おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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Part18

 蒼山藍の本性が本格的に出始めてきたのはセフレになってから更に二度目に会った時のことだった。昼まで用事……というかどっかのバカネコがデートがしたいだのわがままを言い、それを優先して、夜になってからいつものように最寄りの駅に迎えに行くと、ロータリーの近くにいない。連絡しても返事がこないことがあった。おかしいと思って車から降りて周囲を確認すると──またテンプレなことに男性二人に囲まれていた。

 

「そんなこと言われても、あのわたし、待ち合わせが」

「ずっと待ってて来ないんだしさ、後で連絡すればよくない? とりま一杯パーッと飲もうよ! 奢るからさ!」

「──藍」

「あ……!」

 

 どうやら結構前から待っていたようで、スマホや時計をチラチラと伺ってたことから行けると思ったのだろう。俺は敢えて不機嫌そうな声で名前を呼ぶと、本人は嬉しそうに、そして男二人は怪訝そうな顔で俺に目線が合う。そして潔く会釈をして去っていく。ナンパに肝心なのは引き際、なかなかの手練だったようで俺はちょっとだけほっとした。これで変な目に遭ったなんてことになったら俺が碧になんて言われるかわかったもんじゃねーからな。

 

「ごめんなさい、お手を煩わせてしまいました」

「そんな大事(おおごと)じゃねーよ。なんかされてないか?」

「はい……大丈夫です」

「というか、待たせてたか」

「いいえ、わたしが言いつけの時間も守れず、前から待っていたせいです。わたしの不手際ですから」

「気にしすぎじゃないか?」

 

 深緑で薄手のノースリーブニットから出る細く白い、華奢な腕を俺の腕に巻き付け、小さな装飾のついたネックレスがチャリと音を鳴らした。下は黒のロングスカートで、ヒールも相まってまたエレガントな印象を俺に与えていた。サラサラというよりふわふわの赤茶色、アプリコットオレンジの髪に指を通すとくすぐったそうに微笑んだ。

 

「こんなに優しい指が……いじわるになってくれると思うと、ぞくぞくします」

「公共の場で発情しないでくれよ、家に着けば幾らでも鳴けばいいけど」

「……はい」

 

 三度目でだいぶスムーズにしゃべるようになってくれた藍だが、それが逆にまずかったのではと思わせる内容だった。言葉の節々に見せる俺を自分の主従関係に巻き込もうとする言い回し、狂ったような快楽への渇望、そして、被虐的で淫蕩に染まった思考回路たち。それを恋人でもなんでもない、セフレの俺に向けてきてるという事実。

 

「行くぞ」

 

 本当にどうしろって言うんだよと碧とここにいない後輩に愚痴りそうになる。藍が求めるものは、セフレや性欲をどうにかする方法なんかじゃなくて、自分を視て、束縛して、愛して、犯してくれる恋人だ。強烈な承認欲求というべきか、それを男に求めるのが当たり前みたいな感覚で俺に求めてくる。

 

「もっと、もっとください。愛してください、構ってください、犯してください、優しくしてください、ひどいことシてください、わたしはあなたの奴隷です……」

 

 病んでる、だなんて切り捨てるのは簡単だし実際結構病んでるような気もする。だが()()()()()()()()の女をセフレとして寄越すような、言い方は悪いがガチガチの事故物件を寄越してくるような後輩じゃねーことは俺がよく知ってる。だから、このまるで暴虐で暴君な構ってちゃんの本質を見極める必要がある。

 

「嫌です、ご主人様が他の女の子とえっちしてるの嫌なのに、しかもメス奴隷とか、羨ましい……じゃなくてれっきとした浮気ですよ」

「処女がメス奴隷とか言ってんじゃねーよ」

「じゃあ今すぐ犯してください、私を処女じゃなくして、ご主人様からもらえる快楽の虜にでもすればいいじゃないですか」

「わかったわかった、拗ねんなって、ほら」

「ん……」

 

