俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~   作:三流二式

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今回は三人称視点オンリーです。


空を駆ける狂犬

「本日、執行部より正式な辞令が降りた。今回の任務完了をもって、名無之カカシをフェンリル極東支部、保守局第一部隊隊長に任命する」

「「──────!」」

 

 

 ツバキの放ったその言葉に、集められた第一部隊のメンバーに緊張が走った。

 

 

 場所はアナグラエントランス出撃ゲート前。そこに呼び集められたアリサ、サクヤ、コウタ、ソーマ、そしてカカシたちは集められた理由も分からぬまま、ツバキが来るまで待っていた。そして先の言葉である。

 

 

 言い渡された内容への反応は三者三様だった。

 一人は大はしゃぎし、一人は当然とばかりに納得し、一人はやるせなさと悲しさに呆然自失となり、一人は奥歯を噛みしめ、一人はどこか諦めたように薄く笑っていた。

 

 

「これからはお前がリーダーだ。よろしく頼むぞ」

「ハハァ……」

 

 

 ツバキからの言葉に、カカシはどうにも感情の読み取れ無い曖昧な表情で頷いた。

 

 

「す……すげぇ! 大出世じゃん! うひょー! こういうのなんて言うんだっけ? ゲコクジョー?」

 

 

 コウタはカカシの出世に、まるで自分の事の様に喜び、彼と肩を組んで大はしゃぎだった。

 

 

「それ裏切りですよ? 馬鹿なんじゃないですか?」

 

 

 一方アリサは大はしゃぎをするコウタに冷めた目を送り、さらりと毒を吐いた。しかしすました顔をしてる彼女だが口元が緩んでおり、コウタ同様にカカシの出世に喜んでいる事は見え見えだった。

 

 

「……」

「……チッ」

 

 

 そんな二人とは対照的に、サクヤとソーマの表情は暗かった。

 

 

 サクヤの顔は白を通り越して青ざめており、人の目がなかったら足元にへたり込んで恨み言の一つは吐いていたかもしれない。

 何せこの発表はつまり上層部がリンドウが死んだという事を正式に決定したという事だ。

 

 

 自分が彼の死を確認できていないのに、そんな決定など認められる物か! 

 もしこれがツバキと二人きりの時に言われた事だったなら、サクヤはそう叫びながらツバキに掴み掛っていただろう。あるいは手が出てもおかしくなかったかもしれない。

 

 

 しかしそうはならなかった。人目があるのはそうだが、頼もしい後輩が上層部に認められて昇進したことは素直に嬉しかったし、自分以上に怒り悲しんでいるであろうツバキを差し置いてそんな真似をしたくなかったからである。

 

 

 怒りと悲しみ、素直に称賛する心が相殺し合い、サクヤの心の中は奇妙な空白が生まれていた。

 サクヤは真っ青な顔で、ただツバキの顔を見つめていた。

 

 

 怒ればいいのか喜べばいいのか。さっぱり分からなかった。サクヤは何も考えられなかった。このような状態を、世間の人々は茫然自失と呼ぶのだ。

 

 

 次にソーマだが、彼はフードを深くかぶり直していた。今の自分の浮かべているであろう怒りの形相を、誰の目にも触れさせたくなかったからだ。

 

 

 ソーマは怒っていた。勝手に死んでいった上官に。自分の非力さに。……この世界に。

 

 

「……」

 

 

 そして昇進を言い渡された当の本人はというと、喜んでいるまでも無く悲しんでいるまでも無く、いつものようにただ曖昧に笑っているだけだった。

 心なしか浮かんでいる笑みに諦めの様なものを感じはするが、それでもやはり胸の内を読み取る事はいつものように出来なかった。

 

 

「改めて……よろしくお願いします。ね、サクヤさん!」

「え、えぇ……そうね……おめでとうカカシ君……」

 

 

 

 突如アリサに話を振られたサクヤは咄嗟に言葉を絞り出したものの、次第に尻すぼみになり、ついには俯いて口をつぐんでしまった。

 

 

(……ッ! 私の馬鹿!)

