる。その他の机は全部後ろに寄せていて、そこにクラスメイトが座っている。

 

 例えるならまるで裁判所のような。

 

「ジブン。なにかこうなることに心当たりあるやろ?」

「……かっこよすぎ罪?」

「パパ活してたやろ」

「あまりにも身に覚えがねぇよ!?」

「とりあえず被告人席いこか。黙秘権使うんは自由で」

 

 そのまま俺は中央の席へと座らされる。

 

 あぁ、これあれだな。バカやる流れだ。

 

 


 

学 級 裁 判

―開 廷―

 


 

6月28日 月曜日 午前7時45分

2ー1教室 学級法廷

 

 

「えー校長先生の名の下に、開廷を宣言します」

 

 勝手に肩書き借りられる校長先生もたまったもんじゃないな。ちなみに教壇にたって裁判長として仕切ってるのはリーダーだ。小さい背を伸ばして立派に見せようとしている。

 

「検察側、弁護側に問う。両者とも完全な立証の準備は出来ていますか?」

「検察側、準備は完了してるで!」

「……なぁ、弁護席側に誰も立ってないんだが?」

「金使って雇ってないからやろ、今の烏間は被告人やから」

「金取んのかよ!? クソッタレ!!」

「……じゃあ私やろうか?」

 

 そういって傍聴席から手を挙げたのは狼谷だった。まさかの立候補にクラスはざわついた。

 

「ほう。相手が狼谷とはおもろいやないかい。勝負しようやぁ!」

 

 正直俺も驚いたから狼谷を手招きして被告人席まで来させて、誰にも聞こえないような声で話した。

 

「いいのか狼谷? その、お前って」

 

 こういうノリあんまり得意じゃないだろ。と言おうとする前に耳元で狼谷が呟いた。

 

「まぁたまには、ね。それと私と君との同属の絆、みたいな?」

「え、神やん……フフッ」

「自分で言ったダジャレで笑わないでくれないか?」

 

 狼谷はそう言って弁護席へとついた。

 

「では、検察側、冒頭陳述を」

「被告人の烏間は昨日の日曜日に、パパ活の相手を図書館へと呼び出しお金を支払いデートを行った。これは『不純異性交遊』や!!」

 

 なんで知ってんだよ!! てかパパ活って隼瀬ちゃんと遊んだことかよ!! 

 

「異議あり。証拠はあるのか?」

「もちろんや。ここに匿名で送られてきた文書がある」

 

 そういって手元からゴシック体で打ち込まれた一枚の紙きれを取り出す。

 

「ここに、烏間のやってきた行動が書かれている」

「ふむぅ。なるほど。被告人はパパ活の容疑を否認しますか?」

「否認します。ていうかそもそも……」

 

 俺は女の子と遊んだだけで、パパ活なんてしてねぇわ。

 

「……俺はその日誰とも会っていません」

「ほう」

 

 全部話して解散、閉廷! しても良かったんだけど、ここで隼瀬ちゃんの存在を話したら隼瀬ちゃんに迷惑がかかる。だって来年この学校に入学したら、最初から俺との噂が立ってるなんて可哀想すぎるだろ。あんなことしたから俺のこと嫌いだろうし。

 

 だからここは誰とも会っていないってことにして押し通す。

 

 この法廷鍵を握るのは狼谷だ。頼んだぜ狼谷……って、興味無さそうにコーラ飲んでんじゃねぇ! 

 

「ほう。誰とも会っていなかったと。じゃあそのピアスの穴はどう説明するんや! 先週は開けてなかったやろ!!」

「これは自分で開けた」

「異議ありや! その発言はここに書かれている文書とムジュンしとる! 『フードコートでパパ活相手に開けてもらってた』ってた部分とな!」

「異議ありだ。被告人の今の証言は先ほどの『誰とも会っていない』という発言と一貫している。匿名のタレコミよりも一貫した主張のほうが信憑性は高いと思われるが。どうだ裁判長?」

「ふむぅ。弁護側の主張はもっともである。検察側はより強い根拠を示すように」

 

 やるな狼谷。切り返したぞ。嘘を吐いてることに罪悪感はあるが助かる。

 

「これは烏間の名誉のためにあんまり言いたくなかったが、しゃあない」

「そもそもこの場に立たされてる時点で名誉毀損で訴えてもいいけどな」

「烏間はその相手にセクハラ行為を行っていた! 厳密にいうとスリーサイズと、胸のカップ数を聞いたそうやないか」

「そんなことしてねぇわ!」

「『80-58ー81』そして『CじゃなくてD』。この単語に聞き覚えあるやろ」

「そんなんあるわけ……」

 

 

 ──正直、調子良すぎて逆に参考になってない点数なんで……80-58ー81っス

 

 ──ちなみに第一志望校の判定聞いていい? 

