俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~ 作:三流二式
ついにここまで来てしまった
ついにここまでたどり着いてしまった
前を見据える 一寸先すら見通せない暗黒の先を
一歩踏み出す
背後で扉の閉じる音が聞こえた
もう戻れない
■
一先ずソーマは作戦会議のためにカカシを引き連れて自室へと向かおうとベテラン区画の廊下を歩いていたのだが、背後のエレベーターが開く音が聞こえ、振り返った。
「お前ら……!」
ソーマは目を見開いて、エレベーターから出てきた二人の女性を凝視した。
「シオが連れていかれたのね?」
露出の多い煽情的な衣服に身を包んだショートボブの美女、サクヤはソーマの前に立った。
「勝手に縁を切ったんじゃなかったのかよ!?」
「どーせ、貴方たちだけじゃ心細いと思って、こうして戻ってきたんですよ」
驚愕に目を丸くするソーマに、同じく露出の多い衣服を着た美少女アリサが不敵な笑みを浮かべながら軽口をたたく。
「……実は、エイジスへの再侵入方法を探っていたんだけどね、アーク計画の発動を前に外周が完全にシャットアウトされてて、正直打つ手なしなの」
サクヤが苦虫をかみつぶしたような顔で、吐き捨てるように言った。
「……きっと……アナグラの地下に……エイジスへの道はあるよ」
と、彼女の絶望的な状況報告に被せるようにして、そんな声が聞こえてきた。
一人を除いた全員がその声に反射的に振り向き、そこにいた者を見るや先程のソーマと同じように目を見開いた。
「「コウタ!?」」
そこにいたのは、アーク計画に乗り、アナグラから離れていたはずのコウタであった。
「どうして? だってあなたはアーク計画に乗ったんじゃなかったんですか!?」
皆の思いを代弁するかのようなアリサの言葉に、コウタは気恥ずかしそうにはにかんだ。
それだけで、彼の思いは十分に伝わった。
きっとすさまじい苦悩が、葛藤があったはずだ。それでも彼はここに来た。様々な思いをその胸に託して。
察したアリサは何も言わず、ただコウタに微笑みかけた。彼は頭を掻きながら、同じように笑った。
「……行こう。多分こっちだよ!」
コウタに連れられ、アリサたち第一部隊のメンバーはエレベーターに乗り込み、アナグラの地下へと降りた。
しかし、エイジスへ行くためのゲートのコードが分からず、途方に暮れてしまった。
「ダメだ……ゲートを解除できない!」
コウタの焦燥と失望の声が、地下に響き渡った。
「……結局、全員集合したようだな」
エレベーター側からの声に振り返ると、果たして、そこにはツバキが立っていた。
「ツバキさん……!」
「心配するな、誰もお前たちを捕らえたりはしない」
身構えるサクヤに、ツバキは穏やかと言っていいほど落ち着いた態度でそう返した。
「この通り、アナグラも方舟騒動で滅茶苦茶だ……。方舟賛成派はとっくに行ってしまったよ」
言い切るとツバキはどこか呆れたように肩を竦めた。
「じゃあ、あなたは?」
「あぁ、弟の不始末は、姉が片をつけてやらないとな。そうだろう?」
恐る恐る聞くサクヤに、ツバキはさも当然とばかりに言ってのけた。
「それにしてもコウタ。どうしてここがエイジスへの道だと気付いた?」
「うぇ!?」
と、突然話題を振られたコウタは変な声を出しながらも気づいた経緯について語った。
「扉を見つけたのは、地下の旧居住予定地を見たくて忍び込んだ時です。で、その時は確証があった訳じゃないんだけど、博士が講義の時にアナグラのプラントのリソースがエイジス建築に使われているって言っていたから。それで」
「なるほど。やるじゃないかコウタ」
コウタの推理を聞いたツバキは、自分の教え子が立派に成長していることが嬉しくてたまらない事を隠しもせずに笑みを浮かべた。
褒められたコウタは照れ隠しのように視線をそらし、頬を掻いた。そんなコウタに顔が赤くなっているとアリサが茶々を入れ、ソーマは肘で突いた。
「解除キーならば私が持っている。エイジスへ行きたければ、十分に準備してからにしろ」
「えぇ、そうさせてもらうわ」
「……とりあえずシャワーを浴びたいですね」
「そうね、決戦前に一息つきたいわね」
