ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
ヒトガミはなんだかんだ言ってやはり人気ですね。
彼に関しては超存在過ぎて扱いが難しいのですが、できる限り理論立てて、矛盾が起きないようにしていきたいと思ってます。
今後も感想にてご意見等をお待ちしております!
それでは、今回もよろしくお願い致します!
「明日、卒業試験を行います」
ロキシーは自分に教えられることはもうないからと、卒業試験の実施を発表した。
ロキシーの使える最高レベルの魔術、水聖級魔術を使えるようになることが卒業の条件だそうだ。
私は最近もうあんまりやることなくなってきたなぁ、と感じていたので、この聖級魔術という今まで未知だった領域の、新しいステージの魔術を学べるというのは素直に喜ばしく思った。
もしかしたら、打倒ルディという人生の目標に新たなヒントをくれるかもしれない。
ウキウキしている私だったが、一方のルディは浮かない顔をしていた。
ルディはロキシーに特別なついていたことだし、ロキシーは即断即決がモットーなので、やることが終わったらすぐにここを出て行ってしまうだろう。
なんだかんだ言って甘えん坊な所もあるルディのことだから、そのことを気にかけているのかもしれない。
それに、あれでいてルディは結構臆病なのだ。
ロキシーが初めて家に来て、魔術の練習のために庭に出てくれと言われた時も怯えていたし、私の逃亡襲撃大作戦の時も外に出てこなかった。
やっぱり、ルディは知らない環境というものが怖いのだろう。
ここは姉としてフォローをしてあげるべきだ。
苦しい時はお互い様なのである。
そして、その日はあっという間に訪れた。
快晴であり、青い空と白い雲、冴えわたる日差しが眩しい実に魔術日和な1日になることだろう。
試験は村はずれの小高い丘で行うらしく、そこまではお父さんの愛馬であるカラヴァッジョで赴くそうだ。
私はそこまで遠出したことはなかったので、どんな景色かなーとかをぽやぽや考えていたが、ルディのちょっと尋常ではなさそうな雰囲気を見て、これはいかんと思い直した。
ルディは呼吸も浅く、足も小刻みに震えていたからだ。
お父さんたちは、魔獣が怖いんだろうとか、馬が怖いんだろうとか言ってたが、お母さんのお腹の中からずっと見守ってきた私に言わせれば、十中八九家の外に出るのが怖いんだろうとわかった。
最初の授業の時、あの日初めて庭に出た時はどうしてたんだっけと考えて、ただ一緒にいただけだったと思い至る。
うん、こういう時に1番身近にいてあげられるのが
辛い時、怖い時、苦しい時、寂しい時。
そんな時は、信頼できる人が一緒にいてくれると心強い。
ルディもきっとそのはずだ。
「ルディ!」
「ね、姉さま……その」
「大丈夫! お姉ちゃんがいれば怖くないよ!」
「わっ」
私はぎゅっとルディを抱きしめた。
お母さんがこうしてくれると私はすごく落ち着くから、ルディもこれでリラックスできるだろう。
人肌ってやっぱり偉大だよね。
触れているだけで暖かいから。
その後は、ロキシーがひょいっとルディを馬に乗せ、私もお父さんに抱っこで支えてもらってよじ登った。
「わぁ! 見て見て、ルディ! めっちゃ高い!」
「ひぅぅ……」
私はちびすけなので普段は視点が低いのだが、馬に乗れば話は別だ。
動物の上背から見る景色は、今までよりも遥かに開けた視界で私を魅了した。
ルディはちょっと怖がってたけどね。
ロキシーはそのままカラヴァッジョをゆったりと駆り、家の外に出た。
長閑な風景は見慣れたものだったけど、ルディやロキシーと一緒に、馬の背に乗って見るそれは普段とまた違った趣を見せていた。
ルディも最初は目を瞑ってじっとしていたが、いつしかロキシーに背を預けて村のことについて、あれこれと話を聞いていた。
私も嬉しくなって、ついつい会話に割り込んだりした。
思い返せば、こうして私とルディ、ロキシーの3人で穏やかに会話するだけで時間を過ごすのは初めてかもしれない。
いつも魔術に関することばかりで議論しているのが大半なので、最後の授業というのも相まり、この何でもない時間がとても貴重なもののように思えた。
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それから1時間ほどが経ち、畑が見えなくなってからのこと。
私たちはポツンと一本木が生えている以外は、見渡す限り何もない広大な草原に到着した。
「これから私は水聖級攻撃魔術『
これは広範囲に雷を伴う豪雨を降らせる術です。
一度しか使いませんので、よく見て、よく聞いて真似してください」
「「はい!」」
ロキシーは神妙に頷き、それから空に向かって自分の身の丈以上の長さの杖を掲げる。
目を閉じて集中するロキシー。
魔力の高まりが、私たちにもなんとなく雰囲気として感じ取れるほどに膨れ上がっていく。
「〝雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ!
我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし、矮小なる存在に力を見せつけよ!
神なる金槌を金床に打ち付けて畏怖を示し、大地を水で埋め尽くせ!
ああ、雨よ! 全てを押し流し、あらゆるものを駆逐せよ!〟
『
ロキシーが詠唱するにつれて、青空を黒い雨雲が覆い尽くしていく。
バケツをひっくり返したように降りそそぐ雨粒が、暴風によって横向きに私たちを打ちつける。
そして一際黒雲が集積した空がビカリ、と閃いた瞬間——
「「「あ」」」
木の下にくくってあったカラヴァッジョに雷が落ちた。
ロキシーは慌てて駆け寄って治癒魔術をかける。
相変わらずのうっかりで、なんとも締まらない手本になってしまった。
そういう所もロキシーらしいと思うけどね。
「で、では! やってみてください。
さっきは見本のために一分程度で切り上げましたが、合格条件は1時間、さっきの嵐を制御することです。
どちらからやりますか?」
「はい! 私が先にやりたい!」
「それでは、ノアからですね。がんばってください」
「うん!」
私はルディに先んじて手を挙げた。
お姉ちゃんだからね。
授業を始めたのはルディが先だとしても、卒業の順番は姉に譲りたまえ!