 ──……C

 ──本当は? 

 ──……Dっス

 

 

 ……あるわ。

 

 

「心当たりあるって顔しとるで」

「烏間……」

「いやっ……違っ……そんな目で俺を見るな狼谷。そもそも匿名のタレコミなんて検察側ででっち上げできるだろうが」

「静粛に被告人。それ以上の発言は法廷侮辱罪とみなします」

「それに匿名でくれた人の存在を貶す発言や。気い付けや」

「あまり不要な発言をしないでくれ烏間」

「あ、おう……なんで俺責められてんの?」

 

 誤解を晴らそうとしたらフルボッコなの理不尽だな。

 

「だが検察側のその証拠にはムジュンがある。アンダーバストにもよるが、バスト80は基本的にCカップだ。その証拠は全く別のものだろう」

 

 狼谷が反論すると、傍聴席の男子が「お、おう」「へ、え~……」と、明らかに動揺した。いいぞ狼谷。男子高校生は女子の生々しい話題に弱い。そのまま押し切れ。

 

「だったらこの数字は何を表してるっていうんや!!」

「……考えるならテストの点数とか志望校判定じゃないか?」

 

 ドンピシャかよ。IQ高いな狼谷、さすがだ。でもちょっとその発言はまずいな。

 

「ふふっ……せやなぁ。狼谷の言う通りや。これはおそらく()()()()()()()()テストの点数と志望校判定や!」

 

 その指摘を待ってましたとばかりに検察側は邪悪に頬を吊り上げる。

 

「だが、只今の弁護側の発言で、『烏間はその日誰かに会っていたこと』が立証された!!」

 

 検察側は風を切る勢いでズビシッ!! と弁護側を指差した。

 

「ほう……誘導尋問ですか」

 

 傍聴席の一番前に座っている男子生徒が、状況についてこれていない傍聴人のために説明口調で語り始めた。

 

「あえて間違った部分を指摘をさせて、弁護側に立証させることで主張を通す。これで導き出された主張は弁護側も容認したものとなり、強固な事実となるので反論でひっくり返すのは難しい。……なるほど。証拠能力が低いものである匿名の文書を、この審理を決する重要なキーアイテムにしたわけですか……」

「どうした急に」

「じゃあ狼谷が発言の撤回をしたらいいのでは」

「いやそれは悪手です。発言の撤回が招くのは信頼性の低下。『やっぱ今言ってたこと無し』なんて言う弁護士なんてアテになりません。発言の撤回はタブーです。しかしこのままでは文書の内容を突っ返すのは難しくなります」

「そういうもんなのか?」

「実際の判例はわかりませんが、少なくとも理屈は通ってます。そしてこれは非公式の学級裁判……つまりノリの良いほうが勝ちます」

「なるほど。じゃあ見守るか」

 

 弁護席に立つ狼谷が不思議そうな顔をして傍聴席を見ていた。

 

「なんでみんなそんな詳しいんだ」

「中学生の頃、法律知ってるとかっこいいっていう意識があって調べるんだよ。あとメンタリズムで心を読むとかそういうの。わかる?」

「ごめん。わからない」

 

 だろうな。馬鹿な男子しか調べねぇよそんなの。俺も高1の夏までしか興味なかったし。

 

「ということは、烏間は『その日誰とも会っていない』と嘘を言ったってことや!! なんで嘘吐いたんや!」

「黙秘」

「別にええで? こっちはたんまり証拠があるからなぁ……。ええっと、相手を泣かせたり、一緒に映画を見たり、おおっと、これはキスもしたんかい大胆やなぁ」

「はぁ!? キスはしてないが!?」

「キス“は”ねぇ?」

「あっ、クソがっ!」

 

 やられたっ! わざと突っ込ませやがって!! 

 

「これで昨日誰かと会った事は立証したで。さぁ! 誰と会ってたか言ってもらおうか!!」

 

 検察が被告人席の俺の元まで歩いて、その机を強く叩いた。ここで下手な発言をしても揚げ足を取られるだけだ。今は黙秘……! それが正しい答えなんだ。

 

「別に黙っててもいいでぇ。そっちには俺の主張をひっくり返す逆転の一手なんて残ってなんかないんやからなぁ!!」

「…………逆転?」

 

 狼谷が意味深な一言を呟くと、早歩きで検事席へと近づいて匿名の文書を手に取った。

 

「やっぱりだ」

 

 嘘だろ……! あるのか逆転の一手が! 