 ──そもそも、去年度までの俺じゃ藍の感情に太刀打ちなんてできなかっただろう。だけど、感情だけならいっちょ前にデカいのを持ってるやつが傍にいてくれてるからな。わがままで困ったやつだが、一応碧も恵美を扱えているからこそ俺に紹介したんだろう。

 

「……むふん」

「なんのリアクションだ」

「最近のご主人様は抱きまくらに慣れてよくハグしてくれることが増えたのでちょっと満足してます」

「説明口調やめろ」

「このまま性的な意味でも抱いちゃいませんか?」

「うるせーもう寝ろ」

「寝ません、ご主人様の寝顔を視姦しながら寝るので」

「……お前もう自分の部屋で寝ろ」

「じょ、冗談じゃないですか、信じちゃったんですか?」

「毎朝人の股間をまさぐろうとしてくる女のセリフだからな」

「誤解です!」

 

 なにがだよ。挙げ句は別々に寝ても朝起きたらベッドに潜り込んできて、寝ない時はさわさわと興味津々で触ってんじゃねーか。俺は知ってるからな──と、エロネコの話はここまでしといて。そんなわがまま放題の恵美を飼うようになってから、俺の中でどうやら「めんどくさい女」のハードルが急激に低下しているらしいことがよくわかった。

 

「はぁ……ふぅ、今日も……ありがとうございました」

「……ああ」

「何か、何か不満でしたか? もしかして、お口、気持ちよくなかったですか?」

「いや、違う」

「不満があれば言ってください、直します。技術が足りないなら勉強しますし、開発したほうがいいのなら一週間のうちに──」

「──そうじゃなくて」

 

 まくしたてられ、俺はちょっとだけ語調を強めて制止の声を出した。藍もそれを察知して、マシンガンのような口を閉じてくれた。願望と欲求の塊みたいな女だな藍は。尽くしてきて、全てを差し出し、束縛されることに依存しているほど愛していたカレシに捨てられた時の言葉がどんなものだったのか、そしてその時のショックや絶望がどれほどだったのかなんて俺には全然わからない。捨てられたなら別に次を探せばいいだけだし、身体の相性のいい男なんて他に幾らでもいる。なんならそれがカレシじゃなくても別に変わんないだろ。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「俺は、お前のご主人様(カレシ)にはならねーし、なれない」

「それは、わかっています」

「だからって別にセフレは奴隷契約でもなんでもない。ただ満たされないから求め合うだけの関係だ」

 

 それだけ、セックスだけを念頭に置いた関係だからセフレなわけだしな。そこに余計な感情を持ち込んでも重たくなるだけだし、せっかく何も考えずにただ気持ちよくないたいってだけの感情でヤレる相手だってのに、そこに重いもん乗せすぎてる。まぁそういう遊びは初心者だから、無理もないか。

 

「もっとシンプルでいいんだよ──たとえば、好きだったって気持ちでもな」

「……それは」

「多くは語らなくていい。ただ寂しい時に、一人が嫌な時に、便利使いしてくれりゃそれでいいんだよ」

 

 そしてカレシができて、本当に幸せなら疎遠になっていくくらいが俺は()()()()と思ってる。万が一そこで執着を少しでも感じるようなら、俺はそいつに本気で入れ込んでるって証拠だろう。非常に残念なことに、今恵美から例えばカンベとか言うやつに惚れ込んでて、もう一緒にいられないと言われたら俺はやめとけよと引き止めてしまうだろう。もしかしたら、そういうの全部飲み込んでおめでとうって返せるほど俺が大人って可能性はあるが。大人ってのは見栄っ張りなんだ。

 

「お前が求めるのはセフレに捨てられないようにすることじゃなくてさ、いい、って思える誰かのカノジョになれることなんだよ。そんで堂々と宣言して俺におめでとうと言わせてくれよ」

「……どうして?」

「俺がセフレだからな」

 

