俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~ 作:三流二式
「それで、検査の結果は?」
カカシがラボから出ていくや、ヨハネスは榊へと聞いた。
「彼に説明した通りだよ、ヨハン」
榊は振り返り、パソコンのモニターに映るカカシの検査結果を指さしながら言った。
「人間? 人間だと? 『アレ』が? なあペイラー、君も見ただろう『あの姿』を。見たのなら、『アレ』を人間などとは軽々しくも口にできるはずが無い!」
「もちろん見たよ。凄かったね。さすがは『人類の到達点』といった所だ」
力説するヨハネスに、ペイラーは笑みすら浮かべてさらりと言ってのけた。
「なに?」
ヨハネスは訝しむように眉を顰める。
「言葉通りの意味さ。君は少々数値だけに囚われ過ぎている。もっと視野を広く持たなくちゃね」
「どういう意味だペイラー? 私が数値に囚われているだと? 検査は君と私の手で執り行われた。間違いなどあるはずが無い!
声を荒げるヨハネスに、ペイラーはキーをタイプしモニター画面を検査結果からとある画像へと切り替え、ヨハネスにも見えるように椅子を引き、無言で見るように促した。
「これは……ッ!?」
その画像を見るなり、ヨハネスは目を見開いた。
「バカな……こんな事が……!」
「凄いだろう。私も初めて見た時は大いに驚いたものさ。それこそ今の君みたいにね」
画像にはカカシの細胞の様子が写しだされていた。
「彼の細胞はね、オラクル細胞を完全に支配しているんだよ。だから彼がアラガミになるなんてことはあり得ない。
「──―ッ!」
その凄まじい事実に、ヨハネスは絶句した。仮に榊の言葉が正しいとするのならば、それは、それではまるで……。
「人は神を模して造られたという。じゃあ荒ぶる神の力をその身に宿した人間を神に抗う戦士だとして、神の力を自らの物にしてしまった彼は最早神に抗う戦士などではなく、それは」
「──―よせ、ペイラー。それ以上は……」
「……あぁ、そうだね。すまない。少々気が高ぶりすぎた」
ヨハネスに諭されて落ち着いた榊は咳ばらいをし、脱線した話の軌道修正を図った。
「ともかく彼は人間さ。どうしようもない程にね」
ヨハネスからの言葉はない。ただ拳をきつく握りしめる音と、ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえるのみだった。
「……」
ペイラーは聞こえないふりをした。彼にはヨハネスの考えている事が手に取るように分かった。
ペイラーは胸中で嵐が吹き荒れているであろう友から意識を外し、去って行った彼について思いを馳せた。
──―最早それは神そのものじゃないか。
ヨハネスに遮られ、最後まで言えなかった言葉をそっと胸の内で呟く。
神が人になるのか、人が神になるのか。その競争の果てを見たいと豪語した自分が、まさかその答えの一つを一足先に知る事になるなどとは。
(全く、君といると退屈しないね。……カカシ君)
榊はカカシの名を呟き、それから口の端をわずかに上げて、小さく笑った。
■
「リンドウの腕輪信号が、また確認された様だ。恐らく先日撃退したアラガミと似たタイプのものだろう」
出撃ゲート前でブリーフィングのために集められたカカシたちに、ツバキは淡々と言った。
調査班のその報告に一喜し、散々あちこちを駆けずり回った挙句に空振りに終わってしまい、その度に一憂していたサクヤたちだが、今度こそ当たりを引けたという確信があった。
というのも、前回空振りに終わったプリティヴィ・マータというヴァジュラ神属の接触禁忌種に指定されたアラガミを討伐した時、同じくヴァジュラ神属と思わしき新種のアラガミが現れたのだ。
その時はカカシが追い払ってしまい、それからしばらくの間姿を現さなかったが、調査班によりリンドウの腕輪の反応が贖罪の街付近で確認されたらしい。
「前と同様、私情を捨てて冷静に任務をこなせ……良いな?」
繰り返し念を押すツバキにカカシたちは頷いた。
彼らの間に言葉は無い。言葉は無くとも、彼ら胸中には同じ思いが滾っていた。敵討ち。そして奪われたものを取り返すために。
