俺は遠くから尊いを眺めていたいんだよ!組み込むんじゃねぇ!~ゴッドイーター世界に転生したからゴッドイーターになって遠くから極東支部尊いしたかったのにみんな率先して関わってきて困る~ 作:三流二式
「おぉ……」
適合試験を終えた俺は部屋から出て、アナグラを見渡して感動に震えていた。
だって、ずっと画面の向こうから眺めていた拠点なのだ。初代からリザレクションまで、随分長い事この極東支部のアナグラは使われてきた。
感慨深さは『フライヤ』の非じゃない。だって10年以上の付き合いだぜ? そこに俺は今立って、呼吸し、自らの目で見ているのだ。
要するに俺はいま非常に興奮していた。
そして、適合試験のイベントの後には『彼』との初対面があった。
俺は今にもアナグラ内を見て回りたい欲を抑えつけ、『彼』の座っている長椅子の端っこに腰かけた。
『彼』も俺の事に気が付いたようで、俯いていた顔を上げ、気さくに話しかけてきた。
「ねぇ、ガム食べる?」
すっとぼけた顔でそんな事を言ってくる、まだあどけなさの残る顔立ちのこの少年は『藤木コウタ』。
ゴッドイーターの物語で主人公と同日に配属された新人神機使いで、同じ第一部隊の所属となる物語の主要人物である。
コウタ君は、言うなれば第一部隊のムードメーカー的な存在だ。滅茶苦茶明るくて、家族思いな優しい彼は全編通してすんごい頼りになる。
特に任務6まで暗い話が続くから、彼の存在は凄く有難いのだ。
あーあ、本当なら神薙ユウちゃんとコウタ君のキャッキャウフフな会話が見れたはずなんだけどなぁ。それを遠くから見て尊いしていたかったのになぁ。
うぅ、ごめんよコウタ君。
……まぁ神薙ユウちゃんがこんな糞血生臭い場所に身を投じなくて済むようになったのは良いことなのだがね。寧ろ家族と団らんできてると思うと、ヤバ、めちゃ尊くね!?
「あぁ、ごめん。今食べてるので最後だったみたい。ごめんごめん」
俺の心境など露知らぬ彼は、ガムをくちゃくちゃ咀嚼しながら肩を竦めた。
俺はニコニコと顔をほころばせながら、気にしなくていいという事を伝えたくて手をひらひらと振った。
ここで彼に話しかけるのもいいんだけど、原作では基本主人公は喋らんし、俺の場合は絶対余計な事を口走ってしまう自信があったので、身振りだけに留める事にした。
結果的に原作主人公と同じ対応になってしまったけど、まあ彼はコミュ力が高いし、その仕草だけでも俺の意図はばっちり伝わった様だ。
「あんた良い奴だな!」
そう言って、コウタ君は足をパタパタさせながら二カッと笑った。
やっぱり良い子やでぇ~。
彼の良い子ぶりに、俺の顔はますますだらしなく緩んでゆく。
でもコウタ君、一つ訂正があるぜ。俺は良い人じゃなくって、身の程を弁えているだけですよぉ~ん。
「あんたも適合者だろ?」
彼からの質問に、俺は頷いて同意の意思を示す。
「俺と同じか……少し年上っぽいけど、ま、一瞬とはいえ俺の方が先輩ってことで、よろしく!」
俺は親指を立てた。コウタ君はにっこり笑った。その時微かな安堵の様なものが一瞬だけ垣間見えたのを、俺は見逃さなかった。
やっぱり彼みたいな明るい子でも不安はある物なのねぇ~。
その事を初対面の人にばれないようにひた隠しにするコウタ君……。
うぅ……健気……尊し!
思わず口走りそうになったその時、カツンカツンとヒールが地面を打つ音が聞こえた。
コウタ君と一緒に音の方を見ると……。
(うわぁぁああああああああああ痴女だぁぁあアアアア!!!)
俺たちの視線の先には、胸元を大きく開け、上半身も下半身も大変露出過多な女性が立っていた。
彼女の名は雨宮ツバキ(29歳)、主要キャラである雨宮リンドウさんの実の姉で、第一〜第三部隊の指揮・統括と、新人神機使いの教官を兼任している凄い人だ。
ただこの人、俺が叫んだ通り、ていうかこのゲームの大体のキャラに当てはまる事なのだが露出が大変多いのよ。
何だその、何だ、上も下も風通し良さそうな服装は!