 

 

 小刻みに震える自らの体を掻き抱き、少しでも心の悲しみに耐えようとする彼女の内心を察したアリサは自分の迂闊さに反吐が出る思いだった。

 

 

 サクヤとリンドウが深い仲である事は分っていたはずだったのに。

 軽率な己の行為を恥じた彼女は心の中で謝りながら、無言でサクヤの肩に手を置いた。それが気休めにもならないことなど分かり切った事だが、それでもしなければ自分の気が済まなかった。

 

 

「……」

 

 

 ツバキはあえてサクヤの悲しみに言及しなかった。それをすれば自らの悲しみにまで触れなければならず、それはお互いにとってあまり良い結果にはならないだろう。

 

 

「リーダーとなれば相応の権限も与えられる。しかし同時に相応の義務も負ってもらう。チーム全員を無事に生還させるという義務を、だ」

 

 

 だから彼女は己の悲しみに蓋をして、カカシについての事柄だけに集中する事にした。

 そうすれば、今胸の内にあるのは感慨と可愛い部下への頼もしさだけになった。

 

 

 ツバキはつかつかと歩み寄り、弟そっくりな動作でカカシの肩をばしばしと叩いた。

 

 

「お前は強い……死ぬなよ。全員生きて戻れ。これは命令だ」

 

 

 ツバキはカカシの両肩に手を置き、普段の彼女からは想像できないほど柔らかな笑みを浮かべながら、彼にそのように命じた。

 カカシは強い。現時点でも経験以外ではリンドウやその他のベテラン神機使いの戦闘能力を遥かに凌駕している。

 

 

 だがこのまま宙ぶらりんで放置していれば、いずれふとした拍子にどこかへ行ってしまうだろう。首輪が付けられていない飼い犬の様に。空を揺蕩う雲の様に忽然と。

 これは首輪だ。吹けば飛んで行ってしまうような彼を縛り付ける立場という名の首輪。大狼(フェンリル)を封じ込めるための聖なる枷(グレイプニル)

 

 

 この枷があれば、彼は否応無しに仲間の事を考えざるを得なくなる。仲間の事を考えて作戦を立てるとなると、必然的に自身も生き残るような作戦を考えなければならなくなる。

 

 

 彼女はこの目の前で困ったような笑みを浮かべる青年の内に潜む心の闇を、漠然とだが感じ取っていた。

 故に彼女は強調した。死ぬな。生きて戻れと。

 

 

 カカシは彼女の言葉を反芻するように舌で転がし、それから笑みを消し、真剣な表情で頷いた。

 

 

「──―」

 

 

 その顔つきを、彼女は知っている。

 嘗てリンドウが第一部隊の隊長に抜擢された時、あれこれ言い訳をすべて吐き出した後に彼女に向けた表情とまるで同じものであった。

 

 

 即ち、誰かの命を背負って戦う決意が、この線の細い優男に宿った瞬間だった。

 

 

 ツバキの心の中に、様々な感情が去来した。懐かしさ。愛しさ。……悲しみ。

 無意識の内に手を伸ばす。伸ばされた手はカカシの頬に添えられ、ツバキは衝動のまま口を開きかけた。

 

 

 その時。

 

 

「だから『ゲコクジョ―』では無く『下剋上』だと何度言ったらあなたは理解するんですか!? 本当にあなたは馬鹿ですね!」

「別にイーじゃんどっちだって! それに、馬鹿っていう方が馬鹿なんですー!」

「「何をー!」」

 

 

 アリサとコウタ(バカ二人)の口論が耳に飛び込んできて、ツバキはドキリとし、伸ばしていた手を反射的に引っ込めた。

 

 

「……?」

「ッ! さ、さあ何をボサッとしている。任務に向かえ!」

 

 

 ツバキは不思議そうにこちらを見つめるカカシからプイっと恥ずかしそうに顔を逸らすと、羞恥をごまかすように彼らを任務に追い立てた。

 

 

「?????」

「わ゛ーツバキさんが怒ってる~!」

「ひゃあ!」

「あ、あはは……」

「チッ……」

 

 

 カカシたちは急に追い立てられた困惑よりも、鬼教官が語気を荒げて任務に行くように催促する恐怖の方が勝ったようだ。慌てて会話を中断し、どたばたと出撃ゲートを潜っていった。

 

 

 彼らの会話する声が徐々に遠ざかってゆく。

 

 

「死ぬんじゃないぞ……」

 

 

 去り行くカカシたちの背を見つめながら、ツバキはぼそりと呟いた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「いいですか? これはとても重要な任務なんです。あなたみたいな注意散漫な人がへまする事が合ってはならないんです。分かってるんですか?」

「へんだ! 俺はそんな心配万に一つもないもんね! 俺とカカシが何度一緒に任務に出ていると思ってるんだ? 誰かさんと違って信頼関係が出来てんのさ信頼関係が!」

「「むむ~!!!」」

 

