おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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Part12

 極度に溜まってる時に顕著なのは、女とヤル夢を見ることだ。それが俺の理想を反映しているのかなんなのかは知らないが、高確率でエロい夢を見る。それでどこまでヤルのかはその時次第だが、俺はその日、マジでびっくりして飛び起きた。

 

「……はぁ、そろそろマジで碧に誰か紹介してもらわねーとヤバいかもな」

「どうかしましたかご主人様?」

「お、おはよう恵美」

「はい、おはようございます」

 

 絶賛、恵美とはちょっと気まずいというか、昨日俺が突き放したせいで恵美がどう接したらいいかわかんねーって状態なんだと思う。そんなちょっとピリっとした空気にも関わらず、俺は──ちょっと冷や汗を掻いていた。俺がさっきまで見ていた夢は、端的に言うと泣いてる恵美を後ろから抱きしめてそのまま慰めつつみたいな。

 

「……ご主人様、調子悪いんですか?」

「いや、まぁ……悪いのか?」

「無理はしないでください」

 

 そう言って部屋から出ていく。別にな、夢で女とヤルのはいいんだけど、俺の性欲も空気を読まねーっていうか、なんだかんだ言いながらあの魅惑のボディに寄られると、ついついムラっとしちゃうんだよな。散々お前には手を出さないだとか今は女遊びしなくていいんだよとか言っといて、このザマだ。それでいいと思ってたのは頭ん中セックスばっかりの男にセフレ以上の気持ちを抱く女なんて、本当にいるわけがないと思っていたからだ。恵美のような変な女は想定してねーしな。

 

「あの……昨日は、その」

「ああ、俺も言い過ぎた……ごめん」

「いえ、私がわがまま言い過ぎたので」

 

 そんな恵美も昨日のことがあったせいか、イマイチ踏み込んでこない。そこは俺の性欲的にはアリだな、なんて言いつつも心配じゃないかと言えば嘘になるのも事実だ。出ていくなら出てってもいいとか、もう思えなくなってきてるんだよな、俺も。

 

「恵美」

「はい」

「……昨日のこと、あんまり気にしないでくれ」

「大丈夫です」

 

 まるで一ヶ月前に戻ったかのような素っ気ない態度を取られて俺は言葉が続かなかった。昨日のはやっぱり言い過ぎたなんて後悔してももう遅い。そのまま、恵美は学校へと行ってしまったことで、コミュニケーションもロクに取れなくなってしまった。

 ──自分で自分に言い訳しても仕方ないけど、恵美は単に依存先を俺に変えようとしてると感じた。本人にも言ったけど、あいつは本来、自分の道を自分で決めるために家出をしたはずなのに、俺に道を決めさせようとしていた。それじゃ、意味がない。

 

「……なに真面目に考えてんだって話だけどな」

 

 我ながら恵美のことになると()()()なくなるな。前までは他のやつの人生なんて知ったことない。俺のせいで破滅しようがカレシと別れようが家族に勘当されようが知ったことじゃないと思ってたんだが、恵美のことになるとどうしてもセフレや女に肩入れしすぎないというスタンスとは別になるんだよな。

 

『それはズバリ、恵美ちゃんが特別だからだよ』

「特別……って」

『恋愛としてだけじゃなくて、ん〜っとね、そう、愛猫が心配みたいな』

「ペットかよ」

 

 結局そこに行き着くの嫌なんだよな。だが、会社の昼休みに電話を掛けてきたバカだがこういう時は頼りになる後輩は電話越しにペットみたいなものでしょうとからかうように笑っていた。多分、俺よりも敏感に俺の変化に気付いているからこそ、こういう余裕の笑いができるんだろう。ムカつくけどな。

 

『愛着湧いたんでしょ、ああやってセンパイを性欲以外の目で見てくれる人いないから』

「……なるほどな」

 

 性欲以外か、えっちなことしてもいいですよなんて言ってるけど、結局始まりとしては性欲じゃなくて感謝とかお返しとかそういう純粋な、まるで子ども同士の恋愛のような出発点だったから。そしてそのお返しが俺にとって居心地のいいもんだった。

 ──きっとそれを愛着と呼ぶのだろう。あいつのくれる日常が居心地のいいもんだった。その日常をくれた恵美のことを、俺は大切に思っていたんだ。

 

「ありがとな」

『いいよ〜、それよりそろそろ襲っちゃいそうになってない?』

「察しが良すぎてストーキングを疑うな」

『私以外に今セフレいないのに、家には連れ込めないもんね』

 

 その通りだよ。そこまで察していたら、できたら誰か紹介するかお前が相手になれ、なんて野暮なことを言わなくてもなんとかしてくれそうな雰囲気だったから俺は碧の言葉を待っていた。

 

『紹介はしないよ』

「じゃあお前か」

『恵美ちゃんと約束したからね』

「なんの約束だよ」

『女遊びさせないでって』

 

 なにしれっと仲良くなってんだよお前ら。しかも恵美がまさか碧に手を回していたとはな。ということは碧が相手か。まぁそれでもいいけどな。納得していると碧が明るい声で俺の予想を肯定してきた。

 

『本来なら襲ってあげていいんじゃないって言うところだけど、タイミングがタイミングだからね』

 

 襲ってあげてよくねーよ。俺は一応あいつのことを性欲に身を任せて襲うの絶対にしたくねーって思ってるんだよ。あいつはセフレでもなんでもなくて、ただ両親じゃない庇護を求めてただけなんだからな。それを愛着とでもなんとでも言えばいいけどさ。

 ──俺は色々考えたけど結局、恵美のことを女として好きかなんて言われても首を横に振れるんだ。

 

「それじゃあ、また仕事終わりに連絡する」

『わかった、恵美ちゃんには私から連絡しとくね』

「はぁ、マジで助かるよ」

 

