俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~ 作:三流二式
フェンリル極東支部、アナグラのエントランスはどんよりとした重苦しい雰囲気に沈んでいた。
雨宮リンドウの喪失。
彼という存在はこの極東支部の柱と言っても差し支えなく、彼が消えた事の影響はたかが一週間程度の時間が経過したところで、払われることは無かった。
そして今日この日、ついに決定的な事が起きた。
雨宮リンドウがMIA扱いになったことが、フェンリル極東支部教練担当雨宮ツバキの口から発表されたのだ。同時にアリサの体調が快調に向かいつつあるという朗報もあったのだが、聞かされた側からすればそんな些細な事などどうでも良かった。
「そんな……まだ腕輪も神機も見つかってないんですよ!?」
抗議の声を上げたのは、言わずもがなサクヤだった。彼女の血を吐くような声が、墓場めいて静まり返ったアナグラに木霊した。
リンドウと特に親しかった彼女からすれば、その決定は当然受け入れられる物では無く、ツバキに掴み掛らん勢いで詰め寄った。
「上層部の決定だ。それに、腕輪のビーコン、生体信号共に消失したことが確認された」
一方ツバキはそんな様子のサクヤとはまるで真逆な過剰なまでの無感情で淡々と言い放った。
「未確認アラガミの活動が活性化している状況で、生きているかもわからぬ人間を探す余裕はない」
額が付かんまでの距離で睨みつけてくるサクヤを無感情に見つめながら、ツバキはやはり何一つ感情の読めない無表情で続けた。
「ッ!」
サクヤは胸の内から湧き上がる罵声を、しかし呑み込んだ。彼女とて上層部の言い分は頭では分かってはいるのだ。未確認アラガミがうろついてる中、不用意に人員を割くことなど愚の骨頂だ。
分かってはいるが、しかし心まではどうにもならなかった。
サクヤは唇を噛んだ。悔しさと悲しみで握られた拳は深く食い込み、鮮血が垂れた。その様を見ていたコウタとソーマはサクヤに憐れみの目を向ける。
「……」
そんなサクヤに、ツバキは何を思うのだろか。唯一の肉親を失った姉のその顔はやはり無表情であり、胸の内の思いを窺わせる要素は皆無であった。
彼女はそれで話は終いとばかりに、背を向けてエレベーターへと向かった。
そして役員区画行きへ向かうため、エレベーターのボタンを押そうとした瞬間、エレベーターのドアが開いた。
「あぁお前か、目が覚め……ッ!? 貴様、そのコートは!?」
エレベーターから出てきたのは意識不明であった名無之カカシであった。
ツバキは意識の戻った彼にやはり淡々とした様子であったが、彼の着ている服を見て、一瞬無表情の仮面が剥がれる程の驚愕を露にした。
医務室にはアリサを収監する必要がある関係上、意識は無いが体調に問題の無いカカシは自室へと運ばれたのだ。
それから一週間の時が流れ、意識の戻ったカカシはいつも通りの柔らかな表情で、いつも通り笑みで細まった目をしていて、いつもと違う
彼の着ているコートはかつてフェンリル本部に存在した懲罰部隊の者が身に着けていた物であった。懲罰部隊の面々の主な仕事は『裏切り者の粛清』である。
神機使いにとっての裏切りとは、即ち
「て、テメェ……!」
「カカシ君、あなた……そんな……!」
ツバキに次いでソーマとサクヤも同様に驚愕、そして片方は怒りの、もう片方は絶望をより深めた声を上げる。一方コウタはたかがコートを着たくらいで何をそんなに、とツバキやソーマたちの驚愕を訳も分からず見つめていた。
「お前は、お前は……! それが何を意味するのか、そのコートが
