おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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Part6

 恵美はテントでの睡眠も、コテージでの睡眠も中々快適だったようだ。そして、そのままの帰り道、俺は転がり込んで、すっかり俺んちに馴染んでしまった元捨て猫JKと水族館デートなんてことをしていた。

 チケットを買いたいと言い出したのでスマホを渡しておく。

 

「このアプリな」

「え、これお金になるんですか?」

「おい箱入り、それじゃあ電子機器に弱い年配者みたいになってるぞ」

「だって!」

 

 使ったことねーのはわかったから。つか話によるとアプリとかのダウンロードにも制限がかかってたらしい。お前んちどんだけ過保護なんだよ。現在恵美が持ってるスマホは好きにダウンロードできるし、なんなら制限とかかかってねーから知らんところで使いすぎなきゃ勝手にしてくれって感じだ。

 

「引き継ぎとかできなかったけどな、誰かさんが破壊した上に電車に置き去りにしたせいで」

「いいんですよ、あっちの連絡先があると特定されるかもしれないし」

「特定ってか、捜索願出されたら一発で見つかるけどな、学校通ってるんだから」

「その時は、その時考えます」

 

 出たとこ勝負かよ。呆れているとそれじゃあ行ってきますと受付に並びに行った。バーコード決済、ちゃんと使えたか心配になったがチケット二枚持って笑みを浮かべてるところを見るにどうやらちゃんとできたらしい。

 思わず頭を撫でそうになって、手を引っ込めた。危ねー危ねー。

 

「褒めていいんですよご主人様」

「外でその呼び方をやめろって何回言ったよ」

「褒めてくれないとペットは懐きませんよ」

「拾っただけで飼ってねーから」

 

 お前は元捨て猫ってだけで飼い猫じゃねーよ。最近は妙に家に馴染んでるせいで忘れがちだけど、俺はお前をずっと置いとくつもりはないんだよ。抑圧された思春期の発露ってことで悪い大人に利用されねーようにって場所を提供してるだけ。

 

「ヤリ捨てるんですね」

「ヤってねーだろうが、過去を捏造すんな」

「……お兄さんになら、飼われてもいいんですけどね」

「わけわからんこと言うな」

 

 だがそれ以上は何か言い合うこともなく、デートは順調だった。色んな場所にスマホを向けて、非日常にキラキラと顔を輝かせる。まるで小さな子どものように水槽にべったり張り付いて、はしゃいでいた。

 

「アザラシ、かわいい……!」

「アザラシがお気に入りか?」

「はい、あ、お兄さんのお気に入りはなんですか?」

「俺? ん、まぁ……クラゲ?」

「クラゲですか?」

 

 まぁあんまり水族館でこの動物がってキラキラお目々ではしゃぐことなくて、女に合わせてハイハイって付いてってるだけだからな。なんなら暗がりなのをいいことにちょっと際どいところ触ったりするのが楽しいまであるし。まぁでも強いて言うならクラゲかな、クラゲの水槽が特になんとなくデートスポットって感じするからな。

 

「デートスポットっぽいから、クラゲですか」

「腕組んでゆっくり眺められるだろ? イルカショーとかよりも俺はそういう落ち着いた感じが好きなんだよ」

「なんか、すごくそれっぽい理由でした」

「だろ?」

 

 俺が水族館とかよく行くのも学生の時は多少デートしてたからなんだよな。大人になって仕事が始まるとそういうのめんどくさくて、デートとかすっ飛ばしてホテルなり家、最低限だと飲みかレストランとかで雰囲気作ってそのままお持ち帰りとかな。こうやってデートっぽいデートってのも、随分久しぶりだ。碧なんて「デートってカレシ以外と行くと面倒事になるんで」とか言って居酒屋くらいしか一緒に行かないんだよ。

 

「なら、私とのこれも、めんどくさいですか?」

「なんだよ、そんなことないって甘やかしてほしいのか?」

「……そうですよ、当たり前じゃないですか」

「めんどくせーに決まってんだろ」

「う……」

「めんどくせーことでも、ただこうやってどっか出掛けるのが楽しいから、デートなんだからな」

 

 なんか、恵美といると思い出すよな。初めてのデートの時、色んなこと考えてめんどくさくて、頭抱えてて、そうしたらそん時のカノジョが笑って言うんだ。

 ──好きな人と好きなところに行くのが楽しいんだから、大丈夫だよってな。

 

「それ以来、俺はあんまりデートの時に何かごちゃごちゃ考えるのやめてさ、そうしたらなんか会話一つだけで楽しいし、普通のファミレスの飯も、帰りの電車ですら、スゲーキラキラしてた。楽しかったし幸せだった」

「……どうして、別れちゃったんですか?」

「浮気したからな、俺が」

 

 中学二年の時にな、当時のカノジョの他に軽くヤラせてくれる女が一人、後は教育実習生として来た時に色んな意味で仲良くなった女が一人。

 それがバレたというか、セフレが俺のことを本気で好きになったとかなんとか言って引っ掻き回して軽く修羅場になって別れた。

 

「その子とは長続きしなかったな、二ヶ月だったかな」

「……でも、好きだったんですね」

「ああ、好きだった」

 

 まるで青空のように広い心と晴れた空のように明るい子だった。成人式で顔を見た時はめちゃくちゃ美人になってたな。二言三言話しただけだったけど。

 ──でも、もう最近までマジで、その時のことを忘れてた。いや思い出せって言われたら覚えてるけど、あの時に抱いた気持ちを俺は忘れてたんだ。

 

「恵美?」

「もっと、聞かせてください」

「何を?」

「あなたの今まで、どういう人を好きになったのかとか、どうしてそんな風に女遊びしまくってるのとか」

 