 

 

 カカシの隊長就任が懸かった任務というだけあって、つるむことの多い同期であるコウタ、助けられて随分と態度の改善したアリサは隊長に就任する本人以上に張り切って任務に挑んでいた。その一歩後ろから二人を微笑ましそうに見ているサクヤ。さらに後方に三人を眩しい物でも見ているように目を細めるカカシがいた。

 

 

「しっかし俺の同期がリーダーになるだなんて、改めて考えるとスゲー話だよな!」

 

 

 ちらりと背後を振り返りながら、コウタは感慨深げに言った。

 

 

「当然でしょう。あれだけの戦闘能力を持っている人なら遅かれ早かれ隊長に就任して当り前です。……でも、確かに速すぎますね。さすがカカシさんです!」

「「だよねぇ~!」」

 

 

 先ほどとは一転して、二人できゃいきゃいと会話に花を咲かせていた。

 

 

「ふふ……カカシ君は良い友達に恵まれたわね? 羨ましいわ~」

 

 

 二人の会話を柔らかな表情で見守りながら、後方のカカシに向かってサクヤは語り掛ける。

 

 

「(^o^)」

 

 

 相変わらずカカシは口を開くことは無く、サクヤからの言葉にただ笑みを浮かべていた。

 

 

『皆さんに入電です。今向かっている場所とは別方向に複数の小型アラガミの反応が現れました。恐らく本日の任務の討伐目標であるサリエルが呼び寄せた可能性が高いです!』

「だそうだけど、どうする新隊長さん?」

 

 

 ヒバリから告げられた情報に、サクヤは振り返ってカカシに指示を仰ぐ。

 カカシはやや思案したように顎に手をやり、それから満足げに頷き、自身の考えを告げた。

 

 

「じゃ、みんなは当初の予定通りの場所に向かってザイゴートの殲滅をお願いします。俺は新しく湧いてきた奴を『喰って来る』ね」

「それは……無難に2組に分けた方が良いのでは?」

 

 

 カカシの提案にアリサは反論を上げるが、カカシは首を振って神機をポンと叩いた。

 

 

「増援に大型アラガミが混じっていたらそうしてたけど、小型だけなら俺だけでも大丈夫でしょ? それに、俺の使っている神機はまだ不安定だし、何より全然育っていないんだ。こういう機会にコアを取り込めるだけ取り込んでおきたいんだ……ダメかな?」

 

 

 カカシは指と指をつんつんさせながら、自信なさげにアリサたちにお伺いを立てた。

 

 

「もう、あなたは隊長になるのよ? そんな自信なさげにしてどうするの? こういう時はバシッと言ってみなさい!」

 

 

 と、サクヤ。

 

 

「おう、そういう事なら任せとけ! お前が来る前にザイゴートもサリエルも俺が撃ち落としてやる!」

 

 

 コウタが自信満々に親指を立てて見せた。

 

 

「サクヤさんの言う様に、カカシさんはもっと自信を持ってください。私達なら平気です。どうか貴方のお好きなように、ね?」

 

 

 アリサはにっこりと笑みを浮かべながらそう言った。

 

 

「……うん、じゃあ、よろしく頼もうかな。サクヤさん、俺がいない間彼らの指揮を頼みます」

「分かったわ」

「そうこなくちゃ!」

 

 

 そういう訳で、カカシは増援を一人で殲滅するために一時パーティから離脱した。

 また離脱の際に当然とばかりに空を飛び去って行く彼の姿に、三人が苦笑いを浮かべたのは言うまでも無いだろう。

 

 

 だが流石に何度も見てるだけあって初回の頃より驚きは少なく、カカシが離脱した後ヒバリのオペレートの下、彼らは速やかに行動を開始した。

 

 

「お、ザイゴート発見!」

 

 

 いの一番にザイゴートを発見したコウタが、すかさず火属性のオラクル弾を発射した。

 

 

「ギッ!?」

 

 

 コウタの奇襲は完璧に成功し、驚いたザイゴートはオラクル弾を食らった拍子に地面に落下してしまった。

 

 

「よっしゃチャンスだぜ!」

「ナイスです! はあっ!」

 

 アリサは落下したザイゴートに向かって瞬く間に距離を詰めると、紅き刀身『アヴェンジャー』を裂帛の気合と共に振り下ろした。

 

 

「グエッ!?」

 

 

 潰れたような断末魔を上げ、ザイゴートは哀れ、真っ二つになって絶命した。

 

