おしかけ家出娘をペットにした話   作:黒マメファナ

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Part9

 GWが終わってから日常がやってきて少し経つ。おしかけ捨て猫系JKの栗原恵美も家出娘のクセに特に何事もなく学校に通って、俺んちに帰ってきて家事をこなしている。慣れてきたけど、慣れてきただけにずっとこのままってわけにもいかねーよな、ということが頭を過ぎる。放置しても、いいことがないってか、両親が何も学校に言ってねーのが気になる。まず間違いなく学校に問い合わせるだろ、こういうのって。

 

「結構複雑な家庭ってことなのかな」

「というか、放置されてるって考えるのが普通か」

「そうだね」

 

 週末に元後輩の長月碧と待ち合わせて居酒屋のカウンター席へ。恵美は留守番だが、それを気にしてる時点でも碧にいじられるためなるべく気にしないようにする。だが俺としてもそれが恋人だとかそういうのを心配するってよりは、ペットを心配してる気分だ。あいつの家事能力なら全く問題ないから、杞憂でしかないとはいえ。

 

「寂しいとやっぱり構ってーって鳴くの?」

「お前なぁ」

「なんか、本当に猫みたいだよね恵美ちゃん」

 

 未成年飲酒した時は本当に猫だったな、あれは一種の才能だろう。まぁそれは置いといて、碧が俺を呼び出すってことは厄介事か自分の気分の二択だ。また手頃な新しいセフレ紹介とかやめろよ、今なんて家にあいついるせいでヤリ場としての機能がなくなったんだからな。

 

「そのくらい私だってわかってるよ、でも今日はどっちもハズレ」

「じゃあなんだよ」

「え、そんなの恵美ちゃんのことに決まってるじゃん!」

 

 決まってねーよ、なんだよそれ。どうやらスマホ買った時に碧と恵美は連絡先を交換していて、ちょいちょいLINEしてるらしい。なにフツーにJKと友達になってんだよ。それはさておき、その日あったことや気になったことの中で、俺には相談したくないことを碧に頼っているらしい。

 その中で、気になる話があったのだとか、これは俺には秘密にしておくべきじゃないと判断し、碧は俺を呼び出したようだった。

 

「担任が……か」

「女子高生に手出すとか変態クズ教師って感じだよね、信じられなくない?」

「……多分、俺はその変態クズ教師に年齢近いと思うけどな」

「センパイはちゃんとその手管でトロトロに蕩けさせちゃったからセーフでしょ?」

「手出してねーって言ってんだろ、足腰立たなくなるまで犯すぞ」

「今日そのつもりないからパース」

「飲みに呼んどいてそりゃねーだろ」

 

 手を出した、というのは語弊があるが、まぁ話を聴く限りじゃアウトっぽいな。だがクレーム入れるわけにもなぁ、俺は親じゃねーしと考えていると、碧はニマニマと気持ち悪いほどの笑顔を浮かべて、俺を見つめてきた。なんだよ、今日ホテル行く予定ねーってんなら俺に寄ってくんな。

 

「いや、いやいや……恵美ちゃんを守ろうとしてるセンパイが面白くて」

「は?」

「今、その変態から恵美ちゃんを守る方法を考えてる顔だったよ?」

「そりゃ──」

 

 そりゃ当然だろ、と言いかけて言葉が詰まった。いやなにも当然じゃない。どうりで碧が気持ち悪い顔でにやけてくるわけだ。自分でもこの感情が、恵美を守ろうとする気持ちが当然のように鎮座していることにはっと気付かされた。ロックグラスに残った焼酎を一気に飲み干し、顔の熱を誤魔化そうとする。

 

「……はぁ、すっかり保護者気分だな、俺」

「そうだね、でも保護者じゃ恵美ちゃんは納得しないね」

「気の迷いだろ、あいつを構ってる男が俺しかいないわけで」

「どっこい、そうじゃないらしいんだよね〜」

「なんでそんなことまで知ってんだよ」

「友達だし」

 

