俺は、どこまで行っても性欲を発散しないと襲わないと心に決めてるはずの家出娘すら襲いそうになるケダモノでしかない。なにが困ってるってその家出娘が拒絶じゃなくて最近マジでウェルカムなところだ。前は合意があれば食ってやろうかなんて言ったものの、今じゃ俺からそれを断る始末だ。
「犯すぞ」
「どうぞ、ベッド行きますか?」
「……拒否してくれ」
なんてやり取りも雨続きもおさまり、すっかり夏が来た今では最早懐かしいレベルになってきている。今では完全に誘う方と断る方の立場が逆転していた。俺が恵美を褒めると、毎度じゃないが絶妙なタイミングでご褒美と称してそれをねだってくるようになってきていた。
「犯してください」
「なんでだよ」
「ご褒美ほしいです」
「アイスで我慢してくれ」
「膝枕もつけてくれるなら考えます」
「……わかった」
──というような感じだ。なにやら碧によくねーことを教わっているようで、夏になりますます薄着になった部屋着のホットパンツからチラリと見えたショーツを指摘すると、恵美はニヤっと笑ってむしろケツをこっちに向けて指でめくって見せてきた時は本当に犯してやろうかと思ったくらいだった。
「もうちょっと明るくしたいんですけど、ブリーチしちゃだめですか?」
「やめとけ、色戻すのめんどくなるし、髪痛むぞ」
そんな夏の休日、クーラーに涼みながら恵美が少し伸びた毛先をいじりながらそう言っていた。どうやら思っていた以上に自分の中でブロンド系が気に入ったらしい。自分が真面目な委員長ってイメージを払拭したいってのはよくわかるが、元の黒髪に罪はないんだから嫌ってやるなよ。
「戻すことってあるんですかね……」
「お前が進学するかどうかは知らねーけど、いずれにせよいつかは就活するんだからな?」
「ご主人様に養ってもらいます」
「働け」
「家事と身の回りのお世話と性欲のお世話なら」
「……最後のは間に合ってるよ」
「間に合わせないでください。私と専属契約結んでください、奴隷契約でも可です」
「何が可なんだよ……」
不可だよ、圧倒的に不可なんだよ。家事も本当は間に合ってたんだが、いつの間にか恵美に頼るクセができていた。本人が嬉しそうだからスルーしてるけどな。そんないつの間にか変化している新しい日常の中で恵美が家に来てから約三ヶ月が過ぎ、まもなくこいつにとっては間違いなく波乱の一学期が終わろうとしていた。
「テストが終わったら打ち上げにクラス会としてカラオケはどうかと誘われました」
「いいんじゃねーの、クラスの付き合いは大事だからな」
「ファミレスでご飯からのカラオケで、結構遅くなる予定みたいです」
「高校生は一応夜遅いと補導対象だからな、気をつけろよ特にお前は」
保護者じゃねーからな俺は。保護して、お前の気持ちとしてはご主人様かもしれんが警察の人にそれを説明した瞬間に俺は社会的におさらばだ。そういう意味でも気をつけてくれればいいと言ったが、恵美はそういうことじゃないとでも言いたげに見上げてきた。何か不安なことがあるんだろうか。
「どうした?」
「二次会のカラオケ、個室に男女が……これってそういうことですよね?」
「お前はクラスメイトのことなんだと思ってるんだ?」
どうやらそこから乱交を想像したらしい。いやおかしいだろ、それで乱交が始まるのはヤリサーなんだよ、お前にはまだ二年くらい早い世界のはずだ。それにカラオケは基本的にそういう個室だからって施設でいかがわしいことをしねーようにって監視カメラがついてる。しかも録音もされてたはずだ。
「……ご主人様はそういう経験、やっぱりあるんですよね」
「そういう時はカラオケそのものを貸し切りにするからな。店員も知り合いがやってる店にするとか根回しと下準備が必要なんだよ」
「あるんですね」
