俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~   作:三流二式

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リンドウさんって結構早い段階で離脱するのねん。
プレイし直してそう思いました。


蒼穹の月

 ヴァジュラ襲来。

 その情報は瞬く間に極東支部中に広まり、ゴッドイーターたちを騒然とさせた。

 

 

『ヴァジュラ』

 トラに似た容姿を持つ大型アラガミで、その巨体からは想像もできないほど俊敏に動くことが出来る。背中から生えたマント状の器官からは強力な電撃を放つ。

 発生起源はユーラシア大陸南東地域とされ、その機動力からユーラシア全土で確認されている。

 

 

 最近は中型アラガミが現れるのですら珍しいとされていただけに、このニュースは極東に所属する者たちにとって大きな緊張をもたらした。

 そしてこの怪物の討伐を果たして誰が請け負うことになるのか、それについて至る所で自分なりの憶測を捲し立てていた。

 

 

 リンドウさんは確定だろう、ならサクヤさんも確定だな、噂の新人はどうだ? アイツについての話題は出すなつったろうが、どうせソーマの奴だろ、そりゃ無いだろあんな死神、何だとお前この俺が間違うとでも、ただの僻みだ、何をテメェ殺すぞ、止めろ馬鹿たれ、うるせぇ老いぼれ、何をぬかす糞垂れが等々。

 

 

 売り言葉に買い言葉で、いつの間にか殴り合いにまで発展しそうな雲行きの話し合いも、件の新人がヴァジュラ討伐の任務をヒバリから受注した事でぴたりと止まった。

 その瞬間、至る所で行われていた話し合いの声が止んだ。

 

 

 皆が例の新人を凝視した。

 当の新人はというと、なぜ自分が凝視されているのかてんで理解しておらず、本任務のリーダーを務めるサクヤに呼ばれるまで、ただただ困惑したように小首をかしげていた。

 

 

 討伐任務に駆り出されたメンバーは、おおむね彼らが予想した通りと言えた。

 第一部隊のサブリーダーであり、リンドウの右腕ともいえるサクヤ。リンドウに次ぐベテランで、曰くつきではあるが実力は誰もが認めるソーマ。新人だが、異常な適合率でアラガミと遜色ない戦闘力を持つ名無之カカシ。同じく新人だが、サポート能力に長けるコウタ。

 

 

 理想的なチームと言えた。

 ただリンドウがいない事に彼らは疑問を浮かべたが、サクヤから彼はアリサを連れて別の任務を遂行中と聞かされて納得した。

 

 

 大型アラガミの討伐に赴く彼らを、極東支部の所属員たちは軽い調子で見送った。

 

 

 〝久しぶりの大型アラガミだが、彼らなら一人の犠牲者も出す事なく倒せるだろう〟

 

 

 誰もがそう思っていた。ヒバリはきっと大丈夫だろうと信じていた。ツバキはカカシとコウタの事が少しばかり心配だったが、サクヤとソーマがいるから大丈夫だと高を括っていた。リッカは完璧に調整した神機を満足げに眺めていた。防衛班の面々も笑って見送り、一部の者が誰が止めを刺すか賭けをして、班のメンバーに小言を言われていた。

 

 

 色々思うことはあれど、誰もが彼らの完全勝利を疑ってはいなかった。よもやあんな結末を迎えるなど、誰も予想だにしていなかった。

 

 

 仮に、仮にであるが予想していた人物は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『たった一人だけである』

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 場所はアナグラより離れ、贖罪の街の一区画に、サクヤ、コウタ、ソーマはいた。

 彼らは作戦のために離れたカカシからの通信があるまで、じっと息をひそめ、()()の動向をつぶさに観察していた。

 

 

『ソレ』、ヴァジュラは開けたエリアを悠々と歩き、時折立ち止まってはきょろきょろと辺りを見回したり、その場に座り込み、後ろ足で顔を掻いたりした。

 それはまさしく己に敵がいない事を雄弁に語っていた。事実これより少し前にヴァジュラは中型アラガミを1体屠っており、その態度が実力に裏打ちされたものであることは言うまでもない。

 

 

(くっそ~何だよあれ! あの余裕しゃくしゃくって感じが何かムカつく~!)

