俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~ 作:三流二式
「やあっ!」
「ギャァッ!?」
アリサの渾身の一撃が、結合崩壊して脆くなったコンゴウの顔面を叩き割り、絶命させた。
ズズン……。
「オッシャ、撃破だ!」
コウタは力尽きたコンゴウを前にガッツポーズを決めた。
ドドン……。
「コウタ君安心するのはまだ早いわ! 次が来たわよ!」
「うぇ!? す、すみません!」
隣で神機を構えていたサクヤの注意喚起に、コウタは慌てて下ろしていた神機を構えなおす。その直後に、雪が降り積もった建物の穴からシユウがひょっこり顔をのぞかせ、どしんと地面に降り立った。
コウタ達
ただ突然そんな事を榊が言い出すものだから、どうしてそんな事をするのかと疑問を口にしたものの、榊はいつもの感情の読み取れ無い微笑を浮かべるばかり。
ギエー……。アバー……。
「ガァアアア!!!」
シユウはコウタ達を視界に入れるやすぐさま両翼の先端の掌を合わせ、火球を放ってきた。3人は横に飛びのいてそれをかわし、サクヤとコウタは後方へ、アリサは2人の支援を受けながら果敢にシユウへと切り込んで行った。
ガォオオオ……。グォオオオ……。イヤーッ……。
「だあ!」
アリサは首を狙って横薙ぎの一線を繰り出す。シユウは屈んでそれを回避。
「ガア!!」
シユウは屈んだ姿勢のまま両翼を広げて回転。彼女の足を切断しにかかった。アリサは後方に飛びのいてそれをかわす。その隙をカバーするようにコウタとサクヤの狙いすましたオラクル弾がシユウの顔面と胴体に突き刺さった。
「グオッ!?」
シユウはもんどりうってひっくり返った。アリサはその間に建物を蹴って跳躍。神機を両手で握りしめ、シユウが体勢を立て直す隙を与える間もなく顔面に紅の刃を深々と突き立てた。
「グオオオオオ!!? ガォオオオオ!!?」
シユウは翼手や足をばたつかせてもだえ苦しんだ。アリサは引きはがされないように突き立てた神機に万力の力を籠めた。
顔面を巨大な刃で貫かれているにも拘らず、シユウはちっともおとなしくならなかった。
それもそのはず。アラガミにとって頭は実のところそこまで重要な器官では無かったりする。彼らにとって真に重要な器官はコアだけだ。強大なアラガミは我々人類にとって致命傷にしか見えない傷でも、例えば頭が吹き飛んだり胴体に大穴が開いていたとしても、コアさえ無事なら何事も無く戦闘を続行する個体もいたりする。
アラガミとの戦いはいかにコアを破壊するか、あるいは肉体をどこまで破壊できるかが胆になってくる。
イヤーッイヤーッイヤーッ……。アバーッアバーッアバーッ……。
「もうっ……しつ、こいです……ね!」
アリサは暴れるシユウを押さえ付きながら、神機にある命令を下す。なまじシユウを抑え込むことに精神の大部分を割いているため、下した命令を神機が遂行するのはのろのろとしたものだった。
あの人ならもっと早いのだろうか? 時折頭目がけて振るわれる翼手を何とかかわしながら、アリサはそんな事を考える。
が、もし彼ならこんな状況に持ち込ませず、シユウが着地した段階で首を刎ね飛ばしている事だろう。
容易にその光景が想像できてしまい、危機的状況にもかかわらずアリサは思わず苦笑いを浮かべる。
そうこうしている内に神機は下した命令をついに遂行できたようで、アリサはさらに神機を深く突き入れ、シユウの腹に折りたたまれている銃身を押し当てた。
「食らえ!」
アリサはためらいなく引き金を引いた。瞬間、銃身から爆発が生じ、シユウの胴体を修復不可能なレベルに撃ち砕いた。
