ルーデウスの双子の姉 - 弟に勝てなさすぎるので本気出す - 作:抹茶れもん
いやー、自分がこの章でどれくらいやれるかで今後が変わってきそうなので、そこはかとなくプレッシャーがありますね。
ですが精一杯やらせていただきますので、皆さまもどうか感想・評価・お気に入り等で応援していただければ嬉しいです。
それでは、今回もどうぞよろしくお願い致します!
第十三話 「旅の道中」
ブエナ村からミリシオンまでは約1年ほどの時間がかかる。
赤龍山脈や森林、紛争地帯を迂回する必要があるので長期間に渡る旅を要求されるのだ。
必然、長い旅をするのだから魔獣や野盗に遭遇する機会も増える。
だからこそ、腕利きの護衛が必要不可欠となるわけだ。
「前方二時にターミネートボア!
迎撃します、注意してください!」
「わたくしが引きつけますわ」
索敵をしていたロキシーが私たちに注意を促し、壁役のエリナリーゼさんがすぐさま飛び出して牽制。
その隙を突いてロキシーとタルハンドさんがそれぞれ魔術を使って仕留める。
これが今回の護衛パーティの主要な連携であった。
構成メンバーがほぼ全員S級クラスの実力者。
危なげなくスムーズな連携と柔軟な対応は、彼らが相応の修羅場を潜ってきた猛者だということを、素人目にも容易に理解させられた。
「すごいね!」
「ったりめぇよ! お前さん、俺らが何年冒険者やってると思ってんだ?」
「えー、ギースは何もしてないじゃん」
「人には向き不向きがあるんだよ。
俺が前線に出てみろ、真っ先に吹っ飛ばされちまうよ」
「あはは、ごめんごめん。
でもギースは何でもできるから、私としてはギースの方が学ぶことが多いかな」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかお嬢!」
「すっかり仲良くなったわね、あなたたち」
私はこの旅で、彼ら『黒狼の牙』のメンバーとそれなりに仲良くなった。
皆んなクセは強いけど気さくな良い人たちだったので、元々あまり物怖じしない性格の私は妙に噛み合った。
とりわけ仲が良くなったのは、猿顔の魔人族ことギースだ。
彼のことも最初はさん付けで呼んでいたのだが、明るい性格で世話焼きな性質と本人からの敬語はこそばゆいからやめてくれ、という申し出もあり、今ではお互いあけすけにものを言えるぐらいには打ち解けていた。
戦闘の際は2人揃って馬車の中でお留守番、という役回りも仲良くなった理由の一つである。
「ギースには色々と旅のこと教えてもらってるからね。
私があっちで上手く生活できるのがわかったら、お母さんはすぐに帰っちゃうんでしょ?」
「そうね、さすがに何年も家を留守にするわけにはいかないし。
長くてもミリシオンにいるのは半年ってところかしら」
「だからね、今の内にできることはやっておくんだ。
一人でだって生きて、旅をしていけるようにならなきゃ、一人前だって言えないもんね」
そう、いつまでも面倒を見てもらうような子供でいるわけにはいかない。
私は頼れる大人、頼れるお姉ちゃんになりに行くのだ。
なら、大抵のことは一人でできるようにならなきゃ意味がない。
その模範として、冒険者としてできることは何でもできるというギースは、私にとっては第二の師匠のようにも思えている。
寝床の確保、野営の準備、乗り合い馬車や行商人の捕まえ方、値切り交渉、情報収集、その他諸々……。
彼は実に多くのことを私に教えてくれるのだ。
それは彼の人生の積み重ねであり、旅の間の1年足らずでは全て吸収し切れるものではないだろう。
それでも精一杯、自分を高めるための時間は無駄にしたくないのだ。
こういうところが生き急いでいると事あるごとに言われて心配される原因であるのだが、当の本人である私は全然気がついていなかったとさ。
---
それからも旅を続けるにつれ、私が何度も訪れる魔獣の襲撃にちょっと慣れ始めた頃のこと。
馬車の中でロキシーが私に話しかけてきた。
彼女とは何年も顔を突き合わせてきたので、目を見れば大体何を考えているかわかる。
これは授業をする時の目だね。
「ノア、実戦の練習をしてみる気はありませんか?」
「実戦?」
実戦練習。
つまり、魔術を用いた戦いのこと。
「はい、ノアがアスラ王国に帰る時は一人で旅をすることになるかもしれません。
その際、今回のように何度も魔獣が襲ってくることもあるでしょう。
今までのルディとの試合形式と、自然においての魔獣との戦闘は全く違うものです。
ノアは実力としては申し分ありませんし、ここで一つ新たな経験を積んでみるというのはいかがですか?
