ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す -   作:抹茶れもん

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皆さま高評価・感想どうもありがとうございます!
今回は結構気を遣って書く必要があったため時間がかかったのですが、皆さまの評価・感想等があったからこそ乗り越えることができました。
これからもどうか拙作を暖かく見守っていただけると幸いです!
それでは、今回もどうぞよろしくお願い致します!


第十一話 「姉と弟 ②」

 ミリシオンに行く。

 これは元より決めていたことだった。

 この村でできることがなくなって、なおかつその時点でルディに勝てていなかったら、新しい勝ち筋を求めて何処か別のところに行こうってね。

 

 本当はもっと後でもいいかな、と思っていたけど、ルディの『豪雷積層雲(キュムロニンバス)』を見て考えが変わった。

 きっとルディ並の天才なら、今できることだけをやっていても、類い稀な知識と才能、発想力でどんどん成長していくだろう。

 

 それに対して、私はどうか。

 ちょっと戦闘魔術の応用ができるようになったくらいで「もうできることはなさそう」と考えて、魔術の特訓にどこか見切りをつけていた。

 このままでは、差が開く一方だってわかったのだ。

 そうしたら、もう2度と追いつくことすらできないという確信があった。

 だから私は私のやり方で強くなろうと思ったわけで、そのためのミリシオン行きというわけである。

 

「だからお願い! お父さん、お母さん!」

「……」

 

 そうした理由をお父さんとお母さんに話した。

 長いことこの村を離れることになると思うので、両親への挨拶はちゃんとしてから——

 

「ダメだ」

「えっ?」

 

 お父さんの毅然とした声が響く。

 お母さんも難しい表情で沈黙していた。

 

 私はルディよりもかなり手がかかり、その上ワガママであったが、それでもルディのお姉ちゃんとして恥ずかしくないように、できる限り良い子であろうとしてきた。

 それをよくわかっていたのか、お父さんは私のワガママを全部笑顔で聞いてくれたし、お母さんも私の意思を尊重してくれていた。

 だから、今回のワガママもきっと通るだろうと楽観視していたのかもしれない。

 

「理由はいくつかある。

 まずは安全面の問題だ。産まれてからずっとこの村で暮らしてきたお前にはわからんかもしれんが、外は危険でいっぱいだ。

 とてもじゃないが、旅の経験がない娘をここからミリスまで行かせるわけにはいかない。

 それと、年齢の問題だ。お前はまだ5歳じゃないか。水聖級の魔術が使えるようになったからといって、子供は子供だ。

 まだ知らない事が多すぎる。

 親としての責任を放棄して娘を放り出すわけにはいかない」

「……うっ」

 

 ぐうの音も出ないほどの正論に、私は口をつぐむしかなかった。

 確かに、甘く考え過ぎていたところはある。

 

「ま、そんなに生き急ぐことはないさ! 人生なんて意外に長いもんだぞ? お前は今まで沢山がんばっていたんだし、ちょっとぐらい休んでもバチは当たらんさ」

「……うん」

「私もノアに旅はまだ早いと思うわ。

 前にミリシオン行きを薦めた私がいうのもなんだけど、もうちょっと考えてからでも遅くはないもの」

「……うん」

「わたしが口を出すことではないかもしれませんが、旅には危険が付き物です。

 旅立つというのなら、それ相応の覚悟というものが必要になります。

 まずはそれを明確化してみるのが良いと思いますよ」

「……うん、わかったよ」

 

 お父さん、お母さん、ロキシーが順に、やんわりと諦めるように忠告する。

 それらは決して自分の考えを押し付けるとかではなく、ちゃんと私の考えを聞いて、私の気持ちを考えた上での反対なのだということは、よくわかる。

 

「ごめん、ちょっと頭冷やしてくるね」

「あ、ああ……その、まあ、なんだ。

 あんまり考えすぎるなよ。

 ノアはちょっと頑張り屋なだけなんだからな」

「うん。ありがと、お父さん」

 

 生返事で返しながら一人で部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

 もっとも、そんな簡単に上手くいくとは思ってなかったし、反対されるのも視野に入れていた。

 しかし、割と甘やかされて育った私には、家族の反対というのは意外と心にくるものがあった。

 