ロングの固有技であるインパルスエッジである。刀身ごとに発射される弾種は異なり、アリサの刀身である『アヴェンジャー』は爆破であった。
「ガッ……!? ガッ……」
流石のシユウもそこまで肉体を破壊されればお終いだった。びくびくと身を震わせ、翼手で地面を何度かひっかくように藻掻いた後、ぐったりとなり動かなくなった。
「ふぅー……」
アリサはようやく一心地着いたと言わんばかりに息を吐いた。背後を見ると、コウタも同じようにしていた。サクヤの方も二人程とは言わないが明らかに体の力を抜いていた。
ギョエーッ……。
「よし、これでここら辺はクリアかな? おーいヒバリちゃーん、どう? まだどっかいる?」
『はい、コウタさんたちの周りにはもうアラガミはいませんよ。コウタさんの周りにはもういません。えぇ』
「……」
ヒバリの声は酷く澄んでいた。まるで凪いだ海面を思わせるようなその声色に、コウタは酷く同情した。
「ギャーッ!?」
「ギエーッ!?」
「グワーッ!?」
「アババババーッ!?」
「ガァアアア!?」
「オォン!?」
「ぬわー!?」
「「……」」
こちらの戦闘音が止んだため、聞こえないふりをしていた様々な悲鳴が否が応にも耳に入ってきた。
「……行くか?」
口の端を引きつらせたコウタが隣にいるアリサに、無駄だと分かっているがそれでも聞いた。
「行くしかないでしょう……」
同じくひきつった顔をしていたアリサは嫌々ながらもそれを口にした。
「その必要は無さそうよ……」
頭痛を押さえられないとばかりに頭に手をやっていたサクヤが、ある一点を見つめながらそう呟く。サクヤに倣ってコウタとアリサはサクヤの見つめていた場所に目をやると、丁度壁の一部が膨らんだところだった。
「「あー……」」
コウタとアリサが何とも言えないような声を出したと同時に、膨らんだ壁が轟音とともにはじけ飛んだ。
凄まじい煙と、それに遅れて何かの破片のような物がバラバラと辺りに散らばった。その一部が地面を滑り、アリサの足にこつんと当たって止まった。
引きつった顔でそれを見つめると、それが今しがた自分らが対峙したアラガミであるシユウの顔の破片であることが分かった。
アリサは周囲を見回した。思った通り。散らばった破片は全てシユウの物だった。
「これ……一体だけのじゃないよね?」
「そうね……軽く見積もっても三体分かしら?」
コウタの言葉にサクヤが答えた。
三人は互いに目配せし、それからどこかうんざりしたように同時にため息を吐くと未だもうもうと立ち込める煙の中へ入り込み、その奥で戦っているであろう我らが隊長の下へ向かって行った。
一歩進むごとに悲鳴や轟音は大きくなり、その度に三人はどんどん気が滅入っていった。
そして煙を抜けた先に三人が見た光景は、挑発フェロモンを頭からかぶり、付近にいたすべてのアラガミをたった一人で受け持ち、文字通りちぎっては投げちぎっては投げ飛ばすカカシの姿だった。
「「ガァアア!!!」」
編隊を組み突撃してきた三体のシユウを神機を振り、地面に叩き落とす。
「ウギャッ!?」
「「グエッ!?」」
そしてカカシは対峙していたコンゴウの破損した顔面に呪刀をねじ込んで一息に殺すと、流れるような動作で振り向きと同時に三体のシユウの首から上を刎ね飛ばした。
「「グラァアアア!!!」」
「邪魔ー!」
「「アババ―ッ!?」」
入れ替わる形で襲い掛かってきたオウガテイルの群れを、カカシは神機の一振りで事も無げに全滅させた。
「シャーッ!!!」
凄まじい勢いで突っ込んできたボルグ・カムランが突進の勢いを乗せた尻尾突きを繰り出した。
カカシは慌てる事無く突っ込んできたグボロ・グボロの砲塔もろとも頭を叩き割り終えると、緩慢ともいえる動作で迫りくる針の側面に呪刀を添え……。