「のんきだなあ……」
「フン、下らん」
「「何ですってぇ!」」
売り言葉に買い言葉。きゃいきゃいと仲睦まじく口喧嘩を始めた4人を、まるで眩しいのでも見るかのようにカカシは目を細めた。
「……それと、お前らに言っておく」
口喧嘩はぴたりと止まり、全員がツバキへと視線を送る。
皆からの視線を一人ひとり返し、最後にカカシと目が合うと、ツバキはふと笑みを浮かべ、言った。
「ありがとう」
彼らは顔を見合わせ、それから表情を緩めてツバキへと頷きかけた。
■
全ての準備を終えた第一部隊のメンバーは出撃ゲート前に集合し、最後のブリーフィングを終え、今まさにエイジスへ向けて出動しようとしていた。
彼らを見送る者たちは少ない。
今アナグラに残っているのはツバキ、エンジニアのリッカ、そしてオペレータであるヒバリ、そしてよろず屋だけである。
方舟賛同派はすでにここにはいない。残ったものは穴埋めとして今尚どことも知れぬ場所で死に物狂いで戦っている。
牙無き人のために、人類最後の砦たちは今なお戦っているのだ。
残っている彼女たちは、彼女たちなりに彼らを支援して少しでもマシな戦いができるように死に物狂いで整備やサポートをしていた。彼女たちも戦っているのだ。
そして、最後の戦いへ向かう彼らを見送る事に、不謹慎ながらも、彼女たちは誇らしさすら感じていた。
「君たちの神機は万全に整備したよ! きっと戦い抜けるはずだから、安心して行って来てね!」
「私も出来る限りのサポートは致します! ですので、絶対に全員戻ってきてください!」
「行ってこいゴッドイーター! そして帰ってこい!」
「なんとか勝ってくれよ? でなきゃこっちも商売あがったりなんでね」
残った者たちの激励を背に、ソーマを先頭に第一部隊のメンバーは最後の戦いの舞台へ、エイジスへと向かった。
皆の胸にある思いは同じであった。
人類を滅ぼさせやしない。
決意を胸に、彼らは戦場へと歩を進めた。
■
彼らは走った。
道中に敵は無く、また障害物になる様な物も無かったので、彼ら超人たちが全力で駆け抜ければ、程なくして、エイジスの中枢へとたどり着いた。
「で、デカい……!」
それを目にしたコウタは、呻くように言った。
それは逆さに生えた、巨大な女の頭だった。まるで銅像のような質感だが、それは確かに生きていた。
これこそが『ノヴァ』である。今ある全てを喰らいつくして零へと戻し、再分配する破壊と再生の化身。
そしてその額の中心に、決して染まらぬ純白の無垢があった。
「ッ! シオ!!」
真っ先にシオの存在に気が付いたソーマが我先に飛び出し、それに続く形でアリサ、次にサクヤとコウタが、最後にやや躊躇うようにしてカカシが追う。
シオの真下にまでたどり着いたソーマたちは、そこでようやくシオの前のリフトに立つ影を認めた。
「涙の手向けは、我が渇望するすべてなり、か」
影は、ヨハネス・フォン・シックザールは振り返りもせずに、独白めいて一人呟く。
「ソーマ……随分このアラガミと仲が良かったみたいだな」
それからヨハネスは振り返り、ソーマを目にするなり皮肉気な笑みを浮かべながら言った。
「それは愚かな選択というものだぞ、息子よ」
「黙れ! てめえを親父と思ったことは無い! シオを解放しろ!」
息子という言葉に激しく反応したソーマは、ヨハネスへシオを解放するように吠えるように叫んだ。
「……」
対するヨハネスはソーマから目を逸らし、磔にされているシオへと目を移した。
丁度そのタイミングで、シオが張り付けられている額に光が生じ、エイジス中に張り巡らされている触手にも次々と同じ光が生じ始めた。
時を同じくして、空間に異様な力が漲った。
それは命だ。爆発的な命の鼓動。今まさに生れ落ちようと藻掻く胎児のような、剥き出しの生命の力に外ならない。
「よかろう。特異点が手に入った今、器になど用はない」
ヨハネスはその様に満足気に頷くと、ソーマへと向き直り、あっさりと言い放った。
彼の言葉に呼応するように、シオを縛っていた戒めが解かれ、彼女は手放された人形の如く地に落ち始めた。
ソーマは弾かれたように動き出し、彼女が頭から地面に衝突する寸前に、その華奢な体を受け止めた。
