おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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Part17

 すっかり忘れていたため、恵美に新しいセフレの話をしたのは結局顔合わせの前日になってしまった。しかも碧が恵美とのLINEの流れで忘れてるなと判断してそれとなく教えてくれたという最悪の状況だった。碧からのフォローもあったようで、不機嫌ながらも恵美はわかりましたと口にした。

 

「わかってないですけど……わかりました」

「恵美」

「……わかってます。ご主人様が私とはえっちしてくれない理由はちゃんとわかってるつもりです。でも、好きな人が別の人と寝るのに嫉妬するのは、また別の話です」

「そうだよな、ごめん」

「今日は……もう寝ますね」

 

 そう言って恵美は自分の部屋に閉じこもってしまった。きっと相槌を打ったもののそれがただの相槌であり、俺が恵美の気持ちを本当にはわかってないことも、あいつには伝わってしまうんだろうな。

 俺には、嫉妬の感情がイマイチわかってない。そもそも好きとヤリたいの区別すらうまくつかないまま大人になったバカには、あいつの自分だけを見てほしいって気持ちの本当の重さをわかっちゃいない。仮にも付き合った女が他の男に靡いて数ヶ月二股されてた時にも、別にいいんじゃねって思ったようなダメ人間にはあいつの気持ちの真剣さはわからないってことだ。

 

「あ、あの……こんにちは」

「ああ、蒼山藍さん、だよな?」

「は、はい」

「少し道が混んでて、遅くなってごめん」

「い、いいえ! 大丈夫です……」

 

 翌日、俺はお昼前に駅前に来ていた。ロータリーに停めて連絡をすると碧に見せてもらったのと同じようにどこぞの良家のお嬢様かと見紛うほどの美人が助手席のドアを開けた。赤茶色のゆるふわにカールのかかった髪をアップにして、下は名前と同じ青、群青のロングスカート──いやワイドパンツか。それに白の七分丈のワイシャツ、白に黒いヒモのスニーカー。アクセサリーも小さく控えめで、少しラフな印象だ。

 

「それじゃあ、まずはお昼でいい?」

「はい……えっと」

「ああ、ごめん。初対面だとつい」

「いえ、ふふ……長月さんの言った通りの人で安心しました」

 

 さて、何を言われたのか。碧のことだ、ロクなことを言ってないわけはないからそっかと相槌を打っておく。優しく対応しているが、碧から聞かされ、そして本人のLINEからも同様の要望が出されているため、なるべく初対面じゃなくてそうだな、きっと俺が恵美を拾った時くらいのテンションで対応しなきゃなんだよな。

 

「はぁ……ちょっとまって」

「はい」

「あれだな、思ってた以上に美人で清楚な子が来たし、こっちも久しぶりだしで緊張してるのかもな」

「わたしはこういうデートは初めてで、緊張してます」

 

 おい本当にこの子か? 俺がやり取りした中で築き上げた蒼山藍像と眼の前の本人が違いすぎるだろ。つかこの子の本性が()()ってマジか? いや役得なんだけどな。けどこうまで違うと戸惑いもデカくなる。本当に本当なのか、少し試したくなり、俺は恐る恐るではあるが信号の色が変わる寸前に左手を彼女の足に、腿に触れさせた。

 

「……っ!」

「呼び方、藍でいいんだよな」

「はい、呼び捨てて……ください」

「一応確認しとくけど、俺は本当に全部やるから」

 

 脚をかなり強引に開かせて腿の内側を指でなぞりつつ確認を取る。俺はいつも譲歩して慰めたりあやしたりしてることが圧倒的に多いけど、本来は強引で強欲で、激しいのが好みだ。そのために未開発のやつを開発することも、多少無理やり気味でも押し通すことがある。まぁこれは大概性欲が有り余ってる時だけど。この際基本的に数万の金が飛ぶのもまぁ性欲満たせるなら安いもんだ。