詠唱は覚えている。
というか以前に詠唱については質問して聞いていたのでバッチリである。
規模が大きすぎるから実践はこれが初めてだけど。
記憶した通りに詠唱を紡ぐ。
これだけで一分は時間がかかる。
一対一の戦闘じゃ使えないか……やっぱり事前に術式を構築しておかないと使えないかな。
無詠唱でも発動はできるだろうけど、それでも発動まで遅すぎる。
でもそうなると身体への負担が大きそうというか、腕に込めたらヤバそうなんだよなぁ……。
応用はできそうだけど、まだ技術が足りてないんだろうか。
うーむ、これはやはり、村を出てもっと魔術に対する学びを得られる環境に行くべきなのかな……。
などと分析しつつ、自身の今後に思いを馳せながら黒雲を形成する。
しっかり制御しなければ、上空の風ですぐに霧散してしまうので、空に自分の魔力を充満させ、さらさらとこぼれる砂の山を押さえるように留め、あるいは魔力を注ぎ足し雲の量を一定に保つ。
規模は大きいけれど、操作の基本はこれまでにロキシーから学んだ術理と同じこと。
何千、何万回と繰り返してきたその動作は澱みなく、もはや何も考えずとも自然と身に染み付いているほどだった。
しかし、1時間もこうしているのは疲れるというより飽きがくる。
何か新しい実験でもしようと思った私は、雲の総面積を維持したまま一部の雲を収束させ、雷を狙ったところに落とせないかなー、といった風に操作を始めた。
嵐を起こすだけではちょっと物足りないし、さっきのロキシーのような失敗をしないためにも有効だと思ったからだ。
それに、狙った場所を雷で攻撃できたら絶対強い、カッコいい!
操作は意外に繊細で、比較的多くの魔力を使ったが、終了10分前くらいにはなんとなくのコツは掴めたし、終了間際には結構使いこなすことができるようになっていた。
「はい、そこまで」
「ふ、う〜。疲れたなぁ。
でもちょっと楽しかった! 新しいことも知れたし、うん、だいぶ良かった!」
「そうですか、それは良かった。
ノア。よく頑張りました、合格です。
おめでとうございます、これであなたも水聖級魔術師ですね」
「えへへ、ロキシーのおかげだからね! こちらこそ、ありがとうございました!」
ロキシーはちょっと寂しげに微笑んで、今度はルディがやってみてください、と指示を出す。
ルディもまた鷹揚に頷き、ロキシーから貰った私とお揃いの杖を天に突き立てる。
高らかに『豪雷積層雲』の詠唱を唄うルディ。
やはり経験値が違うのか、生成するスピードはルディの方が私よりも幾分か早い。
雨に打たれながら杖を振るルディは、なんというか、自由に見えた。
「ん? これって……」
ルディが心底から楽しそうに魔術を使っているのを見ながら、ふと上に視線を上げると、竜巻のような風が雲を押し上げ、そこから際限なく雲が沸き出しているのが見て取れた。
「混合魔術……!」
あの大規模な魔術に加え、さらに同等規模の魔術を組み合わせるとは、我が弟ながら流石の魔力量だ。
しかも、多分それだけじゃない。
ルディは私なんかよりもっと緻密に操作している。
温度を上げたり下げたりして、風を生み出しているのだ。
「……さすがだなぁ」
私よりもよっぽどこの魔術について理解している。
あの魔術は私のものよりさらに長持ちするだろう。
しかも一度発動させればその後はほとんど手を加えなくて良さそうで、その分のリソースを他の魔術に避けるようになるといった、実に効率的なやり方だ。
私なんて愚直に手ずから操作してるだけだったのに。
ここでもまた、勝てなかったのか。
自信を失くしてしまいそうだ。
ロキシーも私と同じことを思ったのか、ルディは数分で試験を終えて、無事合格を貰えた。
そしてこの日、新たに2人の水聖級魔術師が誕生したのだ。
もっとも、その差は大きく開いていたのだけどね。
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その試験の帰り道、カラヴァッジョに3人でまたがって家路に着く。
今日もまたルディとの差を突きつけられてしまった。
悔しさと、そうこなくちゃという誇らしさに近い感情が同居していて、私はぼーっと夕暮れを感慨深げに見つめていた。
「ねぇ、ロキシー」
「なんでしょう」
「ロキシーは、これからどうするの?」
気になっていたことを聞いてみた。
私の今後にも大きく影響があるだろうから、今のうちに彼女の予定は知っておきたい。
「明日にはここを発ちます。
今回の一件で、私は自分の思い上がりを正されました。
今後はしばらく冒険者をやって、己の魔術を見つめ直そうと思います」
「ふーん、まずはどこに行くの?」
「そうですね、まずは冒険者ギルドの本部があるミリス神聖国でしょうか。
あそこでは昔、冒険者として活動していたことがありましたので、そこを拠点にして久しぶりに迷宮でも潜ってみようかと」
「そっか、ミリスかぁ……」
それなら、ちょうどいい。
渡りに船というやつだ。
「じゃあ私も、ロキシーについて行くね。ミリシオンに」
唐突な私の爆弾発言に、ルディとロキシーは言葉を失って呆然としてしまった。