こんなエッチな格好して教官だなんて新人神機使いに対して失礼だよね。
エッチだね♡。オラ、脱げ!
「立て」
ツバキさんは有無を言わさぬ威圧的態度で、俺たちに「命令」した。
そう命令である。
「え?」
コウタ君は突如やって来て命令してきた彼女に呆けた顔で聞き返した。
俺は彼女の姿を認識した瞬間に立ち上がっていたから標的にはならなかったけど、彼はまだ彼女が誰か知らないから、彼女の威圧的な眼光をもろに食らう羽目になった。
「立てと言っている。立たんか!」
「は、はい!」
ツバキさんの鋭い眼光と、短いながらも強い口調で放たれた命令に、コウタ君はびくりと身を震わせながら勢い良く立ち上がった。ついでに背筋も伸ばした。胸まで張って後ろに手まで組んでいる。
(おぉ……すさまじいまでの新兵ムーブ)
俺はその姿にいたく感動し、片手で口元を覆った。
「これから予定が詰まっているので、簡潔に済ます」
彼女は俺をひと睨みして(俺は慌てて姿勢を正した)、言葉の通り物凄く簡潔にこれからの予定を説明した。
「という訳で、早くメディカルチェックへ行ってこい。……何をしている? お前。お前だお前、『名無し』」
説明を終えた彼女は早速メディカルチェックに行ってくるように命じてきたけど、俺かコウタ君のどっちに言っているのか分からなかったから、俺らはほげーっと彼女の事を見つめていた。
そしたらツバキさんは『名無し』と言いながら、俺の事を指さした。
「へ、『名無し』?」
俺は首をかしげた。
「そうだ。お前、適合候補者として手続きをする際に名を書かなかったそうだな。何故だ?」
「え、何あんた。もしかして名前記入するの忘れたのか? ドジだなー」
「お前は記入漏れが多すぎだ」
「うぇ!?」
コウタ君がバインダーで頭を小突かれ、涙目になって小突かれた個所を摩っている間、俺は腕を組んで頭を捻っていた。
「何だ? どうした?」
「いやぁなんでもないです。ただ……」
「ただ?」
歯切れ悪く言う俺に、彼女は訝しそうに眉を寄せる。
「俺、改めて考えたら名前無かったっす」
2人の体が固まった。さっきまでキリッとしたクールフェイスだったツバキさんの顔が、目尻に涙を滲ませて痛がっていたコウタ君の顔が一瞬でこちらに向き直り、心なしか温度が下がったかのような錯覚を覚える真顔へと変化した。
うん、まぁそりゃ、いきなり俺名前が無かったなんて痛い事言い出す奴を目の当りにしたら、何を言っているんだこいつと、思考停止になるのも無理はない。
でも仕方ないじゃないか。今生での名前を名付けてくれる人なんていなかったんだから。
親はいなけりゃ友達もいない。考えてみれば人と話したことだって、片手で数えられるくらいしか記憶には無い。
俺の今生での記憶は人助けと素材集めとスタングレネードの事しかない。
しかし名前か。名前なぁ……。
ドン引きする二人尻目に、俺は顎に手を当てて沈思黙考する。
名は体を現すという言葉がある。風子なら風の子、風の如く軽やかな子とか、花子なら花の様に綺麗な子、とかであろうか。
じゃあ俺はどうだろう?
俺を表す名は……俺は何だ……?
俺は……
俺は……置物?
俺は……突っ立っているだけの人形?
俺は……案山子?
……そうか! 俺の名は!
「うん、そうだ」
俺は一人頷き、にっこり笑って俺の名前を二人に告げた。
「俺の名前は
「「なっ!?」」
絶句したように目を剥く二人に、俺はふと腕時計を見て、ビックらこいた。
やべ、そろそろメディカルチェックの時間だ!
