おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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Part2

 ──事情を訊き、単純にまとめるとこの女、栗原(くりはら)恵美(めぐみ)は「いい子ちゃん」だけど「悪い子」になりたかったんだそうだ。自分はいつも真面目で、運動も勉強も家事もなんでもできて、独りで生きていけるくらいの能力を持ってて、でもふとした時にそれは果たして幸せなんだろうかと考えたんだそうだ。

 

「そこで、クラスにギャルっぽい子がいて──違うクラスの男子とお付き合いをしてました。素行不良で、いつも赤点ギリギリですけど、その子の方が……その」

「充実してた、幸せそうに見えた──か」

 

 俺が言葉の続きを奪うと、力なく首肯する。次第に恵美は自分がしてきたことへの虚しささえ感じるようになったらしい。親に言われていいとこの出のお嬢様としての気品みたいなのを身に着けて、ふさわしい人生というものに──自分である必要性を失った。だから、栗原恵美という器をぶっ壊した。

 

「でも、格好を変えて、家出しても……どうしたらいいかわかんなくなっちゃって」

「なるほどな、それで雨の中、捨て猫みてーな顔してたわけだ」

「……ん」

「じゃあなんだ、所謂神待ち、みたいな女が何をするかなんて知らなかったんだな」

「……神待ち?」

「お前みたいに家出して泊まる場所に困ってる女のことだよ」

 

 そこで男に頼れば代償は身体以外の何物でもない。俺も合意があればいただく気満々だったしな。わざとそう言ってやると恵美は顔を赤らめて袖を握り込んだ。多少の葛藤があったのだろう、再び上がってこちらを見る顔は覚悟に染まっていた。本当に、くだらない。

 

「……それで、泊めてくれるのが、チャラになるなら……いいですよ」

「まだそんなくだらないこと言ってんのか、さっきまで熱あったんだ、とっとと風呂入って寝ろ」

「え……なんで」

「その気になったらいつでも襲ってやるからな」

「……は、はい」

 

 それは合意とは言わない。少なくとも俺の中での合意ってのは、セックスをしなきゃいけないじゃなくて、セックスしたいって思うことだからな。だからパパ活とかもあんまり好きじゃねーんだよな。あれはセックスが目的じゃなくて、お金が目的だ。それで嫌悪を抑え込みつつ抱かれにくる女なんて、こっちから願い下げだっての。

 

『そういう偽善者なところ、センパイらしくて濡れちゃいますね』

「黙れ虚言癖、お前は見た目と中身交換しろ」

『その恵美ちゃん? とですか? あはは、これはぁ、清楚系が好きな男の人が圧倒的に多いからに決まってるじゃないですかぁ〜♡』

「清楚系ビッチとか流行らねーから」

『好きなクセに〜、じゃあまた落ち着いたらセンパイの溜まった性欲、発散させに行きますからね〜』

 

 もう一度うるせぇと言って、色んなことを頼んでおく。こういう時、この思考回路と股の緩い後輩は便利だ。頼りになると言ってやってもいい。でも合意ってのはこういうのでいいんだよな、別に性行為に覚悟とか、重たいもんなんて乗せてほしくはない。そんなの萎える。楽しいから、気持ちいいから、それでいいんだよ。

 

「なぁ恵美」

「はい」

「これからどうするんだ、お前」

「どう……どうしましょう」

「だろうな、帰る気は?」

「それは……その」

「まぁいい、つか高校どこだよ」

「あ、高校はそんなに遠くなくて、家とは電車で二時間くらいですけど……」

 

 そんな遠いのかとびっくりした。そんなんならもうほぼ始発出じゃねーか。それを毎日やってたら確かに頭おかしくなるわ。そして学校帰りにそのまま帰らなかったと。そんなことしたら親はめちゃくちゃ心配してるだろ。そう言うと恵美は首を横に振った。

 

「両親とは朝、喧嘩して……もう出ていくって」

「それでマジで出てくと思う親はいねーって、たぶん」

「いいんです……私なんていなくても」

「はいはい、わかった。しばらく置いといてやる」

「……え? な、なんで……あ」

 

 何かに気付いて自分の身体を隠すようにする。だから俺はお前が迫ってこなきゃ襲ったりしねぇって。つかむしろ知らんおっさんとかに犯されたくなけりゃ俺んちに居たほうが安全だ。それによっぽどじゃなきゃ俺んちより広い神様はいらっしゃらねーと思うぜ。戸建てで独り暮らしてる虚しい男なんて。マジで俺くらいなもんだ。

 

「どうして、そこまで?」

「お前がイイ女だから、恩義を感じて処女捧げていいって思えるように点数稼ぎしてるんだよ」

「……それ、私に言ったら意味ないんじゃ」

「それと、とりあえず明日休みだろ? 服とか買い物行くからそのつもりでな」

「わかり、ました」

 

 明日の約束は取り付けたし、とりあえず俺のモヤモヤ、もといムラムラの解消の予定が出来て安心した。

 本当に、気まぐれだ。気まぐれに捨て猫を拾って、このまま放すとどこかで野垂れ死にしてしまいそうで、それだと寝覚めが悪いからと助けた責任を果たしてるに過ぎない。

 