ずかずかと大股で近づき、カカシをあらん限りに睨みつけながらソーマは声を荒げる。
カカシは何も言わなかった。ただいつものように、彼は困ったように頬を掻いた。
「~~~ふざけるな!!!」
その仕草に、ソーマはキレた。サクヤやツバキが止める間もなく、ソーマは拳を振り抜いた。
加減などまるでないゴッドイーターの、その中でも一際特別であるソーマという存在の本気の殴打である。
凄まじい音がした。およそ人体が人体を殴りつけた音では無い音が、静まり返ったアナグラの中に響き渡った。
それを受けた側はたまったものではない。思い切り吹き飛び、背中を壁に強打……はしなかった。
カカシはわずかに顔を傾けただけだった。仰け反りも、ましてや吹き飛ぶことも無かった。殴打により出ていた鼻血もすでに止まり、乾き、パラパラと乾いて足元に落ちた。
「「────―」」
ツバキとサクヤとコウタと、そして殴りつけた側のソーマまでもが先ほどの怒りすら忘れてカカシを凝視した。
「……」
凝視されたカカシは相変わらず困ったように笑うだけで、やはり何も口にしなかった。殴られたことへの怒りも、問い詰められたことの困惑に対しても、舌打ち一つ、愚痴一つ零すことは無かった。
カカシはただ申し訳なさそうにもう一度頬を掻くと、下の階へ向かい、そしてすぐに戻ってきた。
されど彼はそのままサクヤたちを素通りし、ゲートから出ていった。任務を受けたからである。
「アイツ……」
遠ざかってゆくカカシの背中を茫然と見つめている面々の中、ソーマだけが声を発することが出来た。
出来た、というのはやや表現が違う。彼とてサクヤたちと同じように頭が真っ白になっていたのだから。正しくは思っていたことが無意識に出た、が正解だ。
「変わった」
まず至近距離で感じたカカシへの感想は、山だった。
胸倉をつかみ上げた時、ソーマはカカシの後ろに見上げるような、天を突かんばかりの黄金の巨人を幻視した。それは彼の体内に計り知れないほどのオラクルを感じたが故である。
加えてソーマは、見た。殴りつけた瞬間のほんの一瞬だけであったものの、カカシの見開かれた目を確かに見たのだ。いつものゴールドオーカー色の瞳に、悲しみが居座っていたことに。
装い以外、カカシには何の変化はなかった。いつも通り柔和な笑みを浮かべており、いつも通り吹けば飛びそうな雰囲気を纏っており、いつも通りただそこにいた。
しかし確かに変わったと思えるだけの何かがあった。
そういう事に疎いコウタですらそれを感じたのだ。これはよほどの事である。
「ごくっ……」
生唾を飲んだのは、果たして誰だったか。静まり返ったアナグラに、それが嫌に大きく聞こえた。
■
「はっはっ……!」
台場カノンは走っていた。しつこいくらい追ってくる新手に目の端に涙を浮かべながら、隠れられる場所は無いかしきりに目を走らせながら、地獄の地下道を駆ける。
彼女は現在煉獄の地下街にいた。
リンドウの探索の口実に簡単な小型アラガミの討伐任務を受注したつもりだった。しかし、近ごろの異常の影響か、想定外のアラガミの出現。それも小型アラガミだけではなくシユウといった中型アラガミまでも現れたのだ。
ただでさえ誤射率の高い彼女はその小型アラガミを相手にも予想以上のオラクルを使ってしまっていた。それ故この予想外の増援に使えるだけのオラクルは残っていなかったのだ。
今の彼女にできる事は2つ。このまま座して死を待つか、援軍が来るまでひたすら逃げ隠れするのみである。
彼女が選んだのは当然後者。だから彼女は灼熱の地下街を死に物狂いで駆けまわっている。
(こんなところで死ねない! だってまだリンドウさんへの恩返し、一つも出来てないんだもん!)