 気まずいとはいえ、碧に頼りすぎてるな。あいつだって俺との関係に積極的な時はなんかあった時だ。あんまり負担掛けるのはよくない。むしろ俺が碧の愚痴を聞かなきゃならないってのに。それは、話してるうちになんとかなるだろう。

 恵美も、少し独りにした方がいいのかもしれないしな、これは逆に考えればいいタイミングと捉えることにした。

 

「……ふぅ」

「おう、今大丈夫か?」

「あ、ええ……大丈夫です」

 

 電話を終えてため息を吐くと上司の美作(みまさか)さんが話し掛けてきた。愛犬家で、気さくな人だ。そして愛犬家でありつつ愛妻家でもあると評判のイケメンだ。本人は好きなものは好きだからそうなっちゃうだけと快活に笑うんだが、そういうところも尊敬できる人だ。

 

「猫ちゃんが心配か?」

「……まぁそんなところです」

「拾ったんだっけ? その様子だと今一歩飼い主としての覚悟が足りてないんじゃないかって悩んでるね?」

「よく、わかりますね」

 

 ほぼ合ってて俺は思わず恵美のことがバレたのかと思って身構えそうになったが、美作さんはどうやら純粋にペットの話をしている様子だったのでほっとする。飼い主としての覚悟が足らない、まぁそうなんだろうな。本当だったら許可出してくれるんならずっとここにいてもいいとか、言ってやってもいい気がする。でも、俺にあいつを飼ってやれるほどの甲斐性があるとは思えないからな。

 

「キミは恐れているんだな──前の飼い主と同じことをしてしまうんじゃないかって」

「……ええ、はい」

「そういう時はね逆に、恋人と同じと考えればいいんだよ」

「恋人……ですか」

「そう、ペットを恋人だと思って愛してあげるんだよ」

 

 とんでもない言説が飛び出して俺は驚きのあまり美作さんを見つめてしまった。ペットの世話とか、その他諸々で自分の覚悟が足らないと思った時は恋人と同じと考えればいい、か。

 飼い主としての覚悟とか、責任感じゃなくて、傍にいてほしいって思うことが、傍にいてあげたいって思うことが大事なんだと美作さんは語った。

 

「それに、懐かれてはいるんだろう?」

「それなりに」

「それはキミが愛を持って接してあげてるからだよ。手を差し伸べるから、その手に頬を擦り寄せる。手を広げるからその中に飛び込んでくる。人もペットも、本質は同じさ」

「本質は、同じ……ですか」

「お互いに手を伸ばすから、そこに心が生まれる。コミュニケーションを取ってあげてるからペットもキミを必要とするんだよ」

 

 俺が、手を伸ばしたから。あの日、声を掛けられて気まぐれに手を差し伸べたあの時から、俺と恵美の心は触れ合ってる。それは単純な恋愛とか性欲なんかじゃなくて情だった、雨に濡れるあいつが助けを求めてるように感じたから同情した。いや最初は性欲もちょっとはあったか。

 

「美作さん」

「なにかな?」

「……ありがとうございます」

「いやいや」

 

 例え同情だろうと気まぐれだろうと俺があいつに手を伸ばして、恵美が俺の手を取ったのが全ての始まりだ。それから二ヶ月経っていて、色んなことがあった。俺はその中で一つくらいあいつを安心させてあげる言葉を吐いただろうか。なにより、あいつが俺のことを好きだと言っているのが一時の気の迷いだっていうなら、俺が恵美を家に上げたのも一時の気の迷い以上のなにものでもない。

 ──だったら、どうせお互い迷子の身だ。方向音痴の寄り道には、付き合ってやるのが俺の信条だからな。

 

「ただいま」

「……あ、おかえりなさい」

「飯の用意しちゃってたか?」

「いえ……あ、ごめんなさい、何か作ります」

「いや作ってねーならちょうどよかった」

「え?」

「飯、行こうぜ」

 

 居酒屋は中止して、焼肉でもどうだと碧を誘っておいた。俺は別に酔っても酔わなくてもいい。それにあんまりそういう店に恵美を入れるのはよくないしな。困惑気味の恵美を乗せて碧を迎えに駅まで車を走らせる。多分待たせてるだろうからな。

 その赤信号でそっと、恵美の手が俺の膝に乗った。

 

「あの……」

「ん?」

「怒って……ないんですか?」

「怒った方がいいか?」

「いえ、そういうわけじゃ」

「気にすんなよ。居たいなら、居ていいんだからな」

「……いいんですか?」

「嫌か?」

 

 恵美は慌てて首を横に振る。そんな恵美に、俺は改めてごめんな、と謝罪をした。もちろん、あんまり依存しすぎてほしくねーってのは一緒だ。見えるはずのものまで見えなくなってまで、俺に入れ込んでもきっと不幸になる。ただ、今度こそ借りてきた家じゃなくて自分ちのように過ごしてほしいってのが俺の本音だ。

 

「ついに、飼ってくれる気になったんですか?」

「既に飼われてる気になってたやつのセリフじゃねーな」

「そんなことありません。私を飼ったらお得ですよってアピール中でした」

「なるほど? じゃあそのアピールで培った能力はこれからも活かしてくれると、俺がとっても嬉しい」

「はい、ご主人様が帰ってきた時にゆっくりできるよう、頑張りますね」

 

 ──とりあえずは現状維持ってことになるだろうか。それとも一歩縮まってしまったと見るべきだろうか。よくわからんが、俺の気持ちとしてはここで、碧から見れば漸く、この捨て猫を飼う覚悟を決めたってところだろう。問題は一切解決してはいねーけど、なんかあった時にこれで俺を頼ってくれるようになることを期待している。

 

 

 

 

 

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