「本当に、何もかも……お礼とかって」

「捨て猫がいっちょ前の口利いてんじゃねーよ」

「私は……」

「難儀なやつだな」

 

 ソファはそこで寝ることもできる広さのものを買っておいた。そこで寝ようとする俺を見て一緒に寝てくれるのかと訊ねるともちろん拒絶が最初に出てくる。そんな状態で、よく他人に気を遣えたな。まぁ両親によって男とは無縁で育てられてきたんだろう。そんな箱入りを手籠にするには過程がめんどくさいためパスだ。やっぱすぐに抱ける女のがいい。

 

「というわけで、私は長月(ながつき)(みどり)、こっちの女子高生監禁おじさんの高校と大学の後輩です!」

「は、はぁ……よろしくお願いします……監禁?」

「聞き流しとけ、そいつ虚言癖だから」

「ひどいなぁ」

 

 監禁してねぇから、むしろ保護してんだわ。まぁ世間的にはそっちの方が近いかもしれないけど。

 ストレートの黒髪ロングで化粧もおとなしめで、露出の少ないガーリーな衣装が似合うちょっと童顔な碧は男ウケがバカみたいにいい。ただ中身はセフレとカレシを複数持つとんだビッチだけど。あ、いや今はどうなんだろうな。

 

「ごめん碧、巻き込んで」

「殊勝な態度になるくらいなら捨てていらっしゃい」

「なに目線だよ」

「……センパイの顔、嫌だって思いっきり書いてるから」

 

 なんだそれは、まるで俺が恵美に執着してるみたいじゃねーか。反論しようとしたが、碧にはどうでもいいと一蹴されてしまった。

 買い物の理由は服とか下着とか、生理用品とかの確保だ。イマドキはネットとかで買えばすぐだが、恵美は明日の着替えにすら困ってる状態だ。今は雨に濡れた時の制服姿で、恐らく下着もその当時のものだろうが、借り物でずっと過ごすのは居心地悪いだろう。

 

「俺もついていかなくちゃいけないのか?」

「娘の買い物付き合えないお父さんはダメですね〜恵美ちゃん?」

「……流石にそんなに年齢離れてないだろ」

 

 恵美は高校二年生らしい。すると今年17歳か、八歳差で十八歳未満──手出したら問答無用で犯罪だな。またなんでこんな微妙な年齢の女を拾っちまったんだろうなぁ。

 結局荷物持ちやら事情聴取も兼ねて俺も連行されることになった。後は車を出せってことなんだろう。

 

「なんかミスマッチだ」

「だな」

 

 後部座席にちょこんと座るブレザー姿の恵美は金髪にきっちり着崩すことのない制服という妙なミスマッチが面白かった。一応学校の連中にバレないようにな、とは言ったけどおそらく普段は黒髪で真面目な委員長のこいつがすぐにバレるようなことはないだろう。多分。制服着てるから、どうだろうな。

 

「ミスマッチって、なんかエロスを感じる……」

「よくわからん」

「私がギャルっぽい格好したら喜んでたのに……あんなにがっついたのに」

「虚言癖やめろ」

 

 そんな記憶はない。俺に変な性癖を付け足そうとするな。俺の性癖らしい性癖は女が愛情とか関係なしに俺って男との行為に溺れてる瞬間だ。なんか変な方向の話になったから現状無理やり禁欲状態なのを思い出した。隣にいるのがセフレのためちょっとムラムラしてきた。二人きりだと脚くらい触っても許されそうだが、果たして今はどうだろう。リスキーなので試せるわけもなく。

 

「お金出そうか?」

「いらねぇよ、つかお前も服とか買いたいもん買ってやるよ」

「出たーセンパイほんと貢ぐよね〜」

「貢ぐわけじゃねーよ、金に糸目を付けない方が、女側も迷いが減るだろ」

「そういうところは、センパイは高校の時から変わんないよ」

「そうかもな」

 

 高校の時から、実家は裕福で、つか実家が裕福でもなけりゃ二十代で戸建てに独り暮らしなんてバカみたいなことできっこなかっただろうけど。親父は投資家、おふくろは政治家の秘書、んで俺はその愛する独り息子でありドラ息子ってわけだ。当然親は優秀な男子にしたかったんだろうが、幼い頃からなんでも与えられつつ、肝心な親として必要なもんを与えられずに育ったことで、それをくだらないと思うようになった。

 

「金なんて、余分に溜めておくよりも自分の好きなことに使うほうが有意義だろうが」

「センパイずっと女好きだもんね〜」

「お前が俺を知るより前からな」

「あー、脚触ったな〜?」

「そこにあったからな」

「後で〜」

「わかってるって」

 

 その碧との会話をきっと後ろの恵美も聞いていることだろう。それに対してどう思うか、それとも碧に話を伺ってどう対応するか。俺は来るもの拒まず、去るもの追わずがモットーだ。

 まぁ少なくとも、箱入りで男も知らねー処女にだって俺んちに居候し続ける危険性くらいは、わかってくれてるだろう。そして助手席に座る女とどういう関係なのかも。

 ──この時点では、自分がどういうことをしようとしてるかなんてあんまり気付いていなかった。碧はとっくに気付いていたみたいだが、面白がって止めずにいたらしい。性格悪いな、俺の後輩は。

 

 

 

 

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