シユウの放ったエネルギー弾を横っ飛びでかわし、オウガテイルの棘をキャーキャー言いながらカノンは避けて避けて避けまくる。
だが何事にも限度というものがある。ましてや彼女は疲弊した身。ゴッドイーターが人並み外れた体力を持つとしても、限界はあるのだ。
「あっ!?」
そして追いかけっこの終わりは唐突に訪れる。体内のオラクルが少なくなり、それに加えて蓄積されていた疲労が集中力を低下させていたのもある。
彼女は足を縺れさせて転倒してしまった。その拍子に手に持っていたブラスト型神機も滑るように転がってゆく。
「あ、ダメ!」
言った所で戻ってくる訳も無く、神機は彼女から数メートルほどの地点で止まった。
「うぅ……」
カノンは呻きながら、倒れた体を正面に向けた。ちょうど尻もちをつくような姿勢で、彼女は迫りくる神の群れに、目の端から涙をこぼしながら待ち受けた。
歯が噛み合わずがちがちと鳴る。したいこと、見たいものがまだたくさんあった。それがこんな事で終わりを迎える事に、彼女は悔しくてたまらなかった。
カノンは目を逸らさなかった。碌に事を成せなかった我が人生だった。なら最後くらい胸を張って、潔く受け止めてやろう。
「うぅううう!」
「「ギャワワーッ!!!」」
オウガテイルが、ザイゴートが、シユウが、我先に新鮮な乙女の柔肌を食い千切らんと怒涛のように迫るさまを、カノンは反射的に閉じようとする目をこれでもかと見開いて最後の光景を己の網膜に刻み付けようとした。
その時である。彼女の横を黒い風が吹いたのは。
「え?」
カノンは呆けた声を出した。
それもそのはず。今まさに自らの肉体を食い千切ろうと迫って来ていたオウガテイルたちの首から上が、不意に消失したのだ。それはシユウとて例外で無く。
彼らは首が無い状態でしばしその勢いのままてんでバラバラな方向へ駆け、思い思いのタイミングでばったりと倒れ伏し、二度と動くことは無かった。
「え? ほへ?」
カノンはすっかり困惑した様子であわあわと狼狽えていたが、肩を叩かれてはっと正気に返ると、肩を叩いた人物の方へ体ごと向けた。
「え、カカシ……さん?」
「(⌒∇⌒)」
そこにいたのは『あの』名無之カカシだった。援軍が来るにしてもブレンダンかジーナあたりと踏んでいたので、この予想外の援軍にカノンは驚いた。
防衛班でも彼の事はしきりに話題になっていた。尤も彼の話題は防衛班のみならずアナグラ中で囁かれていたのだが。
『狂犬カカシ』
誰が言いだしたか分からぬあだ名。しかし今やその名を否定するものは何処にもいない。
曰くヘリの助けなく空を駆ける天の覇者。曰く地を這う荒神を貪り食らう貪食の王。曰くどんな相手であろうとも躊躇なく噛みつく狂犬。
およそ数週間前に神機を手に取った新人につけられるはずもないあだ名ばかりだ。
先輩のゴッドイーターたちも、そんな噂などあてになる物か、と当初は鼻で笑っていたものだ。防衛班のメンバーでも2名ほどが同じような事を言っていたのをカノンはよく覚えている。
しかし、彼と共に任務に出たものは、全て一人の例外も無く彼についての話題を口にしなくなった。
不思議に思って聞いてみると、皆が言い方の違いはあれど全く同じことを言うのである。
あれは人ではない、と。
そうこうしている内に彼と任務に赴こうとするものがほとんどいなくなった。
結果としてカカシはゴッドイーターになってからわずか数週間しか経っていないにも拘らず、長年に渡りゴッドイーターとして活躍していたソーマ並みの腫れ者扱いをされる事になったのだった。
カノンは幸いにして一度もカカシと任務に赴いたことが無かったので、その噂の真偽を確かめるすべはなく、それを聞こうにも誰も話したがらないので、彼女の中でカカシの印象はふわふわとしたまま滞っていた。
その上カカシと絡んだのは初対面で一方的な自己紹介をされたのが最初で最後であり、なかなか話す機会に恵まれないまま今日まで来た。
そしてこの日、ついにカカシの戦い(全く見えなかったが)を目の当たりにし、彼女は彼が何故狂犬といわれるのか、しかと理解したのであった。
「えぇ……と、その、あのぅ……あ、ありがとうございます?」
何故疑問形? 自分でも分からない。しかし、助けられたことへの感謝よりも困惑の方が大きい事に、より彼女は困惑を高めていた。
「ふぇ?」
そんなカノンにカカシはにこやかに笑いかけながら懐をあさり、無言でガラス筒を、オラクルを回復させる効果のあるOアンプルを手渡した。
「ふへ!? あ、ありがとうございます!」
何を過剰に反応しているのやら。カノンは心の中で自分を叱咤しながら羞恥に顔を真っ赤に染めて捲し立てるように礼を言うと、ひったくる様にアンプルを受け取り、顔を背けながらちびちびと飲んだ。
時折カカシの顔色を窺うようにチラチラと視線を送るが、彼はただにこやかな顔で、カノンの横顔を見つめていた。
何も言ってこない事が、彼女には嬉しかった。今の状態で話しかけられても羞恥で碌な会話にならなかったことだろう。
カカシの無言の優しさに、カノンは噂などあてにならない事を確信した。
(だってこんなに優しい人なんだから!)