もちろん、危険はないように私たちが見守らせていただく中での話です」
「やります!」
私は二つ返事で引き受けた。
いつか自分で申し出ようと思っていたことでもあるので、渡りに船というやつだ。
彼女たちの華麗な戦闘ぶりが私を魅了しているのは確かなことで、私もあんな風にカッコよく戦えたらルディに自慢できるだろうな、と常々思っていたこともある。
よって、次に魔獣が出てきたら私がメインの火力として出張ることになった。
「! 来ましたよ、ノア! 準備してください!」
「はいっ!」
「では、前衛はいつも通りわたくしが」
「わしも今回は前に出ておこう」
打ち合わせから数時間経ち、馬車がちょっとした林に差し掛かった頃、ついに魔獣の襲撃がきた。
相手はアサルトドッグ。
数は3匹。
大丈夫だ、そんなに強い魔物じゃない。
落ち着いて、冷静に対処するんだ。
ロキシーに習ったこと、自分が突き詰めてきたこと。
全部思い出して、最適解を。
「すぅー……」
一度深呼吸し、心を落ち着かせる。
本当はこんなことしてる場合じゃないけど、今は大勢のベテランがいる。
洗練するのは後でいい。
まずは状況をちゃんと見るんだ。
アサルトドッグは前衛2人が引きつけている。
周りには木々が多い。
火魔術は使えない。
使うならやっぱり、慣れに慣れ親しんだ水魔術。
目標は激しく動き回っているけど、問題はない。
速さを追求してきた私の魔術は、その程度では翻弄されることはない。
魔力を練り上げ、人差し指をアサルトドッグに向けて構える。
「シッ!」
無詠唱で一気に3連発の『水弾』を撃ち放つ。
魔術は寸分違わずアサルトドッグたちの脳天を貫き、絶命させた。
戦闘は私が想像していたよりもあっさりと終わりを告げたのだ。
しかし、私の胸中には人生初の実戦が成功したこととはまた別の感情が飛来していた。
「……当たった」
それは人生で初めて私が生物への攻撃を達成した、えもいわれぬ達成感にも似た感覚。
元々、『人間には勝てない』という呪いなら『人間以外には勝てる』だろうと踏んでいたが、実際に試してみるのはこれが初めて。
私は手にうっすらと残る不思議な感触を、ぎゅっぎゅっと握ったり離したりすることで何度も確認した。
「……」
「お疲れ様です。
最初は少し鈍かったですが、相変わらず見事な射撃で……どうかしましたか?」
「あ、ううん」
そうやって暫くぼーっとしていた私に声をかけてきたのはロキシー。
私はそれで我に返って、もう一度深呼吸して気持ちをリセットする。
「……もしかして、きつかったですか? 世の中にはどうしても生き物を殺すことに嫌悪感を感じる人もいます。
その、大丈夫でしたか?」
「それは全然大丈夫だよ。
むしろ……」
「むしろ?」
私はもう一度手の平を見て、そしてロキシーを見返した。
「私、こういうの結構得意かも」
---
その後も私は定期的に襲いかかってくる魔物たちをバッタバッタと射撃の的にしつつ旅を楽しんだ。
現在は暗くなってきたので進むのはもうやめて、ギースがせっせとご飯を作るのを待ちながら談笑している。
「それにしても意外でした。
ノアは確かにアグレッシブが極まっていますが、あまりこういうことが好きだとは聞いてませんでしたので」
「私も今日初めて知ったよ。
冒険って楽しいんだね!」
端的に言えば、私は今日一日を通して魔物狩りという行為にハマっていた。
新しい趣味と言ってもいいかもしれない。
多分だけど、これまでずっとルディ相手に全戦全敗だったから、呪いとかの気兼ね無しに気持ちよく勝てる相手である魔物討伐に、強く自尊心を満たされたからだと思う。
ちょっと物騒な嗜好かもしれないけど、まぁ竦んで動けなくなるよりは断然マシだと思っておこう。
「それよりさ、皆んなは迷宮とか潜ったことあるんでしょ? どんな感じだったの?」
「あら、迷宮に興味がおありですの?」
「うん!」
「母親としてはあまり物騒なものに興味は持ってほしくないんだけどね……」
「まぁまぁ、話すだけならいいじゃねぇの。
この年じゃあ色んなことに興味を持つってのは大事なことだぜ?」
「それはそうだけど、親としてはやっぱり心配なのよ」
まぁ私も将来は冒険者っていうのも悪くないかなって思っただけで、別にそうと決まったわけじゃない。
当面の目標は打倒ルディだし、自分から旅に出たり迷宮攻略に挑戦するとかは、よっぽどのことがない限りそれが終わった後だろう。
「迷宮はいいですよ。
確かに油断しているとすぐに命が失われる危険極まりない場所ですが、攻略の見返りは大きいです。
ロマンというものがあって、高ランクの冒険者を志すのなら避けては通れないものですしね。
それに出会いもありますし」
「出会い?」
「そうです。
迷宮に潜れば、きっと男らしくて、キリッとしていて、背がスラッと高くて、でもまだ子供っぽい表情をする人族の青年に迷宮の奥底で助けられるんです。そのまま力を合わせて脱出していくうちに互いに恋が芽生えて、迷宮を脱出したところで仲間の死を知った青年をわたしが慰めて——」
「あはは! いくらなんでもそんなことあるわけないじゃん! アスラ王国が一瞬で丸ごと吹っ飛ぶくらいありえないって!」
「おいお嬢、お嬢、それぐらいにしてやってくれ」
ギースの言葉に従い、早口で妄想を語っていたロキシーに目を向けると、何やら遠い目をしていた。
まさか本気だったんだろうか……いや、でもロキシーだしなぁ……。
ちょっと申し訳ないことをしたかもしれない。
謝っておこう。
「ごめんなさい」
「いえ……いいんですよ……ハハハ……」
いかん、真っ白に燃え尽きている。
そんなに効いちゃったのかしら。
焦る私と、虚空を見つめるロキシー、そして生暖かい目でそれを見る元黒狼の牙メンバー。
和やかな談笑の場が一気に変な空気になってしまった。
「ま、まぁなんだ! 夢は誰でも持っていいもんだ!