 

「……なにがや」

「この匿名の文書。烏間と会っていた人物は『パパ活の相手』としか記入されていない……つまり、()()()()()()()()()()ということだ」

「ま、まさか……」

「そう。烏間は昨日、男子とデートしていた」

 

 嘘だろ。なにを逆転してるんだよ。

 

「嘘や! 烏間にソッチのケは無いはずや!」

「本当にそうか?」

 

 本当にそうだよ。

 

「彼は一度も女子と付き合ったことは無いし、デートもしたことは無い。それに極稀に来る女の子からの告白も全て丁寧に断ってると聞いた。それはなぜか」

「ま、まさか……」

 

 まさかじゃねぇよ。式守のことが好きだったからだよ。

 

「烏間は女子より男子が好きだ。そして昨日会ったのは男子。つまりこれで検察側が立証しようとしていた【不純()()交遊】の線は無くなった。彼は無罪だ」

「クソっ。ワイの負けや……」

 

 狼谷がとんでもないを主張を言い放ち、検察側が敗北を認めたことで教室がざわつき始めた。

 

「静粛に! 被告人には判決を言い渡します」

 

 裁判官は小さい背を一生懸命に伸ばして、黒板に大きく【無罪】と書いた。

 

「これにて審理は終了するものとする。以上、閉廷!」

 

 傍聴席から拍手喝采が起きたが、俺はとんでもない業を背負った気がする。

 

 


 

学 級 裁 判

―閉 廷―

 


 

 

「おー終わったか。朝のHR始めるからさっさと机戻せー」

「あ、最高裁判官」

「そっちに就ける道があったら教職についてねぇ」

 

 クラス全員が机を元の位置に戻してると、担任が扉を開けて入ってきた。

 

「廊下で聞いてたんですか? 俺的には注意して止めて欲しかったんですけど」

「まぁ面白そうだったからな。他の先生に何か言われたら『生徒が自発的な意見を主張できる機会ですので』とか誤魔化すつもりだったわ。……おいそこ、どさくさに紛れて席を交換するな。他の先生が座席表見ても分からなくなるだろうが」

「「チッ!」」

 

 やれやれと言いながら、先生も机を元に戻すのを手伝い始める。

 

「なぁ烏間。正直すまなかった」

「いや別にいいよ狼谷。俺も俺でちょっと楽しかったし」

 

 自分の机を元の位置に戻すと、狼谷も同じタイミングで自席に机を持って戻ってきた。

 

「みんなテスト期間中のストレスではっちゃけたかったんだろ。なんなら俺自身いじられキャラになるの割と嫌いじゃない」

「……なるほど?」

 

 狼谷の言動と表情が一致してなくて、俺は思わず苦笑いがでた。俺の気持ちはあんまり理解出来てないらしい。

 

「狼谷ってマイペースだよな。周りを気にしないっていうか、クールでミステリアス気取ってるだけで案外子供っぽい……っていうか幼稚?」

「……別に気取ってないが」

 

 狼谷が不服だという目で俺を訴えてきた。

 

「他人は自分の鏡って言うだろ? もっと周りを見てみたら? 案外理解してくれる人がいるかもよ」

「……見ていなかったわけじゃないさ」

「ん? ごめん聞こえなかった」

「別に、心掛けてみるよ。……それと烏間」

「なに?」

「ピアス、似合ってる」

「……サンキュ」

 

 ……そうやって褒めたり、その表情を和泉に見せたらよかったのにって口から出そうになったけど、ブーメランになりそうだったからやめた。

 

「あー机も全員元に戻したことで、朝のHRを始めたいがその前に。俺は服装違反についてはとやかく言わないし、気分が上がるなら好きな恰好させても良いと思ってるから結構見逃している。俺の学生時代も校則違反ぶっちぎってた黒ギャルがいたからな」

「理解がある担任やな。好感度上げようとしとる?」

「ただし黙認するのは二回目以降だ。一回目は注意するぞ。なぜなら他の先生になんで注意しないんですかって言われたら『いやーアイツ注意しても直らないんですよねぇ』って言い訳が出来るからだ」

「自分のことしか考えてなかった。好感度返せ」

「つーわけだ烏間」

「え」

 

 白羽の矢が立ったように俺の名が呼ばれて驚いた。

 

「放課後までピアス没収。校則違反な」

「……ウス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──烏間は夕暮れが好きだ。

 

