──俺はできた人間じゃない。できた人間はいくら性欲が有り余ってるからって色んな女とセフレの関係を結んだりはしない。ましてや壁ドンされたのが原因で維持費もそこそこかかる戸建てに独り暮らしなんてするわけもねぇ。俺の生活は女と性欲が中心で、それ以外は全部二の次みたいなもんだ。大学で頑張って、一流って言われるクソみたいなホワイト企業に就職して、そこでも実績を積み重ねて悠々と独身貴族する未来を切り開いたのも、女を食いやすくしたいからに過ぎない。
「とか言ってクズ男ぶってる割には、センパイって性欲以外はいい男ですよね〜」
「性欲の面でゴミだからいい男じゃないだろ」
「傷心中にはいい感じだよ」
「なんだそれ、寝取ってやる」
「あはは、無理無理!」
セフレはセフレ止まり、その線引きは理解している。でも、どうしてもそんな原則を揺らすのが、セフレが傷ついた時だった。傷心中の女を抱く時は、どうしてもなんでそんな風に傷つく恋するんだよって思っちまう。俺なんて、その傷つく覚悟すらないってのに。そんなことを考えながら、大学時代の後輩を駅まで送っていった。
「またね、センパイ」
「二度とくんな」
「はーい……ありがとう」
これが俺の日常だ。気が向いた女を誘って、誘われて、性欲のまま貪ってカラリと乾いているように見送る。別に虚しくはならない。充実してる。
だけど俺にとってこれは、何かが違うと思わせるには充分すぎた。特にセフレたちもみんな社会人になって、それぞれの生活やら、男と同棲したり、付き合ったり、結婚なんてこともあるわけで。
「はぁぁ……考えたくね〜」
自分の生き方を変える? 無理だな、でも性欲に正直な年齢はどんどん下になっていく。そうすると次はパパ活、援交って言葉に変わっていきかねない。そうなりたくないなら、この性欲塗れの生活からおさらばするしかない。性欲のためだけにガキをセフレにするのはめんどくさい。
「……はぁ、雨か」
夜食とゴムを切らしてたからと夜にスウェット姿で近所のコンビニを出て、傘を差す。暗く濃い真っ黒な曇天からは雫が落ち始め、うららかだった春の季節に冷たい雨が降る。強く降り出してだるいことになる前に少し早足で帰路へ向かおうとした時だった。
──ねぇ、と声を掛けられた。
「あん?」
「おじさん」
「……お兄さんって歳だろ、まだ二十代だ」
俺に声を掛けてきたのは、雨宿りをするステレオタイプな白ギャルだった。着崩した制服、短いスカートに伸びた男好みしそうな肉付きの脚、モデル体型というには少し発育のよさそうな胸元と、そのシャツから透ける黒色、金髪に染めているんだろう背中くらいの長さのストレートに切りそろえられた前髪、ピアスはあんまり開けておらず左右に一つずつだった。
「泊めてよ、お兄さん?」
「家出娘か?」
「まぁ、そんなとこ」
俺の感覚としては捨て猫に出会った感覚だ。嫌に毛並みの良さそうな捨て猫だが、雨に濡れて今にも消えそうな灯火を感じた。そして俺はそんな女が提示するであろう
──だからこそ、俺は敢えてその女子高生らしき制服の女の身体を舐め回すようにジロジロ見てから、値踏みをするように目線を合わせた。相手は無意識なのか一歩後退りしたが、プライドが高いのか俺を見上げて、見つめ返してくる。
「まぁいいぜ、飯は?」
「……まだ、ですけど」
「買って来てやるよ、同じもんでいいか?」
「はい、あ……別に、なんでもいい」
ぶっきらぼうに返されて俺はちょっとだけ急ぎ気味に同じものを買って家まで連れて帰った。男の独り暮らしだからてっきりワンルームかと思ってたみたいで、戸建てを見あげて驚いたような顔をしてた。
「……金持ち?」
「そうでもねーよ、ほらとっとと風呂入ってこい」
「はい、あ……し、下着とか」
「脱衣所の引き出しにナイトブラとかショーツとかある」
「な、なんであるんですか……?」
なんであるんですかって、突如として来る女いるんだよ。そいつが着替えねーって言うからコンビニとかで買ってやって、それがまだ置いてあるだけだ。この家は去年まではかなりの頻度で女がいたからな。今は恐らく誰も来ないだろうが、自分で言ってて悲しくなってきた。
「着替えとお風呂……ありがとう、ござ……ありがと」
「濡れた服は乾燥機入れとけ、使い方わかるか?」