 クラゲの水槽にあったベンチでのんびり休憩をしていたら肩に恵美の頭が乗った。

 あんまり楽しい話じゃないし、ましてや女子高生にするような話じゃない。けど、恵美の表情は間違いなく知りたいと言っていた。俺も、ここは逃げる場所じゃないなと感じた。

 

「よし、じゃあ飯は宅配にするか、ここで話すのもなんだからな。帰ってからゆっくり話してやるよ」

「……はい」

 

 恵美はそれを聴いて立ち上がり、次はなんですかねとまた明るい笑顔に戻った。この週末で恵美が家に来て三週間、いい加減お互いのことについて触れないのも無理が出てきていると感じていた。特に俺は女遊びの激しいクソ男で、恵美は男性経験がなんにもないピュアの権化みたいな状態だ。全然そんな素振りを見せることもないが、そんな男の家で寝泊まりするのも、不安だろうからな。

 

「どうかしましたか?」

「……いや、なんでもねーよ」

 

 ──なんか、最初はテキトーに脅していつか襲ってやる犯してやるって言っとけば怖がって出てくと思ってた。外は怖くて、いくら敷かれたレールの上を歩く幸せから外れたいと思っても、手順を踏まなきゃ逆に不幸になると思わせたかった。でも恵美はなんにも怯えることなく俺んちに居着いて、メイドよろしく家事をせっせとしてくれてて、仕事から帰ると笑顔でおかえりなさいと迎えられて。いつの間にか恵美が俺んちにいる時に不安がらないようにって考えてた。

 

「お店のピザって大きいんですね」

「おう、好きなだけ食えよ」

「あ、でもちゃんとバランス保つためにサラダは作りますから」

 

 その夜はスーパーに売ってるキャベツサラダにトマトを切ってチキンを乗せたものと、インスタントのコンソメスープ、そして家に着く少し前に注文したハーフ&ハーフのピザだった。片方はシーフード、片方はマルゲリータだ。本当はパスタも作ろうとしていたが流石に間に合わないからと諦めさせた。その分ピザの大きさに驚いていたため、そっちの意味でもパスタまで作らなくてよかったな。

 

「大層な話はできねーよ、それこそピザと酒のつまみ程度しか」

「うん」

「そもそも、俺はこうやって大人になるまで、愛とかそういうのを信じてこなかった」

「……いきなり中二病みたいなこと言いますね」

「茶化すんじゃねーよ、まぁいいや……童貞じゃなくなったのは小6ん時だったよ。一つか二つ上の仲良かった子が、なんかで読んだって言って試してみたいって」

 

 その話に恵美は顔をしかめた。後から考えれば飯の最中にする話じゃなかったかもしれないな。でも缶チューハイのプルタブを開けて、それを飲んで、ピザを食べながら話を進めていく。で、この経験が俺の価値観をぶっ壊したきっかけと言っても過言じゃなかった。まぁ単純な話、気持ちよかったんだよ。エロい行為に興味津々だった俺はその行為に取り憑かれた。

 

「同時に、これって別に好きな人じゃなくてもいいんだってことも知った。別にその女のこと好きでもなかったからな」

「それで」

「それで歪んだのかもな。女の関係なんて気持ちよけりゃなんでもいいって」

 

 中学、高校の時はそれでも好きな女ができて、付き合うんだけど。結局性欲のことばっかりが先行して、上手く付き合えるわけがないんだよ。それで失敗したって言って反省したフリして、諦めたフリしてカノジョも作らずに肉欲のまま生きたのが大学時代ってわけだ。くだらない話だろ? 

 

「確かに、くだらないですね」

「でも……恵美との、お前との生活で、それが違うんだなっていうのはわかったよ」

「……私との生活で、ですか?」

 

 恥ずかしい話だけどな。手が出せない、手は出さないって決めて一緒に過ごして、それでもなんだかんだで毎日飽きることのない生活を送ってて気付いたんだよ。別に好きな人じゃなくても気持ちいいんだけど、だからこそっていうか、そういう気持ちいいからとかじゃなくて、一緒にいたいって思うこと、一緒にいて安らぐって思うこと、理屈じゃなくて──そう、好きな食べ物が好きな理由がいらないみたいな、もっと単純なものが愛なんだって気付かされた。

 

「えっと……もしかして告白してますか?」

「してねーよ」

「でも、私との生活で気付いたって」

「別にお前と一緒にいて気付いたけど、そうじゃねーんだよな」

「私は、一緒にいたいですけど」

「……ん?」

「なんですか」

 

 なんですか、じゃなくて。この流れだとちょっと湿っぽい感じに聞こえるんだけど、一緒にいたいって俺の言葉の後だとたった今さっきお前がしてきた勘違いを今度は俺が疑うことになるんだけどな。

 

「というか、ご主人様の話でストンと腑に落ちました」

「なにが」

「私、助けてもらった時点でコロっと恋に堕ちる安い女なんだなって。腑に落ちた上に恋に堕ちました」

「うまくねーよ」

「私が成りたいのは、ご主人様の飼い猫でも、メイドでも、性処理の奴隷でもなくて、将来を誓う仲です」

「……そう来たか」

 

 まさかの告白に俺はちょっと頭を抱えそうになった。

 捨て猫系美少女JKを拾ったら、まさかの嫁になりたい宣言をしてきやがった。

 なんてタイトルでこのノンフィクションを販売するのはどうだろうか、ちょっと導入までが冗長過ぎるか。なんてくだらない考えをしたくなるほどだった。

 一体いつからこいつとの関係が、ラブコメになったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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