カカシたちは互いに目配せし、無言のうちに思いを共有し、防衛班やその他のゴッドイーターたちの激励を背に、戦場である贖罪の街へと向かって行った。
「いよいよね。皆、気を引き締めていきましょう!」
街に着くなり、サクヤは全員の顔を一人一人見つめながら言った。アリサ、コウタ、カカシ、ソーマも全員が頷いた。
「俺たちがリンドウさんの敵を討つんだ!」
「いい加減うんざりしていたんです! 今度こそ終わらせます!」
「……とっとと倒してアイツの神機を取り返す」
「……えぇ、そうねソーマ。カカシ君もそう……カカシ君?」
士気は上々。口に出して改めて全員が同じ思いを抱いていることを再確認したサクヤは、胸の内に燻っていた激情をさらに燃え上がらせ、この復讐を必ずやり遂げようと強く決意した。
第一部隊の面々の力強い言葉に勇気づけられたサクヤは、その隊長であるカカシに〆の言葉を言ってもらおうと振り返ったが、すでに彼はオラクルを吹かして駈け出していた。
「あのバカ!」
真っ先に動き出したのはソーマであり、駆けだしたソーマの後を、3人は慌てて追いかけ始めた。
そして瓦礫で塞がれた教会の入り口付近で立ち尽くすソーマの背に追いついた3人は、呆然と佇む彼の視線の先を追い、そして同じように固まった。
そこにはすでに始末されて亡骸となったプリティヴィ・マータの残骸を放り投げ、刀身に着いた血を振って払っていたカカシがいたのだった。
「「えぇ……」」
今まで散々カカシに驚かされた身であって、こういう光景を目の当たりにさせられるともはや驚きよりも呆れの方が上回るようになってしまった。
視線に気づき、カカシはいつも通りの笑みを浮かべてひょこひょことこちらに向かってきた。
「お前は……隊長だからって一人で突っ込むな!」
「そうよ! ただでさえ何が起こるか分からないのに……もっと考えてから動きなさい!」
「そうだよ! 何かあったらどうすんだよ!」
「アホです! ドン引きです!」
「( ° X ° ; )」
全員からくどくどと説教を喰らったカカシはたじたじになり、ヒバリから通信で諫められるまでカカシは延々説教を喰らった。
そして解放されたカカシは黒いヴァジュラ神属のアラガミ、『ディアウス・ピタ―』が来るまでの間に、仕留めたプリティヴィ・マータの死骸に罠を仕掛けようと提案した。
「いいね! じゃあ俺はホールドトラップを仕掛けるぜ!」
「なら私はヴェノムトラップを仕掛けます」
「私は封神トラップを」
「ソーマ君は機を見てチャージクラッシュお願いね」
「……フン」
カカシの提案に承服し、各々が持ち込んでいたトラップ系のアイテムをこれでもかとプリティヴィ・マータの死骸に仕掛けた。
『皆さん、もう間もなくディアウス・ピタ―が作戦エリアに到達します!』
「だそうなのでみんな持ち場についてね~」
ヒバリの通信とカカシの一声で各々が持ち場へとつき、その時が来るまでひたすらに待った。
(来い……来い……! ……来い! 早く来なさい!)
到着までの間はわずか2分。しかしサクヤにとっては永遠にも等しい時間だった。
ディアウスピターが姿を現すその時まで、サクヤの脳裏にはリンドウとの日々やそれが失われた時の光景が交互に現れ、心を延々高ぶらせていた。
「ギャオー!」
((来た!))
咆哮とともに、ディアウス・ピターは姿を現した。
ディアウス・ピターは悠々と地面に降り立ち、そして彼は目の前にカカシたちが仕掛けた罠たっぷりの
周囲に敵がいないのを確認し、ディアウス・ピターは歓喜の咆哮を上げて餌にむしゃぶりついた。
途端にディアウス・ピタ―はベノム、封神、ホールドの状態異常に見舞われた。
「やーい拾い食いして食あたりになってやんのー!」
「食い意地張っているからそうなるんです!」
「遠慮しないでたくさん食べてね! あの人の分まで!」
状態異常に晒され、身動きの出来なくなったディアウス・ピターの顔面にコウタ、アリサ、サクヤが各々罵りながら集中砲火を浴びせた。
「あああああああ!!!」
サクヤは歓喜した。やっと敵が討てる! やっとあの人の魂を私たちの元に取り返すことが出来る!