「軽くな」
そもそも複数プレイは好みじゃねーんだよ俺は。俺が複数プレイもちょっとなって感じなんだ。何が悲しくて別の男を見ながらセックスしなきゃなんねーんだよ。それだったら圧倒的に口説いてホテルに持ち帰った方が満足できる。事実として俺はその乱交パーティーで他の男のをしゃぶったやつに陰毛口移しされて萎えて、一番かわいかった女と途中で抜け出してしばらく俺専用にしてやったくらいムカついたんだからな。
「……荒れた大学時代ですね」
「本当にな」
「だからこそ、今のご主人様がいるわけなんでしょうけど」
「どうだろうな」
碧にもだからやめとけって言ったんですよなんて呆れられた。なんとなく大学生になったら女遊びってこれだろみたいな偏見で参加したヤリサーだったが、結局は碧の斡旋の方が数倍楽で、しかもハズレがないんだから今考えると昔の俺ってバカだったなと思う。
そんな過去話だが、これは本当に特殊な例だと断言してやる。高校生でそんなことがクラス単位で行われるほど落ちぶれた集団じゃないだろ、さすがに。
「そうですね、担任の先生はあれですが」
「そっちも大丈夫なんだよな?」
「はい、カウンセラーの先生に何かされたら報告してと言われたので、どうやらランス先輩の四人目くらいのカノジョさんらしいです」
「……なんて?」
そのランス先輩とやらはとんでもないやつだな、と思う反面、それが心強くもあった。そうやって校内に強い繋がりを持ってるやつが味方ってのはすごく力になってくれるんだよな。実際俺は碧に助けられてるからな。
というか年上も年下も範囲ってのはえげつねーなとは思うが。
「そういえば、ご主人様って年上と年下、どっちがタイプなんですか?」
「……どうだろうな、俺はあんまりそういうの考えたことねーけど」
「じゃあ抱いた女の子はどっちの方が多いんですか?」
「それは年下だな、碧の斡旋だから」
だから大学時代も卒業してからも高校生をセフレにはよくしてたよ。けど、高校生は大学に入る前ら辺がピークで後は連絡取らなくなることがほとんどなんだよな。
受験とかで不安な気持ちとかカレシと会えない不満を碧が汲み取って、家庭教師がてらセックスを教えてたなんて笑えることもやってたけど、それが過ぎてちょっとしたらまた日常に戻っていくんだよな。
「なるほど、そうすると私はやっぱり対象内と」
「外だったら我慢することもねーよ」
「犯してくれていいですよ?」
「はいはい」
対象内だし恵美はすごく目を引くような美人でもある。スタイルもいいし、立ち姿とかもキレイだ。だからこそ、俺は前よりも確実に碧を誘う間隔が短くなってるからな。ただあいつに他の女紹介しろって言っても恵美ちゃんとかどうですかとか言ってくるもんだからどうしようかと考えるレベルだ。
「私は、きっとご主人様には重たいと思います」
「……そうだな」
「だから身体の関係を持ちたくない。私が他のセフレさんとは違うから」
「ああ」
恵美にとってセックスは抱いてきた他の女とは違う意味を持つ。いや世間的には一般的な意味を持つことにもなるんだが。それは俺が本質的に求めてるものを、もっと煮詰めてドロドロにしてから肯定した、故に否定しなきゃいけない原始的欲求だ。
──孕みたい、孕ませたい。セックスの本質であり真実であり、単なる遊びとは根本から違う。
「だから私、思ったんです」
「なにを?」
「──ご主人様が本当の意味で私を求めた時は、そういう時だって」
「ならなおさら、ありえねーってことを知れ」
「諦めませんよ、ご主人様がご主人様である限りは」
そう言って、恵美は足をソファに乗せて膝を立て、そこに頭を置いてふふふと微笑んできた。それが、妖艶な光を放っていて、俺は約三ヶ月前はまだまだ子どもっぽいなって思っていたはずの家出娘がだんだんと女に変わっているのを実感した。俺や碧といった教育に悪い大人と一緒にいるせいか、触れたら火傷すらしそうなほどの光を放っている気がした。