「長い……実に長い道のりだった」
必死にシオに呼びかけるソーマから目を離し、ヨハネスはサクヤたちへと向き直った。
「年月をかけた捕食管理により、ノヴァの母体を育成しながら、世界中を駆けずり回り、使用に耐えうる宇宙船をかき集め、選ばれし千人を運ぶ計画が今! この時をもって成就する!!!」
感極まったように両手を広げ、まるで宣言するかのように語るヨハネスの背で、今まさに彼がかき集めた宇宙船が、次々と飛び立ち始めた。
「今回こそ私の勝ちだよ博士……そこにいるんだろう? ペイラー」
勝ち誇るヨハネスは、サクヤたちの背後に向けて、確信の籠った言葉を投げかけた。
「……やはり遅かったみたいだね」
言葉は返され、驚愕に目を丸くするサクヤたちの間を通りながら、ペイラーはヨハネスを見上げた。
「我々は今この一瞬ですら存亡の危機に立たされ続けているのだ!」
その一言を引き金に、ヨハネスは今までため込んでいたものを吐き出すかのように捲し立てた。
「日々世界中で報告されているアラガミの被害など、まだ緩やかなもの。星を喰らうアラガミが、ノヴァが出現し破裂すれば、その時点でこの世界は消え去るのだ! そのタイミングはいつだ? 数百年後か? 数時間後か? やがては朽ちる運命のエイジスに身を隠して終末を待つなど、私はごめんだ! 避けられない運命だからこそ、それを制御し、選ばれた人類を、次世代に向けて残すのだ!」
それは、どこか演劇の一幕を思わせる演説であった。緩急のついた台詞回し。大仰な身振り手振りは、熟練の役者も真っ青だ。
実際これは彼にとって演劇のような物なのだろう。地球という大舞台の中で、長い年月をかけて準備した盛大な演劇。酷く下らない悲劇の茶番劇の最終章。それが今日なのだ。
満願成就の日がやって来た。今の今まですべてをひた隠しにしてきたヨハネスが、悲願の達成を目前にして演技の仮面を脱ぎ捨てた結果が、演劇の役者じみた言動になるとは、何という皮肉であろうか。
一息に言い切ったヨハネスは再びペイラーへと目を向け、糾弾するかのように指を指した。
「君が特異点を利用して行おうとしていたことも、結局は終末を遅らせるだけでしかない。違うかね? 博士」
ヨハネスの目を逸らさずに受け止めるペイラーの顔に、いつもの笑みは無い。
「どうかな……」
彼の脳裏には、果たしていかなる感情が渦巻いでいるのであろうか。その真顔からは、まるで真意を見通すことが出来ない。
「いったい……どういうことですか、博士!?」
彼の背に向けて、総意を代弁するサクヤに、長い沈黙ののち、ペイラーは答えた。
「私は……限りなく人間化したアラガミを生み出すことで世界を『維持』しようと考えた。完全に自立し、捕食本能をもコントロールできる存在として育成していくことで、終末捕食の寸前で留保し続けようと試みたのさ」
それは独白のようでいて、どこか懺悔しているようにも聞こえた。
「そしてそのために君たちを利用した……許してくれ」
ペイラーの声色は普段とあまり変わらなかったが、静かで張り詰めた空間だからこそ、拳を握りしめる音が良く聞こえた。
「アラガミと共生か……昔からそうだ。君は科学者としてはずいぶん
「そういう君は人類に対して
「少し違うな博士」
ペイラーの皮肉交じりの返しに、ヨハネスは否定した。
「私は人間という存在自体にはとうに絶望している」
しかし、とヨハネスは続ける。
「だが私は知っているのだ。それでも人類は賢しく生き続けようとすることを! アラガミやノヴァと何ら変わらない、その本能、飽くなき欲望の先にこそ、人の本能も拓かれてきたことも!」
「……これ以上は、平行線だね」
もはや道は違えた。どれだけ言の葉をかわそうとも、考えを改めさせることはできないと悟ったペイラーは、会話を打ち切った。
「そうだよペイラー。これ以上は無意味だ」
「そうか、残念だよ」
「……私もだ」
ほんの、ほんの一瞬だけ会話は途切れ、2人の科学者の視線が交じり合った。
やがてどちらともなく視線をそらした。
「私は失敗した。彼を欧州へ仕向け時間を稼いだつもりだったけど、残念ながら時が肩入れしたのは私達では無く彼の方だったみたいだ」