サクヤは引き金を引いた。サクヤは引き金を引き続けた。己の体内オラクルが尽きるその時まで、憎悪と歓喜の赴くままにただ只管に撃ちまくった。
「くたばれ!」
そんなサクヤを横目に、ソーマはふらつくディアウス・ピタ―の背後から近づき、その無防備な胴体に最大火力のチャージクラッシュを叩きつけた。
吹き上がる血飛沫とディアウス・ピタ―の絶叫に確かな手ごたえを感じたソーマは急いで後方へと離れた。
丁度その時3人のオラクルが尽き果てて撃ち方が止まり、上空で機会を見計らっていたカカシが急降下してディアウス・ピタ―を地面に叩きつけた。
ディアウス・ピタ―は悲鳴を上げ、しかしそれもすぐに途絶えた。
「……」
カカシは何の感慨もなくディアウス・ピタ―の眉間に突き刺した呪刀を引き抜き、無造作に振って血を払った。
ディアウス・ピターはピクリとも動かない。カカシは試しに呪刀の先端で突いてみたが、動く気配は欠片もなさそうだった。
それで最早興味は失せたとでもいうように死骸から目を離すと、カカシは振り返りぴょんぴょん跳ねて皆に終わった事を伝えた。
コウタ、サクヤ、アリサ、チャージクラッシュを食らわせてすぐさま離脱したソーマがゆっくりと向かって来る。
終わった。全員はそう確信し、ほっと胸を撫で下ろす。
やや拍子抜けだが、これでようやく人心地つけるというものだ。
『ディアウス・ピタ―の反応の消失を確認! やりましたね! カカシさん、さっそく確認を!』
勿論そのつもりだった。早くあの不愉快なアラガミの腹を割き、一刻も早くリンドウの腕輪と神機の回収をして、それで初めてこの復讐は終わりを告げるのだ。
サクヤの逸る胸は、しかし命が尽きたはずの亡骸がカカシの背後で音も無く身をもたげる様を見て凍り付いた。
「え?」
隣にいたコウタの口から阿呆のような声が漏れた。あまりにも突拍子も無い事態に、全員は体を硬直させた。
凍り付く彼らをあざ笑うかのように、『ソレ』は音もなく姿を変え始める。それは蘇生というより、転生という表現が似合いそうだった。
黄色いマントがするすると縮み、代わりに出てきたのは死神の鎌めいた恐るべき翼だった。さらに破損した手足はより太く再生し、鎧めいた装飾が付け加えられている有り様だ。
特に破損していた顔はますます禍々しく、雄々しく生える角は冠の如く。完全再生した死神はまるで狂気に取り付かれた帝王が如き血走った目を眼前の、この中で最も不敬な輩へ向けて。
「「後ろだ!!!」」
時間感覚が圧縮され、泥めいて停滞する視界の中、第一部隊の面々は動き出していた。
視界の先、やっと気が付いたカカシは咄嗟に跳び離れようと体に力を籠めようとしていた。が、そうするには、あまりにも気が付くのが遅すぎた。
早く、早く、早く。
緩慢な世界で、気持ちだけが逸るその先で、脳裏に浮かんだ最悪の光景と寸分違わぬ光景が、彼らの網膜に映し出された。
カカシの胸を、死神の鎌が貫いた。
「「カカシ(くん)(さん)!!!」」
鮮血が宙を舞い、悲鳴が空を舞う。
死神は串刺し刑に処した不遜にも反逆してきた愚か者を高々と掲げ、高笑いめいて咆哮するとびゅんと刀翼を振った。
カカシは人形めいて飛ばされ、凄まじい勢いで建物の壁に叩きつけられた。
衝撃に耐えられなかった建物は倒壊し、力なく横たわるカカシの体の上に轟音を立てて瓦礫の雨を降らせた。
「GAAAAAAAAARH!」
死神は
みし
「──―テメェ!!!」
咆哮で我に返ったソーマはかつてない激情にかられ、胸の内で超新星爆発めいた感情の赴くままに突っ込んだ。
「GROWL!」
「はあっ!」
たちまち死神とソーマとの間に火花散る激しい近接戦闘が繰り広げられた。
(速い……クソ!)