「マジかよ!?」
あまりの光景にコウタは目を剥いた。あろうことかカカシは突き出されたボルグ・カムランの針を弾いたのだ。カァンという甲高い金属音と共に、ボルグカムランの針が魔法の様に別方向へと逸らされていく。
「GRRRRR!?」
逸らされた針の先にはヴァジュラがいた。ヴァジュラは足を止めていたカカシに向かって電を伴った飛び掛りをするために力を溜めていた最中だった。
避ける間など無かった。騎士の渾身の突きが、獣神の眉間に過たず突き刺さった。
「ARRRRGH!?」
ヴァジュラは悲鳴を上げ、狂ったように前足を動かして針を抜こうと躍起になった。
「ギエーッ!?」
一方ボルグ・カムランはというと、一瞬でも針を抜こうと気にかけ、それどころでは無いとカカシに意識を向けた時には、その無防備に空いた口の中に無数のレーザーを叩き込まれていた。レーザーはあっけなくボルグ・カムランの口内を突き抜け、それだけに飽き足らず頭部を木っ端微塵に吹き飛ばした。
カカシは倒れ伏す騎士に目もくれず、未だ針を抜けないでいるヴァジュラに向かって人知を超えた勢いで突っ込んでいった。
「ガァアアア!!!」
やっとの事で針を引き抜き終え、前方から尋常では無い速度で突っ込んでくるカカシに向かってヴァジュラは雷球を発射した。
膨大な電気が込められた雷球は地面を融解させながらカカシがいた場所に着弾した。
「「あ!?」」
三人はそろって声を上げた。しかしそれは心配のための物ではなく、またこいつやりやがったという驚きと呆れの声だった。
カカシは着弾の直前に跳躍していた。空しく外れた雷球の衝撃に背を押され、カカシはさらに速度を上げ、ヴァジュラを飛び越しながら真上から神機を振り下ろしながら前方へ一回転。そのままヴァジュラの背後へ着地した。
その一瞬遅れてヴァジュラの体が左右に真っ二つに裂けた。
世にも珍しいヴァジュラの開きである。
驚異の光景に三人はいろいろ言いたいことがあったが、カカシから逃げようとするアラガミへの対処で手いっぱいで、とてもじゃないが口を利けるような状況では無かった。
地獄のような混戦は、おおよそ三十分ほど続いた。また、分かり切った事ではあるが、その混戦の8割ほどを葬り去ったのがカカシであったのは言うまでもない。
■
一人を除き疲労困憊の第一部隊の面々は体を引きずるようにして撤収の準備に入っていた。
あれだけ動き回っていたにもかかわらず、息一つ乱していない上にどこか上機嫌に鼻歌*1まで歌いながらシユウ*2からコアを摘出しようとしている隊長に、三人は恨みがましい視線を送っていた。
そしてカカシが今まさに捕食形態を展開した神機の顎をシユウに食らいつかせようとしたその時、それを制する声が面々の背後からかけられた。
三人はその声にそんな馬鹿なと驚愕に目を見開きながら背後へと振り向く。
「やあ」
そこにいたのはソーマを引き連れて悠々とこちらに向かって来る榊博士の姿だった。
「博士!? 何でこんなところに?」
コウタの疑問に榊は答えず、ただ第一部隊の面々に説明は後だと言いながら、彼らを物陰へと押しやった。
任務概要の説明の時にも感じた釈然としない思いで博士を見つめていたアリサ、コウタ、サクヤだが、この後の展開を知っているカカシはまあまあと彼らを諫め、博士に倣って彼らの背中を押した。
胡散臭い榊に言われるより、カカシに言われたのでは仕方がない。渋々頷いた彼らは急かされるまま、物陰へと身を隠した。
彼らが息をひそめた事により、寺院は再び静寂へと包まれた。どんな物音が出ようとも、降り積もった雪が音を吸収し、無音の世界を作り出すのだ。かろうじて聞こえるのはすぐそばにいる仲間たちの息遣いや風の音だけ。