 彼の瞳の茶色がかったオレンジが、夕焼けと地平線の境目のような素敵な色だと幼馴染が言ってくれたからだ。

 たったそれだけの理由で、夕焼けを見ると寂寥感を抱いて影を差す心はなくなって、世界の終わりのような赤い空も美しく思えるようになったのだ。

 

 彼はそんな昔の出来事を一人、放課後の教室で思い出していた。

 誰もいない教室の黒板には『勝訴おめでとう!!』の文字が大きく書かれている。教壇にはジュースやお菓子、スイーツなどが所狭しと置かれていた。

 

(先生まだかな……てかこれどうやって持って帰るんだよ)

 

 放課後、没収されたピアスを持ってくるからと言って担任が教室を去った後、クラスメイトが部活や帰宅で教室を出ていく中、烏間が自分の机に座って担任を待っていた。すると突然大勢のクラスメイトが教室に押しかけてきて、コンビニで買ってきたものを教壇に置き、黒板に大きく文字を置いて全員去っていった。例えるなら嵐が去っていったかのような勢いで。

 

(まだ戻ってこないなら、少しだけ寝るか)

 

 烏間は仮眠を取ろうと自身の机に突っ伏した。午後の授業は体育があったのと、昼食はゼリーで済ましていたのでエネルギーが切れたのだ。うつぶせになって目を閉じると一分もせずに意識が落ちていく。五分も経つと彼は規則的なリズムで寝息を立てていた。

 

 そして十分経った頃だった。

 

 無意識に沈んでいた彼の意識は、誰かに耳に触られている感覚で浮上してきた。触っている手はひたすらピアスホールが出来た耳を重点的に触っていて、抓ったり捻ったりはしていないものの、遠慮はないように耳の形を確かめるように指先で弄んでいた。

 

(……だれ? せんせい? まえのせきはかみやだからかみやか)

 

 彼は身じろぎして、体を起こして、頭を上げた。

 

 そして耳を触っていた人物を寝ぼけまなこで視界に入れると、烏間の意識は一気に覚醒した。

 

「……あ、ごめん。起こした?」

 

 目の前の狼谷の席で、狼谷じゃない桜色の伸ばした髪が夕焼けのオレンジに照らされていた。

 

 ──式守だった。

 

 そう烏間が認識する前に動揺は体に出ていた。目は泳いで、反射で椅子を引いて床と擦れた音が鳴った。

 

「そ、そんなに驚く?」

「いや……まぁ、結構、驚いた。ていうかなんでこの教室に?」

「和泉さんが今日は委員会で、それの用事が済むまで待ってるの。それでね、なんかついさっき烏間のクラスの人達が嵐のように廊下を走っていたのを見て気になったんだけど。……あれ何?」

 

 式守が指を差したのは教壇で山になっている飲食物。

 

「俺が裁判で勝ったから勝訴祝い。偽証だったけど」

「……ふーん」

「理解諦めたな。まぁあいつらなりの誠意だろ。イジッて遊んだからこれでチャラにしてくれって、いつかイジり返すから別に良いのに律儀だよな」

「仲……いいんだよね? クラスに馴染めてる?」

「もちろん」

「……よかった。烏間って中学の時はその、あー……」

 

 式守が『中学』というワードを口にしたら、触れづらい話題になったとお互いに沈黙が訪れる。

 

「……耳、触ってただろ」

「あ、うん。ピアス開けたんだなーって」

 

 空気を変えるように烏間が話を切り替え、それに式守も乗っかった。

 式守が無遠慮に烏間の耳に触り、彼は嫌がる素振りを見せずにそのまま耳を弄らせた。

 

「いつ開けたの?」

「昨日。……一人で」

「えー、兄さんピアス開けてるから、言ってくれたらピアッサー持ってきて私が開けたのに」

「別に言う必要無いだろ」

「……そっか」

 

 式守はゆっくりと耳から指を離した。

 

「……君は昔から何も言わないもんね」

 

 その声は烏間の耳には届かなかった。

 

「でもアレだな。ピアス穴開けたことでちょっとチャラく見えるかも」

「烏間は元からチャラいでしょ? 昔から皆に優しい言葉をかけて勘違いされたりして、去年の文化祭はホストなんかやっちゃって」

「ホスト喫茶とかあったな。懐かしいな、あれ割と楽しかったんだよ。……文化祭ももう半年以上も前か」

「へぇ~、あっ! じゃあさ」

 

 烏間が思い出してるのは文化祭のホスト喫茶ではなく、その後の出来事であろうことを式守は一切気付くことは無く、いい提案を思いついたとばかりにそれを口にした。

 

「──ホストっぽく私のことを口説いてみてよ」

 

 烏間の口から思わず息が漏れ出た。

 