死神の鎌は恐るべき速さで振るわれ、攻勢への隙を見出せないソーマは防戦一方を強いられていた。ソーマの頭はすでに冷えていた。それは彼の類稀なるセンスが相手の力量を察したがためである。
みしみし
「何ボサッとしてやがる!!! さっさとアイツの所へ行くなり援護しやがれ!!!」
ソーマは激しい攻防の中で機を見いだすと、瓦礫の山の方向を指差して3人を怒鳴りつけた。
「わ、分かった! アリサ行くぞ!」
「……はい!」
「ッ! 分かったわ!」
3人は各々理解し、コウタとアリサはカカシの元へ、サクヤはソーマの援護をするためそれぞれ駆けた。
『……え? あ? ど……何で……? どうして生きてるの!? だってオラクル反応は完全に消えていたんですよ!? どうして!?』
「狼狽えてる暇があったら……ッ!? ……ぐッ、さっさとアイツらのサポートをしろ!!!」
通信機に向かってソーマは怒鳴りつけ、返答を聞くよりも先に一も二も無く体を屈めた。そのほんの少し上を死神の鎌が通過した。
「ソーマ!」
屈み込んだソーマに向けて前足を無造作に振り下ろそうとした死神に向けて、サクヤは咄嗟に引き金を引いた。サクヤの不意打ちは見事成功し、死神を仰け反らせて間一髪の所で追撃を阻止する事に成功した。
その短い隙にソーマは距離を取り、乱れた息を整えた。
(畜生……早くしやがれ……! こっちは長く持たねぇぞ……!)
無尽蔵に垂れ落ちてくる冷や汗を乱暴に拭い去りながら、ソーマは眼前の死神を睨みつけた。
みしみしみしみしばき
「あぁ……畜生!」
ソーマとサクヤが死神を引き付けているころ、アリサとコウタはカカシの上のがれきの撤去を試みていたが、いかんせん大質量かつ大量の瓦礫を素手で撤去などゴッドイーターであったとしても無理な話であった。
「どいてください!」
ばきばき
業を煮やしたアリサはコウタを離れさせると、神機を銃形態へと変え、撃った。
ばきばきばき
破砕音と共に瓦礫は吹き飛ばされ、その下敷きになっていたカカシを救出する事に成功したのだが、カカシの体の惨状を見て二人は小さく悲鳴を上げた。
貫かれた胸を中心に、夥しい血液が地面に広がっていた。叩きつけられた衝撃で手足はあらぬ方向へと折れ曲がり、とても生きているとは思えない有り様だった。
だが二人が悲鳴を上げた原因は
ばきばきばきばきバキ
目だ。カカシは仰向けに倒れていて、閉じていた目がいきなり開かれたのだ。瞳孔が縦に細まり、まるで獣の眼のようになった悍ましい目が、二人を見つめ返した。
「か、カカシ……?」
コウタへの返答はなく、カカシはゆらりと立ち上がる。
バキバキバキバキ
「あ、あの、カカシさん……怪我……そんな、血がいっぱい……で……?」
恐る恐る近寄るアリサにすら反応することなく、カカシは、『ソレ』は、ひしゃげた足で一歩一歩ぎこちなく歩を進めた。
バキッバキッバキッバキッバキッ
一歩歩を進める度、ひしゃげていた手足が逆再生の様に元の形へと戻ってゆく。それとは別に、彼の口元辺りから、バキバキという悍ましい軋み音が聞こえた。
「────―」
二人はその悍ましい音が止むその時まで放心したように固まり、そしてゆっくりと振り返ったカカシの顔を見た瞬間、全身の毛が総毛立つような恐怖に見合われた。
「ハァアアアア……」
大狼は『牙』から蒸気を吐きながら恐れ戦く二人を一瞥すると、前を向き、ソーマとサクヤを追い詰める死神に向けて神機を向けた。