 随分年下の友達だなと言ってやったけど、こいつは昔のバイト先やら部活の知り合いの知り合いとかで女子高生とも結構交流してる。その中ではサポ──明け透けに言うとパパ活、援交の斡旋も扱ってる。一種の副業だろそれ。それの関係で俺にも流れてきてたって具合だな。俺はサポ希望じゃなくて、セフレとして定期的な身体の繋がりがほしいだけだからな。

 

「そんなやつがいるのか」

「嫉妬するくらいなら、抱いてあげればいいのに」

「んなわけあるかよ。その先輩とやらの方が俺なんかよりもいいやつだろ」

「センパイ、いいやつとは言えないし」

「そりゃそうだ」

 

 俺はいいやつなんかじゃなくて、女遊びが生きがいのクソ男なんだよな。そんな証明をするように碧の腰を抱くと、弾かれた。今日はマジでそのつもりじゃなかったのかと目で訴えると碧はため息で返してくる。

 

「悪い人になる必要、ないと思うんだけどね」

「……なんだよそれ」

「センパイはすぐそうやって悪い人になろうとする。本気になられるのが怖いのか、本気になるのが怖いのか知らないけど」

「本気ってな、俺はそんな」

「──そんなつもりじゃないって、自分に制限をかけてるだけ」

 

 碧が言うには俺は自分から意図して悪役を演じて、そのニヒリズムに浸ってるだけのクソ男だと言いたいらしい。結局クソ男じゃねーか。そして、そんな風に悪い男になりきれずに、でも恵美の気持ちを受け取る覚悟もないまま今の自分は宙ぶらりんの最低なクソ男になってると。いややっぱりクソ男なのかよ。

 

「センパイって、実は恵美ちゃんに思春期云々言える立場じゃないからね」

「そうか? それは言い過ぎじゃね?」

「言い過ぎじゃないね、やってることのレベルそんなに変わんないよ」

 

 恵美の発端は「いい子」の自分を捨てて「悪い子」になろうとして、髪の色を染めて、あの雨の日に捨て猫のように立っていた。そんな家出娘と言ってることのレベルとしても変わらないと。確かに言われてみると否定ができねーな。

 すると途端に、俺は自分のやってることが恥ずかしくなってきた。酒が後から回ってきたみたいに、顔の熱が上がる。

 

「チューニおつ!」

「……クソムカつくからやめろ」

「まぁまぁ、やーっと言えたって感じ」

 

 明るい顔してるところ申し訳ないけど俺のメンタルが手の施しようがないほど破壊されてるからフォローしてもらっていいか? いや言い訳でしかねーけど、それも一つの自衛策なわけなんだよ。こうニヒリズムに浸ったキャラみたいなの出しとけば面倒なの寄ってこねーじゃん。本気になられる覚悟とか、なる覚悟とかそういうのも、俺は結局覚悟以前に、それがいいもんとは思えねーんだよ。

 

「なったこともないクセに」

「言いやがる」

「恋愛経験なら、センパイよりずぅっと上だからね」

 

 確かに俺よりはマトモな恋愛してるよお前は。そこは認める。俺はそう考えると中学時代からずっとこのスタンスを維持してきたことになるのか。中二病拗らせてるなぁ俺、なんかめちゃくちゃ恥ずかしい学生生活送ってたことになるな。すごく、胃に悪い話だ、今すぐ中学時代からやり直したい。

 

「まぁでもいいじゃん」

「何がいいんだよ、お前の笑いの種になるからか?」

「メンブレセンパイが面白いのは当然として」

「当然にするな」

「ちゃんと、それを見つめ直すきっかけの人が現れたんだし」

「……相手、箱入り娘だろ」

「箱入りもいつかは箱から出る時が来る。お互いそういうきっかけの人、運命に導かれたって考えれば、ロマンチックじゃない?」

「ロマンチックじゃない」

 