「あ、待」
いきなり走り出した俺にコウタ君は何か言った気がするけど、ごめん、話なら後で聞くよ! 今は『榊博士』に会うのが優先なりね~。
俺は階段を駆け上がり、エレベーターに飛び込むように駆け込むと、榊博士のラボがある階を連打した。
初対面で遅刻は嫌よ~。
ラボのある部屋にエレベーターが止まり、開いたと同時に俺はカタパルト射出されたかのごとく勢いよく駈け出した。その途中台場カノン(通称ちゃん様、あるいは誤射姫)さんがいたので、これからもよろしくという意味で肩に手を置いて親指を立てた。
それから再び走り出し、エントランスから駈け出してざっと30秒ぽっきりでサカキ博士のラボの前までやって来た。
俺は緊張で乱れる息を整え、それからゆっくりとラボの中へと入ってゆく。
ラボの中にはすでにヨハネス支部長と、白髪の眼鏡をかけた糸目のイカしたおじさんさんが、モニターのあちこちに視線を這わせながらせわしなくキーを叩いていた。
この胡散臭さ満点の彼が『ペイラー・榊』博士。アラガミ研究の第一人者で、オラクル細胞の技術利用を可能とした偏食因子を発見した最大の功労者で、胡散臭さの割に最後まで味方でいてくれた凄い人だ。
実は途中で絶対裏切ると思っていました。(小声)
「ふむ、予測より726秒も早い。よく来たねぇ新型君」
博士はキーを打つ手を止め、モニターから視線を外して俺に向き直りながら自己紹介をした。
「私はペイラー・榊。アラガミ技術開発の統括責任者だ。以後、君とはよく顔を合わせる事になると思うけど、よろしく頼むよ」
俺はにっこり笑って手をひらひらと振った。それで十分伝わったみたいで、博士は口元を緩めて少しだけ笑った。
それから再び博士は俺から視線を外し、止めていた手を動かし始めた。
「すまない、見ての通りまだ準備中なんだ。ヨハン、先に君の用事を済ませたらどうだい?」
「……榊博士。そろそろ、公私のけじめを覚えていただきたい」
ヨハネス支部長は窘めるけど、榊博士はどこ吹く風といった感じで、初めから聞く気が無いようだ。
この気安い二人の関係……う~ん、尊し!
俺が一人感動していると、ヨハネス支部長はため息を吐いて視線を博士から俺に向け、自己紹介と自分の(表向き)行っている計画を話し始めた。
「エイジス計画とは」
「うお、この数値は……!」
「簡単に言うとこの極東支部沖合旧日本海域付近に、アラガミの脅威から完全に守られた楽園を作るという計画なのだが」
「ほほぉ!」
「この計画が完遂されれば、少なくとも人類は当面の間、絶滅の危機を遠ざけることが出来る」
「おっやべ! ちょっとイク♡」
「……ペイラー、説明の邪魔だ」
「凄い、これが新型かぁ!」
まあその格好つけた説明も、合間合間で博士の興奮した声で遮られて台無しなんだけどね。
心なしか額に青筋が浮かんでいるヨハネス支部長の言葉は、しかし興奮した榊博士にはいささかも届いてはいなかった。
その後も何とかヨハネス支部長は話を続けたけど、博士の独り言に悉く潰され、非常にグダグダな感じに説明は終わった。
まぁ、俺は計画の事は知っているから、あまり問題にはならなかったからいいけどね~。
「ペイラー、後はよろしく。終わったらデータを送っておいてくれ」
そう言ってヨハネス支部長は去って行った。
後に残された俺は、にこにこしながら榊博士の準備ができるまで待った。
「よし、準備は完了だ。そこのベッドに横になって」
俺は指示された通り、ベッドに横になった。
「少しの間眠くなると思うが、心配しないで良いよ。次目覚めるときは、自分の部屋だ」
博士は頷くとキーをタイプした。その途端装置か何か作動したのか、俺の意識はぼやけ始めた。
「戦士のつかの間の休息というやつだね。予定では10800秒だ」
……え~とぉ1分が60秒だからぁ~……10800を60で割るとぉ~…………。
「ゆっくりお休み」
博士がエンターキーを押した。俺の意識は闇に消えた。
無意識の内に種(意味深)を仕込んでいくスタイル