神機はミシミシと軋み音を立てながら、捕食形態へと移行する。
「フェン……リル?」
大狼の作り出した捕食形態を見て、思わずアリサは呟いた。
形成された捕食形態は従来の姿とは全く異なる姿をしていた。それは狼の頭を思わせるような奇抜な形をしており、まるで血に飢えた獣の如くガチガチと歯を鳴らしていた。
大狼は神機にさらに力を籠めると、『顎』の背部に推進機構を作り出した。推進機構から甲高い音が鳴り始め、音は徐々に高くなってゆく。
「あ……」
ついにジェット噴射めいてオラクルを放出し、力強く一歩踏み出してその姿が掻き消えるというまさにその時、アリサは首輪が外れ、駆けだし、永遠に手の届かないところへ行ってしまう大狼の姿を幻視した。
「だ、ダメ!!!」
アリサは咄嗟に手を伸ばしたが時すでに遅く、伸ばされた手は空しく空を切った。
「──―あ……」
「ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!! 」
口から洩れた声は、人を超えし怪物の咆哮にかき消されて消えた。
大狼は推進機構から放出したオラクルによる高速移動で死神の横っ腹に食らいついた。
「ARRRRGH!?」
「な、何!?」
「お前は……!?」
大狼は横っ腹に神機を噛みつかせたままなおも噴出するオラクルを高め、ついには死神を先ほどのお返しとばかりに建物の壁に叩きつけた。
突如視界から掻き消えた死神と、別人と見まがうほど大きく姿を変貌させた大狼に、サクヤとソーマは酷く動揺した。
「サクヤさん! ソーマ! あいつは!?」
我に返り、後から駆けつけたコウタとアリサが大狼について聞くと、サクヤは震える指で目の前を示した。
サクヤの示す先で、彼らは死神と大狼の人知を超えた死闘を見た。
大狼は死神から肉を齧り取り、バースト状態へと移行していた。大狼の『顎』は従来の捕食器官からは考えられない程の強化比率を誇るらしい。彼のバーストによる変化は普段はうっすらと目が光る程度でしかなかったはずが、この強化では目だけではなく全身が眩いばかりの光に包まれていた。
「グォオオオオ!!!」
大狼は同じく光り輝く呪われた刃を死神の顔面を狙って袈裟懸けに振り下ろした。
「GROWL!」
死神は横に跳ねて斬撃をかわすと、お返しとばかりに刀翼を頭上から振り下ろした。
大狼は無造作に神機を振って刀翼を弾くと、脇をすり抜けるように前進しながら腹を切り裂いた。
「GROWL!」
しかしそれに少しも怯むことなく死神は素早く向き直り、両者は激しくノーガードで切り合った。
死神が前足を叩きつけ、大狼が切り裂き、死神が大鎌で切り付け、大狼が食い千切り、死神が稲妻で焼き、大狼が突く。両者ともに立ち位置を縦横に変え、互いの命を奪い去るがためにただ只管殺し合った。
第一部隊の面々はあまりにも壮絶な光景に動けないでいた。治り切っていない胸の傷が開き、大狼が膝をつくその時までは。
「ッ! カカシさん!!!」
反射的に駆け出したアリサは、膝をついて吐血する大狼の前に躍り出て盾を展開した。大狼の首を狙った死神の一撃をアリサの盾はギリギリのところで防ぎ切った。
「ぐぅッ……!」
凄まじく重い一撃に、アリサは堪らず膝をついた。
(カカシさんはこんなにも早く重い一撃を受け続けていたのか……!)