 

 

 その様子を遠巻きに見ていたコウタが、苛立たしそうにしていた。

 

 

(それも仕方ないわ。だって大型アラガミに敵う中型アラガミなんていないし、並の神機使いだって彼にはかなわないもの)

 

 

 とサクヤ。

 

 

(おい、頼むから静かにしてろ。気が散る)

 

 

 ソーマはにべもなく言った。

 

 

(だってさ~)

 

 

 唇を尖らせてソーマに訴えるコウタだが、そこで通信が入り、彼は口を閉じて無線に耳を傾けた。

 

 

『位置についたよ~ん』

 

 

 気の抜けるようなカカシの声が、通信から聞こえた。

 初の大型アラガミの討伐作戦だが、彼からすれば今までの任務とあまり大差ないらしい事が窺わせるような声色だった。

 

 

 軽口をたたかねば不安でいてもたってもいられなかったコウタには、いつも通りのカカシのその言葉は安心感を覚えるのと同時に、カカシがまた恐ろしい物に一歩近づいたような気がして密かに胸を痛めていた。

 

 

「オーケー……ヒバリちゃん、周囲に敵はいない?」

『はい、周囲にオラクル反応はありません』

「よし、良いわカカシ君。そのまま奇襲を開始して頂戴」

 

 

 サクヤは頷き、ヒバリに確認を取った。そして邪魔の心配が無い事を確認すると、作戦の開始を告げた。

 

 

『了解。このまま空爆するね』

「は?」

 

 

 帰ってきた返答に、サクヤは素っ頓狂な声を漏らした。どういうことか問いただそうと口を開きかけた時、轟音がした。

 サクヤたちは音の方向へ勢いよく顔を巡らし、そして呆気に取られて固まった。

 

 

 カカシはいつものように神機を捕食形態に変えて空にいた。

 ただしその捕食形態がおかしかった。

 

 

 彼は銃形態で捕食形態に変えていたのだ。神機が捕食形態に形態変化する際、その時の刀身、または銃身は捕食形態の口の中に縮こまる。

 それを応用する形で、カカシは捕食形態のまま、空中に浮かんだまま射撃するという荒業をやってのけた。

 

 

「ガァアアアア!!!」

 

 

 突然真上から撃たれたヴァジュラは驚いてたたらを踏み、煤けた頭を振って上空を睨み据えた。

 

 

 大型アラガミの威圧感は今までの小型アラガミ、中型アラガミとは文字通り一線を画す。並のゴッドイーターなら恐怖で動けなくなり、最悪背中を向けて逃走するような怪物なのだ。

 しかしカカシは遥か先を見据えていた。

 

 

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 だからこそ、ヴァジュラを目の前にしてもカカシは全く心を揺らがせる事無く対峙できたのだ。

 

 

 尤もそんな物がなくてもそのスペック故、彼はヴァジュラというものに一切脅威を感じていないのだが。

 

 

「グォオオオン!!!」

「第二射、発射!」

 

 

 ヴァジュラはマント状の器官を逆立たせ、雷球を生成して発射してきたが、カカシはドヒャアと凄まじい音を立ててオラクルを吹かしてかわすと、氷属性の特性オラクル弾を乱射した。

 

 

 発射されたオラクル弾は途中でばらけ、ヴァジュラに命中する頃には数十の弾幕となって着弾した。それが滅茶苦茶に発射され、まるで旧時代の絨毯爆撃じみた有り様となってヴァジュラの体を文字通り包み込んだ。

 

 

「グラアアア!!?」

 

 

 このヴァジュラは発生してから数ヶ月程度の比較的若い個体だった。だからか不測の事態に対応する事などできず、ただただ困惑と全身余すことなく弱点属性で撃ち抜かれる痛みでその場に棒立ちになっていた。