 

 と、それが合図となったのか。彼女たちの後方にあった破壊されて段差の様になった建物の残骸の向こう側から、それはふわりと重力を無視した動きで彼女たちの前に降り立った。

 

 

 ソレの上半身だけを見たら、人間の女性といえない事も無かった。滑らかな腰のライン、豊満な胸、閉じている瞳はどことなく愁いを帯びているようにも感じられる。それだけなら、なるほど。男からすれば垂涎ものだろう。

 ただしそれは上半身に限っただけの話。腰から下はがっしりと肥大化しており、上半身と下半身のアンバランスさの歪さが見る者に酷い嫌悪感を感じさせた。

 

 

 何よりこのアラガミの頭部にある扇状の器官の中心にある邪眼がぎょろりとこちらを睥睨する様は、さながら悪徳な貴婦人の様だ。

 

 

「こいつがサリエルか……で、デカい!」

 

 

 とコウタがサリエルを見るや否やそう漏らし、思わずアリサの胸と見比べて感嘆のため息を漏らした。

 

 

「ぶっ殺しますよ!」

 

 

 そんな事をされて面白い訳も無く、敵の前だというのにアリサはコウタに噛みついた。

 

 

「だ、だってさー!」

「っ! 二人ともふざけてる場合じゃないわ!」

 

 

 反論を言いかけたコウタにサクヤからの叱責が飛んできた。それで2人は慌ててサリエルに向き直り、直後、サリエルは邪眼から複数の光の束を発射した。

 

 

「うひゃー!?」

「わっ!?」

「くっ!?」

 

 

 3人は慌ててその場から飛びのいた。一拍子遅れて彼女たちがいた場所を複数のレーザーが貫き、地面に穴を穿った。

 

 

 体勢を立て直した三人はサリエルを囲むような位置につくと、一人はスカート状の器官、一人は頭部の邪眼、一人は胴体に狙いをつけて一斉に射撃を開始した。

 

 

「La!?」

 

 

 瞬く間にサリエルの全身はオラクル弾に包み込まれた。

 

 

「La!」

 

 

 当然サリエルはただ的になってやるつもりは無く、滑るように横にずれて弾幕から抜け出すと負けじとレーザーを乱射した。

 

 

 アリサたちはレーザーをかわしながら銃撃の手を緩めない。静寂に包まれていた工場地帯はたちまち激しい銃撃戦の騒音に塗り替えられた。

 降り注ぐ光線の雨、空に向けて放たれるさまざまな色をした光球は、遠くから見れば様々な光が飛び交う美しい光景に見えるかもしれない。

 

 

 が、しかし、当人たちにとってそれは死の光。美しさとは程遠い物騒な物の応酬であった。

 

 

「La!!」

 

 

 いい加減鬱陶しくなったのか、サリエルはぐっと身構えるような動作をとると、光の壁を展開した。

 攻防一体の光の壁はバリヤーの役割を果たし、彼女たちのオラクル弾を全て弾き返してしまった。

 

 

「ああ!? これじゃ俺たち攻撃できないよ!」

「慌てないでコウタ君、こういう攻撃は長続きしないわ。待っていれば次第に途切れる。それまでにこちらも体勢を立て直しましょう」

「はい、サクヤさん!」

 

 

 サリエルが光の壁を展開して攻撃を拒絶している間、3人はOアンプルを飲んで体内のオラクルを回復し、機会が来るまでじっと待っているつもりだった。

 

 

 ()()()()()()

 予定は未定。戦場では常に予想外の事が起きるように、今回も例にもれず彼女たちの思惑は全くのイレギュラーが粉砕していった。

 

 

 光の壁を展開していたサリエルが、突如として消え去った。その一瞬遅れて。

 

 

「宅配ピザでぇ──────す!!!!!」

 

 

 というすさまじく場違いな声が彼女らの耳を貫いた。

 

 

 呆気にとられた3人は声のした方向を目で追うと、飛行の勢いを緩めることなく捕食形態に変えた神機をサリエルに噛みつかせるカカシの姿が飛び込んできた。

 

 

「来た! カカシ来た!」

「ちょ!? 早くないですか!? 私たちと別れてからまだ2分くらいしか経ってないですよ!?」

「また大概訳の分からない事を……」

 

 

 アリサたちは衝動のままに感想を口にした。それと時期を同じくしてサリエルはカカシの拘束を振り払い、カカシから距離を取った。

 

 