思わず出た弱音は、背後から聞こえた苦し気な大狼の吐血の音により引っ込んだ。
「──────ッ!!!」
心に生じた恐れや委縮した芯は、あの人の苦しむ声を聴き、たやすく元通りに戻った。
「あぁ、あああああ!!!」
今やアリサに心に恐れの感情は無く、唯々あの人の役に立ちたい、あの人と共に戦いたい、その一心で、体に残る衝撃を強引に撥ね退けたのだ。
「GAAAAAAAAARH!」
「おっとそうはいかないぜ!」
「はあっ!」
「ARRRRGH!?」
アリサの決意に死神は何ら心動かされることがなく、ただ憎悪と憤怒の衝動に突き動かされるままに破壊されていない方の鎌を振りかざそうとしたが、立ち直ったサクヤとコウタの支援射撃を受けてたたらを踏んだ。
「おい、平気か!?」
「グルル……」
ソーマに助けられながら立ち上がった大狼は、顔を死神に向けたまま目だけをソーマに向け、胸の部分をポンと叩いた。
「──―お前……意識あったのか……」
「(U- x -U)」
その目は普段通りの彼の目だった。優しく、柔らかく、でもどこか悲しそうで、いつもどこか遠くを見ている不思議な目。狂気的な戦いぶりからは想像もできないほど落ち着いた瞳に見つめられたソーマは呆気にとられた。てっきり襲われるものだと思っていたから、拍子抜けも良い所であった。
大狼は肩を竦めて見せると、視線を死神へ戻し、再び知性の欠片も見受けられない雄たけびを上げ、影すら置き去りにする速度で突っ込んでいった。
「「アリサ!!!」」
丁度そのころ死神はサクヤとコウタを薙ぎ払って射撃を止めさせ、眼前にいたアリサに向けて雷球を撃ち込んだところであった。
「あぁ……」
迫りくる雷球に、絶望的な面持ちをしていたアリサ。
「グルォオオオオオ!!!」
だが、知性の欠片も見受けられない雄たけびが聞こえたかと思えば、アリサの視界が黒で埋まった。
「え?」
アリサが疑問に思う前に、射線上に割り込んだ大狼は迫りくる雷球を切り裂いた。
切り裂かれた雷球は真っ二つになり、それぞれ別々の個所に着弾した。
「か、カカシさん!? 傷は? 傷は平気なんですか!?」
「(U・x・U)つ))」
大狼は何でもないとでも言う様に左手をひらひら振って見せると、素早く振り返りながら斬撃を放ち、背中を狙った死神の鎌を弾いた。
「──―もう、あなたはいつも無茶ばかりして!」
大狼の差し出された手を取って立ち上がったアリサは開口一番、そう言った。今言うべき言葉じゃない事はアリサとて重々承知なのだが、言わずにはいられなかったのだ。
「……」
対する大狼はいつものように曖昧に目を細めた。口元は『牙』で覆われているからわからないが、同じくいつも通り曖昧に微笑んでいるであろうことは察せられた。
「はぁ……もういいです。あなたがこういう場面で言う事を聞いてくれたことなんて、一度だってありませんからね」
言いながら、アリサは神機を構えた。
「……ごめんね」
同じ様に神機を構え、攻め時を窺っていた大狼は不意に謝罪の言葉を述べた。
アリサに言葉は無い。ただ悲しそうに大狼の顔を一瞥すると、口をキュッと結び、果敢に死神へと切り込んで行った。
「やあっ!」
「GROWL!」
死神の前足でのフックを屈んでかわし、跳ね起きる勢いで死神の体を切り裂く。しかし、硬い体毛と強靭な筋繊維によって阻まれ、アリサ渾身の一撃は薄皮一枚程度を切り裂くのみで終わった。
だが大狼から一瞬でも注意を逸らすことに成功したアリサは、冷や汗をかきながらもほくそ笑んだ。
勝てない事は分っている。それはアリサだけでなくサクヤもコウタも、ソーマとて承知の上だ。
この戦いの勝利条件はいかに大狼に攻撃を当てさせるかである。自分たちは徹底的にフォローに回る。全員は無言のうちにそれを理解し、各々そのために動き出した。
「ガァ!!!」
「ARRRRGH!?」
アリサの稼いだ僅かな隙に大狼は死神の懐へと入り込み、神機を一閃。咄嗟に避けようとしたところをソーマ渾身のチャージクラッシュがぶち当たり、死神は逆に大狼の方へ勢い良く押し出される羽目になった。
大狼の斬撃は防ごうと掲げられた右前足を切り飛ばした。切断面から血液が噴出し、死神は苦悶の声を上げる。
「まだまだまだぁあああ!!!」
「いい加減倒れて!」
ダメ押しに撃ち込まれるサクヤとコウタの支援射撃に鬱陶しそうに顔を顰める死神に、大狼は突きを放った。
「GAAAAAAAAARH!」
死の危険を感じた死神は危険を承知で後方へと跳ねた。が、彼の着地点にはすでにソーマとアリサが先回りしていた。
「ARRRRGH!?」
驚きつつも死神は残った方の鎌で二人纏めて両断すべく、刀翼を横薙ぎに振るった。しょせんは雑兵。早く片付けてあの大狼に備えなければ!