 追い詰められていたのだろう。

 普段なら冷静に判断して諦められるのに、なぜか今は、この機を逃してはならないという焦燥があった。

 ロキシーが明日ここを去り、今の心持ちの私だけが残ったら、絶対にルディに追いつけないぐらいに引き離されてしまうという恐怖があった。

 

「……よし」

 

 だからだろうか、私はこれまでで1番突拍子もない行動に出てしまった。

 

---

 

★ side:ルーデウス ★

 

 俺、ルーデウス・グレイラットは転生者だ。

 前世は童貞・無職・ニートと三拍子揃ったエリート穀潰しであったが、今世ではその反省を活かし、本気で生きていこうと決意した。

 

 そんな俺にはノアという名前の双子の姉がいる。

 アルビノ系元気発剌天才呪子ロリお姉ちゃんとかいう属性過積載ぶりだが、これでも今世の生活では、俺が最も信頼できる人間の一人だ。

 

 なにせ彼女とはゼニスの胎の中からの付き合いである。

 さらには彼女は物心ついた頃からずっと俺にべったりだった。

 単純接触時間で言えば最長なのだから、お互いが強い信頼を抱いているのは自然なことだろう。

 

 まぁ、と言っても彼女の俺に対する信頼はちょっと過大評価に感じることもあるが。

 そりゃあ、魔術勝負で負けたことは一度もないが、彼女の呪いがなければ俺は瞬殺されていただろう。

 むしろ際限なく強くなっている彼女に追いつこう、追いつかれまいという思いから俺も魔術の訓練にいっそう身が入り、毎日本気で生きることができていたと思う。

 

 さて、そんな彼女だが、現在は少しばかり落ち込んでいるようだ。

 なんでも、今日の俺の水聖級魔術を見て自分の力不足を感じ、それを補うための新しい魔術を求めてミリス神聖国首都ミリシオンに行きたいとの旨をパウロ達に伝えたところ、反対されて拗ねているらしい。

 

 一度決めたら一直線な彼女らしい行動だが、俺もノアはパウロが言うように生き急ぎすぎな気がする。

 とはいえ気持ちはわからんでもない。

 ここは、きょうだいである俺が年長者としてフォローをしてあげるべきだろう。

 彼女には今日、外に出るという俺にとっての最大の関門を突破する手助けをしてもらった。

 そのお返しはしておきたい。

 俺は恩を忘れない男なのだ。

 

 そんな風なことを考えながら彼女がふて寝しているであろう自室をノックする。

 が、返事がなかった。

 訝しんでちょいと部屋を覗いてみると、そこはすっからかんで、もちろんノアはいなかった。

 しかし、そのかわりノアの机の上には見覚えのない紙切れが。

 嫌な予感がしつつ、恐る恐るそれを手に取って読んだ。

 

『ミリシオンに行くので旅に出ます。着いたら手紙を出します』

 

 それは、簡潔に伝えることだけが書かれた書き置きだった。

 要するに、家出の書き置きだ。

 

 俺はその後大慌てでパウロたちに知らせ、そのまま薄暗くなった夜道に飛び出した。

 

 ノアがいつ家出したのかはわからないが、まだそれほど遠くまでは行っていないだろう。

 ノアは猪突猛進だが馬鹿ではない。

 夜の街道を一人で出歩くことはしないはず。

 だから、この村のどこか、或いは近場の森のどこか、この二つが怪しいだろう。

 そして、村の中なら簡単に見つかる可能性が高い。

 なら——

 

「……森か!」

 

 居場所に当たりがついた瞬間、俺はまっすぐ森に向かって走り出した。

 薄暗い森の中は当然見通しは最悪で、僅かな月明かりのみが手がかりだった。

 名前を大声で叫んで探したいところだが、家族の捜索から逃げているノアには逆効果だろう。

 地道に、手探りで探すしかないが、今日まで外になんぞ出たことがなかった俺に土地勘なんて皆無に決まっているため、完全に自分の直感頼りとなる。

 

 それでも、不思議と足は前に進んだ。

 

「……なんで、わかったの?」

 

 なんとなく、という理由で足を進め、藪をくぐり、木の葉をかき分け、ちょうど広場のように開けている場所に出た。

 月明かりが、いつもはフードを目深に被っていて中々見えないノアの白髪をキラキラと照らし、まるで月の妖精であるかのように映し出していた。

 

「なんで、って。決まってるじゃないですか」

「?」

「僕らが姉と弟だから、ですよ」

 