 

 

「ッ!? もうあの子は! コウタ君私たちも加わるわよ! ソーマは今の内にチャージクラッシュの準備!」

「お、オッス!」

「クソ!」

 

 

 苦し紛れに放たれる雷球を悠々とかわしながら、上空にいるというアドバンテージをフルに活用して撃ちまくるカカシに悪態を隠せなかったサクヤはコウタとソーマに急ぎ指示を出し、二人を引き連れて隠れていた建物から飛び出して応戦を開始した。

 

 

「はあ!」

「おりゃおりゃ!」

 

 

 コウタとサクヤはヴァジュラの側面に陣取ると、カカシに負けじと氷属性のオラクル弾を発射した。

 

 

「グオッ!!?」

 

 

 上空からの豪雨の如きオラクル弾に加え、突如真横から加えられた衝撃により、ついにヴァジュラは立っていられずに転倒。

 

 

「食らえ!」

 

 

 ソーマはその隙を逃さずチャージを終え、禍々しいエネルギーを纏った刀身を渾身の力で振り下ろした。

 

 

「グオオオオオン!!!」

 

 

 これが中型アラガミであったらこの時点で勝負ありだったであろう。

 しかし仮にもヴァジュラは大型種。チャージクラッシュで腹を割かれ、血液をぼたぼたと垂らしながら尚も生きていた。

 

 

「糞、しぶとい奴だな!」

 

 

 悪態をつきながら再度チャージクラッシュの態勢に入ったソーマだったが、それは突如として真横から生じた衝撃により押し倒されたために不発となった。

 

 

「チッ! カカシ何を」

 

 

 ソーマがそこまで言いかけたところで、彼らの真上を莫大な電気の束が通過。射線上にあった物体を融解させた。

 

 

「……すまん」

「(⌒∇⌒)」

 

 

 カカシの手を取って立ち上がったソーマは、改めてヴァジュラに向き直った。

 

 

 カカシの射撃が無くなったため弾幕が薄くなった隙を狙って、ヴァジュラはその場から離脱。体勢を立て直していた。

 そして、自分をここまで酷く傷つけたカカシとソーマに向かって射殺さんばかりに睨みつけていた。

 

 

「グォオオオン!!!」

『ッ! っ皆さん! 気を付けてください! ヴァジュラが怒りで活性化します!』

 

 

 ヒバリの忠告が無線から聞こえるのと、ヴァジュラが憤怒の咆哮を上げたのはほぼ同時だった。

 

 

 鬣を逆立て、咆哮を上げるヴァジュラの体は絶え間なく稲妻が走っていた。体内の電気を生成する器官が活性化に伴って出力が上がった証拠だ。

 

 

「嘘だろ……? あれだけの傷を負ってまだ動けるのか?」

 

 

 カカシに全身を撃ち抜かれて殆どの部位が結合崩壊を起こし、ダメ押しとばかりにソーマによって腹を割かれてもなお立ち上がるヴァジュラに、コウタは戦慄を隠せなかった。

 

 

「大型アラガミを中型アラガミなんかと一緒にしたら駄目よコウタ君。彼は貴方が戦ってきた相手とは文字通り次元が違うわ」

「う、ウッス!」

 

 サクヤからの言葉に、コウタは気を引き締めた。

 

 

「チッあまり耐えるな」

 

 

 ソーマは不愉快そうに眉値を顰め、神機を構えなおした。

 

 

「……頼むから無事に終わってくれよな」

 

 

 そんな彼らを横目に見ながら、カカシは祈るように呟いた。

 

 

「GAAARH!」

 

 

 己が発する雷光に目を輝かせながら、天上の雷は咆哮を伴って眼前敵に向かって行った。

 

 

 ……これはまだ劇の前の前座に過ぎない。惨劇の幕は、未だ上がらない。

 

 

 




ヴァジュにゃんおこおこで草

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