 ──碧は、そして藍本人はそれを最初から「OK」だと言った。そうやって強引に誘ってほしいと。

 

「まぁとりあえずメシにしようか」

「……わかりました」

「藍を食べるのは後でな」

「は、はい……」

 

 しかも本人は性処理係のように扱われたいという希望まで追加されて困惑したもんだ。ちょっと前にそんなこと言われてふざけんなと思ったばっかりだったからこれは拒否したほうがいいんじゃねーかって思ったくらいだからな。

 ただこれともう一つのワケありの部分さえなけりゃ男なんて虫けらの如く湧いてきそうな女というのは事実だ。そんな一見すると優良物件の藍は、昼飯中に身の上を話してくれた。

 

「──カレとは三年、お付き合いをしました」

「らしいな、でも別れたのか」

「受験期で、少し会えなくなった時に……冷めてしまったと」

「よくある理由だな」

 

 カレシは一つ年上で、大学での生活の変化に慣れてしまっていたんだろうな。それまで実家ぐらしで自転車で二十分だったのが一人暮らしで電車で乗り継ぎ二時間という学生には値段的にも遠い距離感も、サークルでの充実も、重なり。そこに受験で会えないとなると浮気の一つや二つくらいするやつはする。カノジョと会うのが面倒なのに、仲良くなりゃ女なんてその辺に転がってるんだから。わざわざコスト掛けて藍を維持する意味はないんだろうな。

 

「決定的だったのは、大学の志望を変えてしまったことだと思います……」

「ああ、それで俺や碧が通ってたところに」

「カレと同じ大学と最初は決めていたんですが……本当はわたし、薬剤師の資格がほしくて」

「まぁ立派なもんだよ、夢があるってのは」

 

 つまり、疎遠になったのは藍の夢がカレシの元じゃ叶わなかったからか。それを藍は後悔していたらしい。大学自体は実家から通えるものの、大学同士の距離は電車では真反対の方面、そりゃ会えなくもなる。しかも高校時代はほぼ共依存みたいな状態で、お互いべったりのバカップルだったのが、離れたせいで変わっちまったのか。

 

「……よくあることだな」

「え……」

「いやごめん、だけどそれって別に悲劇的でも特別なことでもねーんだ。進路を機にラブラブだったカップルが別れるなんて」

「そ、そう、なんですね」

「だから気にしすぎてもいい出会いはない。引きずるのは自由だけど、俺みたいなのに頼る前に大学内のサークルとかで出会うのもありなんじゃねーの?」

 

 もちろん、それが無理だから碧が俺に寄越してきたなんてことはわかりきってる。でも身の上話に対してこう言いたくなるのも事実だった。これで変わってくれるんなら、恵美も余計な嫉妬を引きずらなくていいかも、なんて思ってる自分がいてとても複雑な気分にはなるけどな。

 

「セフレ、なんですよねわたしは」

「ん? そのつもりだけど」

「……変な人ですね、わたしがカレシ作っても、いいことなんてないのに」

「年取ると人間、説教臭くなるんだってよ」

 

 こいつも、いわば「捨てられた」女だ。だからこんな説教めいたことを言ってしまうのかも。そうすると相当俺の言動はあのペット面してるエセビッチに影響を受けてることになるため、これまた複雑な気分だ。今日は碧の新居に招待されているらしく、拗ねつつも寂しそうに泊まりですなんて言ってたな。だからこそ、久しぶりにセフレを家に連れ込むんだが。

 

「おじゃまします……」

「じゃ、早速」

「……はい」

 

 この日は久しぶりに満足したと手放しに言える状態だった。なんだかんだで碧相手だと気を遣わないところもありつつあの碧に一途なカレシのことが頭にチラついたせいであんまり集中できねーからな。あのカレシ、中学から碧と一緒だから必然的に俺の高校と大学の後輩でもあるんだよな。全然関わりねーけど。

 