首を横に振る。俺はソファから立ち上がって使い方を教えて再びありがとうございますとお礼を言ってきた。この家は女が突発的に寝泊まりすることを想定されている。唯一と言って良いほどの欠点は寝る場所が俺と一緒ってところくらいだ。ドライヤーで髪を乾かしてる間に俺も風呂に入り、コンビニ弁当を食べた。
「あの……お金とかって」
「いらねーよ」
寝室に案内してやり、一緒のベッドということにやや戸惑いというか拒絶感を覚えて、慌てて俺を見上げてくるが、俺はそんな捨て猫女の腰を抱いてやる。肩が上がって、俺の身体に手が添えられてできるだけの距離を取られた。
「でも……」
「男の家に上がり込んだ家出娘の支払いがなんなのかくらい、わかってんだろ?」
「……っ」
驚きと、羞恥と、怒りと、そんな感情がないまぜになったようなリアクションに俺はため息を吐いた。
──すると、ここで捨てられると思ったのか、諦めたのか拒否する腕の力が弱まった。だが、怖いのか今度は代わりに小刻みに震えていた。
「冗談だ」
「……え」
「
「あ……っ」
「んじゃおやすみ」
生憎だが俺は
いやでも結構イイ身体してたしもうひと押しって感じだったな、もったいねーことしたかな。抱き心地も良さそうな肉体してたな、いやいや相手は間違いなく18歳未満、同意って雰囲気でもねーのにリスクがでかすぎる。
「……タマってんのかな、クソ」
最近頻度減ってきてるせいか、理性の壁が脆い気がする。同じベッドで寝てたら間違いなく襲ってたな、なんてくだらないことを考えながら、あの女がどういう風に鳴くのか想像して、俺はトイレからソファへと戻っていった。
──身体の関係もない以上、事情なんて知りたくもない。明日になったら勝手に出てってくれるだろう、俺はそう思い目を閉じた。
翌朝、俺は会社の上司に電話をしていた。こんなクソみたいな生活を送る俺だが嘘の理由で有給使うのは初めてのことだった。といっても別に口調に気を遣う必要はない。なんせ嘘吐くのは半分でいいからな。
「ええ、発熱したみたいで体調不良でして……はい、ああ自分じゃなくて──そう、ペットが、はい、すみませんよろしくお願いします」
幾つか確認事項的なものをして、俺はもう一度ありがとうございますと言って電話を切った。
──その会話を聞いていた、昨晩俺のベッドを占拠しやがった偽ペットは少し目を開けて、不満げな顔をしてきた。
「ペット、ですか」
「拾ってきてやったんだから間違ってはねぇだろ──ったく、いつから雨に打たれてたんだよ」
「……降り始め、から」
明日になったら勝手に出てくと思っていた家出娘は、雨に打たれていたせいか熱を出してしまっていた。おかげで追い出すつもりが追い出せなくなってしまっていた。
流石にな、俺だって血の通った人間だ。熱出して起き上がるのすら辛そうな女に向かって、出てけとは言えない。
「優しいん、ですね……」
「ここで追い出せるのは優しい優しくない以前の問題だと思うな」
「確かに……ふふ」
「何笑ってんだよ、頭おかしくなったか。とりあえず色々買ってくるから」
「……はい」
とりあえずドラッグストアで冷却ジェルシートを買いに車を走らせた。他にもゼリーとか身体怠くても食えそうなもんを幾つか。ここまでやってやってるってことそのものに感謝してほしいなとか頭の中で文句を言いつつ。こういうところが、俺のバカなところなんだろうな。こんなことやっても、なんにもなりゃしない。なるはずないのに。
「お前のせいでとんだ三連休になっちまったよ」
「……すみません」
「はぁ、学校は? 大丈夫なのか?」
「……ん」
「まぁいい、良くなったら出てけよ」
思わずお節介を焼いた自分に腹が立った。家出してる相手に学校は、だなんてバカだなホントに。笑えねぇ。
──俺はあの不良女に説教できるほど偉い人間じゃねぇ。18歳未満だからと言ってはいるが、それが相手も同意だったんなら話は別で、そうやって女子高生を食ったことだってある。そして現状、あの女のことも食ってやりたいと思ってないわけじゃない。
「もう大丈夫か?」
「……は、はい。おかげさまで」
「そっか、まぁ今日も泊まってけ……仕方ないからな」
「ありがとうございます」
「その代わり、なんでビッチの
「──っ!」
思えば、この判断が一番のミスだったんだろう。そのまま気づかないフリして明日にでもとっとと追い出してればよかったのに。俺は結局、こういう中途半端な男で、細かいミスを繰り返して、いつしか取り返しのつかないことをする。
ただこの時は、このブラックボックスみたいな家出娘の事情に巻き込まれてる気がしていた。