やがてアンプルを飲み終えたカノンは、空瓶を懐にしまうと、頭を下げて改めてカカシに礼を言った。
「危ない所をありがとうございました。カカシさんが来なかったら、私、どうなっていた事か」
「( ° X ° ; )」
頭を下げるカノンに、カカシは止めてくれとでもいう様に手をばたつかせた。
噂とは欠片もかすらないそんな様子がおかしくて、カノンはくすり、と笑ってしまった。
「((⊂( ° X ° ; )つ))」
笑われたことにより一層手をばたつかせるカカシに、余計にツボに入ってしまったのか、カノンはここが戦場であることも忘れて腹を抱えて笑った。
「( ° X ° ; )????????????????」
大笑いするカノンを一体どうしたらいいのかさっぱり分からないといった顔で、カカシは彼女が笑い終えるまでただひたすら頭の中で疑問符を浮かべながら待ち続ける事になった。
「ふふ……、ごめんなさいカカシさん。でも……うふ」
謝りながらも未だツボから抜けきらないカノンはまさしく年相応の少女の様で、いつも遠巻きから見ていたカカシからすればその表情を見れただけで、ほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。
が、そんな小さな幸せの空間も、突如として舞い込んだ緊急入電によって終わりを告げた。
『カカシさん、緊急入電です! お二人のいるエリア付近にボルグ・カムランが現れました! このままではすぐにでも会敵します!』
「ぼ、ボルグ・カムラン!?」
通信を聞いたカノンは驚愕に目を見開く。中型アラガミのみならず、まさか大型アラガミまで現れるとは、今日の自分の運勢を見たら、まず間違いなくドベであろう事は間違いなしである。
「……ヒバリさん」
『へ? は、はい何でしょうか!』
と、ここでカカシが口を開いた。
普段ろくに口を利かぬカカシからの言葉に、一瞬間を開けてしまったヒバリは慌てて返答を返した。
「ちょ~っと遅かったかな~」
『「へ?」』
カカシの言葉に女性二人の声が重なった。
それと同時に、彼らのすぐ目の前の壁を突き破って、『ソレ』は現れた。
金属的な外皮が全身を覆っており、一見すると騎士のようだ。4本の脚は細身で、されどその巨体を持ち上げるには十分なパワーを感じさせた。巨大な尾針と盾の様な鋏を持つサソリ型のアラガミ、それがボルグ・カムランだった
壁を突き破り、カカシたちの姿を認識したボルグ・カムランの動きは迅速であった。そしてまるで躊躇というものが無かった。
彼はこの場で最も弱い者に向かってその長大な尾を思い切り突き出したのである。
カノンはボルグ・カムランが壁を突き破った衝撃に耐えられずに尻もちをついていた。避ける間など無かった。
彼女は脳内物質が過剰分泌されゆっくりとなった主観時間の中、緩慢に迫りくる針を漠然と眺めていた。
せっかく命を助けられたのに、また失う羽目になるなんて。なんてついていない日だろうか。
迫り行く死の気配を感じながら、カノンは諦念を感じながら自嘲気味に心の中でそう呟く
どうしようもない事はいつだって唐突で、いつだって理不尽なのだ。
そうこうしている内に針は目前まで迫っていた。
カノンは目を閉じた。
彼女の主観時間が戻ると同時に刺突音が一つ。しかし。
(あれ……痛くない?)
カノンは目を瞑ったまま痛みが無い事に訝った。
不思議に思い、思い切って目を開ける。
足元は流れ出した血で真っ赤に染まっていた。だが自分には傷一つないのに、これだけの血が流れているのはおかしなことである。
自分の血じゃない。じゃあこの血は一体誰の血?