「ふぅ、でどうだった?」

「はぁ……すごく、よかったです。また、たくさんいじめてくださいね」

「藍が満足できてんならいいや、俺も満足したし」

 

 一言で表すとこいつは快楽に正直で従順だ。そして被虐嗜好が相まって、普段の控えめながら人懐っこさもある姿は──そう、愛らしくかわいらしい柴犬の、中型犬のような感覚を味わっていた。しかも本人ペットプレイはカレシに徹底的に仕込まれている様子で。いやいや、ペット系は猫で十分だって。あいつはセフレじゃなくて本物のペットと化してるけど。

 

「あなたのような人に、飼って、お仕置きやご褒美をもらえるの……とても気持ちよかったです」

「飼い主は大学で探してくれ。せめて俺は預かり主で十分だ」

「そうですね……どうやら、他にも飼っていらっしゃるみたいですし」

「……よく見てるな」

 

 飼ってる、が比喩的な表現なのか恵美と俺の関係を見抜いてなのかはよくわからなかったが。とにかくこの家に俺以外の人間の、しかも女の気配を察知したのは確かだった。どうやってだよ、ということはちょっと訊いてみたい気もするが。きっと目端が利く人間ならまぁ察しはできるだろう。俺だって特に隠してるわけじゃないし。

 

「ですが、あんまり……放置はしないでくださいね」

「放置か? 毎週ってのは確約できそうにはねーけどな」

「毎週じゃなくてもいいんです。あなたの好きなタイミングで呼んでいただければ、でも……できたら週一回、ちょっとだけ、一回だけでいいですから」

「なんでそんなに回数に拘る」

「寂しいんです……構ってほしいんです」

「なるほどな」

「そのためならなんでもします。どんなプレイでもしますから……!」

 

 なるほど、これはヤバいな。寂しがりで犬系で性欲をそのまま関係の維持に使おうとしている。こりゃ確かに他の男には任せるとロクなことにはならねーよな、碧さんや。とんでもねー物件を用意してきたな。こちとら恵美の扱いにすら四苦八苦してる状態だったのに。あいつは藍をどうしたいんだ? 

 

「わかった、これから予定は送るから、その日から来れる日を選んでくれ」

「わかりました……あの」

「なんだ?」

「もっと、したいプレイとか、コスプレとか、その服装などの指定があれば……なんでも申し付けてください。わたしは、あなたのメス奴隷になりますから」

「……あ、ああ」

 

 キラキラとした顔で、すごく見た目は令嬢風の女から「メス奴隷」ときたもんだ。俺はちょっとだけ焦ってしまう。元カレはどんな調教してたんだよ。俺からすると今回ので結構満足だったんだが。

 藍はその後、少しのんびりと朝食を摂ってから俺が最寄りの駅まで送っていった。最寄り駅から徒歩数分のところに住んでるらしく、俺はそれじゃあこれからはこの駅で待ち合わせか、大学の最寄りで待ち合わせることを約束し、そのまま碧の家まで恵美を迎えに向かうのだった。

 

「恵美」

「……なんですか」

「ごめん、言い訳もできねーから謝っとく」

「別に、ご主人様は悪──いですけど」

「そうだな」

「……ご主人様はバカです、ひどい人です」

「合ってるよ」

「でも、私のご主人様です」

 

 その言葉に俺は何かを返そうと考えていると、赤信号に止まった。俺の太ももに恵美の手が乗り、一部分が少し高い恵美の体温によって温められる。俺はそれに対して頭に手を乗せて眼の前に手を出した。何を言いたいか察した恵美は太ももから手を俺の手に重ねて指の間に指を通し握った。

 

「ごめん」

「ダメです。私は、絶対に許しません」

 

 恵美のまっすぐな宣言に、信号が赤色から青色に変わり、俺はアクセルを踏んでいく。

 これからも、俺は藍に会うんだろう。そして身体を重ねる。それが恵美を傷つけてしまうことであり、逆に恵美を傷つけないようにするための方法でもあった。

 

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