「じゃあ、また」
「ま、またね栗原さん」
「うん」
テスト終わりの打ち上げでは、まぁ結局恵美が心配、心配でいいのか? とにかく懸念していたことは何もなかったらしい。何組かカップルは一緒に帰ったので怪しいとか言っていたし、なんなら最後まで手を振って挨拶をしていた男に一緒に帰らないと誘われたらしいがその点、俺に迎えを頼んできた恵美はほぼ無敵と言っても過言ではなかった。
「夜のドライブデート、って感じでわくわくします」
「家帰るだけだけどな」
「いいんです、でもちょっと遠回りしてくれたら……嬉しいです」
そう言って、恵美は自分のスマホに入っていた曲を車と同期することで車内スピーカーから鳴らし始めた。どうやらワンドルとやらの先輩たちにオススメされた邦ロックが入ってるらしく、それをBGMに言われた通り遠回りして帰っていくことにする。夜景を眺め、気付いたことを俺に話し、そして恵美はよく笑った。
「夏休みは、たくさんデートしたいです」
「俺は仕事なんだけどな」
「そうでした、でも……デートしたいです」
「具体的な案を出せば考えてやるけど」
流石に毎週はやめてくれよと付け足すと恵美は少し考えてから、幾つかのデートを提案してきた。以前のログハウスで天体観測、テーマパーク、既に確定しているプールや、夏祭り、バンドのサマーフェスなど、色んなことを提案しては俺が可能か不可能を、恵美を視界に入れずに答えた。
「お盆は、プールなんだろ?」
「そうですね、プールが最優先です」
「すると泊まりはほぼ使えねーと思え」
「んー、サマーフェス」
「まぁ休日にあるってなら可能だな」
「二日ありますけど、片方なら」
こんな感じで、応対していく頃には家が見えてきた。車庫に入れ、車のエンジンを止めると恵美は助手席のドアを開けて思いっきり伸びをした。どうやら退屈とまではいかなかったが、めちゃくちゃ楽しいというほどでもなかったようで、玄関を開けるまでの短い距離に腕を組んできた。
「やっぱり、この髪だと軽く見られるんでしょうか」
「なんかあったのか?」
「いえ、今までは対して私に話し掛けてこなかったのに、ファミレスで隣だった男の子も、カラオケでデュエットした彼も、口説いて来たんです」
「まぁ、遊んでるようには見えるなぶっちゃけ」
なにせエセビッチだからな。俺がそう言うと恵美は納得したように頷いてからでもと呟いた。
ドアが開き、きっちりと整えつつローファーを靴箱に入れ、恵美が俺の前にやってきて背伸びをしてくるのを鮮やかに躱してやった。不意打ちとか俺に通じると思うなよ。
「で、なんだよ」
「でも、私は既にご主人様のものなので」
「貞操まで管理した覚えはねーよ。それは好きにしろよ」
「好きにした結果、ご主人様なんです」
不意打ちのキスやらボディタッチなど、行動では俺の予測を越えることはできねーところはまだまだビッチには程遠いなとか思いつつ、言葉は達者で俺を黙らせることができる恵美は、してやったり顔で今度はキスなんてこすいことはせずにダイレクトにハグをして甘えてきた。
「ただいま帰りました、ご主人様」
「……俺がおかえりって言うのかよ」
「いつもは逆じゃないですか」
「そうだな……おかえり、恵美」
「……はい」
きっとこれから、恵美にとって特別な夏休みが始まる。高校二年生の夏休みだ、来年は味わえない、そして大学生では味わえないたった一度きりの夏休み。それに対してテンションを上げる姿は、既に夏休みなんてものがない俺にはたまらなく眩しく見えた。そしてその恵美の青春に、俺は振り回されることがスケジュールからも明白になっていた。