「むむむ、ならこれを食らえい!」

 

 

 カカシは神機を銃形態のまま捕食形態に変え、そのまま特製のオラクル弾を発射しながら空中を直進してサリエルを追う。発射されたオラクルの玉はカカシの周りをぐるぐる回りながら追尾レーザーをばら撒いた。

 

 

 

「La!!」

 

 

 サリエルはそれを嫌い、空中をジグザグに駆けた。

 

 

「逃がすか!」

 

 

 カカシは叫ぶと、捕食形態に変えた神機からオラクルを吹かして空を駆けるサリエルの背を猟犬の如くしつこく付きまとった。

 

 

「こわ~……」

「これはさすがに……」

「あの子は一体どこに行こうとしているの……?」

 

 

 3人は呆れたような感心した様な、何とも言えないような顔で上空で熾烈なマウント争いを繰り広げる両者を見上げた。

 当然だろう。いったいどこの世界に大型の飛行アラガミとドッグファイトするゴッドイーターがいるというのか? 

 

 

 これを見ていない者にそれを聞いたところで、良くて鼻で笑われるか、最悪頭の心配をされることは明白である。

 

 

「って、感心してる場合じゃないわ! 何とか援護をしないと」

 

 

 年長者らしく一番に我に返ったサクヤが行動に移そうとするが。

 

 

「ああッ!?」

 

 

 というコウタの悲鳴で出鼻をくじかれてしまった。

 

 

 コウタは見た。

 激しいマウント争いでこちらとの距離はずいぶん離れていってしまったが、それでも強化された視力はカカシが一条の光に貫かれる瞬間をばっちりととらえていた。

 

 

「「アイツ―!」」

 

 

 真っ先に動いたのはコウタと、彼同様にその瞬間を見ていたアリサであった。

 自慢の仲間が撃ち落とされ、あっという間に怒りのボルテージを振り切った二人の若者は、湧き上がる衝動のまま神機を構えて突撃していった。

 

 

「え? あ? わ、私も!」

 

 

 遅ればせながらサクヤも2人の背を追って駈け出した。

 

 

 サリエルに追いついたコウタとアリサは怒りの赴くままにオラクル弾を乱射した。

 

 

「La!?」

 

 

 カカシにばかり気を取られていたサリエルはこれをまともに食らい、ついにスカート部分が結合崩壊を起こした。

 

 

「La!? La!?」

 

 

 サリエルは困惑と激痛のためか飛行に乱れが出ていた。先ほどの機敏さは失われ、死にかけの蝶を思わせるような動作で上空をふらふらしていた。

 

 

「これはおまけよ!」

 

 

 追いついたサクヤのピンポイント狙撃が上半身に直撃し、ついにサリエルは地面に叩き落とされた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 地響きを立てて地面に落下したサリエルは手をバタバタさせて再び上空へと舞い上がらんと躍起になったが、凄まじい勢いで突っ込んできたカカシに上から押さえつけられて、それは不可能になった。

 

 

「うお!? どっから飛んできた!」

 

 

 サリエルの邪眼を噛み千切りながら突撃してきたカカシに、コウタはギョッとして驚く。

 

 

「どっからだって構いません。それより彼の援護を!」

「援護ならこれね」

 

 

 サクヤは自身の神機にアラガミを弱体化させる弾丸『封神弾』を装填すると、カカシに当たらない様に見事上半身に直撃させた。

 

 

「だったら俺はこれ!」

 

 

 コウタはサリエルに接近し、サリエルの真横でホールドトラップを起動させて動きを阻害させた。

 

 

「私ならこう!」

 

 

 アリサは神機を捕食形態へと変化させると、無防備に投げ出されていた両足を食い千切った。

 彼女たちの間中、カカシは禍々しい黒紫の刀身『呪刀』を狂ったようにサリエルに叩きつけていた。

 

 

 その姿はまるで呪われた刀に魅入られた狂人の様な有様であり、アリサはカカシの使用する刀身が呪刀に選ばれた時にリッカが理事長に猛然と抗議しに行く光景を思い出していた。

 

 

『あれは凄く不安定な子なんだ! あまりにも不安定過ぎて、今までに何人もの神機使いが命を落としているんだ!』

 

 

 そんな刀身をよりにもよってカカシのような人に使わせるなんて信じられない! と抗議が却下され、憤懣やるかたない様子のリッカはそのように語っていた。

 

 