「私、去年の文化祭で烏間のクラスに行けなかったからさ。どんな風に接客してるのかな~って」

「……わかったやってやるからな。惚れるなよ?」

 

 烏間は自身の心の動揺を悟られることなく、仮面を被って取り繕った。

 

 一つ、咳ばらいをして声色を変え、

 二つ、目を閉じて深呼吸した。

 三つ、上がっていた肩の力を抜き、

 

 そして、心を殺した。

 

「君と話しているとなんか安心するね。心地が良いって言うのかな。自分の素を曝け出してもいいかもって感じになる。この時間が終わってもまた君と話したいな」

「ふふっ、うん」

 

 式守は烏間の言葉を冗談半分で聞いている。

 

「もちろん内面だけじゃなくて、その……見た目も好みだよ。でもそれ以上に中身が魅力的だったってだけで」

 

 烏間の殺したはずの心が熱を持ち始めた。熱は体に伝播して脳に支障をきたして、口も回る。

 自分が何を言っているのか分からないぐらいに。

 

「頑張り屋で、真面目で、すぐに誰かに手を差し伸べてしまうカッコいい君が……

 自分の気持ちに素直で、思ってることがすぐに顔に出てしまう可愛い君のことが……」

 

 取り繕っても隠せなかった彼の本心からの言葉だった。

 

「俺は……好きだ」

 

 その言葉を口にしたことで彼の体から徐々に熱が引いていって冷静になっていく。そして今言った発言を改めて思い返した。

 

「えっと今のはほらあのあれだ言葉の綾」

「ふふっ……下手。口説くの」

 

 式守は微かに笑った口元を手で隠して言った。

 

「そんな顔真っ赤で言ったら台無しじゃない?」

 

 烏間は手に頬を当てて、体温を確かめた。確かに自分が熱を出した時よりは熱いなとぼんやりとした頭で思っていた。

 

「……身内を口説くのは、恥ずかしい」

「あはは。私もちょっとだけ恥ずかしくなった」

 

 式守も少し赤くなった顔を手で扇ぐ。

 

「それにそういう言葉は本当に好きな人のためにとっときなよ」

「……わかってるよ」

 

 烏間が返事をすると、式守のポケットから通知音が聞こえる。取り出して画面を見ると式守は途端に顔を綻ばせた。

 

「和泉さん。委員会終わったから昇降口で待ってるって!」

 

 そう言って彼女は烏間に今まで見せたことのない表情を見せた。目を細め、愛しい者を見るような目でスマホの液晶に映った文字を眺めていた。

 

「よかったじゃんか。早く行って来いよ」

「うん!」

 

 式守は勢いよく席を立って、教室を出ようと走り出すその一歩目で、いきなり停止した。

 

「どしたの?」

「……烏間」

 

 走りだそうとしている態勢はそのまま扉の方へ向けて、顔だけ烏間の方へ向けた。

 

「なにか悩み事あったら、絶っっっっ対に! 相談に乗るから! 言えるようになったらちゃんと言って!」

「……おう」

 

 じゃあまたねと言って式守は教室から走り去っていく、タイミングでよく戻ってきた担任に廊下で走るなと注意された声が烏間の耳に入ってきた。

 

「待たせたな烏間。ちょっと野暮用片付けてきてな。ってなんだこの山」

 

 担任が教室に戻ってくると、教壇に置いてある無罪を勝ち取った証に驚いていた。

 

「ったく、ちゃんと持って帰れよ。ほらピアス」

「ん、あざます」

 

 烏間は先生から返してもらったピアスを制服のポケットへといれた。

 

「ん? お前顔赤いぞ。熱か?」

「……最近暑いんで」

「あーそうだよな。もうすぐ夏真っ盛りだしな。帰りで熱中症にならないようにな」

「ういっす」

 

 その日、烏間は重い荷物を持って帰路に着いた。彼がふと校舎の窓から校門を見ると、仲睦まじく帰る二人の様子が目に入った。

 

 

 それを見て烏間は子供の頃に感じた、夕焼けで長く伸びた影法師と共に帰る孤独感を思い出した。

 

 




烏間くん
容姿端麗だが性格が残念なイケメン。
式守さんの幼馴染でとんでもないラッキーボーイ。
クラスメイトがくれた物は狼谷と半分こした。

狼谷さん
常に周囲にギャラリーができるほどの人気者
高身長でバレー部のエース
最近クラスのノリについていけるか不安になっている。



烏間は隼瀬ちゃんの気持ちを弄び、裁判で嘘を吐いた罪人です。罪人には罰を。


次回、夏祭り編

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