おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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最近忙しくて書く暇がなかったですごめんなさい!

気づいたらお気に入りが四桁に、本当に感謝感激です!

もう終点に近づいていますが、どうか最後までお付き合い願います。





Part19

 早い話、困ったことになった。セフレに惚れられて──惚れられてるでいいのか? 懐かれてる、の方が適切な日本語な気もしてならないが、とにかく蒼山藍とかいうセフレの態度があからさまに変わった。

 こいうことがなかったわけじゃない。わけじゃねーけど、今回は勝手が違うし向こうもいつものセフレとはワケが違う。

 

「……なんだよ」

『声が聴きたくて電話してしまいました』

「そうか」

『今、おうちですか?』

「そうだけど」

『会いたいです……わたしのご主人様』

 

 ってな具合で。電話も頻繁にしてくる、流石に会いたいと言いつつそれに対して拒否をしてもわがままを言ってくることはない。俺はお前のご主人様になったつもりはないと言っても頑なに飼い犬を自称してくる。

 ──何が一番めんどくさいって、ウチのなし崩しペットこと栗原恵美の嫉妬がヤバいところなんだよな。

 

「今、また電話してましたね」

「……音もなく後ろに立つな」

「浮気ですか」

「してねーよ」

「う、んん……はっ! さ、最近のご主人様は私を構えばなにしてもいいとか思ってませんか?」

「元々だろ」

「……こう、ちゃんと飼ってもらえるという安心感はあれど、これは納得できません」

「はいはい」

 

 すかさず気配を察知してやかましく甘えてくる。無駄にエロい身体つきの癖に薄着でくっついてこられるのは非常に厄介だが、抑える方法もなんとか確立しつつあった。まぁ子どもっぽく嫉妬して甘えてくるところが一番性欲湧きにくいんだが。不満を解消するというかやり過ごすために撫でているとしばらく気持ちよさそうにしていたがパッと顔を上げた。

 

「恵美?」

「碧さんは、どうして……ご主人様にその人を紹介したんでしょう」

「お前、理由訊いてねーのか」

「訊きました、訊きましたけど……」

「納得してないってか?」

 

 恵美は不安そうな顔で頷いた。そりゃそうだよな、恵美からすれば碧に裏切られた、とでも言う感覚だもんな。

 忘れかけることが多いが恵美は恋愛とか駆け引きとかそういうことに関してなんの経験もしてきてないポンコツなんだ。碧はそんなこいつにとって強力な味方だったんだもんな。

 

「今の私、めんどくさいですか?」

「結構な、なんならむしろ前から」

「う……ごめんなさい」

「だめとは言ってないけどな」

「……そういうの、ズルなんですよご主人様」

 

 多少はこうして甘やかし、似合わねーような甘い言葉を吐いて恵美の不安を和らげてやれるけど、根っこがなにも解決してない以上、この爆弾を抱え続けることになる。もう今週末には出掛けるっていうのに、これはどうにかした方がいいのかもな。これが、長くは続かねーだろうってことは、表情からすぐに読み取れる。

 

「今日はもう寝るか」

「はい」

 

 当たり前のように一緒のベッドに寝ようとしてくるが、もう特にリアクション取ることもなくなった。こういうのって一度許すとなし崩しなんだよなってことを強く実感する。しかも何がだめってこいつ抱き心地いいし寝相もいいから抱き枕として優秀すぎることだ。

 

「おやすみなさい……ご主人様」

「おやすみ、恵美」

 

 俺にとって恵美って本当になんなんだろうな。藍から飼い主になってほしいと言われるとすごく拒絶感があった、拒絶というかそれはナシだろうみたいなことを感じたのに、恵美はこうしてするりと俺の腕の中に潜り込んで飼い猫としての地位をすっかり確立している。捨て猫だったはずの愛に飢えたペットは、今では俺の腕の中で少し安心した顔をしていた。

 

「……どこにもいかないでください」

「大丈夫だ、俺はここにいるよ」

「はい……」

 

 最近は晴れてきたと思ったのに、また曇り始めていることに俺は焦りを抱いていた。忘れがちだが、恵美は脆いんだよな。だから本当にどうにかしねーと、崩れ始めたらしばらく長引きそうだ。恵美の寝息を確認してから、俺はゆっくりと目を閉じた。きっと、藍も同じ気持ちなんだろうがかと言って二人が共存できるとはとても思わねーんだよな。だからこそ身を切るなら俺がやるしかねーんだってことは明らかだった。