 俺は藍に対して独占欲なんてない、執着も、今いなくなられたら完全なる別件で困るが、でも今すぐにいいって思えるカレシを見つけたのなら俺はおめでとうって言える。会ってセックスして別れる、そんなサラッと乾いた関係が、セフレの良さみたいなもんで、俺の考えるセフレの在り方だ。

 

「それにお前、多分奴隷なんて向いてねーよ」

「え?」

「注文つけすぎ、喘ぎ声うるせーのは別にいいけど、普段からきゃんきゃん鳴き喚きすぎだろ」

「えっと、もしかして次は暴言を言われるプレイですか?」

「もう今日は終わっただろ、ほら」

 

 両手を広げて寂しがりの駄犬を甘やかしていく。一瞬戸惑い、そしておずおずと俺の腕の中に収まった藍はこの時ばかりは完全にメンヘラちっくな病んだ姿でも、立ってるだけで絵になりそうなほどの令嬢のような涼やかさもない。ただの十九歳の子どもの顔で、そして文字通り犬ようにひたすらに甘えてきた。

 

「そうそう、前のカレシとの失敗なんて改善しなくていいんだよ。お前はお前でいいって言ってくれるやつ、この世には死ぬほどいるだろうからな」

「はい、()()()()()()()()

「……ん?」

 

 締めくくりの言葉を放ち、めでたしめでたし、と思いきや──なんか聞き捨てならない単語が聞こえてきた。なんて? わたしの、ご主人様? ちょっと待て、俺はさっと血の気が引いたように藍を引き剥がす。不満そうにしていたが、ってすっかり甘えん坊の本性を隠す気がなくなったな、お前さては恵美より警戒心ってものがないな。

 

「ちょっと待て」

「はい」

「あーね、そういう待てじゃなくて」

 

 ピンと背を伸ばして期待の眼差しをされる。躾けるつもりは一切ねーんだけど。どうやらまぁ不安になると暗くなってマシンガンを思わせる言葉の連続で、吠えて吠えて気を引こうとするが、本当は外面がいいだけの忠犬、ということらしい。

 なんなんだ俺は、何かの動物を引き寄せる才能に目覚めでもしたのか。

 

「藍」

「なんでしょうか」

「最初に言ったよな、預かる気はあるが飼う気はないってな」

「ですが」

 

 ですが、じゃなくて俺はセフレだ。確かに今はお前の望む存在なのかもしれない。でも、俺と藍を繋ぐものは文字通りの性欲だけなんだ。肉体的に繋がりはあっても心では繋がってない。そういうドライな関係がセフレなんだ。

 ──もっとはっきり言うとお前のシモの世話はしてやれるがご主人様とやらになるつもりはないし、そもそもなれない。

 

「確かに、藍には首輪が必要なのかもしれない。いやお前暴走気味だし絶対いるな、リードと首輪は必須だ」

「ですから、ご主人様になっていただいて、首輪をつけてほしいんです」

「それは、恋人の役割だろ」

「でも、お前はお前でいい、だなんて……初めて言われて」

 

 そう言って頬を染める藍に俺は顔を引き攣らせていた。あ、ああ俺やらかしたな。メンヘラのツボを突くとか一番やっちゃいけないことしてる。すっかり最近、あの家出ペットを甘やかす時のクセが出ちまってるな。あれも多少メンヘラっていうか自分に迷いが出るけど、その度に俺に甘えてきて、俺がそれっぽいこと言ってやると喜ぶから。エサの上げ方を学んでしまっていた。うっかりエサを与えてしまった。

 

「恋人とか、セフレとか、どうでもいいんです……わたしをあなたの飼い犬(ペット)にしてください」

 

 リードを引く役目なんて、勘弁してほしい。こちとら自由気ままな飼い猫一匹で手いっぱいなんだ。俺はどう説得しようかと頭を悩ませることになった。

 ──ちくしょうやっぱ恨むからな碧、こんなめんどくせーの紹介しやがって。

 

 

 

 

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