風に揺られて廃屋の一部がキイキイと軋み音を出し、もう少し時が経てば雪の重みで自ずと倒壊するだろうことを予感させた。
この地域には電灯は無く、光源は天に座す月明かりのみである。崩れ、破壊され、誰にも顧みられる事の無い人工物。突如として現れた荒ぶる神の残骸が月明かりに照らされ、それを俯瞰して見ていると何とも言えないノスタルジックな思いを抱かずにはいられない。
人の気配が無く、命の気配すらなくなったこの場所は、もしかすると死者の世界とはこのような場所なのかもしれないという考えが漠然と思い浮かんでくる。
ほうっと口から出す息は白く、あまり意識していなかったが動いていないとゴッドイーターといえどもここは少し寒い。
ただでさえ露出の多い服装のアリサが思わず自らを掻き抱き、まだなのかと榊に視線で訴えかける。
榊はというと懐から懐中時計を取り出し、何やら真剣な顔で時間を確認し、それからしまい込むと再び前へと向き直る。
と、次の瞬間榊の真剣な顔は満面の笑顔へと変わった。
「来たよぉ……!」
顰められた声は、しかし喜色に滲んでいて、今にも小躍りしてしまいそうな雰囲気が全身から放たれていた。
何だ何だと榊の視線の先を追っていくと、襤褸布を纏った人影がシユウの死骸に近づいているところだった。
榊を除く全員が物陰から飛び出し、襤褸布の人影を取り囲んだ。
その者は、
ソレは、一見すると人間の少女のように見えた。が、良く見てみるとソレは明らかに人でない事が分かった。
病的なまでに白く青白い肌、白い器官が頭から生えており、遠目から見れば髪の毛の様に見える。赤い瞳は興味深げに取り囲む面々らの顔を一人ずつ凝視し、最後に唯一神機を構えておらず榊と同じように笑みを浮かべるカカシに目を向けた途端、目を輝かせた。
ソレは豹の様に身を屈めると、辛抱堪らんといった具合でカカシに向かって飛び掛かった。
「イタダキマス!!!」
あまりにも突然の事で、誰も反応できなかった。辛うじてソーマが割って入ろうと体を動かしかけたが、そうするにはいささか距離が開きすぎていた。
そうこうしている内にソレはぐんぐんカカシに迫って行き、あわや押し倒される寸前に、カカシの姿が霞の如く消え去った。
「ふにゃ!?」
ソレも、他の面々も面食らったように呆けた顔をした。何せ一瞬で姿を消し、消えたと思っていたらソレの背後にいて、あまつさえソレの態勢を整えて両足で着地させる手伝いをしていたのだから。
「いやーご苦労様!」
うにゃうにゃと動こうとするソレの肩を押さえるカカシと第一部隊の面々にねぎらいの言葉を掛けながら、サカキはゆっくりと歩み寄った。
「ソーマもここまで連れてきてありがとう。君のおかげでこの場に居合わすことが出来たよ!」
「礼などいい。それより、どういうことか説明してもらおうか」
榊はもちろんだともと呟くと、特に前置きする事も無く口を開き始めた。
「いや、『彼女』がなかなか姿を見せない物だから、試しに付近一帯の『餌』を根絶やしにしてみようかと思ってね」
そう言いながら榊はカカシの方に目を向けた。カカシは目を逸らした。
「どんな偏食家だろうと空腹には耐えられないだろう? そしてそんな時にカカシ君という『ごちそう』が現れればきっと姿を見せると思っていたよ」
「え゛!? じゃあカカシはおびき寄せるための餌にされた……って事!?」
「博士、いくらなんでもそれは酷いです!」
「ドン引きです!」
「チッ……悪知恵だけは一流だな……」
ぎゃあぎゃあ喧しく騒ぎ出した三人を無視し、ソーマは顔を顰めて吐き捨てる。
「え~と……博士、この子は……子? ていうか人なの?」