 

「とりあえず、どうするんですか」

「……恵美のことを伝える」

「私のことですか?」

「恵美も藍も飼うなんて真似、俺にはできねーってのは確実だからな」

「そ、そうですよね……」

「だから俺には既に手のかかるペットがいるって言わねーと、藍だって意味もわかんねーまま捨てられて──結局同じになるかもしれないからな」

「はい」

「恵美?」

「それよりも、野良犬さんに構ってばっかりで、デートの話が疎かになってるんじゃありませんか、ご主人様」

「あ、ああ……ごめん。今日は」

「はい、デートの日ですよ」

 

 本当にそれはそうだ。恵美の言う通り俺は藍のことを考えてばかりで、疎かになっている気がするな。デートって言っても予定が空いてるだけで何をするとか決めてねーんだけど、どうするんだと問いかければ恵美は買い物ですと微笑んだ。ショッピングか、何か欲しい物でもあるのか。

 

「水着です。プールに行くのに、新しい水着が欲しいんです」

「なるほどな、じゃあ仕事終わったら連絡する」

「はい……残業はありそうですか」

「どうだろうな、ほぼないと思ってくれて構わねーよ」

「ならお昼の連絡、待ってます」

「わかった、行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 

 玄関の扉を開ける前に抱きつかれ、いつの間にかこれも許してるなと自嘲しつつ最初の時よりもちょっとだけ明るくなったブロンドを撫でた。同時に以前よりも仕事へのモチベーションが上がり気味なことにも。

 いつの間にか恵美のいる空間を守りたいと思ってる自分がいて、当たり前になってるこの日常が俺に充足感を与えてくれている。順番がどうとかの問題じゃねーのかな、なんて考えることもあるが、()()()()()()の俺の結論なんだろう。

 

「悪いな恵美、もうちょっとかかりそうだ」

『はい、大丈夫です』

「終わったら連絡する」

 

 こういう時に限って、俺は運が悪いようで定時直前でトラブルが発生してしまった。幸いそこまで深刻なものじゃなく、予定よりも一時間半遅れで俺は退勤した。部署ではすっかり俺が独り身が寂しくてペットを飼ったことになっており、慌ただしく帰っても温かい目をされる。そのペット、実は人間のメスなんですって言ったらどういう反応をされるのか、想像したくねーな。

 ──今日もそんなプレッシャーのかかる視線を背中に受けつつ車を走らせ、車庫に止めてから着いたと連絡をしつつ着替えるために玄関に向かおうとすると、そこには嬉しそうな顔で俺に縋り付こうとしてくる藍がいた。

 

「あ……ご主人様」

「──藍?」

「近くに、用事があったので寄ってしまいました」

「おどかすな、マジでストーカーかと思ったからな」

「そんな……ご主人様を脅かしたり不快にさせるなんてっ、ぜ、絶対にしません」

「そうか」

 

 藍に対して警戒しているが、そうだよな。こいつはどこまで行っても名乗り通り犬だ。甘えたがりで暴走しがちな、決して賢いタイプじゃないだろうが、だがそれでも発言にしているように俺の怒りを買うことを恐れてるはずだ。捨てないでと縋るような女がストーカーにはなるだろうが、カレシに捨てられて塞ぎ込んでいたのだから。だが、タイミングは最悪だった。車庫の音を聞き届けていたせいか、それとも連絡から時間が空きすぎていたせいか、わからないが玄関の扉が開いて、そこからすっかりデートスタイルの恵美がいい笑顔で出てきた。

 

「ご主人様、私はもう準備──」

「……え」

「マジかよ……」

「こ、この子……この方は、一体?」

「もしかして……蒼山藍さん」

 

 恵美の言葉に藍が僅かに頷く。俺はこれは最悪の状況だと頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。こうなる前にちゃんと藍に説明したかったし、恵美に説明したことを説明して安心させたかったってのに、これはまずい。そして俺の嫌な予感の通りに、恵美が動揺し始める。そりゃそうだ、デートをすると言っておいて玄関まで来たら別の女がいるんだからな。

 