 アリサは改めてカカシの振るう刀身を見た。その時ちょうど止めを刺す瞬間であり、呪われた刀身をオラクルで構成された肉が覆いつくし、悍ましき顎が形成され、サリエルの上半身をすっぽりと覆ってしまった。

 

 

「……ッ!? ……ッ!?」

 

 

 サリエルは何とか振り払おうと手をばたつかせたものの、カカシの万力の如き力で上半身ごと引きちぎられて絶命した。

 ちぎられ、残された下半身から血液がまるで泉のようにどくどくと溢れた。

 

 

「うへぇ―ゴア」

 

 

 コウタがサリエルの死骸の上にいるカカシに向かってのんきに呟いた。

 

 

 アリサは捕食形態が解除され、再び露になった呪刀をじっと見つめた。

 黒紫の刀身は聞いていた不安定さなど微塵も感じさせる事は無く、ただ主に忠実な家臣の如くカカシの手に収まっていた。

 

 

 大いなる狼は呪われた刀の呪縛すらなんてことないらしい。撥ね退け、屈服させるぐらいには。

 

 

「流石ですね」

 

 

 一息ついたアリサはにっこりと微笑んだ。

 

 

「……もう、無茶しすぎよ」

 

 

 サリエルの死骸から降りたカカシの頭に拳をこつんと当てながら、サクヤは聞き分けの無い子供に言い聞かせるみたいにそう言った。

 カカシはただ曖昧に微笑んでいた。

 

 

 つられるようにサクヤも笑ったが、内心は気が気では無かった。

 初めて任務に同行した際の不安は今までもずっと付きまとっていたが、今回の事でその不安はより一層大きくなった。

 

 

 ただでさえリンドウが死んでしまって心が平静を保てないというのに、まるで死に急ぐかのような苛烈な戦い方をするカカシに、これ以上不安になる様な事はしないで欲しいというのが本音だった。

 しかしこの任務が終われば晴れて隊長になるというのに、そんな説教をして気分を沈めてやりたくも無いという思いもあった。

 

 

 複雑にせめぎ合った心はこれ以上彼女の口を開かせなかった。サクヤは口をつぐんだ。

 そんな彼女にカカシは何か言おうとするかのように口を開きかけたが、すんでのとこでやめ、頭を振ってサクヤから背を向けた。

 

 

 4人はサクヤを先頭に帰投準備に向けて歩き出した。

 

 

 途中アリサは何となく気になって、背後にいるカカシの表情をちらりと盗み見た。これで晴れて隊長就任である。きっといつも以上にゆるんだ顔をしているに違いない。そう思っていた。そして後悔した。

 カカシは空を見上げていた。その顔にいつもの笑みは無く、底の無い穴を覗き込んでいるかのような全くの虚無の無表情が浮かんでいた。

 

 

 アリサはすぐさま顔を戻した。そのタイミングでコウタがアリサに話を振ってきた。

 

 

 カカシが隊長に就任して俺も鼻が高いとか、お祝いのパーティでもしようとかどうとか。そんな事を言っていた気がする。

 しかし今の彼女の心の中は今しがた見たカカシの表情の事でいっぱいだった。

 

 

(あの表情は、一体何を意味するのだろうか……?)

 

 

 いつだって微笑みを絶やさなかった男の、虚ろを感じさせるような無表情。

 一体何を考えているのだろうか。どれだけ頭を働かせても、ちっともそれらしき考えは出てこない。判断材料が少なすぎるのだ。

 

 

(そういえば、私はあの人の事を何も知らないなぁ……)

 

 

 アリサはふとカカシについて分かっていることの少なさに思い至り、愕然とした。

 

 

 経歴不詳、年齢不詳。分かっている事といえばその強さだけ。思想、趣味、好きな事、嫌いな事どれ一つとして彼女は知らなかった。

 

 

(私、自分の事ばかりで、あの人の事を何も知ろうとしてなかったんだなぁ……)

 

 

 アリサは胸の内がきゅっとなり、心細さのために胸の前で拳をぎゅっと握った。何も知らないという事がこんなにも悲しくなることだとは。

 

 

 アリサはまた一つ学び、また一つ賢くなったのだ。

 

 

 アリサは空を見上げた。

 

 

 相変わらず雲はどんよりとした曇り空。途切れの見えない雲は見ているだけで心が憂鬱になっていくのを止められない。

 

 

 この空模様がこれから先の人生を表すものでないと、アリサは願わずにいられなかった。

 

 

 




空が曇るのは良いですけど、心は常に晴れやかにしたいですよね!
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