騒ぐだけ騒いで落ち着きを取り戻したコウタが、拘束を振り払おうと藻掻くソレを指さしながら困惑気味に博士に問いかけた。
「そうだねぇ……立ち話もなんだし、一先ず私のラボへ行こうか」
榊はソレの方へ目を向け、意味深に笑った。
■
「「えぇ~!!??」」
榊のラボの中で第一部隊の面々の驚愕の声が響き渡った。
「あの……今、なんて!?」
とサクヤ。
「うむ、何度でも言おう。これはアラガミだよ」
「あ、アラガミぃ↑!?」
事も無げに言う榊に、信じられないとばかりにコウタが目を剥いた。
「あ、あぁ……」
アリサにいたっては驚きすぎてまともに言葉を発する事すらままならなかった。
「まあ、落ち着きなよ。これは君たちを捕食したりなんかしないよ……一人を除いてね」
そう言って榊はカカシへと目を向ける。カカシは時折飛び掛ってくるソレをひょいひょいとかわしており、榊からの視線に気が付くとにこりと笑った。
「知っての通りすべてのアラガミは『偏食』という特性を有している」
「アラガミが、個体独自に持つ捕食の傾向……ですよね?」
アリサの捕捉に榊は満足そうに頷くと、説明を続けた。
「その通り、君たち神機使いにとっては常識だね」
言いながら榊はちらりとコウタを見る。コウタは目を逸らした。
「このアラガミの偏食はより高次のアラガミに対して向けられているようだね。つまり、我々は既に食物の範疇に入っていないんだよ。誤解されがちだけど、アラガミは他の生物の特徴を持って誕生するのではない」
「捕食した物の性質を取り込み進化している、ソレもすごいスピードで。でしょ?」
ソレの額にデコピンを当てて撃退しながら、カカシが言った。
「流石、彼の言ったように凄いスピードで進化していってる。結果として、多種多様な進化の可能性が凝縮されてるんだ……」
「つまりこの子は……」
博士の言いたいことに察しのついたサクヤはぼそりと呟き、ソレに目をやる。
「うん、これは我々と同じ『とりあえず進化の袋小路』に迷い込んだもの、ヒトに近しい進化を辿ったアラガミだよ」
「人間に近い……アラガミだと!?」
ソーマは驚愕や嫌悪やその他さまざまな感情が凝縮された目でそれを凝視した。
「そう、先ほど少し調べたのだが……」
ソーマの生い立ちを知っている榊は彼の激情を理解しており、あえて触れずに流すことにした。それに触れるのは今では無いのだ。
「頭部神経節に相当する部分がまるで人間の脳のように機能しているみたいでね、学習能力もすこぶる高いと見える……実に興味深いね」
互いにフェイントをかけながらけん制し合うカカシとソレに目をやりながら、榊は笑みを更に深め、手をワキワキさせていた。好奇心が抑えきれずに外部に現れた証拠だ。本当なら今すぐにでも研究したいに違いない。
「センセイー!」
「はい、コウタ君」
コウタに呼ばれ、榊は不気味な笑みを張り付けたままそちらに向き直る。
「大体の事は分ったというか……まああんまり分からなかったんですけどー、こいつのゴハンーとか、イタダキマス―とかって何なんですかね?」
「ゴハン!?」
コウタのゴハンという発言に敏感に反応したソレは、カカシへの猛攻を止め、目を輝かせてコウタの方へ顔を向けた。
「こいつが言うと洒落にならんのですけど!」
「言った通りアラガミの「偏食」の傾向の基本として自らと似たような形質の物は食べないんだよ。ただ、そうは言っても本当に空腹の際は不味かろうが何だろうがガブリ、だろうけどね」
身構えたコウタに油を注ぐような榊の発言に、彼はぎょっとなって更にソレから距離を取った。
「アラガミっていうのは知っての通り彼らの俗称だけど、実際にいくつもの個体が我々のイメージする『神々』の意匠を取り込んでいる例が各地で報告されているんだ。一体彼らが何を考えてそんな生態を取っているのか、実に興味深いじゃないか。そんな中で完全に『人』の形をしたその子は、更に貴重な一つのケースなのさ」