 強いて言うなら、「姉の気配を感じた」としか言いようがない。

 

「——はは、そっか。うん、そうだよね。

 姉弟(きょうだい)だもんね、私たち」

 

 ノアは雲一つない夜空を見上げて、パタンと(しば)の上に仰向けに転がった。

 それは、ノアが自分の負けを認めた時にいつもやる癖だ。

 つまり、少なくとも今日一日は彼女は逃げ出さない。

 

 だが、同時にノアは相当な意地っ張りで負けず嫌いでもある。

 今日限りの逃避行を阻止したところで、成功するまで何百回、何千回と挑戦して、最後には出し抜いてここを出て行ってしまうことだろう。

 だから、ここでノアの心に根本的に巣食う問題を解決しなければならない。

 

 そのためには、やはり彼女の胸の内を知らなければ。

 会話をしよう。

 前世の俺は臆病で、そのくせ変にちっぽけなプライドがあったせいで、親や兄貴達と隔たりを持っていた。

 それは前世の俺と俺の家族が、最後まで分かり合えなかったことの理由の一つではあるだろう。

 同じ過ちは繰り返さない。

 ノアは素直な性格だから、寄り添って話をすればきっと心を開いてくれる。

 俺は彼女の横に、同じように仰向けに寝転んで、ただ星を見つめた。

 

「……なんで、姉さまは僕に勝つことにそこまでしてこだわるんですか?」

「んー、お姉ちゃんだからかな。

 やっぱ弟に負けてばっかりは悔しいし、みっともないでしょ。

 それに、ルディも自分より格下の姉だと嫌じゃない?」

「そんなこと思いませんよ。

 第一、姉さまのことを格下だなんて思ったことはありません。

 むしろ手本にしているくらいです」

「うそだぁ、私一度もルディに勝てたことないよ」

「魔術の腕の話じゃないですよ。

 というか、呪いがなければ絶対姉さまの方が僕より上です」

「呪いも含めて私だもん。

 だからそれはちょっと違うよ」

「仮にそうだとしても、姉さまは僕がこの世で一番尊敬している人なんです。

 僕が困っている時はいつもそばに居てくれますし、何回負けても立ち上がって諦めない心の強さもある。

 姉さまは僕にとって世界で一番優しくて、才能があって優秀で、どれだけ辛くても前を向いて進み続けられる強い人。

 姉さまは、僕の理想の姉さまなんですよ」

「……」

 

 ノアは空に浮かぶ月を見たまましばらく沈黙した。

 しかしそれは一瞬で、すぐにまた口を開いた。

 

「それでも、私はミリスに行く。

 ルディが私のことを……ちゃんとお姉ちゃんだって思ってくれてるのは、嬉しいけど。

 でも、私が納得できないもん。

 せめて一度ぐらい勝ってから、胸を張って名乗りたいかな」

「納得、ですか……」

 

 彼女にも意地があるのだろう。

 今まで必死に頑張ってきたことに対して、ノアなりにケジメをつけたいということかもしれない。

 こうまで固く決意した彼女を止めるのは至難の業だ。

 俺は早々に説得を諦め、プランBに変更する。

 

「じゃあ僕も手伝いましょう」

「えっ?」

「姉さまがミリスに行くための、父さま達への説得を僕も手伝います」

「いいの!?」

「どうせこうなった姉さまはもう止められませんからね。

 なら少しでも安全に行けるように計らうべきでしょう」

 

 姉の安全な旅路をサポートするのも弟の務めだ。

 それに、このまま一人で飛び出させるよりは100倍マシだろう。

 

 ノアには何度も助けられてきた。

 初めて庭に出た時。

 初めて外に出た時。

 どちらも俺にとっては間違いなくトラウマだったそれに、ただ寄り添って、力をくれた。

 それがなければ、俺はもしかするとまだ家の中で燻っていたかもしれない。

 ノアにとって大したことではなかったかもしれないが、彼女は確かに俺を救ってくれたのだ。

 

 なら、今度は俺が支えなければならない。

 この強く、優しく、真っ直ぐな姉の力になれるなら、俺はなんだってできる気がするから。

 

「さあ。戻りましょう、姉さま。

 全て、僕に任せておいてください!!」

 

 ノアは、眩しそうなものを見つめるようにして、ゆっくりと頷いた。

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