 運命ってのはそういうもんだし、きっと本気になる相手っていうのもそういう簡単なきっかけで見つかるものだ。言うなら身体の相性で今後のセフレ関係を選ぶのとそんなに気持ちは変わらないんだろうな、俺の感覚としては、って俺がそれを避けてきた立場だけど、行きつけになりそうなうまい料理店を探す感覚に近い。

 

「恵美は、俺じゃダメだって思うんだよ」

「どうして? 身体の相性ならヤってみなきゃわかんなくない?」

「そっちじゃねーよ」

 

 わかってて言ってるだろ。俺にとって自分ってのを見直すきっかけがあの捨て猫だったのはよくわかった。痛感させられた。

 ──でも、恵美が俺に向けてるのは気の迷い以外のなにものでもないだろ。あの年頃の女子は同年代がくだらん男ばっかりだからって年上に靡きがちだ。そういうバカを俺は何人も見てきた。それと、何かが変わってるようには見えないんだよ。

 

「それは、私にもそうじゃないってフォローはしてあげられないね」

「フォローしてほしいわけじゃねーよ」

「だったら余計に、突き放すんじゃなくて、認めてあげたら? センパイのスタンスは変えずに認めてあげればいいんだよ」

「認めて、か」

 

 つぶやきながらほぼ空になったロックグラスを振るとカラカラと氷の音がする。溶けた氷と混じり合った最後の一口はほぼ水の味がして、俺はちょっと顔をしかめつつ追加を頼む。今日はヤラねーんだったらもうちょっと飲んでやる。ホテル代くらい飲み食いしてやるという気持ちだ。

 

「つかそろそろ終電だろ、間に合わなくなるぞ碧、それともカレシの迎えか?」

「……センパイとサシ飲みで、迎え頼むわけないじゃん」

「ケンカでもしたか?」

「……ん」

 

 碧が俺にもたれかかってくる。自分のこととか恵美のことばっかり考えてて気づかなかったが、こいつも結構なハイペースで飲んでやがったな。かなり酔いが回ってる感じだ。ケンカはケンカでも、ちょっと長引く感じのケンカしたなこりゃ。

 ──そういや、恵美も親とケンカして帰らないって決めたって言ってたけど、それだって一ヶ月帰らない娘を心配しない親なんているもんかね。

 

「はぁ……偶には先輩になってやるよ、碧」

「ん?」

「……ああ、恵美起きてたか、よかった」

 

 俺は碧に水を飲ませ、介抱しつつ電話を掛ける。もう寝てるかと思ったらどうやら何かの本を熟読していたようで明るい声音で出てくれた。今はめちゃくちゃありがたい。ここで介抱するのもマジでめんどくさいからな。

 

「──ってことで、碧連れて帰るから、布団の用意頼む」

『はい……ってご主人様のベッドじゃないんですか?』

「俺のだよ、俺がソファで寝るからな」

『わかりました、なんなら私のお部屋を碧さんに使ってもらってもいいですよ』

「俺のベッドで一緒にってのは却下だからな」

『……じゃあアイスといつものジュース買ってきてください』

「コンビニな、わかったよ」

 

 連休終わったらすっかりおねだりと交渉が上手になったもんだ。雨の日も近くのコンビニまで送ってってくださいとか言い出すし。まぁ遠慮しなくなったのは、いいことなんだろう。

 電話を切ると、碧はふにゃっと笑顔を浮かべていた。

 

「私は応援してるから」

「恵美をだろ」

「センパイと恵美ちゃん両方」

「バカ言ってないで、帰る準備しとけ」

「うん」

 

 俺が俺を見つめ直すきっかけになったのは、残念ながら十八歳未満の子どもで、もし俺が恵美のことを好きだとか、恋愛方面に感情を育てるのは、正直言って気持ち悪いだろう。ロリコンで、変態で、ただの家出娘に本気になる痛いおっさんだ。いやまだお兄さんで通じる年齢だろ、二十五歳は。

 ──でも少なくとも、高三から今までの時間、後輩として付き合いのある碧はもし間違いが起きても祝福してくれる。そう思うと心強いと感じることができた。本人には絶対に言ってやらんけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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