感極まったように天を仰ぐ榊を一瞥し、全員の視線はカカシと熾烈な争いを続けるソレへと注がれる。
「おっと、話が脇に逸れちゃったね。勉強会はこれくらいにしよう」
ぶるりと体を快感に震わせながら、榊は話を締めにかかった。
「……最後に、この件は私と第一部隊だけの秘密にしておいて欲しい……いいね?」
「ですが……教官と支部長には報告しなければ……」
「サクヤ君、君は天下に名だたる人類の守護者ゴッドイーターが……」
サクヤの名を呼ばわりながら、榊は大股で一歩一歩彼女の下へと近づいて行く。
「その前線拠点であるアナグラに秘密裏にアラガミを連れ込んだと、そう報告するつもりなんだね?」
「それは……しかし、一体何のために……?」
普段通りの柔らかい口調なのだが、その語気には有無を言わせぬものが含まれていた。
「言っただろう? これは貴重なケースのサンプルなんだ。あくまで観察者としての私個人の調査研究対象さ! 大丈夫、この部屋は他の区画とは通信インフラやセキュリティ関係も独立させてあるんだ」
榊は顔をずいと近づけた。サクヤは思わず仰け反って顔を離らかす。
「君だって、今やっている活動にも余計な突っ込みを入れられたくないだろう?」
「ッ!!?」
たじろぐサクヤに畳みかけるように、榊は他の皆には聞こえない様に耳元でそっと囁いた。
予想外の言葉にギョッとするサクヤに満足気に頷くと、榊は声量を戻した。
「そう、我々はすでに共犯なんだ! 覚えておいて欲しいね!」
白々しい。カカシ以外の全員がそう思った。
「イタダキマス!」
カカシと両手を合わせ、力比べの恰好で踏ん張るソレは元気いっぱいに大きな声で言った。
「彼女とも仲良くしてやってくれ……ソーマ、君もよろしく頼むよ」
「ふざけるな! 人間の真似をしていようが、バケモノはバケモノだ!」
案の定、帰ってきたのは拒絶の言葉であり、吐き捨てるように言うとソーマはそのままラボを出ていってしまった。
「……」
コウタはソーマが出ていった後もしばらく扉を見つめていたが、やがて目を逸らし、ソレの方へと目をやった。
ソレはすでにカカシとの力比べを止めており、コウタと同様にソーマの出ていった扉を見つめながら悲し気に眉尻を下げていた。
気まずい雰囲気の中、真っ先に動いたのはカカシだった。彼はソレの下へと歩み寄った。
困惑気味にソレが見上げると、そこにはやわらかい笑みを浮かべる顔があった。
「君に伝えたいことがあるんだ」
カカシはソレの目線に合いように屈みながら、ひしと抱きしめ、ソレにだけ聞こえるようにそっと囁いた。
「ありがとう」
カカシの言った言葉の意味を、ソレは理解することが出来なかった。これから先、様々な事を学習し、情緒を発達させていっても恐らく理解する事は出来ないだろう。
しかし、彼から与えられた温もりの意味だけは、この時のソレでも理解できた。
それは下げていた眉尻を徐々に戻し、再び天真爛漫に顔を綻ばせると元気いっぱいに叫んだ。
「イタダキマス!」
カカシは瞬間移動めいた素早さでそれから離れ去った。
すったもんだあったものの、こうしてソレ、改め『シオ』と第一部隊の面々との初邂逅は終わった。
その後名前を決めるのにどうのこうの、服を着せるためにあーだこうだとありはしたが、種族の垣根を超え、徐々にその仲を深めていくのだった。
支部長が戻ってくるまでの短い期間だったが、中々どうして優しい日々は過ぎていくのだった。
シオちゃんの服装は襤褸布形態の方が好きだったりします。あっちの方が人外って感じがするんですよねぇ。