カノンは目を見開いて、顔を上げた。
「あぁ……!」
彼女の目の前に黒い背中が映った。
言わずもがな、カカシである。
黒一色であったその背中に、しかし鈍い銀色と赤い染みがじわりじわりと広がり、いびつなマーブル模様を作り上げていた。
「か、カカシさん!!」
返答はない。当然だ。あの長大な針に貫かれれば普通は即死である。それでも呼びかけずにはいられなかった。それはカノンが純粋で優しさに満ちた女性であったがゆえに。
「カカ……シ……さん……?」
カカシが動かないのは死んでいるからだろう。ではなぜボルグ・カムランも動かないのだ? カノンは自分が何か勘違いをしているような気がして、もう一度カカシを見て、そして驚愕に目を見開いた。
カカシは死んでなどいなかった。何と彼は歯を食いしばり、引き抜かれようとする針を片手で押さえつけていたのだ。
カノンは遅まきながらようやく気付いた。ボルグ・カムランは動かないのではない。動けないのだ。この目の前の人間の尋常ならざる膂力に、大型アラガミが力負けしているのだ。
「──────」
この時の感情を、口にするのは難しい。しかしどうにか、感じていた感情や思っていた気持ち、助けてくれた感謝などを棚上げすれば、どうにか言葉にすることはできた。
あれは人間ではない、と。
「つ・か・ま・え・た」
「ギッ!!?」
カカシは片手で神機を銃形態に変え、その無防備な頭に照準を合わせながら、まるで地獄から響く死神の呼び声めいて、言った。
基本的にアラガミに感情と呼べるものはない。しかしどういう訳かこの時ばかりはボルグ・カムランはまるで恐れ戦いたようにしきりに盾状の腕を振り回して離脱を試みたが、頭を下げた姿勢で尾を突き出していた彼に、そんな機会など、ましてや猶予も与えられることは無かった。
「とっておきだァ」
カカシの神機の銃形態、支部長より装備を一新され、神機の銃部分は『ギガス砲』というものに変えられていた。
この銃の特徴は何と言っても髑髏状の銃口であろう。
そしてカカシは引き金を引き、オーダーを受けた死神はその口から特製の氷属性オラクル弾を吐き出した。
「ギギギィイイ!!!!???!」
死神の
力なく倒れ伏すボルグ・カムランに一瞥もくれることなくカカシは銃形態から近接形態に変えると、針の半ばに神機を叩きつけ、砕いてから無造作に抜き放った。
当然貫かれていた個所は大きな風穴があいていたが、それも瞬く間に塞がり、ついにはまるでそんな事実など無かったかのように塞がってしまった。怪我をしていた名残は服に空いた穴だけだ。
「ほ、ほへぇ……」
カノンはすさまじい光景に完全に腰を抜かしていた。
こんな光景を見せつけられたら誰だってそうなる。それは仕方のない事だった。
だがそれ以上に、体を貫かれ、本来は激痛であったはずなのに平然としており、自分の事でなくこちらの身を真っ先に案じるカカシの姿に、カノンは怖れるよりも悲しみを覚えた。
(一体どう生きてゆけば、こんなに自分の事を蔑ろにしてしまう様になるのだろうか?)
腰を抜かして立てない彼女を背に乗せ、全く苦も無く帰投に向かって歩を進めるカカシの背に揺られながら、カノンは何とはなしに考えてみた。
きっと凄惨な事があったに違いない。恐らく自分の様な半端ものでは太刀打ちできない様な事を、一度でなく何度も経験しているのだろう。
彼のあまりに自然な気遣いに、彼女はそれをしかと感じていた。
カノンはカカシの背に顔を埋めながら、どうかこの優しい死神にも幸いがありますようにと、願わずにはいられなかった。
そしてアナグラに帰投したカカシはカノンを医務室に送り、そのまま別の部屋のベッドで未だ眠るアリサに近づいて行った。
彼はやや躊躇ったように自分の手と彼女の手を交互に見て、やがて観念したように彼女の右手に自らの右手を重ねるのであった。
ちゃん様にメテオを教えてあげたいです。修正される前の奴