「……藍、説明は改めて──ってことでいいな」

「ど、どうして……ここで説明してくだされば」

「そうですよ、説明してあげてください」

「けど」

「……明日でも、大丈夫ですよ」

 

 ああ、こうなると恵美はきっともうテコでも動かねーんだろうな。藍を招いて俺は碧に密かに連絡しておくことにする。これは対応を後回しにした俺の責任だ。いつかはこういうしっぺ返しを食うと思ってたところだ。

 ──後から、俺は後から気づくんだろうな。めんどくせーって後回しにしてたことが自分を苦しめるんだから。自分の指からこぼれ落ちていく幸せを眺めながら、あああの時言っておけばよかったってな。覆水盆に返らず、後の祭り、俺の人生に相応しい言葉だ。

 

「こいつは栗原恵美──藍、お前が望む立場にいる女だ」

「……あなたが、この家にいる、ご主人様の」

「どうも、ただあなたは私の望むものを持っていますけど」

「どういう?」

「私と彼に、身体の関係はありませんから」

「色々あってな、俺は藍の期待には応えられないんだ。俺には、恵美(こいつ)がいるから」

 

 藍はそれに対してショックを受けたような、絶望したような表情をした。こいつからすればカレシに捨てられて、否定されて、エサをくれて肯定してくれる俺って存在を強く求めていたんだろう。だけど、そこには予感していたとはいえ自分の欲しい物を全て持ってる恵美がいて、恵美も恵美で、藍は自分が思ってる唯一足りないものを持ってる。だからこいつらは本質的に相容れない、水と油なんだ。

 

「その子、もしかしてわたしより年下じゃないですか?」

「……そうだな」

 

 そこで動き出したのは藍の方だった。女性として非常に魅惑的な肉体をしているとはいえ、恵美はJKっぽさは抜けてない。そもそも恵美もそこまで背伸びしても失敗するだけだと碧にアドバイスされたらしく、せいぜい大学生に見えるかどうかくらいの格好をして一緒に出掛けようとする。家での姿なんてまんまJkだ。そこを、藍は指摘した。

 

「十八歳未満を……傍に置いておくのはすごく、リスクのいることだと思いますが、それをわたしに明かして……覚悟はあるんですか」

「こ、この人を脅そうって言うんですか……!」

「恵美」

「でも……っ!」

「これは、受け止めなきゃならねー事実だろ。誰かに打ち明けるってのは、それだけリスクを背負うことだって」

「……それは、そうですけど……けど……」

「藍も、あんまり恵美を不安がらせるようなことは言わないでくれ、俺はお前のこと、嫌悪の感情で見たくねーんだよ」

「も、申し訳ありません……差し出がましいことを、しました」

 

 めちゃくちゃにへりくだった言葉たちにどんな世界観だよと一瞬思ったが、藍の焦り方からしてこいつはこいつで俺のことを想っての発言、関係性的に表現を変えると諫言という見方もできそうだが、とにかく俺がいつか悪意ある誰かによって恵美との関係に後ろ指をさされると、忠告した。もちろん藍がそれをするとは思わないけど──でも差し出がましいことというのは事実だ。俺はそれを承知の上で、あの雨の日に恵美を拾った。そして今傍に置いてる。その覚悟を軽く見られるのは、さすがの俺だってむかっ腹の一つや二つは立つんだよ。

 

「とにかく、今日は帰れ。必要なら送ってやってもいい……だけど、恵美を悲しませんのは金輪際やめろ」

「は、はい……ご、ごめんなさい栗原さん」

「い、いいえ……っ、蒼山さんの言葉は、正しいでしょうから」

「さて、恵美、着替えてくるからお茶くらい出してやれ」

「……明日でも」

「それじゃ意味ねーんだよ」

「ご主人様……」

 

 これ以上、恵美を後回しにするのはよくない。よくないってのはよくわかっていた。だからこそ見逃していた。ちゃんと見ていたからこそ俺は、恵美の次の行動に気づけなかった。あるいは、どっかで無邪気に、トラブルはあったもののこれからも同じ日々が続くと思い込んでいた。よくよく考えるとバカで頭がお花畑な思い込みだ。もうとっくに手遅れだったってのに。

 ──翌日、仕事から帰ると恵美はいなくなっていた。手紙とスマホが置いてあり、そこには簡素な別れの言葉が綴られていたことで、俺は初めて自分がやらかしたことの大きさに気づいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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