それより、メシができたぞ! ほら、お嬢、ロキシー! あったかいスープだぜ! とりあえずこれ飲んで元気出せよ!」
「ありがとうございます……あったかいですね……」
「ありがと、ギース」
ここでギースのナイスフォロー炸裂。
木で作った椀の中にはあったかそうな良い匂いのするスープが並々と注がれていた。
うん、やっぱり美味いご飯は空気も良くするのだ。
ありがたく頂戴しよう、というより便乗しよう。
そう思ってお椀を受け取ろうとした時だった。
「わっ!」
「おおっと!?」
空から急にコウモリがスープに向かって一直線にダイナミックエントリーぶちかましてきた。
その衝撃でスープは溢れ、お椀は地面に落ちてしまった。
なんだってんだい、さっきから。
「はぁ〜あ。
なんか今日ついてないかもね」
「…………」
「ギース?」
「……いや、お嬢はやっぱりツイてるぜ」
「はい?」
「こっちの話だ、あんま気にすんな」
なんだかギースの様子が変だった。
さっきまでは普通だったのに、今はなんとなく違和感というか、変な感じがする。
とりあえず、地面に落ちたものは洗わなければと、水魔術でじょぼぼーと椀を洗っていると、ギースからまた変な目で見られた。
……うーん、これはもしかするとアレがまた何かやったのかもしれないね。
ただの勘だけど、これは当たっているだろうという妙な確証があった。
---
「……君さぁ、マジでどうやったら死ぬの?」
いつものごとく白い空間、何もない無の世界にて。
ヒトガミもまた、いつもと同じようにイライラとした様子を隠すそぶりもなくそう言った。
「相変わらず減らず口しか叩けないんだね」
「どうでもいいんだよ、そんなことは。
今の僕は過去5番目ぐらいに気が立ってるんだ。
特に今日! 君には! 絶対に、顔を合わせたくはなかったね!」
「過去5番目って微妙な数字だね」
「うるさい黙れよ!」
盛大なため息をついてヒトガミは座りこむ。
このモザイクくんとも長い付き合いだ。
仕草や雰囲気で大体の心情の察しはつく。
この体勢は、自分の立てた計画が予期せぬイレギュラーで狂った時に不貞腐れる時のものだ。
私はヒトガミソムリエを名乗れるかもしれないなぁ。
「……その何でもお見通しです、みたいな目を今すぐやめろ」
「ねぇ、あのスープに毒入ってたでしょ」
「……さてね」
「あと、ギースってあなたの友達なの?」
「知らないよ、そんな奴は」
なるほど、ヒトガミにとっては単なる知り合いか、あるいは駒ぐらいにしか思ってないということだろうか。
それは何というか、ギースがかわいそうになってくるなぁ。
「ちゃんとギースを労ってあげなよ、じゃないと愛想尽かされちゃうよ」
「余計なお世話だ」
「あっ、やっぱりギースのこと知ってるんだ」
「あァッ! クソが! お前本当に早く死ねよ!」
言質取ってやったぜ。
うん、これでなんかスッキリした。
そろそろ帰るかな。
「じゃ、また近いうちに来るよ」
「ふざけんな」
「じゃあねー」
「頼むから死んでくれ」
そんなこんなで中々濃密だった約一年に及ぶ旅は終わり、季節は春。
私たちは青空の下、水の都にして世界で2番目に大きな都市。
ミリシオンへと辿り着いた。