そこでペイラーはこの場に来て初めて口の端を緩め、ふと笑った。しかしそれはいつもの胡散臭いものではなく、自嘲的な、普段の彼からは考えられないほど皮肉気な笑みであった。
「そう悲観することは無い。この特異点は、次なる世界の道標として、この星の新たなる秩序を示すだろう。いわば、神が定めたもうた新たな摂理だ」
ヨハネスの言葉が引き金となったかのように、ガゴンという音とともに彼の足元からせり上がってくる物があった。
それはまるで金色でできた蕾のような物体であった。
「そして……その摂理の頂点にあるものは、新たなる世界にあっても……人間であるべきなのだ!」
ヨハネスの叫びに呼応して、『蕾』の花がゆっくりと開かれ、中にある物をさらけ出した。
「そう、人間は!」
『女神』はその美しい肢体を惜しげもなくさらし、ゆっくりと、優雅さすら感じる所作で地に降りた。
「我々こそ!」
一拍子遅れて『男神』が『女神』の背後にゆっくりと降下し、寄り添った。
「神を喰らうものなのだ!!!」
『神』を前にして、誰も言葉を発しなかった。
ヨハネスはリフトから踏み出し、『男神』の真上へと落ちた。
『男神』はヨハネスを『迎え入れた』
あっという間の出来事であった。『男神』の背が割れ、中身をさらけ出した次の瞬間、まるで神機の捕食器官めいた物体が飛び出し、瞬く間にヨハネスの体を引きずりこんだのだ。
「人が神となるか、神が人となるか、大変興味深かったけど、そうだね。この勝負は私の負けだ。完敗だよ。まったく……」
ペイラーはどこか呆れを孕んだ声色で独り言ち、首を振った。
「今の君は、アラガミと何ら変わらない。尤も君はそれを承知の上だろうけどさ」
ペイラーはいつも通りの感情の機敏が読み取りづらい笑みを浮かべた。
「ならば、ここから先は私がでしゃばるべきじゃ無い。私の役目は終わった。後は君たちの役目だ。頼んだよ、
そう言い残し、ペイラーは去った。
後には神を喰らう者たちと、荒ぶる神だけが残った。
「──―少し、待っていてくれ」
ソーマは抱えていたシオの亡骸をそっと地面に下ろして立ち上がると、幽鬼の如き足取りで、『神』の前に立った。
ソーマは『神』を前に言葉は無く、ただその瞳は煮え滾る熔鉄めいて黒く燃えていた。
「リンドウ、見てる? やっとここまで辿り着けたわ。ここにいる皆のおかげよ……」
一言一言を、まるで噛みしめるかのように、毅然とした表情で、サクヤは『神』へと銃口を向ける。
「俺、これまでずっと家族や皆が安心して暮らせる居場所を誰かが作ってくれるのを待っていたんだ。でも、気づいたら簡単な事だった。自分がその居場所になればいいんだって。それを作るために……俺、戦うよ!」
コウタは『神』を前にひるむことなく自らの意思を語り、決意を籠めた眼差しで、眼前の『神』を見据えた。
「私も……みんながいたから気付けたんです。こんな自分でも誰かを守れるんだ……って!」
アリサの瞳には、もうあの時の迷いはない。彼女は決断的な意思のもと
「お喋りはここまでだ……背中は任せたぜ」
ソーマは煮え滾る憤怒をまるで感じさせぬ穏やかな口調で語りかけた。
「方舟は動き出した」
『神』はゆっくりと歩を進めながら、うたう。
「後に残された罪深き者どもは、溢れ出した贖罪の津波に押し流されるだろう」
神を喰らう者たちは次々と神殺しの武器を構え始めた。
「水面に浮かぶ最後の板きれを手にするのは……」
両者の視線が交わり、火花を散らす。
「このわた──────」
不意に、『男神』の姿が掻き消えた。その一瞬遅れて衝撃波が放射状に放たれた。あまりに突然の事に、この場の誰もが絶句した。
困惑するかのように首を巡らす『女神』を前に、しかし彼らは見た。
『男神』の腕に噛みついた、黒い狼の姿を。
脳裏に浮かんだ黒い影が閃いた時、第一部隊の全員が彼の意図に気が付いた。
『大狼オオオおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
『男神』憤怒の雄たけびと、何か大きなものが叩きつけられる破砕音がしたのはほぼ同時だった。
それが引き金となって、『女神』と第一部隊のメンバーは激突した。
人類存亡をかけた戦いが、今始まった。
あと2、3話くらい続きます