「来るぞ、踏ん張れ!」
「はい!」
二人は大地に根を張るが如くその場に構え、逃げるどころか残り少ない体力を絞り出して全力で神機を叩きつけた。
「ぐぅ!?」
「あぁ……ああ!!!」
凄まじい力に吹き飛ばされそうになるが、二人は死神の一撃をなんとか受け切った。雑兵と侮り、雑に振り払おうとしたがためにそこまで威力が無かった事と、彼らの意地と根性が、この奇跡を成し遂げたのだ。
「ARRRRGH!?」
「凄いだろう、彼ら」
驚愕したように目を見開く死神の耳元で、声が聞こえた。
「ッ!!??」
「自慢の部下さ。俺にはもったいない程の」
勢いよく振り向いた先に、大狼がいた。
大狼は微笑んで、死神の後方、肩で息をしているアリサたちを眩しい物でも見るように目を細めて見つめていた。
「G……」
隙だらけの姿に、死神は大鎌を振りかざそうと目論んだ。だが大狼が先んじて振り下ろした神機により顔面を叩き割られて失敗した。
「──────カッ……」
短い断末魔を上げると、死神はぐらりと倒れ伏し、完全に沈黙した。
「……」
大狼はダメ押しとばかりに神機を振り下ろし、死神の首を刎ね飛ばすと、ようやく全員は脱力し、戦闘の終了を実感した。
『こ、今度こそディアウス・ピタ―の沈黙を確認しました! ……えっと、大丈夫、ですよね? もう蘇りませんよね?』
「えぇ平気よヒバリちゃん、隊長が蘇らない措置をしてくれたからね」
『そうですか……それなら安心ですね』
乱れていた息を正し、全員が落ち着きを取り戻したところで、いよいよ今回の任務のメインであるディアウス・ピタ―の腹の中を探る作業に取り掛かった。
「ふん……んッ……アタリ……です」
「……こっちも確認したわ……間違いないわ……これは……あの人の……」
アリサが腹を捌いて確認したところリンドウの神機が、口の中を探ったサクヤがリンドウの腕輪をそれぞれ発見した。
「あぁ……リンドウ……!」
サクヤは腕輪を掻き抱いてむせび泣いた。滂沱と出てくる涙を払いもせずにサクヤは慟哭した。アリサもへたり込んですすり泣いた。
「サクヤさん……」
コウタはかける言葉も見つからず、項垂れていた。
「……」
慟哭するサクヤからソーマは目を逸らした。その視線の向いた先にはカカシがいた。
彼はいつものように自分たちから少し離れたところに立っていた。口元の『牙』はとうに剥がれ落ちており、露になった口元には煙草が咥えられていた。
紫煙を吐きながら空を見上げるカカシは、嘆き悲しむ自分たちを見て果たして何を思うのだろうか?
ソーマの心にふとそんな疑問が鎌首をもたげる。
戦闘中にも見たあの遠い目は、何を見ていたのだろうか? あの曖昧な笑みの意味は? そしてあの『牙』は何だ? あの強さの理由はなんだ? まさか自分と同じように出生の時に何かされたのか?
分からない。あまりにも何も。何一つとしてこの男の事が分からない。あまり他人と関わらない自分ですらこうなのだ。他の人間だったら多少は理解できるのだろうか?
否、できないだろう。ソーマは確信していた。カカシが『牙』を出した時の反応を見ればそれが一目瞭然だったからだ。
「カカシ、お前は何を目指している……?」
ぼそりと呟かれた言葉はびゅうっと殴りつけるように吹いた風に巻き取られて彼方へと運ばれ、誰の耳に入る事無く消え去った。
後に残されたのは、遺された女の嘆き悲しむ声だけだった。
女の声は枯れ果て、力尽きるその時まで延々と続いていた。
流石に心臓はヤバかったらしい。
ていうか死亡からの復活はハンニバルダルルォ!と思いましたけど、あいつはコアを引っこ抜かれてからの復活でしたから別物ですね。あー良かった。